永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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2027年12月10日 ノーベル・レクチャー 優子の場合 前編

「Dr. Yuko Shinohara.」

 

 国王陛下の声に、一瞬ビクッとしてしまう。

 そう、浩介くんのスピーチが終われば次はもちろんあたしの番になる。

 あたしはぬいぐるみさんを強めに抱き締め、椅子から立ち上がると、ゆっくりと壇上へと歩を進める。

 右手にはぬいぐるみさん、左手には原稿を持ち、あたしは原稿の紙を広げて余白部分にくまさんのぬいぐるみを置いた。

 その所作に、一部の人が眉を潜めるように見つめ、怪訝そうな会話をしている集団もいる。

 あの記者を追い出しても、やはり子供っぽいあたしに嫌悪感を感じてしまう人はいるみたいね。

 

「It is unnecessary to explain about me. I am Yuko Shinohara. My usually work is a managing director in Horai company. I am perfect trans sexual syndrome.(あたしについての説明はもう必要無いでしょう。あたしは篠原優子、普段は蓬莱カンパニーで常務取締役をしています。あたしはTS病患者です)」

 

 あたしがスピーチを始めると、怪訝そうな会話をしていた集団もピタッと会話が止んだ。

 やっぱり、スピーチはキチンと聞いてくれるみたいでよかったわ。

 

「I was trained feminine. This syndrome patient must be feminine. If she refusal girl's life she must be mental derangement. She must kill herself. If she want to live long it is an indispensable condition to master feminine personality. History have not ANY EXCEPTION.(あたしは、女の子らしくなるために訓練を受けました。この病気の患者は、女の子らしくならなければいけないのです。もし、患者がそれを拒絶したならば、彼女は必ず精神的打撃を受けます。そして、必ず自殺へと向かうのです。もし、患者が長生きしたいならば、女の子らしい性格を得ることは必須条件なのです。TS病の歴史としても、例外は『1つも』ありません)」

 

 1つもないということを強調してあたしは演説を始める。

 協会のテーブルのところや、小谷学園のテーブルの人たちは「うんうん」と頷いていたけど、他のテーブルは疑い深い視線のままだ。

 例外が全くないというのは事実だけど、やっぱり人間だからどうしても「1つくらい例外あるでしょ?」って思ってしまうのかもしれないわね。

 

「We know difference between man and woman. You don't know the difference. 10 years ago I became girl from boy. First time I was tormented a lot of difference between man and woman. This syndrome patient is learn her lesson about feminist is dreamer. This syndrome patients are never to become feminist. History have not ANY EXCEPTION.(あたしたちは、男女の間の違いというものを知っています。あなたたちは、それを知らないのです。10年前、あたしは男から女になりました。最初、あたしは多くの男女の違いに戸惑いましたこの病気になった患者は、フェミニストが夢想家であることを思い知らされるのです。この病気の患者は、絶対にフェミニストにはなりませんTS病の歴史としても、例外は『1つも』ありません)」

 

 あたしは、さっきと同じ文章で締め括る。

 そう、1つ足りとも例外がないということを、あたしたちは強調する。

 それを受け入れられないのは、それだけ男女の違いの大きさを、みんな過小評価しているため。

 

「I tormented shorten my height. I tormented toilet. I tormented skirt. I tormented bath. I tormented meal. I tormented menstrual pain. I tormented girl's custom. I tormented to be weak physical. I tormented other things. My choice is only to accept my fate.(あたしは、自分の縮んだ身長に戸惑いました。あたしはトイレで戸惑いました。あたしはスカートに戸惑いました。あたしはお風呂に戸惑いました。あたしは食事に戸惑いました。あたしは生理に戸惑いました。あたしは女の子の習慣に戸惑いました。あたしは、弱くなった身体能力に戸惑いました。あたしは、他にも色々なことに戸惑いました。あたしの選択肢は、自分の運命を受け入れる以外になかったのです)」

 

 この辺りの文章は、ほぼ同じことの繰り返し。英語は繰り返しを嫌う言語だけど、あえて繰り返すことにここは意味がある。

 とにかく女の子になるとこれだけのことに戸惑うという意味でもある。

 あたしに向けられた視線が、少しずつ変わっていくのを感じる。

 でももちろん、これでは終わらない。

 

「I undergo curriculum by my mother and my teacher Miss Makino Nagahara. This curriculum is strict. If I act unwomanly or said unwomanly spoken I was disciplined without mercy. But I acted womanly, I was praised by my mother. My mother said "Yuko, you are very cute girl. You are very feminine." I was very glad to praise.(あたしは、母さんと永原先生から厳しいカリキュラムを受けました。もし、あたしが女の子らしくない行動や言葉遣いをしたら、あたしは母さんや永原先生から容赦のないおしおきをされました。ですが、あたしが女の子らしい行動をすると、とても誉めてくれました。母さんが、『優子、とってもかわいいわ。優子は女の子らしいわね』って言ってくれました。誉められるのは、とても嬉しかったです)」

 

 スピーチをしながら、母さんの方をちらりと見ると、母さんは全く動揺した様子はなかった。

 一方で永原先生の方も、全く動じずにあたしの方を見つめ続けていた。

 

「I was educated about behavior in school girl. I failed many subject. So I was disciplined to many. My discipline was up skirt and I was coerced to be shy.(あたしは、女子高生としての訓練も受けました。あたしは多くの失敗をしてしまって、いっぱいおしおきをされてしまいました。おしおきというのは、スカートをめくられて、恥ずかしがるように強要されたことです)」

 

  ガヤガヤガヤ

 

