永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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2027年12月8日 伝説の足跡へ

 12月8日、今日は完全に観光を楽しむ日になっている。

 ひとまず朝食を食べて、あたしたちは何組かに別れて観光を楽しむことになっている。

 なので今日の服はロングスカートに暖かいストッキングを履き混む重装備になっている。

 

「ねえあなた、どこに行こうかしら?」

 

 ご飯を食べ終わり、あたしと浩介くんが雑談に講じていた。

 

「やっぱ遊園地とか博物館がいいなあ」

 

 遊園地に博物館かあ。

 でも美術館も捨てがたいわよね。

 

「うーん」

 

 スピーチの内容は決まったけど、観光の内容は全く考えていなかったわ。

 

「まあ、こういう時はさ。蓬莱さん所に行こうぜ。何せ2回目だし、色々と知ってるだろ?」

 

 浩介くんは、当たり障りのない提案をしてくれる。

 まあ、夫婦じゃなくても考えることは同じよね。

 

「うん、そうかも」

 

 ということで、あたしたちは蓬莱教授の所に行って、指示を仰ぐことにした。

 

 

「ふむ、では一緒に行くとするか」

 

「ええ、お願いします」

 

 あれ? 蓬莱教授の部屋の前に永原先生たちもいるわね。

 どうやら、何かを相談しているみたいだけど……

 

「おや、優子さんに浩介さんではないか。どうしたんだ?」

 

 蓬莱教授がこっちに気付いて話す。

 

「えっとその……今日はどこに回ろうかと思って──」

 

「なるほど。永原先生たちと同じだな」

 

 蓬莱教授が少しほっとした表情で話す。

 

「といっても、通訳の人がサポートしてくれるんだほら」

 

「よろしくお願いします」

 

 蓬莱教授が、一昨日見た通訳さんを紹介してくれる。

 通訳さんが軽く一礼をした。

 

「とはいえまあ、俺といた方がいいと思うのも無理はないだろう。よし、7人は少し大所帯だが、いいだろう。一緒に行こうか」

 

「「「はい!」」」

 

 蓬莱教授の号令に、あたしたちも一斉に答える。

 何だか、付和雷同ここに極まるって感じだけど、知らない場所だし仕方ないわよね。

 まあ、治安の悪い場所もあるから、なるべく固まって行動した方がいいというのは、ここに来る前に日本で散々教わったものね。

 

「篠原さん、どうして蓬莱先生のもとに?」

 

 永原先生が、「念のため」という感じであたしに質問を投げかけてくる。

 

「うん、やっぱり、外国って不安で」

 

 ノーベル賞を取って、世界一の資産家になりながら、「自分の国の外に出るのが怖い」と言うのも、何だか情けない話だとは思うけど。

 今はノーベル賞のお祭り中だけど、だからこそ妬みのあるの人の襲撃は怖いのよね。

 そういったことを考えれば、治安の悪い場所に行くのは怖いのは事実だった。

 お金と名誉だけじゃ、物理的には身を守れないのよね。

 

「ええそうでしょう。私たちはむしろ年齢が行っているからこそ不安なのよ」

 

 永原先生、比良さん、余呉さんの「3長老」も、やっぱり女性だけで歩くのは不安という認識らしいわね。

 むしろ余呉さんの言う通り、長生きした果てで初めて海外に行くのはむしろあたしたちよりも不安かもしれないわね。

 

「そうだろうな。一緒に行った方が良さそうだ」

 

 永原先生と比良さん余呉さんの服装は、やはり北欧の冬らしく、かなりの厚着になっている。

 あたしはこれだけの厚着でも胸が目立つけど、永原先生たちのレベルの巨乳だと、さすがに隠れてしまっている。

 あたしだって、永原先生たちより薄いと言うわけでないことを考えれば、やっぱりあたしの胸って大きいわよね。

 ふふ、この辺りの国の人は巨乳が多いと言うけど、そうじゃない人がいたら、また妬まれるかしら?

 

「よし、じゃあ10時になったら行くぞ。それまで待機してくれ」

 

 あたしたちは、今日の行き先を蓬莱教授に委ねることにした。

 恐らく、数ヶ所を回ることになると思うわ。

 どこを回るかは、お楽しみといったところね。

 

 

「──」

 

「いってらっしゃいませー」

 

 通訳さんが、ホテルのフロントの人の言葉を翻訳してくれた。

 この手の通訳と言えば、AIの仕事になりつつあるけれども、それでもAIはどうしても極端な直訳になっちゃう。

 ヨーロッパ系の言語同士ならこうした問題も解消されつつあるけど、日本語と英語などの場合、日本語が持つ言語学的な遠さの問題から、こうして人間の通訳が必要だったり、あるいは通訳が観光案内を兼ねていたりと様々な多角事業がなされている。

 

「はうー、寒いわー」

 

 外は真冬日でかなり寒い。

 しかも例によって午前10時過ぎといっても朝日が登り始めたばかりの時間帯だったから、余計に寒さが身に染みるわ。

 一応、これだけの高緯度にしては、暖かいらしいけど。

 そもそも北欧でなくても、ヨーロッパって大半の地域が北海道より北にあるのに暖かいのって、海流のお陰なんだっけ?

