永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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2027年12月8日 記録を残す

「こんにちは」

 

「──」

 

 蓬莱教授が、食事コーナーのスタッフさんに話しかける。

 すると、スタッフさんが大慌てで後ろに下がり、こっちに向かってくると、あたしたちにペンを渡してきた。

 

「蓬莱教授、マジックペンでどうするの?」

 

 蓬莱教授が何をしたいのか、あたしにはよく分からない。

 

「ふふ、そこの椅子を倒してみ?」

 

 蓬莱教授に言われるまま、あたしは椅子を倒してみた。

 

「あれ? これって?」

 

 椅子の裏には、白い文字でサインがしてあった。

 そして、それはさっき受賞者のコーナーで見た人のサインだった。

 

「ノーベル賞の受賞者は、みんなこの椅子にサインを書き残していくんだ」

 

 この受賞者は日本人で、実際日本語での名前も書かれていた。

 ちなみに、この人の日付は12月6日になっていた。

 

「え? そういうことあるんですか?」

 

 恥ずかしながら、色々と忙しくて、そういったことまで調べきれなかったわ。

 あたしたちのノーベル賞が決まってからも、現実逃避の意味もあって会社の仕事が多かったせいでもあるけど。

 

「ねえ優子ちゃん」

 

 浩介くんがあたしの肩を2回トントンと叩くと、食事コーナーの入口を指差す。

 そちらをよく見るといつの間にか報道陣まで集まってきた。

 もー、今日は人払いしたはずなのに。海外のメディアはそんなの関係ないのかしら?

 

「──」

 

「写真など撮ってもいいでしょうか?」

 

 現地のマスコミの人たちがあたしたちに向けて許可を求めている。

 うん、やっぱり蓬莱カンパニーの制裁措置に対する恐怖は残っているみたいね。

 

「ああ、別に構わねえぞ。大っぴらに許可出したんだから、こそこそ隠れずに堂々と正面から撮ってくれ!」

 

 蓬莱教授が豪胆に言うと、一斉にカメラが向けられていく。

 隠れていた人もいたらしいけど、さすがにこう言われちゃったら隠し撮りもできないわね。

 正面から堂々と撮影すれば波風立たないものね。わざわざ隠し撮りするのは小学生くらいだわ。

 

「さあ、報道陣のことはともかく、他の椅子も見てみ?」

 

 蓬莱教授が、カメラの方からあたしたちの方に視界を向けてくる。

 

「うん」

 

 他の椅子も倒してみたけど、やっぱりサインがあった。

 どれもこれもサインがあって、これらはノーベル博物館の名物になっているんだとか。

 

「さて、ここに何も書かれていない椅子がある。俺達も続くんだ」

 

 蓬莱教授が何も書かれていない空の椅子を見せてくれる。

 どうやら、この上にあたしたちがサインを書くらしいわね。

 

「えっと……そのー」

 

 浩介くんもあたしも、その場に立ち尽くしてしまう。

 

「心配するなノーベル賞の特権だぞ。優子さんも浩介さんも、その特権を行使していい権利をもっているんだ。堂々とするんだよ」

 

 蓬莱教授があたしたちを勇気付けるように言う。

 やっぱり、落書きをしているみたいでどうしても躊躇してしまうわ。

 

「ほら、こうやるんだ。それっ!」

 

 呆然としているあたしたちを尻目に、蓬莱教授がマジックペンのキャップを外すと、スラスラと椅子の裏面に文字を書いていく。

 そして出来上がったのは、椅子の背もたれを上にして、白い文字で「蓬莱伸吾 2027 2回目」「Shingo Horai 2nd Nobel prize in 2027」というものだった。

 

 蓬莱教授は、あたしたちにサインを見せてくれるが、報道陣にはまだ見せていない。

 

「さ、みんな待っているぞ」

 

「うん、分かったわ」

 

 再度蓬莱教授に促され、あたしは蓬莱教授のサインの左側を上に、「2027年12月8日 蓬莱カンパニー株式会社常務取締役 篠原優子 ノーベル博物館来訪記念」と書き込んだ。

