永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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2027年12月10日 式典の後

「──」

 

 財団の人の放送が始まり、最初に物理学賞の受賞者さんが呼ばれた。

 物理学賞の人が壇上へと歩を進めると、生徒さんたちの拍手が聞こえた。

 

 物理学賞、化学賞、あたしたち生理学・医学賞、文学賞、経済学賞という順番は授賞式や晩餐会でのスピーチと同じ。

 さっきは国王陛下や要人との間でスピーチしたとあって、あたしも浩介くんも、さっきよりも格段にリラックスできた。

 

 物理学賞の人が、先程と同じように、「宇宙への他探究心」をテーマにスピーチを開始した。

 あたしと浩介くんのスピーチは、あたしたち自身の英語力のなさもあって、蓬莱教授は2回目ということで、スピーチの内容を大幅に短縮したために、あたしたちのスピーチは、全受賞者の中でもかなり短いものだった。

 

 

「My speech is over. Thank you for your kind attention.(私のスピーチはここまで。ご清聴ありがとうございました)」

 

  パチパチパチパチパチ!!!

 

 最初の物理学賞の人が、スピーチを終えた。

 同じ原稿だから当たり前だけど、スピーチの内容は一語一句同じ内容だった。

 もちろん、授賞式に出席できなかった人が多いので、真剣にスピーチしていた。

 

 

「Dr. Shingo Horai.」

 

「よしっ」

 

 蓬莱教授が呼ばれると、「よしっ」と一言話し、立ち上がって向こうへと消えていった。

 さっきまでの精神的疲労もみんな取れたのか、代わりに肉体的疲労を感じている人もいて、経済学賞の人の1人は疲れて寝てさえいた。

 

「あのスピーチさ、優子ちゃん」

 

「うん?」

 

 浩介くんが、思い出したかのように話す。

 

「ここの女子学生の受けはどうなのかなって……さっきの晩餐会でも、女子学生の反応はあまりよくなかったし」

 

「大丈夫よ。あたしは堂々とするわ」

 

 浩介くんが心配そうに言うので、あたしは浩介くんを落ち着かせるために、あえて元気に言った。

 最も、仮に白い目で見られても、あたしはどうも思わないけどね。

 

「うん、それでこそ優子ちゃんだよね。男受けってことは、結局は俺に好かれたいってことなんだろ?」

 

「もちろんよ」

 

 あたしが結婚しても男受けを狙い続けるのは、もちろん浩介くんが男の子だからというのがある。

 結果的に他の男を引き寄せちゃって、それはそれで浩介くんが嫉妬しちゃうけど、そういう時はあたしなりのやり方で、嫉妬をやめさせることもできる。

 

「優子ちゃんらしいぜ。女の子はやっぱり、健気だけど必要以上に強がらない、弱さを受け入れた素直な子が一番だよ」

 

 浩介くんが笑顔で好みを話す。

 うん、あたしも、そんな女の子らしい女の子でいたいわ。

 

 

「My speech is over. Thank you for your kind attention. 」

 

  パチパチパチパチパチ!!!

 

 蓬莱教授が、スピーチの終わりの一文を話し、会場からの万雷の拍手が聞こえてきた。

 そして──

 

「Dr. Kousuke Shinohara.」

 

「行ってくる」

 

 浩介くんが呼ばれ、即座に立ち上がる。

 

「うん、行ってらっしゃい」

 

 あたしが浩介くんを見送り、浩介くんのスピーチが始まった。

 ちなみに、スピーチの様子はここからでは見えない。

 

「優子さん、明日には帰るんだが、お土産はどうする? 俺はノーベルチョコレートで十分だが、空港でなにか買うか?」

 

「うーん……あたしは遠慮しようかしら?」

 

 もちろん、専用飛行機にもダイヤはあるし、予定では明日の正午出発と決まっている。

 とはいえ、ギリギリまでホテルにいるか、あるいは飛行機の中に入って待つか、あるいは待ち合い時間を利用して空港の中でお土産を買うかは自由になっている。

 

「うーむ、確かに報道陣が凄そうだもんなあ。できれば疲れたしそういうのは遠慮したい」

 

 あたしたちにある懸念と言えば、昨日一昨日と嫌というほどに見せつけられたあたしたちへの「追っかけ」だ。

 ホテルをチェックアウトし、ノーベル財団の車で空港に直接向かい、そのままプライベートジェットの専用スペースに逃げ込んでしまえば、全てがうまくいく。

 

 とはいえ、チョコレートだけがお土産というのも、なんだか寂しいのも事実だわ。

 どうしたものかしら?

