永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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2027年12月10日 全部は救えない

「いやー、優子凄かったよー! まさかあんなに英語がうまくなっているなんて」

 

 迷惑記者が退場し、あたしに拍手が送られ、ほとぼりが覚めた一番に話しかけてきたのは、虎姫ちゃんだった。

 

「あーうん、大学院にもなると英語の論文とか読むからね。でも、自分でも驚きだったりするわ」

 

 何分、研究者の英語というのは、基本的に「読む」ことに特化しているから、こうした英会話というのは、あたしも苦手だったりする。

 

「いやいや、それでもああやって口喧嘩に勝つってのはすごいわ。日本人は英語は特に大変なのに」

 

 桂子ちゃんもJAXA務めだし、大学でも大学院でも、「英語が大変」って言ってたわね。

 まあ、「ノーベル賞学者でも、日本人だし口喧嘩なら負けない」と思ったのかしら?

 だとしたら御愁傷様ね。

 

「えへへ、あたしも驚いているわ」

 

 実際、自分でもびっくりするくらい英語が出てきた。

 

「でも、ああいう人って声だけは大きいし何故か力だけはあるからねえ。注意した方がいいかもしれないわ」

 

 桂子ちゃんと一緒に野次を飛ばしていた永原先生が、あたしに対する不安を述べてきた。永原先生も、注意した方がいいとは思うけど。

 そう、何故か声も大きく力だけは持っているらしい。

 日本ではもう絶滅危惧種となったけど、他の国ではフェミニストが大きな圧力団体になっている。

 あたしたちTS病患者ほど、フェミニストに都合の悪い存在はおらず、現にあたしたちはこうやって何度も何度もフェミニズムを論破してきて叩き潰してきたけど、いまだにこうやってゾンビのように復活してくる。

 でもこうやって、マスコミを含めた周囲も、あたしが迷惑なフェミニスト記者を追っ払った所を見せれば、もう安易に喧嘩は売れなくなるわね。

 まあ、そもそも喧嘩売ってくるのがおかしな話なんだけど。

 

「本当に、どうしてこんなに復活しやすいのかしらね?」

 

 あたしは、半ば呆れ気味になる。

 もう何年も何年も叩き潰しているはずなのに、それしか拠り所がない人っていうのがいるのかしら?

 

「篠原さんの服装や格好を見て、我慢しきれなかったんじゃないかしら?」

 

 永原先生があたしの服を見て話す。

 どうも、そうやって美人が男に媚びると、自分たちはますますモテなくなるために、潰したくなるのだとか。

 

「ふうん、かわいい服が気に入らないって、もう重症だわ」

 

 あたしは、呆れたように引き離して言う。

 ともあれ、小谷学園と協会の人たちは日本でも会えるので、あたしは別のテーブルに行くことにした。

 

 あたしは、先程の記者もいたと思われるマスコミのテーブルへと差し掛かる。

 

「あ、高島さん」

 

 そこには、ブライト桜の記者腕章をつけた高島さんと、カメラマンさんがいた。

 高島さんも、10年来の付き合いになっていて、今は経営役員まで昇進している。

 今はもう経営に忙しくて記者活動は殆どしていないけど、あたしたち協会が関わる取材では、相変わらず高島さんが取材を担当している。

 

「篠原さん、ノーベル賞おめでとうございます。私も驚きましたよ」

 

 高島さんも、最初に取材した時には、まさかこの少女がノーベル賞とは夢にも思わなかったと思う。

 まあ、あたしもあたしで電話がかかってくるまで全く想定していなかったことだけど。

 

「あはは、関係者はみんな同じことを言うんですよ……蓬莱教授を除いてですけど」

 

 あたしと浩介くんがノーベル賞になったというニュースに驚かなかったのは、蓬莱教授だけだった。

 蓬莱教授は、あたしたちのノーベル賞受賞を、ずっと前から予言していた。

 でも、他の人はもちろん、あたしのノーベル賞なんて予想していなかった。

 記者会見で蓬莱教授が、あたしたちを重要な発見者と位置付けてからも、だ。

 

「蓬莱教授は、そういうところも含めて凄いですよね」

 

 実際、ノーベル賞の功績を蓬莱教授で独占することはできたし、仮にそうなっていてもあたしたちは何の違和感も抱かなかったとは思う。

 でも、蓬莱教授はそれをよしとせず、あたしと浩介くんを評価するように求めた。

 

「まあ、蓬莱の薬何てものを作っちゃったら、ノーベル賞の功績割合何てどうでもいいんだと思いますよ」

 

「そうかもしれないわね」

 

 いずれにしても、あたしはノーベル賞学者として、ここにいる。

 蓬莱教授のおかげと言えばそうだけど、あの発見をしたのは、紛れもなくあたしだった。

 蓬莱教授が言うように、ノーベル賞はあくまで「おまけ」であって「ゴール」ではない。

 あたしの場合は実業家が本職なので、「ゴール」という感じが強いけど、そういう研究者はむしろ例外的とも言えるだろう。

 