 

「よしこっちだ」

 

 蓬莱教授に導かれるまま、ストックホルムの明るい街中を歩く。

 そこはまさに「水の都」にふさわしい場所で、もっと言えば「海に浮かぶ町」でもあった。

 ストックホルムはスウェーデンの中でも南の方で、逆に言えばこれより北の北欧地域やアイスランド、グリーンランドといった地域では、一日中昼だったり、逆に一日中夜だったりするのよね。

 確か北緯66.7度以上だとそうなるんだっけ?

 

 あたしたちは、蓬莱教授の後をひたすらついていく。

 道行く人々も、あたしたちに注目して、何かを話しているけど、あたしには何を言っているのかはよく分からないわね。

 

 

「──」

 

「おっと」

 

「わわっ」

 

「きゃっ」

 

 順調に歩いていると、蓬莱教授の足取りが急に止まった。

 あたしたちもぶつかりそうになって、何とか避けた。

 よく見ると、前には数人の男女のグループがいた。

 

「サインください。だそうです」

 

 通訳の人が棒読み口調でそう話す。

 あたしたちが歩み寄って見ると、蓬莱教授がいつの間にかメダルをかけていた。

 そうよね、ノーベル賞だもの。

 

「蓬莱教授、これって?」

 

 わざわざ、ノーベル賞のメダルを掲げながら歩かなくてもいいと思うんだけど?

 

「ああレプリカだよ。本物は本番の授賞式に持っていくんだ。普段は自己顕示はしねえけど、あんまりそういうのに無関心も不健全とも思ったんだ……まあこういう時くらいはしておいたほうがいいんじゃねーか? 何せ、俺は数少ない2回目のノーベル賞だからな」

 

 蓬莱教授がサインを書きながらそう話す。

 蓬莱教授も、やっぱりノーベル賞にはかなりの愛着とこだわりを見せている。

 ましてや、自分は世界でも数例しかない複数回の受賞者ということもあって、見せびらかしたくなるのが人間ってものよね。

 

「──!」

 

 蓬莱教授の近くにいたあたしを見て、男女グループの目の色が変わり、あれこれ叫び始めた。

 

「この人、ノーベル賞じゃない!? ほら、篠原夫妻の妻の方だよ! だそうです」

 

 あはは、どうしようかしら?

 嘘つくのも悪いしうーん……

 

「えっとその、確かにあたし篠原優子よ。今日はみんなで観光に行くのよ。今日はゆっくりしたいから、どいてくれるかしら?」

 

「──」

 

 通訳さんが、あたしの日本語をスウェーデン語に直して話してくれる。

 うーん、やっぱり不便と言えば不便よね。

 大学に入ってからも一応英語の講義はあったし、考えながらなら多分問題ないとは思うけど。

 

 ……お、みんなどいてくれたわね。

 よかったよかった。

 

「よし、じゃあこっちだ」

 

 蓬莱教授は、街中をまっすぐ進んでいく。

 どんどん街並みが古くなっていくと共に、ここが「旧市街地」だと通訳さんが教えてくれた。

 永原先生が建物の古さに感心していた。旧市街地に、何があるのかしら?

 

 そして、あたしたちは1つの建物の前に到着した。

 いかにもな欧風建築で、高さは低いが重厚そうな建物だった。

 スウェーデン語はよく分からないので、何の建物かは分からない。

 でも、正面の入口をよく見ると、ノーベル賞のメダルのデザインと同一になっているから、ノーベルに縁のある建物だということは容易に推測できた。

 

「ここはノーベル博物館……要するに、ノーベル賞に関連する事が展示されている博物館です。普段はまだ開館時間ではないのですが、今はいわゆるノーベルウィークなので早めに開館してます」

 

 通訳さんが蓬莱教授に代わって説明してくれる。

 どうやら、この建物は昔、証券取引所として利用されていたらしく、役目を終えてノーベル博物館になったらしい。

 

「その通り。ここには歴代のノーベル賞受賞者が称えられているのさ。もちろん、この俺もな」

 