 そして最後に浩介くんが半ばやけくそ気味にキャップを外すと、蓬莱教授のサインの右側を上にした状態で、「2027.12.8 ノーベル賞受賞記念 篠原浩介ここに参上!」と書き込んだ。

 

 3人書き込むと、椅子はほぼサインで埋め尽くされていた。

 各人でそれぞれ、個性が出ているわね。

 

「よし」

 

 蓬莱教授がにっこりすると、あたしたちが並びんだのを見て椅子を倒し始める。

 あたしたちは、大勢の人、大勢のマスコミが見ている前で、堂々と椅子に落書きをしてしまった。

 永原先生も、比良さんも余呉さんも、それを見ていた。

 それなのに、あたしたちは明らかに周囲から祝福を受けていた。

 

 何故!? それはあたしたちがノーベル賞だから。

 いつの間にか食堂の中にはあたしたちとマスコミ以外は誰もいなくなっていて、椅子が全てテーブルの上に上げられていた。

 ノーベル賞受賞者たちがそれぞれ個性を出しながらサインを書いていて、あたしたちは確かにこの一員になった。

 あたしたちがそれらを見ていくと、その中の1つに「S.Horai Dec 6 2012」「I shall return.」という書き込みを見つけた。

 

「蓬莱教授、これ……」

 

「おう。よくぞ見つけた。懐かしいな。これは、15年前に俺がノーベル賞を取った時のものだ。『I shall return.』つまり、俺は必ず本命の業績でここに戻ってくるという決意を込めたんだ」

 

 蓬莱教授のその椅子には、他のノーベル賞の受賞者の書き込みはなかった。他の椅子は、殆どが共同受賞者のサインもあったのに、この椅子は蓬莱教授単独で使われていた。

 最初のノーベル賞でさえ、不老研究が世に出るまでは、「近年のノーベル賞の発見の中でも最も偉大な発見」と言われていたからかしら?

 

「ふふ、分かったかな? この重みが」

 

 蓬莱教授が、首に掲げたレプリカのメダルをまた見せてきた。

 博物館の中を見たら、それはあたしたちが思っていた以上に偉大なメダルだった。

 

 一通りノーベル賞受賞者のサインを見終わると、蓬莱教授が1回目の受賞の時のと合わせて2つの椅子を持って報道陣の前に出る。

 あたしは、ようやく現実を飲み込みつつあった。

 ノーベル賞受賞者として、あたしはこの街で歓迎されているんだってことを。

 

 

「ところで、お腹すいたわ。美味しそうな食べ物はないかしら?」

 

 報道陣のカメラ攻めが一段落し、余呉さんがご飯にしたいと言ってきた。

 椅子も元通りになり、さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返っていた。

 他のお客さんはおらず、周囲もあたしたちに遠慮しているのは明らかだった。

 

「お、ここにデザートあるじゃねーか」

 

 浩介くんが、デザートの写真を指差す。

 

「え? うわぁー! 美味しそうだわー!」

 

 余呉さんの目がキラキラと輝き、食べたいアピールをする。

 うん、確かにこのスイーツ美味しそうだわ。

 

「あー、このデザートは食べねえ方がいいぜ」

 

「「ええー!?」」

 

 蓬莱教授の「待った」に、あたしと余呉さんが同時に不平の声をあげてしまった。

 こんなに美味しそうなのに。

 

「落ち着くんだ。このデザートは明後日の晩餐会の時にタダで食べられる。ここでわざわざ金を払って食わなくても、明後日最高の環境で食べられるんだ」

 

 あー、そういうことね。

 

「なるほど、じゃあ食事は別のところでしようかしら?」

 

 晩餐会で食べられるものを、予め食べるというのも、何だかネタバレみたいだものね。

 

「ああ。ただし、ここでしか買えねえものはあるぞ。ほれ、これだ」

 