「Dr. Yuko Shinohara, you're splendid a little while ago.(篠原優子博士、さっきは見事でした!)」

 

 あたしと高島さんが話していると、別の記者さんがあたしに話しかけてきた。

 英語を聞くと少しだけ身構えてしまう。

 記者の腕章を見る限り、アメリカの報道機関みたいね。

 

「Thank you.」

 

 ひとまず、お礼だけでも述べておく。

 

「I'm dissatisfied with their high-handed too. I felt relieved Dr's refute.(私も彼女たちの横暴な振る舞いに不満を持ってたんです。博士の論破で胸がスッとしました)」

 

 笑顔で記者さんがあたしを労ってくれる。

 

「That's so good.(それはよかったわ)」

 

 どうやら、ああいった勢力に不満を持っている人は多かったらしい。

 

「They never give up feminism. I envy Japan destroyed feminism by japanese perfect trans sexual syndrome association.(彼女たちはフェミニズムを絶対に諦めない。日本では、日本性転換症候群協会がフェミニズムを壊滅させたそうで、羨ましい限りです)」

 

 どうやら、彼らもかなり鬱憤がたまっているらしい。

 うーん、あたしが女の子になる直前に就任した大統領も、そういう不満で当選したはずなんだけど、どうやらまだ勢力を保っているらしいわね。

 

「I wonder, why they never give up. The chances are against them.(私からすれば、彼女たちが諦めないのが不思議だわ。勝ち目何てあるわけないのに)」

 

 あたしからすれば、さっさと見切りをつけてしまうしかないと思うのに。

 

「Probably, perfect trans sexual syndrome association exist only in Japan.(恐らく、協会が日本にしかないからだと思います)」

 

 うーん、そう言われても困るのよね。

 さてどうしたものか……

 

「Humm...ah...This syndrome is little patients outside Japan.(うーん、あー、そうは言っても、この病気は日本以外の患者は殆どいませんから)」

 

 結局、そこに行き着いちゃうのよね

 

「But not zero. Except Japanese patients is exist. Their suicide rate is still high. Your association need support except japanese patients. Your association is no longer poor.(しかし0ではない。日本人以外の患者もいる。彼女たちの自殺率は高いままだ。協会は日本人以外の患者のサポートもするべきではないかな?もう協会は貧乏ではないはずだ)」

 

 うわあ、痛いところを突かれちゃったわね。

 うーん、そうは言っても人とノウハウがないからなあ。

 えっと……

 

「Ah...but we're short of hands. This syndrome must be especially education. We suffered trial and error, how to teach Japanese patients.(うーん、人手が足りないわ。この病気は特別な教育が必要不可欠です。あたしたちは同じ日本人の教育方法の試行錯誤にも大変な苦労をしてきました)」

 

 つまり、現実には今すぐには難しいということ。

 また、非常に特殊な病気で、それに関する教育に関しても、同じTS 病患者が習慣などで共通する日本人相手でさえ、かなりの苦労を伴う。

 

「Umm...」

 

「It is impossible to save everyone.(全部は救えないんです)」

 

 その記者さんも、「中々難しい」「全部は救えない」というあたしの言葉にうーんと腕を組んでしまった。

 そう、同じ日本人の、ありふれた患者さんの自殺を食い止めるだけでも難しい(それでも最近は自殺率は急減したけど)のに、海外の珍しい患者さんをケアするだけの人材はいない上に、全く投資の費用対効果に合わないばかりか、下手をすれば日本人の患者のケアが後手に回って共倒れの恐れもある。

 

 そうした理由から、あたしたち協会は、今もあまり外国人の患者への支援には本格的に打ち出せないでいる。

 この辺りは、もう少し時が進んで、TS病の患者そのものが増えるのを待たない限り、どうしようもないと思う。

 それはまた、気の遠くなるような未来だとは思う。

 でも仕方ない。あたしたちだって万能じゃない。

 全部を救うことができるのは漫画や小説の世界まで。現実はそうもいかないってことよね。

 ノーベル賞のあたしだって神ではない。だから堂々と、「全ては救えない」と宣言することが出来る。

 

「Thank you.」

 

 記者さんがあたしにお礼を言うと、あたしの元を去って別のノーベル賞学者のもとに行った。

 

「全部は救えない……か」

 

 あたしは、大学生の頃にあった「明日の会」のことを思い出す。

 あの時も、間違った教育法を掲げ、しかも運の悪いことに明日の会に1人の患者の親がなびいてしまった。

 あの時は、あたしたちは「最善策」としてその患者を「早くに自殺に追い込むこと」を目指した。

 結果的にこれが項を奏し、二度と明日の会は患者を診ることはなかった。

 今はもう、ホームページも完全に消えていて、その面影をうかがい知るのは困難になっている。

 そして、以前から協会や蓬莱教授に対する敵対勢力のリーダーでもあり、明日の会の代表だった牧師は海外の「国際反蓬莱連合」の活動に合流したのを最後に、完全に消息不明になってしまった。

 そしてその「国際反蓬莱連合」も、既にもう活動を停止していて、ホームページも、蓬莱カンパニーによる制裁を恐れた現地の当局によって閉鎖させられている。

 各国支部と本部の代表たちも「降伏宣言」をした後、名前などを変えて今は過去を隠しながらひっそりと暮らしているという。

 彼らの消息については、もう興味もないから興信所も頼んでいないけど、もしかしたら誰かはどこかで死んでいるのかもしれない。

 そうだとしたら同情はできないけど、もし他の誰かが生きていたら、今のあたしたちの栄華をどう見ているかしらね?