 蓬莱教授が、国からぶら下げたノーベル賞メダルのレプリカを見せつけながら話す。

 蓬莱教授にとっては、ノーベル博物館に称えられるのは2度目ということになる。

 あたしは、この期に及んでまだこの博物館の凄さ、当事者としての自覚が芽生えていない。

 いや、ノーベル賞という実感さえ、まだ沸かない。

 正確に言えば、飛行機に乗ったときはぼんやりと湧いてきた気もするけど、この街の非現実的な空気に押され、その自覚は風に吹き付けられた雲のように散り散りになってしまった。

 

 ノーベル賞を取ると、マスコミが一挙手一投足追いかけてくる。

 ましてや、蓬莱教授は2回目な上に、これまでのノーベル賞と比べても、全く「格が違う」業績を称えられることになる。

 この博物館での注目度も、高いはずよね。

 

「いやー、1回目も来たんだが、やはりノーベル賞を取ったからには、ノーベル賞の先輩方に思いを馳せルノも重要だ。そう言う意味で、ここに行くのは必須と言っていいだろう。よし、じゃあ入るか」

 

 蓬莱教授が中へと入ろうとすしたので、あたしたちも続く。

 館内はやはり暖房が効いていて暖かかった。

 さて、入館料は「スウェーデン・クローナ」っていう現地の通貨を使わなきゃいけないのよね。

 

 

「ねえ蓬莱先生」

 

「ん?」

 

 券売機で入館料を払うために入場券を買おうとした蓬莱教授に永原先生が話しかけてくる。

 

「私と比良さんと余呉さん、子供料金でもいいかしら?」

 

「え!?」

 

 永原先生がとんでもないことを話し、蓬莱教授もさすがに驚いている。

 子供どころか、その辺の大人数人分は長生きしてる永原先生たちが子供料金って……

 

「一回やってみたかったんですよ。海外では日本人女性がどれくらい若く見えるか? 私たちなんて特に日本人の中でも10代前半で通じるくらいには若いですから、こっちなら小学生でも行けるかなって?」

 

 確かに、よく見ると永原先生たちの着ている服はいつもより厚着になっている。

 永原先生は黒いワンピースに頭と胸に赤いリボンという、以前修学旅行で見たようなかなり幼い少女性を強調した格好だったし、比良さん余呉さんも、似たような格好だった。

 まず間違いなく、騙せるとは思う。

 

「あー、どうなっても知らんぞ。俺は責任取らんからな。子供のボタンはこっちだ」

 

「はーい。きゅふふ」

 

 この中でも一番背の低い余呉さんが不適な笑みを浮かべ、券売機で子供3人を買う。

 通訳さんは見て見ぬふりで、結局大人4人に子供3人となった。

 というよりも、永原先生って、ここにいる他の6人の年齢の合計と同じくらいよね?

 あーでもさすがにそこまでではないかしら?

 

「大人4人に子供3人お願いします」

 

「──」

 

 蓬莱教授がチケットをまとめて渡すと、受付の人が驚いていた。

 あらら、やっぱり永原先生たちばれちゃったかしら?

 

「──」

 

「えっとその、『あなたたち、本当に大人料金でいいんですか?』とのことです」

 

 って、あたしたちなのね。

 まあ確かに、日本人は若いって言うし、あたしたち不老ならあり得るかしら?

 でも、あたしたちの顔を見たら分かりそうなものだけど。

 

「おいおい、俺の顔は知ってると思うけど、この2人の顔も知らないのかい?」

 

「──」

 

 蓬莱教授がそう言い、通訳さんが伝えると、受付の人の目の色が変わった。

 恐らく、そっくりさんか何かだと思ってたあたしと浩介くんが、本物だと気付いた顔だわ。

 

「──」

 

「失礼しました。どうぞ」

 

 結局、永原先生たちが子供料金なのは、全く怪しまれなかった。

 

「へっへん、やっぱり女性は若く見られてこそよね」

 

 永原先生が得意気に胸を張る。

 確かに、これは女性としてかなり自信がつくわよね。

 子供料金で通じたってことは、それだけ若く見られたってことだし、受付の人の態度を見れば、あたしと浩介くんだって、子供料金が通じる容姿ってことだものね。

 永原先生だって、人類最長寿で509歳で、しかも世界でも5番目の大富豪だというのに、やっぱり知られていない人には知られていないのよね。

 うー、子供料金で入ってみたいわ。ってダメよ優子。いくらコンプレックスでもそれはいけないって。

 

「さ、気を取り直して行こうか」

 

 その場にとどまっているのもあれなので、蓬莱教授が歩き始めた。

 ノーベル博物館には、ノーベルの業績の他、各ノーベル賞受賞者の業績や、その他様々なノーベルに関することが展示されているという。

 もちろん、受賞者全員が称えられているということは、もちろん蓬莱教授の展示も、この博物館のどこかにあるのよね。

 それにしても、広そうな館内だわ。

 

「上の方を見てみ?」

 

「え!?」

 

 蓬莱教授が、突然館内の天井の方を指差した。

 すると、ローラー状に多くの人の名前と顔写真が飛び交っていて、視界には「Hans Speman」という名前が書かれていて、写真はいかついおじさんだった。

 恐らく、小谷学園の時にやった「シュペーマンの実験」の人よね?

