永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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2027年12月6日 遥か空からノーベルの地へ

  ゴオオオオオオ

 

 無機質で規則的な音が時折聞こえつつ、あたしはゆらゆらとゆりかごに揺られているような感覚を受けた。

 あたしは、流れに身を任せながら、目を閉じて休む。

 

  ポーン

 

 さっきまでとは違う音が聞こえてきた。

 

「おはようございます。当機の機長です。後、1時間ほどで、ストックホルム国際空港に到着いたします」

 

 突然、人間の男性の声が聞こえ、あたしはゆっくりと起き上がる。

 そこは飛行機の中だった。

 うー、そうだった。あたし、ノーベル賞取っちゃって、授賞式に出席するんだったわ。

 

「んー!」

 

 心地よく両腕をあげて伸びをすると、すっかり明るくなっていた機内から話し声が聞こえてきた。

 

「ねえねえすごいわ」

 

「この緯度でこの季節だと、この高度でも成層圏何だなあ」

 

 義両親が、食い入るように窓の外を見つめていた。

 正面の飛行情報を見ると、寝る前に高度が36000フィートだったのが43000フィートになっていた。

 43000フィートというと、旅客機の中でもほぼ一番高い高度になる。

 恐らく、燃料が少なくなって機体が軽くなった分、より効率のいい高高度を飛べるようになったのね。

 

「あ、優子ちゃん起きた? 窓の外、見てみなよ」

 

 浩介くんが声をかけてくれたので、あたしもつられて窓の外を見る。

 

「わあ!」

 

 それは幻想的な風景だった。

 飛行機の窓の外は、青い空と、更に遥か下の地上、下に見える雲、そして上部の空は水色から深い青、濃紺となって視界の上部の空は黒かった。

 

「まるで、宇宙のすぐそこみたいだわ」

 

 桂子ちゃんでも、もしかしたらこんな空気を見たことはないかもしれない。

 ここまで登ってくると、対流圏ではなく完全に成層圏に入っている。

 黒い空は宇宙にも見えるが、成層圏の上にも中間圏、そして熱圏があるから、まだ宇宙は遠い上空なのよね。

 

「ここまで高いと、パイロットの酸素マスクも必要になってくるんだが、この飛行機は普通の定員分と同じ量だけ積んであるので問題ないんだ」

 

 更に言えば、あたしたちの乗っている人数が少ないのも、失速リスクを下げているのは容易に想像できる。

 モニターを見ると、ロシアを抜けて間もなくフィンランドに差し掛かろうと言うタイミングだった。

 ストックホルムは、ここまで来ると大分近い印象を受ける。

 

「優子ちゃん、朝御飯は着陸前だって」

 

 幻想的な風景に見とれていると、浩介くんが朝食について連絡してくれた。

 

「うん、分かったわ」

 

 機内食としては、ここでスウェーデンの料理が振る舞われるらしい。

 ともあれ、これは仮眠だから、ホテルについたらまた休む必要があるわね。

 

「あーまるで文明開化の時みたいだわ!」

 

 義両親と実両親以上にはしゃいでいたのは余呉さんだった。

 昨日も興奮していたし、余呉さんの場合、江戸時代生まれで出身は地方の農民だったから、こういう光景への興奮は余計に大きいのかもしれないわね。

 

「本当に、飛行機も鉄道も、すごい乗り物だわ」

 

 一方で、永原先生は、やや落ち着きながら外を見ていた。

 あたしは、何もすることはなく、機内のテレビで短めのアニメを見ることにした。

 

 

「こちら朝食でございます」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 昨日と同じCAさんが、あたしに朝食を渡してくれた。

 寝起きで喉が乾いたので、オレンジジュースも頼み、あたしはお弁当箱を開けた。

 

「いただきます」

 

「「「いただきます」」」

 

 皆で一緒に頂きますをする。

 料理の味はよく分からなかったけど、ファーストクラス以上に力を入れているとあってか、かなり美味しかったのだけは確かだった。

 ご飯を食べ終わると、飛行機は既に降下をはじめていて、既に40000フィートを切っていた。

 あの幻想的な風景も、もう見られなくなった。

 

「スウェーデンは楽しみね」

 

「うん、どこに行こうかしら? やっぱりノーベルは欠かせないわよね」

 