 

「まあ、いっか」

 

 あたしは、考えるのをやめ、元の席につく。

 他の晩餐会のメンバーも、一旦自分の席に戻っていく。

 何故ならそう、これからは美味しいデザートが待っている。

 ノーベル博物館では食べられなかったデザートを、給士さんたちが持ってきて1人1人の机にもっていく。

 

「お、美味しそうだなー」

 

 隣に座っていた浩介くんが舌鼓をしている。

 運ばれてきたのは、きれいな緑色の抹茶アイスだった。

 

「うん、美味しそうだわ」

 

 ふふ、余呉さんは特に喜んでそうね。

 

「ああ、博物館で食べるよりもずっとうまいだろうな」

 

 浩介くんも、特別甘いものが好きというわけではないが、やはり絶品のデザートは好きだ。

 

「うん」

 

 ここの晩餐会の料理は、滞在していたホテルの食材と同等以上の美味しさを誇っていて、さすがにノーベル賞の晩餐会のシェフを名乗るだけあった。

 あたしの前にもアイスが並べられ、とにかく食べたくてたまらないわ。

 

「よし、食うか」

 

「うん……もぐっ」

 

 あたしは、他のテーブルにもアイスが配られたのを見計らって、アイスを一口食べる。

 

「んー! 美味しいわー!」

 

 ひんやりと口のなかでとろける甘味と抹茶の味がほどよくブレンドされている。

 溶けないようにきちんと固められ、それでいて冷たすぎず、甘さをきちんとアピールした出来映えになっている。

 

「もう一口……んー! 幸せー!」

 

 もう一口食べると、あまりの甘さとその美味しさに、脳が蕩けそうになる。

 舌で感じるこの甘さは、あたしにとってはとても重要なエネルギー源になる。

 スプーンで、更に2口3口と食べていき、あたしはデザートを間食した。

 

「うーん、お腹一杯で幸せー!」

 

「優子ちゃん変わらないね」

 

 隣で見ていた浩介くんも、あたしが甘いものを美味しそうに食べているのを見るのは大好き。

 あたしも、甘いものを食べるのは好き。ふふ、いい関係になってるわね。

 

「うん、甘いもの大好きだわ」

 

「うーん、余呉さんとかも見てわかるけど、女子って本当に甘いもの好きだよね。特にTS病の人何て、嫌いな人いねえんじゃねーかって思えてくるよ」

 

 浩介くんは、「女の子=甘いもの大好き」という等式を信じている。

 もちろん、探せばそうじゃない女の子もいるだろうけど、少なくともあたしたちの回りには甘いもの大好きな女の子ばかりだった。

 

「あーうん、実はTS病になる前に甘いもの苦手だった人がいたんだけど、彼女も女の子になってからは『スイーツ大好き』になっちゃってたわね」

 

 最近の患者さんに、そのパターンの患者さんもいて、実際過去にも似たような事例はあった。

 そのため、現在はカリキュラムを改良して「男時代に甘いものが苦手だった患者さんには、甘いものを食べさせてあげる」というノウハウが作られた。

 

「へーそんなこともあったんだ」

 

「そうよ。その子も驚いてたわ。結構最近の事例だけど、そのお陰でカリキュラムも変わったのよ」

 

 TS病患者支援の歴史は長いけど、絶対数が少ないのもあって、時折こうして新しい経験則が見つかることも多い。

 ともあれ、現在は、「TS病になっても味覚はあまり変わらないが、唯一甘いものだけはみんな大好物になる」というのが患者の間で共有された。

 女の子らしいかわいくておいしいスイーツ、食べたいものね。

 

「へー」

 

 浩介くんは、上手に聞き手をこなしてくれている。

 あたしもあたしで、浩介くんが話し込んでいる時には、よい聞き手になれるように頑張ることにしている。

 こういうところで、夫婦生活長続きできるものね。

 

「さて優子ちゃん、そろそろだな」

 

「うん」

 

 浩介くんが、あたしに注意を促す。

 そう、この後は、晩餐会の締めくくりである英語でのスピーチが待っている。

 あたしにとっては、一番の関門といってもいい。

 

「──」

 

「これより、ノーベル賞受賞者によるスピーチを始めます」

 

「さ、優子ちゃん」

 

「うん」

 

 一番真ん中の、広いテーブルに座っていたあたしたちが立ち上がり、前の壇上へと移動する。

 王族の方々と、他のノーベル賞受賞者たちも、一斉に壇上へと進んでいった。

 

 大丈夫、原稿はあるし、財団の人からも「OK」もらったものね。

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