永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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2027年12月10日 ノーベル・レクチャー 蓬莱教授の場合

 1300人の晩餐会の参加者たちの視線が、一斉にあたしたちに注がれる。

 スピーチは長丁場なので、あたしたちは椅子に座りながらスピーチを聞くことになる。

 ストックホルムに来てからというもの、あたしたちはまるで人気芸能人になってしまったかのような錯覚に襲われた。

 

「Began to speech now. Nobel prize physics...(ただいまより、スピーチを始めます。始めにノーベル物理学賞──)」

 

 国王陛下の宣言と共に、まずはノーベル物理学賞受賞者の1人が一番高い壇上へ上がる。

 ちなみに、さっきの授賞式でも最初に上がったのはこの人だった。

 

  パチパチパチパチパチ

 

 拍手と共に、さっきまでの喧騒が信じられないような静けさが、晩餐会を包み込む。

 

「Hello everyone, my name is──」

 

 スピーチは、簡単な挨拶と、関係者へのお礼で始まった。

 そして物理学賞の人のすピーチは、やはり身の上話だった。

 このスピーチは「ノーベル・レクチャー」というけど、専門的な話をする人は殆どいないという。

 

「I was liking university in my child. University has infinity mystery.(私は子供の頃から宇宙が好きでした。宇宙は無限の謎があります)」

 

 宇宙が好きだった少年。

 そんな人は多分、世界にありふれている。

 あたしも、高校大学は天文部だった。桂子ちゃんに至っては、それが高じてJAXAの職員にまでなった。

 でも、この人の話にあるような「好き」の度合いは、それこそ格が違った。

 だからこそ、彼はノーベル賞になった。

 彼はスピーチで、「宇宙の謎の究明こそが、私の研究の宿命」とも言っていた。

 

 

「My study is never over. Because university has infinity mystery. (私の研究は決して終わらない。何故なら、宇宙の謎は無限だから)」

 

 何だかんだでそれなりの時間にスピーチが費やされ、最後はその言葉でスピーチが終わった。

 

「My speech is over. Thank you for your kind attention. (スピーチは以上です。ご清聴ありがとうございました)」

 

  パチパチパチパチパチ!!!

 

 そして最後の定形挨拶でスピーチが終わると、始める前以上の大きな拍手が、受賞者に浴びせられた。

 受賞者はやや照れ顔で頭を下げると、安堵の表情で壇上を降りた。

 うー、あたしも無事に終われるかしら?

 

「──Dr.──」

 

 次に、共同受賞したノーベル物理学賞の学者さんに声をかける。

 ちなみに、スピーチの順番は授賞式の時と同じ。

 なので、物理学賞の3人と、化学賞の2人、そして蓬莱教授と浩介くんがスピーチした後にあたしの番になる。

 

「First I say a few words of thanks to──」

 

 こちらは、まず感謝の言葉から始まった。

 ノーベル財団や指導教官、あるいは助手や研究チーム、更には家族への謝意が多く、その辺りはあたしたちと変わりはない。

 

 そして、さっきの人と同じように身の上話が始まり、ノーベル賞受賞までの道のりを述べて終わりだった。

 どうやら、あたしのスピーチは、ここでも大きな注目を浴びそうだった。

 

「My speech is over. Thank you for your kind attention.」

 

  パチパチパチパチパチ!!!

 

 先程と全く同じ締めの文言で、観衆も同じように拍手をする。

 その後も、英語でのスピーチは続いていく。

 英語の内容は、スウェーデン人など英語を母語としない人の参加者が多いためか、あたしでも分かる程度にはかなり平易な表現が使われている他、かなりゆっくりと話しているなどの配慮がなされている。

 そのあたり、あたしのスピーチも大丈夫そうでよかったわ。

 

 物理学賞の3人が終わると、続いて化学賞の2人がそれぞれ壇上に上がった。

 こちらは物理学賞とは研究テーマも違うけど、こちらも将来的に実用化すればかなりの利便性をあたしたちは手に入れられると目されているものだった。

 

 そして──

 

「──Dr. Shingo Horai.」

 

  パチパチパチパチパチ!!!