 

「あらシュペーマンって、あの生物で出てくる奇形をわざと作り出す気味の悪い実験の人よね?」

 

 永原先生は古典の先生だけど、やっぱり「シュペーマンの実験」のことは知っていた。

 まあ、発生学の教科書には必ずと言っていいほど出てくるものね。

 2匹のイモリの胚を使った根気のいる実験で、双頭のイモリが出てくるのよね。まあ気味が悪いと言えば悪いけど、永原先生も口が悪いわね。

 

「永原先生、そう言うことを安易に言わないでくれ! 気持ちは分かるが、彼の実験のお陰で、生命の誕生の秘密や、クローン技術や細胞移植といった技術の基礎になっていったんだ。高校の教科書では表面的にしか出てこないが、偉大な学者なんだぞ!」

 

 蓬莱教授は、同じノーベル生理学・医学賞受賞者としての仲間意識があるのか、珍しく永原先生にも強めに当たっている。

 それよりも、あれだけ自尊心の高い蓬莱教授が、ここまで褒め称えるというのは、よっぽどすごい人なのよね。

 

「あはは、ごめんなさい」

 

 そう話している間にも、いくつもの旗が行き交っている。

 その多くは白人男性、特にアメリカ人男性のものだけど、一部には他の人種も混じっている。

 既にノーベル賞の歴史の中でも1000人近くの人物がこれを称えられている。

 1人1人が偉大な人たちだけど、やっぱり歴史が長いだけあって数も多いわね。

 

「この旗の中のどれかに、俺の名前と顔が刻まれているし、優子さんたちもこの仲間に入るんだ。さ、進むぞ」

 

 蓬莱教授の言っていたこと、このノーベル博物館を見て、あたしたちがノーベル賞になったんだということを、少しずつ自覚し始めた。

 ここの展示コーナーは、まず「ノーベル賞」の成り立ちが紹介されていた。

 ノーベル賞は、ノーベルの遺言と共に作られた賞で、賞金がノーベル財団から出ている。

 賞の種類は「物理学賞」「生理学・医学賞」「化学賞」「文学賞」「平和賞」、更に後年になって「経済学賞」が加えられて現在に至る。

 特に前者3部門は、「科学3部門」とも言われていて、特に権威が高い。

 あたしたちが受賞する、その「最高の栄誉」たる科学3部門を受賞した学者さんは、みんな偉大な学者が多く、あたしも浩介くんも「こんな偉大な人たちと一緒でいいのかな?」という疑念が深まっていく。

 一方で、文学賞、平和賞、経済学賞は一部に異論があったりもするらしい。

 

「ノーベルはダイナマイトを作った。彼は『ダイナマイトのような強力な爆発物が兵器に扱われれば、きっと人々は恐れおののいて戦争をやめるだろう』と思ったんだ。現実は2つの世界大戦と共に、核兵器の登場でようやく収まったがね」

 

 蓬莱教授が、ノーベル本人について話し始めた。確かに、ノーベルもバカじゃないわけで、ダイナマイトが兵器に使われることくらい、容易に想定できるというのは、言われてみれば確かにその通りなのよね。

 永原先生は、その説明を聞いて、何やら煮えたぎらない表情をしていた。

 

「ともあれ、ノーベルはダイナマイトで巨万の富を得たのは事実だ。こうして今でも遺産の利子などを使って、賞金の分配ができる程度にはね」

 

「ええ」

 

 蓬莱教授の先導で、あたしたちは前に進んでいく。

 それにしても、蓬莱教授が頭からメダルを掲げているせいか、さっきからかなり目立っていて、周囲の視線も凄いわ。

 中には「Horai! Horai!」何て声を上げている人もいるし、メダルを見に人だかりができないのが不思議なくらいだわ。




ここからは、場所と状況から英語のセリフが多数登場しますが、著者は英語の成績は悪かったので、当然登場人物たちの話す英語は「デタラメ英語」になってます。
何か間違い等の指摘がございましたら遠慮なくどうぞ(ただし、どこがどう間違っているかの指摘が無いと修正しないかもです)

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