 お義母さんと母さんが、ストックホルムでの観光について話し合っている。

 あたしたちの両親世代は、スウェーデンを楽しみにしているらしい。

 ノーベル賞の授賞式は10日、6日着で7日から9日までは主に現地を観光することになるけど、時差ボケ解消の意味もあって7日はほぼホテルに籠りっきりにする予定になっている。

 ストックホルムでは、「ノーベル賞」に備え、様々な祭典を準備しているのだと言う。

 朝食を食べ終ると、飛行機はフィンランド上空を飛んでおり、高度も徐々に下げ始めていた。

 ストックホルムの地は、刻一刻と迫っていた。

 

 

「当機の機長です。長らくお待たせいたしました。当機は間もなく着陸体制に入ります」

 

「よし、みんな準備してくれ」

 

 飛行機はノルウェー上空を西に飛び、機長さんのアナウンスを聞くと、蓬莱教授が後ろの座席へとあたしたちを誘導する。

 ちなみに、手荷物は置いたままだ。

 

 あたしは、離陸時と同じようにシートベルトなどを閉め、着陸に備えた。CAさんがあたしたちのシートベルト状況をチェックし、OKを出してくれた。

 高度がどんどん下がり、着陸態勢が顕著になっていく。

 窓から外を見ると、恐らくストックホルムと思われる町の風景がどんどんと拡大されて迫ってきた。

 機首が一気に上がり、車輪が地面につく音と、ほんの少しの衝撃で、飛行機は着陸、エンジンのこれまでとは違った独特の音と共に、飛行機が低速で誘導路を進み、ゆっくりと停止した。

 

「さ、準備するぞ」

 

「「「はい」」」

 

 蓬莱教授の指示のもと、あたしたちはゆっくりと手荷物を確認する。

 この飛行機はあたしたち専用なので、帰りの時までこの空港に駐機してくれる。

 なので、もし機内に忘れ物をしても対応は楽にはなっているが、それでも面倒なのでしないに越したことはない。

 

「よし、みんな荷物は持ったな」

 

「はい」

 

「じゃあ降りるぞ」

 

 全員忘れ物がないか確認し終わったのを見計らって、蓬莱教授が機体最前方にある出口を目指す。

 出口には、クルーの人々が立っていた。

 

「「「いってらっしゃいませ」」」

 

 CAさんたちと、更にパイロット全員からも見送られて、あたしたちは飛行機の扉を開けた。

 いよいよ、あたしにとって初めて、海外の地を踏むことになる。

 

  ガララララ

 

「ふう、うー寒いわ」

 

 あたしが機外に降りた第一印象は「寒い」だった。

 やはり北欧ということもあって外は寒い。

 それに現地時間では午後3時だというのに、外は完全に夜だった。

 北欧の12月は、日が沈むのが早いことは分かっていたとは言え、違和感が半端ないわ。

 

「日が落ちてるな。今日はもうホテルに直行だ」

 

 あたしたちは飛行場のプライベートジェット専用ラウンジに移動する。

 中は暖房が効いていて幾分か楽になる。

 

「お待ちしておりましたこちらへどうぞ」

 

 外の文字も分からない中、あたしたちは日本語で話す日本人の職員さんに誘導してもらう。

 あたしたちについてくれる職員さんは全部で4人いるみたいね。

 

「本日から通訳兼ガイドを勤めさせていただきます」

 

「よろしくお願い致します」

 

 とりあえず、観光案内も含め、これからは常にこの通訳さんが付きっきりになってくれるらしい。

 うん、それなら安心だわ。

 

「こちらです」

 

 空港の人たちからも、プライベートジェット専用のスペースから来たあたしたちはどうしても目立ってしまう。

 ましてや、ノーベル賞受賞者のスウェーデンでの注目度は半端なく高い。

 なので、「誰かが騒ぎ出すと大騒ぎになる可能性がある」と忠告され、あたしたちは足早にその場を後にする。

 ……うーん、過剰反応だと思うけど。

 ともあれ、専用の通路を抜け、あたしたちは止まっていた広いリムジン車に誘導される。

 ちなみに、これを手配してくれたのもノーベル財団で、黒塗りの車の扉にはノーベルと思われる横顔に、「NOBEL PRISET」「The Nobel Prize」という文字が彫られていた。