 蓬莱教授が、ノーベルのメダルを模したものを指差す。

 ここでしか買えないって? メダルは買えるものじゃないし。

 

「蓬莱先生、これは?」

 

「ノーベル賞のメダルの形のチョコレートだよ。ここでしか買えねえんだ」

 

「チョコレート……ごくりっ」

 

 チョコレートと聞いた余呉さんが、喉を鳴らす。

 ノーベルチョコレートって面白そうだわ。

 

「うむ、ノーベル賞の受賞者たちも、よく買っているぞ。よし、俺は20個」

 

 蓬莱教授がそう言うと、財布から「スウェーデン・クローナ」と呼ばれるお金を出し、ノーベルチョコレートを20個買った。

 

「私、40個」

 

「私は70個でお願いします」

 

「私はうーん……蓬莱先生と同じ20個でいいかしら?」

 

「俺、30個」

 

 蓬莱教授の後ろに立ったあたしたちが、その財力に物を言わせて、思うがままに買っていく。

 昔流行ったいわゆる「爆買い」そのものね。

 ……って、よく考えるとここにいる6人の資産って100兆円近いわよね。もう、富裕層とかそう言うレベルじゃないわ。

 そういう意味でも、凄まじい状態だと思う。

 

「よし、買ったな」

 

 ちなみに、ノーベル賞受賞者は、ここのチョコレートを大量に買い込む人も珍しくないらしい。

 ちなみにあたしはメンバーの中で一番多い100個買って、そのうち50個は渋谷の豪邸に送って貰うことにした。

 

「じゃあ、近くのレストランでお昼ご飯にしようか」

 

「う、うん……」

 

 蓬莱教授に連れられて、近くのレストランでお昼になった。

 ちなみに、蓬莱教授がメダルを仕舞うのを忘れてしまっていて、レストランでも多くの人がメダルのレプリカを見て入れ替わり立ち替わりに興奮してしまい、店長や店員さんたちまでノリノリになっちゃって大変だったわ。

 ちなみに、さすがにホテルのご飯の方が美味しかったけど、価格帯が違うので文句は言えないわね。

 こういうのも、旅行の一環と考えると良さそうだわ。

 

 

「もう、夕方なのね」

 

 午後2時30分、西に大きく輝く夕日が眩しい。

 さっきまで日が上ったばかりと思っていたのに、もう日没間際の時間になっている。

 この環境は、もう3日目のはずなのに、どうしたって慣れることはできないわね。

 

 一方で街中は相変わらずお祭り騒ぎだった。

 途中人だかりが出来ていたので首を突っ込んでみたら、何と今年のノーベル化学賞の受賞者だった。

 思わぬ鉢合わせにマスコミや群衆は大盛り上がりで、あたしたちはまたしても7分間足止めを食らってしまった。

 

 あたしたちはこの時間からだけど、スウェーデンにあるもう1つの博物館を巡り解散となった。

 永原先生は、博物館を見ると「自分のほうが年上」と言ってはしゃいでいた。ちなみに、あたしたちは行っていないけど、ストックホルムには17世紀に沈んだ古い戦列艦が展示されていて、永原先生は周囲に「私はこの船よりも古くに生まれた1518年生まれ、509歳の永原マキノです」と言いふらしていたらしい。

 永原先生も、普段は相変わらず小谷学園で教師をしているけど、蓬莱カンパニーの株で莫大な富を持っていて、資産は蓬莱教授の半分強だけど、それでも世界の10本の指に入る大富豪でもあるから、知る人ぞ知る世界的著名人でもある。

 ちなみに、ノーベル賞とはまた違った博物館だったにも関わらず、またしても「ノーベル賞ハンター」に捕まってあたしたちは足止めを食らってしまった。

 蓬莱教授も、「以前来た時はこんなにすごくなかったぞ」と愚痴をこぼしていて、どうやら「不老研究」ということであたしたちは他のノーベル賞受賞者よりも圧倒的に注目されてしまっている存在らしい。

 治安を恐れるあまりにあたしたちで固まって行動するのは、結果的に失敗だったかしら?