 

 国王陛下から呼ばれ、2個のメダルを掲げた蓬莱教授が立ち上がって、ゆっくりと壇上に上がり、原稿の紙を敷いた。

 群衆の拍手も、これまで以上に大きなものになっていく。

 群衆の視線はやはりメダルを2個持っているためか胸元に集中にしている。

 ノーベル賞を複数回受賞した人が現れたのは1980年以来47年ぶり、もちろん生きているのは蓬莱教授だけという快挙だ。

 

「It's no need explain about me. I am 2 times Nobelist. I am only living 2 times Nobelist and only 2 times Nobel Prize in Physiology or Medicine. I omit my introduction.(俺のことについては説明不要だろう。何せ2回目だからな。俺は2回の受賞者では唯一生きているし、生理学・医学賞を複数回は史上初だ。というわけで、自己紹介は省略させてもらおう)」

 

 蓬莱教授は、いきなりそんな言葉から入った。

 確かに2回目だけど、最初に受賞したのはもう15年前、あたしたちも含めてここの学生さんたちはみんな子供だったのに。

 まあ、蓬莱教授だからこそってのもあるけど。

 

「I shall talk since 15 years ago. When I won 1st Nobel prize. But I am dissatisfied. Because it is not my favorite research. My favorite research is this times Nobel prize. (15年前のところから話そう。あの時、俺は1回目のノーベル賞を取った。しかし、俺は不満だった。何せ本命の研究ではなかったからな。俺の本命の研究は今回のノーベル賞のものだ)」

 

 蓬莱教授が、静かに語り始めた。蓬莱教授の英語は、これまでとは違う、やや威圧的な喋り方だった。

 みんな、凍りついたように蓬莱教授のスピーチを聞き入っている。

 

「I met a cooperater before. She's Miss.Makino Nagahara. She is perfect trans sexual syndrome and she is the oldest person in the world. She was born in 1518. At first she distrusted my research. But private life is so good.(私は以前から協力者と出会っていた。それがミス・永原マキノだ。永原先生は完全性転換症候群にして、世界で最も年上の人だ。そう、1518年生まれだな。最初、永原先生は俺の研究に不信感を持っていた。しかし私生活の関係は良好だった)」

 

 蓬莱教授が、永原先生のことを話し始めた。

 協会の関係者がいるテーブルを見ると、永原先生は「予想通り」という顔をしていて、他の会員たちは永原先生の方に一瞬だけ振り向いた。

 他の人は永原先生の顔を知らないのか顔は動いていなかった。

 

「One day, she assumed office as high school teacher near my university. The high school named "Odani high school".(ある日、永原先生が俺の大学の近くの高校の先生になった。それが「小谷学園」という高校だ)」

 

 永原先生は、あたしが高校生だった時は新任扱いだったことを思い出す。

 永原先生自体、数年で他の学校に移動することが多かったんだけど、今では不老のことが広く知られるようになったため、小谷学園に居続けることになった。

 もちろん、ベテランというにはあまりにもベテラン過ぎるけれども、協会やあるいはたまにだけど蓬莱カンパニーでの仕事もあって、教頭や教務主任などの幹部職にはついていないらしい。

 

「A few years later, the school's a student be perfect trans sexual syndrome. Ah...This date is May 8 2017. She is Yuko Shinohara...Then Yuko Ishiyama.(2、3年後のことだ。その学校で1人の生徒がTS病になった。あれはそう、確か2017年5月8日のことだったな。その人こそ篠原優子……当時の石山優子だ)」

 

 あたしのことが言及されると、周囲の視線も一瞬あたしの方に移る。

 今回のノーベル賞は同じ研究所の教官と教え子の3人による受賞なので、どうしても相互の情報が出てきやすいのよね。

 

「My first contact her is July. Miss Nagahara requested to me. Then Yuko Ishiyama anxious about school's inappropriate care. I helped them. On that occasion I contacted Kousuke Shinohara.(優子さんと俺が初めて接触したのは7月のことだ。永原先生に呼ばれたんだ。その時、優子さんは学校側の不適切な対応に悩まされていた。俺は優子さんと永原先生を助けた。その時に、篠原浩介さんとも初めて会ったんだ)」

 

 懐かしいわね。

 確か体育の授業の時の更衣室問題と、林間学校の時だったわね。

 教頭先生に小野先生、今は何をしているのかしら? 多分もう定年だとは思うけど。

 今思えば2人共かわいそうだったわよね。相手が悪すぎたというか。

 永原先生だって蓬莱教授の半分とは言え、世界的にも大変な資産家には違いない上に、ね。

 

「My research must cooperate perfect trans sexual syndrome association Japan. This association's president is Miss Makino Nagahara. In December 2017, I successed life 120 medicine.(俺の研究には、日本性転換症候群協会の協力が必要だ。この協会の会長は永原先生だ。2017年12月、俺は120歳の薬を開発することに成功した)」

 

 うん、あれは確か、クリスマスでの家デートの時だったわよね?