 

「こちらで移動します」

 

「すっごい……本当にVIPじゃない」

 

 義両親と実両親は、更なる至れり尽くせりのサービスに、目を輝かせている。

 黒塗りの、いかにも高級そうなリムジンの中は広々としていて、あたしたちはそこに揺ったりと腰をかける。

 中も広いので、14人乗っても問題はなかった。

 

「──」

 

 通訳さんの1人が、よく分からない言葉で、運転士さんの人に言うと、運転士さんが返答をし、車が発車した。

 恐らく、目的地を告げたのか、それとも単に「準備ができた」という意味だったのかは分からない。

 都市の景観は日本とはまるで違っていて、とにかく水が目立つ。

 夜の長い高緯度のためか、どことなく治安の悪そうな雰囲気も受ける。

 ただ街の様子を見る限りでも、あちこちでノーベル賞と思われる祭りが催されているのは事実だった。

 

「おっとそうだ、これこれ」

 

 蓬莱教授が、大きなカバンを広げて、何かを取り出してあたしたちに見せてくれた。

 

「あれ? これって?」

 

 蓬莱教授が見せてくれたのは、金色に輝くメダルだった。

 もちろん、あたしには見覚えがある。

 

「ノーベル賞メダルのレプリカさ。俺はこの賞を受けるのは2度目だからね。ストックホルムの連中に、『俺はノーベル賞だ』ってのを見せつけてやるのさ! もちろん、これはレプリカだが、授賞式には本物を持っていく予定さ。やっぱり何だかんだで、ノーベル賞は特別なんだ。他の章とは格が違うのさ」

 

 蓬莱教授は、よっぽどこの賞がお気に入りらしい。

 名誉には興味をほぼ示さなかった蓬莱教授も、やはりノーベル賞だけは例外だったみたいね。

 そんな蓬莱教授でさえ魅了して止まない賞に、まさかあたしと浩介くんまで選ばれたことに、改めて光栄さを通り越して重圧感を感じてしまった。

 

 車は、町の道路を緩やかに進んでいく。

 これからあたしたちは、ノーベル賞の晩餐会で行われるスピーチを考えたり、ストックホルムの観光名所をめぐったりすることになっている。

 治安の悪さもあるので、もちろん集団で行動してのことだけども。

 

 道路は広いけど、やはり時期が時期なのか、それなりに混雑はしている印象を受けた。

 

 

「到着しました」

 

 やがて車が停まると、どうやらホテルの真ん前に突いたらしい。

 

「お、以外に短いんだな」

 

 父さんがやや驚いた声を出す。

 スウェーデンの飛行場に降り立った時は興奮と熱狂があったけど、やはり寒さもあってみんなかなり落ち着き始めた。

 あたしたちが乗っているリムジンは、ノーベル財団専用車ということもあって、道行く人達も歩みを止めている。

 

「どうぞこちらへ」

 

 通訳さんによれば、この高級ホテルの中でも、スイートルームを選んでいるという。

 まあ、ノーベル賞な上に最大の資産家だものね。そのくらい当然かしら?

 

「よし、これで準備OKだ」

 

 蓬莱教授が、首からノーベル賞のメダルのレプリカをかけていた。

 自動ドアの上には電光掲示板にノーベル賞のメダルと「Congratulations Nobel Prize Laureates.Welcome to our home town.」という、ノーベル賞受賞者を歓迎する文字が見えた。

 ホテルの自動ドアが開き、通訳さんが先頭に立つ。

 

「──」

 

「予約しました蓬莱です」

 

「──」

 

「かしこまりました、この度はおめでとうございます」

 

 ホテルのチェックインのやり取りにも、いちいち通訳さんが通訳してくれている。

 そしてやっぱり、蓬莱教授が泊まるとあると相応の注目を受けるらしく、ホテルの受付さんも、注目していた。

 どうもこのグランドホテル、ノーベル賞を受賞した人がよく泊まるらしく、蓬莱教授が以前受賞した時もそこに泊まったのだという。

 

「──」

 

「荷物お持ちします」

 

「あ、すみません。ありがとうございます」

 

「──」

 

「この度はノーベル生理学・医学賞おめでとうございます」

 

「あら、どういたしまして」

 

「──」

 