 

 

「ふう、さてホテルに戻ろうか」

 

「ええ」

 

 永原先生も比良さんも余呉さんも、かなり疲れている。

 彼女たちはノーベル賞ではないけど、あたしたちに同行しているためにいつも足止めの巻き添えを食らってしまっていた。

 ノーベル博物館の展示はすごかったし、蓬莱教授の偉大性と、あたしたちがあの殿堂の中に入れることを改めて自覚できたのはよかった。

 

「あなた、明日はホテルで1日ゆっくりしましょう」

 

「うん優子ちゃんに賛成」

 

 とにかく、こうも注目されてたら溜まったものじゃないわ。

 ましてやあたしたちは芸能人じゃないんだし。

 明後日まで引きこもろうそうしよう。

 

「残念なお知らせだが、そうもいかん」

 

「「え!?」」

 

 蓬莱教授が、あたしたちの希望をあっさりと打ち砕いてしまった。

 もう、今日椅子やあたしたちを見かけた多くの人々にサインするだけでも疲れたのに、明日は何があるのよ。

 

「明日は授賞式のリハーサルだぞ。そのためにコンサートホールに行かねばならん」

 

「あーそうか。リハーサルかあ-」

 

 浩介くんが疲れた表情で言う。

 リハーサルはまだ簡単な流れの確認だけだけど、本番にはスウェーデン国王を含め、王家からメダルなどを受けとることになっている。

 王様が直々にメダルを渡してくれるというけど、それがかえって緊張するわよね。

 本当に、名誉を得るというのも大変だわ。

 

「ああ、ちゃんと準備しておけよ。今日の椅子に、ノーベル賞学者としてサインを書いたんだ。今更『やっぱやめます』はもう通じねえぞ」

 

「わ、分かってるぜ……」

 

 蓬莱教授が脅すように言い、浩介くんが少し後ずさりする。

 そう、もう後戻りはできない。

 あたしが女の子になった時も、「2度と男には戻れない」ということは最初に言われたことだったけど、今はそれ以上に「二度と戻れない」に重みを感じている。

 

 うん、ここまで来た以上、今更ノーベル賞を辞退することなんて出来ないわ。

 いや、そもそもノーベル賞に辞退何ていうシステムがあるのかも分からないけど。

 

「まあもちろん辞退の前例はあるが、椅子にサインを書いて辞退した人は今だかつていねえさ」

 

 蓬莱教授が当たり前と言う感じに言う。

 確かにそれはその通りだった。

 あたしも浩介くんも、覚悟を決めることにした。

 明日のリハーサルに向けて、あたしは気持ちを新たにホテルに戻った。

 

 

「ただいまー」

 

「あ、優子ちゃん、浩介、お帰りなさーい」

 

 ホテルの部屋なのに、まるで我が家のような安心感があった。

 さしもの「ノーベルハンター」も、ここまでは追ってこないはずだもの。

 というか、追ってきたらあたしたちの「もう1つの顔」が出ちゃいそうだし。

 

「あー疲れたー」

 

 浩介くんがベッドの上に寝転がった。

 

「そんなに疲れて、どこ行ってたの?」

 

 お義母さんも浩介くんを心配そうに見つめている。

 

「蓬莱さんと、永原先生と、比良さんと余呉さんと通訳さんで、ノーベル博物館に行ったんだ」

 

「あら? 昨日私たちが行った所じゃない」

 

 お義母さんが優しい口調で話す。

 やっぱり、考えることは同じらしいわね。

 

「あはは、チョコレート買っちゃった」

 

「あら? 私たちもよ。それにしてもスイーツも美味しそうだったけど、明後日食べられるってことで通訳さんに止められたわ」

 

「あはは、それも同じだわ」

 

 違うことと言えば、ノーベル賞受賞者として、椅子にサインをしたことくらいだわ。

 

「優子ちゃんも疲れたでしょ?」

 

 お義母さんが、あたしを労ってくれる。

 