 あたしが当時のカリキュラムの様子をスピーチすると、会場が一気にざわつき始めた。

 うん、まあ予想通りではあるよね。普通に考えなくても、セクハラ、パワハラそのものだもの。

 でも、それくらいしないと、女の子にはなれないということでもあるのよ。命には代えられないということよ。

 

「But I was disciplined. I was more feminine than before. I was very glad to be feminine. If I rejected I dead many years ago. We cannot substitute for life. When I am a boy I am very rowdy. My name when a boy Yuichi means the first gentle and tender person. I had a sense of guilt. My girls name is decision by myself. Yuko means gentle and tender person from the beginning untill the last. I determined about to became tender for this once.(でも、あたしがおしおきされたら、あたしはさっきよりも女の子らしくなれました。女の子らしくなれたのはとても嬉しかったです。拒絶していたら、何年も前に死んでいました。命には代えられません。あたしが男だったときはとても乱暴でした。男の頃の名前、『優一』は、『一番優しい人になって欲しい』という意味でした。あたしは、罪悪感を抱えていました。女の子の名前は自分で決めました。『優子』というのは、はじめから終わりまで優しい人でありますようにという意味があります。あたしは、今度は優しい子になりたいと決心しました)」

 

 あたしが決心した10年前の決意は、今も揺らぐことがない。

 優しい子になれたのか? という問いには、正直に言ってまだまだ至らない所はあると思う。

 それでも、あの暗い男時代のことを思えば、十分合格点をあげたいのも確かだった。

 

「This syndrome patients want to be treated girl. I am first Japanese woman Nobel prize laureate. But I knew dispute that Yuko Shinohara really woman. I am very hurt. I am a girl. It is no doubt. We have menstrual pain. We can birth to baby! I cannot understand why didn't acknowledge about we are women. (この病気の患者たちは、女の子になりたがっているんです。あたしは、女性としては日本人初のノーベル賞受賞者です。ですが、『篠原優子は本当に女性なのか』という論争を知りました。これにあたしはとても傷ついています。あたしは女の子です。疑う余地もありません。あたしたちは生理痛が来ます。赤ちゃんだって産めます! どうして、あたしたちを女性として認めてもらえないのか、理解できません)」

 

 あたしが必死に訴えるように言うと、周囲の目付きも真剣になる。

 あたしは、それだけ女の子らしい女の子になりたかったから、女の子として扱われないことには他の患者以上に敏感になってしまう。

 

「I think who cannot acknowledge about perfect trans sexual syndrome patients are women, they cannot understand difference between man and woman. (あたしが思うに、あたしたちTS病患者を女性と認められない人は、男女の大きな違いを認められないからだと思います) 」

 

 あたしがそう高らかに宣言すると、やはり周囲は動揺に包まれた。

 冷静なのは、永原先生たちくらいね。

 

「We are not trans gender. We are trans sexual. We want to join woman. If one person said that "you birthed boy so you are a man" it is easy to acknowledge him or her. Because he or she can understand about men cannot birth baby. It's impossible.(あたしたちは、トランスジェンダーではありません。トランスセクシャルです。あたしたちは女性の集団に入りたいんです。もしある人が、『あなたは男として生まれたんだから男だ』というなら、彼、彼女を納得させるのは容易でしょう。何故なら、その人は男が子供を産むことはできないことを知っていますから。ええ、不可能です)」

 

 あたしがそう宣言すると、会場は納得したように頷く人と、そうでない人とに別れた。

 でも、ここまで噛み砕いても納得できない人を納得させるのが困難なことは、10年前から知っている。

 日本語で理解させるのも難しいのに、母語でない英語で相手に伝えるのはほぼ不可能よね。

 だからこれは仕方ないと、あたしも心の中で納得させる。

 

「In Stockholm I am thunk strange. I looks very childish. But I have an inferiority complex. Really I am a girl now. But it is 16 years old to became a girl. I have no experience infant girl! You madams, you ladys, you must have experience infant girl. (ここストックホルムでは、あたしはとても子供っぽく、不審に見られているそうです。ですが、あたしにはコンプレックスがあるんです。確かにあたしは今は女の子ですが、女の子になったのは16歳の時です。あたしには、幼い少女としての体験が無いのです! ご婦人の皆様、女性の皆さん、あなた方も幼い少女を体験しているはずです)」

 

 あたしのスピーチに、協会の女性たちがいる一角を除いた女性たちがウンウンと小さく頷いている。

 もちろん、普通の女性なら、そんなことは当たり前の話だ。

 

「I have not infant girl's memory. Usually it have. Other women have infant gial's memory. It is natural. But I have not any memory! Can you understand the inferiority complex?(あたしには、幼い少女としての記憶がありません。他の女性は当たり前に持っているのに、あたしには何もない! あなたたちに、あたしのこのコンプレックスが理解できますか!?)」

 

 少しだけ涙声になって、あたしは訴えてしまう。

 もちろん一方では「モテない女のひがみ」という余裕もあった。

 でも実際には分かってもらえないあたしの劣等感への苛立ちも、多分に含まれていた。

 

「Time cannot back. It is impossible. I cannot take back. (時間は戻らない。戻すことはできない。あたしは、取り返すことはできない)」

 

 あたしがそのように訴えると、周囲の視線ががらりと変わった。

 

「We have child complex. I like childish goods. Childish is so good, to be liked men is glad.(あたしは幼少期にコンプレックスを持っている。だから、子供っぽいものが好き。男に持てると嬉しいわ)」

 

 あたしの正面からのこの宣言は、やっぱり衝撃的だったのか、主に女子学生のスペースで動揺が見受けられる。

 そして、ここからあたしの更なる追い込みが続くことになっている。


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