 どうやら、あたしのことも知られているみたいね。

 日本では有名人だけど、ノーベル賞になったことでこのストックホルムでも有名になったらしい。

 

 あたしたちは、何組かに別れてエレベーターに乗り、最上階の部屋へと案内された。

 そこのスイートルームは、予約した人数に応じて広さの違う5部屋があるらしく、あたしたち篠原家で1部屋と、石山家で1部屋、蓬莱教授と既に到着したその親族で1部屋、そして永原先生、比良さん、余呉さんの3人が泊まる1部屋、更に通訳さんたちが泊まる1部屋にそれぞれ別れている。

 石山家の部屋と永原先生たちの部屋はどうやら別の階、恐らくは一つ下のフロアにある部屋で、あたしたちは石山家と同じ階になった。

 

「それじゃあ、優子、明日までゆっくり休むのよ」

 

 母さんが分かりきっている一言を話す。

 

「分かってるって。ノーベル賞なのよあたし」

 

「あらあらごめんなさい。そうよね。優子はもう、私なんかよりもずっと賢いものね」

 

 母さんも、心配する気持ちは分かるけど、いくらなんでもこの疲れきった状況で夜更かしなんか出来ないわよ。

 

「ええ」

 

 ホテルのスタッフさんから鍵を受け取り、あたしはホテルの部屋に入った。

 

「おお、ここもなかなかだな」

 

 ホテルの中は、広々とした大きな部屋になっていて、寝室もあたしたちが普段使っている個室より少し狭い程度になっている。

 バスルームもあるけど、さすがにこちらはあたしたちの豪邸が上、部屋の数も少ないものの、1部屋ごとの広さは格別で、さすがにあたしたちの豪邸には劣るものの、ゆったりとした空間に、暑すぎず寒すぎない暖房は素晴らしかった。

 

「よし、今日はもう寝よう」

 

 現地時刻では、まだ午後4時だけど、あたしたちにとっては、朝まで眠れる自信もあった。

 

「じゃあ、それぞれの部屋で着替えようぜ」

 

「うん」

 

 あたしは比較的奥の部屋に移り、昨日から着っぱなしだった服を脱いでいく。

 誰もいない空間で、海外初のフルヌードを広々とした空間で晒しつつ、パンツ、ブラジャー、そしてパジャマの順番に丁寧に着ていく。

 ちなみに、脱いだ服はフロントに頼めばよく、担当の通訳さんがその手のことをしてくれるという。

 

「ふあぁ……もう眠いわ」

 

 飛行機での睡眠はとても浅く、一時的には覚醒するものの、やはり長続きしないわね。

 

「うん、優子ちゃんの言う通り。眠いからもう休もうぜ」

 

「ええ」

 

 浩介くんの言葉にみんなも賛成し、あたしたちは寝室へと足を進めていった。

 ベッドも高級材質を使っていて、寝心地はあたしたちの家と同格といったところかしら?

 

「むにゃ……」

 

 ノーベル賞のことを考える。きっと素敵な式典になるはずだわ。

 目の奥が歪み、あたしの意識は再び闇の中へと落ちていった。

 

 

 

「ん……」

 

 朝起きる、いや、まだ夜かしら?

 外はまだ真っ暗になっている。

 

「えっと、今の時間は……午前3時……」

 

 ストックホルムでなくても真夜中の時間よね。

 ちなみに、蓬莱教授から渡された表によると、この時期もストックホルムの日の出は午前9時ちょっと前で、日の入りが午後3時前。つまり日照時間は6時間しかなく、1日が24時間と考えると18時間も夜が続くことになる。

 あたしたちが普段住んでいる東京ならあり得ない日照時間の短さだわ。

 

 ということは、今が夏至に近い季節なら、この時間でももうすぐ夜が開けるということかしら?

 ……何だかあんまりそういうのって好きじゃないわ。住めば都何だろうけど。

 ベッドを見ると義両親はまだ眠っていて、浩介くんは起きた形跡があった。

 あたしは別の部屋に移動し、今日の服を着ることにした。

 今日は1日中暖房の効いたホテルで過ごすことになっているので、薄手の室内着を選ぶことにした。

 

「これでよし」

 

 あたしは着替えを終えると、メインの部屋へと足を進めていく。

 さて今日からの滞在期間、どういうイベントが待ち受けているのかしら?

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