「うん、あちこちであたしたちに人だかりが出来ちゃって、それに蓬莱教授がメダルを見せびらかすものだから」

 

「あー、まあノーベル賞ほどの賞を2回も受賞したともなれば、蓬莱教授ほどの人でもそうしたくはなるだろうさ」

 

 お義父さんが、近くに来て椅子に腰掛けながら話す。

 そう、名誉欲のない蓬莱教授でさえ、ああさせてしまうくらい、ノーベル賞は凄まじいものがある。

 

「とにかく、あたしもちょっと休むわね」

 

「うん、ご飯になったら呼ぶから、それまでゆっくり休んでてね」

 

 義両親が、そう言うと別の部屋に移動してくれた。

 あたしは、浩介くんと同じ部屋のベッドで横になることにした。

 

 

「優子ちゃんお疲れ様」

 

「うん、あなたも」

 

 昨日はほとんどの時間がそうだったけど、今日は珍しい浩介くんとの2人きりの時間だった。

 あたしは、この間少し考えた。

 昨日のこと、お金も名誉ももう十分だと思った。

 それでも足りてないもの、もうあり得るとすればこれしか無いから。

 

「ねえあなた」

 

「うん?」

 

 あたしは、浩介くんに決意を話す。

 

「おばあさんを、これ以上待たせちゃいけないかなって」

 

 おばあさんはもう、100歳代になっている。

 

「ああ、そうだな。まだ元気だけど、いつ老衰死しても不思議じゃねえもんな」

 

 浩介くんも、そのことは分かっていた。

 そして何より、あたしにとっても、赤ちゃんが欲しいという気持ちが何年も前からあった。

 

「あなた、あたしの赤ちゃん、産んで、くれるかしら?」

 

「うっ……」

 

 言葉にするだけで、欲しくて欲しくてたまらなくなる。

 浩介くんに無理矢理レイプされて、妊娠しちゃったらどれだけの快感になるだろう?

 想像しただけで怖いわ。

 

「ねえあなた、明後日の授賞式が終わった夜、いいかしら?」

 

「え!?」

 

 浩介くんが驚いている。

 それはつまり、今日明日は何もしないということでもある。

 

「明後日がね……一番危ない日なの……その日に、ね」

 

 明後日はノーベル賞の授賞式が開かれる日。

 晩餐会が終われば、浩介くんとあたしは、今までで一番強い絆で結ばれることになる。

 

「う、うん……分かった。しっかり、我慢して、頑張るよ」

 

 浩介くんも、あたしを見て決意を固めていた。

 だけど、ちょっとだけ不安な顔も見せている。

 

「あなた、どうしたの? 顔が不安そうだわ」

 

「うん、やっぱり、今までと違ってさ。今回はお遊びじゃないじゃん? 俺、猿に退化しちゃうんじゃねえかって」

 

 浩介くんが思っていた不安は、あたしと同じものだった。

 そう、今までは相手を気遣ったりするような理性が働いていたけど、これから浩介くんとすることは、完全に理性が吹き飛ぶこと。

 浩介くんは、あたしのことを「優子ちゃん」ではなく、「子孫を残すための1匹のメス」として見ると思う。

 でもそれは、あたしだって同じ。

 今ここでも、オスに征服されたいという欲望で一杯になっているもの。

 

「あたしだって、同じだわ」

 

「じゃあ、いいか。ノーベル賞学者だって、ずっと理性ある人間じゃ辛いものな」

 

 浩介くんが、明るい声でそう言った。

 あたしも、その通りだと思う。

 ノーベル賞だって、子供を作らなきゃ頭脳を受け継がせられないもの。

 不老は不死じゃない。だから子供を産んで育てるということは、これまで通り必要なことだものね。

 

「優子ちゃーん、浩介ー! ご飯よー!」

 

「「はーい」」

 

 お義母さんの呼び掛けと共に、あたしたちは夕食を取ることにした。

 明後日に向けて、あたしたちは英気を養うことにした。


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