 

「I wanted to build friendly relations with it. Therefore it is decision to joined my research Yuko Ishiyama and her fiance Kousuke Shinohara. Yuko Ishiyama was already had a good reputation in this association. She already saved a patient's life.(俺は協会との友好関係を築きたかった。そこで、俺の研究に優子さんと、婚約者だった浩介さんを迎え入れた。優子さんはその時既に協会内でも評判がよく、既に1人の患者の命を救っていたんだ)」

 

 蓬莱教授がそう言うと、また周囲の注目があたしに注がれる。

 10年前既にあたしが1人の患者の命を救ったという事実は、嫌でも周りをまた注目させてしまう。

 命を救われた患者というのはもちろん幸子さんのことで、彼女が救われるきっかけの大元は、小谷学園での林間学校実行委員を決めるくじの結果からだった。

 

「She and her husband entered my university. 4 years later, they joined my research institute. Since they discovered about my research. Both were very important. So Dr. Yuko Shinohara and Dr. Kousuke Shinohara, if they didn't join my research possibly my research failed hundreds of years.(篠原夫妻が俺の大学に入ってくれた。そして4年後に、俺たちの研究に参加してくれた。2人は俺の研究に関する発見をしてくれた、どちらもとても重要なものだった。篠原優子博士と篠原浩介博士、もし2人が俺の研究に参加してくれなかったら、もしかしたら俺の研究は数百年間失敗し続けたかもしれない)」

 

 蓬莱教授のスピーチは、あたしたちへの賛美になる。

 蓬莱教授の視線が紙の下端に行く。

 どうやら蓬莱教授のスピーチは短めで、そろそろ終わりに入りそうだった。

 

「Thanks to Dr. Kousuke Shinohara and Dr. Yuko Shinohara. Thanks to Miss Makino Nagahara and perfect trans sexual syndrome association Japan. Thanks to all persons to make a contribution my research.(篠原浩介博士と篠原優子博士、永原先生と日本性転換症候群協会、そして俺の研究に寄付してくれた全ての人に感謝します) 」

 

 そして蓬莱教授も、感謝の言葉を述べた。

 恐らく、このスピーチも終わりが近いわね。

 

「My research is never end. From now on, I shall research to solution incalculable malignants no effect Horai medicine.(しかし俺の研究に終わりはない。今後は、蓬莱の薬の効果がない難病について研究していきたいと思っている)」

 

 蓬莱教授が、以前言っていたことと同じことを繰り返す。

 蓬莱の薬が完成した後も、蓬莱教授はその効果も及ばない、言うなればTS病患者や蓬莱の薬を飲んだ人が持っている不老遺伝子でも治しきれないような難病の治療法を開発したいと思っていると話していた。もちろんそれらが完成したら、またノーベル賞になる気もしていたけど、蓬莱教授は3回目のノーベル賞については一切言及していない。

 このスピーチでも、それが繰り返された形になるわね。

 

「My speech is over. Thank you for your kind attention.(俺のスピーチはここまで。ご清聴ありがとうございました)」

 

  パチパチパチパチパチ!!!

  ヒュー!

 

 一段と大きな拍手が、蓬莱教授に浴びせられる。

 蓬莱教授が軽く一礼すると、更に会場が盛り上がる。

 今までの受賞者と比べると、スピーチは格段に短かった。にも拘らず、この盛り上がりなのは、蓬莱教授がいかに人望の厚い人かを表していた。

 蓬莱教授は盛大な拍手に包まれながら、堂々とした態度で椅子へと向かい、そこへ座った。

 何度となく見てきた何気ない所作でも、今日は一段と威厳が違った。

 蓬莱教授自身が言っていたように、この技術が完成し、2回目のノーベル賞になることは、「凡百のノーベル賞」を超越することだって。

 そう言う意味では、あたしたちは殆ど「凡百のノーベル賞」に近い。研究内容ノーベル賞の中でも偉大だとしても、貢献度は最低の1/4だもの。

 

 さて、蓬莱教授の次にスピーチをするのが──

 

「Dr. Kousuke Shinohara.」


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