 

「まあ、いざとなれば家族の方に買わせるってのでいいだろう」

 

「そうね」

 

 結局、それに落ち着くのよね。最終的には。

 

 

「Dr. Yuko Shinohara. 」

 

 あたしは、名前を呼ばれたらすぐに立ち上がって無言で前へと進む。

 国王陛下の存在の偉大性を認識しつつ、あたしはホールの中に進んだ。

 

 そこは、人の数こそ多いものの、やや薄暗くて落ち着いた空間だった。

 あたしたち佐和山大学にもある講義ホールで、満員の学生に立ち見までいる。

 普段は教授陣が使う壇上のマイクの後ろに立ち、ぬいぐるみさんを横に置いた。

 まるで大学の先生になったような気分で、他の学者さんたちは何度となく経験していることでも、あたしにとってははじめてのこと。

 でも、あたしは全然緊張感はない。

 記者会見で慣れているのも、あるかもしれないけどね。

 

「──」

 

 あたしは、あのときと同じ内容のスピーチを続けた。

 途中、あたしが自分のコンプレックスについて語る場面では、晩餐会の時と同じように、やや涙声という感じになってしまった。

 それでも、あたしのスピーチに対して、みんな話し声の1つもなく真剣に聞いてくれていた。

 まあ、こんな夜遅い時間に聞きに行くくらいだから、もしかしたら晩餐会の人達以上にモチベーションは高いのかもしれないけども。

 

「My speech is over. Thank you for your kind attention. 」

 

  パチパチパチパチパチ!!!

 

 あたしは、女の子らしい女の子でいたいということを、ここでも訴えることができた。

 晩餐会での記者とのエピソードがなかったけど、それでもあたしがスピーチを終えると今まで以上に大きな拍手が沸き起こった。

 あたしは、何回か頭を下げながら、壇上を後にした。

 ふう、これであたしがここストックホルムでするべきことは、全て終わったわね。

 って、今夜まだひとつだけ残ってたかしら?

 

「はー疲れたー」

 

「優子ちゃんお疲れ様」

 

 真っ先に声をかけてくれたのは、浩介くんだった。

 

「うんありがとう浩介くん」

 

「さ、残りの人のスピーチも聞いてやろう」

 

 蓬莱教授と浩介くんは、いつの間にかメダルを外していた。

 あたしも、先に入れておいた小切手と賞状も含め、メダルもバッグにしまうことにした。

 

 

「それでさー、優子ちゃんはどう思う?」

 

「うーん、やっぱりわがままを自立と勘違いするとモテないと思うわ」

 

 あたしたちは、いつの間にか雑談に講じていて、他のノーベル賞受賞者たちも、同じように雑談をしていた。

 こうなると、学者ではない文学賞の人がちょっとかわいそうよね。

 あ、でも賞金全取り出来るのよね。科学3分野より評価低くても。

 

「──」

 

「ではこれで解散です。各自のタクシーにご乗車ください」

 

 最後の人のスピーチが終わると、あたしたちは解散となった。

 ここからは、日本語の通訳兼ガイドさんが、あたしたちをホテルまで案内してくれる。

 解散した学生さんたちと重ならないように、あたしたちは少し迂回しながら駐車場へと向かった。

 

「Good bye everyone.I'm very glad to see you.(皆様さようなら。お会いできてとても嬉しいです)」

 

 蓬莱教授が、最後に受賞者さんたち全員に向けてそう話す。

 そう、受賞者が一手に集まる一日は、終わったのである。

 これからはまた、それぞれの人生、それぞれの研究に向かって進んでいくことになる。

 

「Me too.(私もです)」

 

「Me too. 」

 

「Me too. 」

 

 他の受賞者さんたちもそれに続く。

 

「Good luck.(幸運を祈る)」

 

 文学賞の人がそう言うと、あたしたちは最後の別れを済ませ、タクシーに乗り込んだ。

 

 

「ふう、名残惜しいなやっぱり」

 

 タクシーが出発し、他のタクシーと散り散りになったタイミングで、蓬莱教授が小さく呟く。

 

「15年前も何ですか?」

 

「ああ、あの挨拶が今生の別れになった人もいたよ。何せ、過去の受賞者としては、ここには来てなかったからね」

 

 蓬莱教授が、軽い口調でそう話す。

 でも、あたしたちにはその気持ちはよく分かる。

 多分あたしたちも、日常に戻ったら、あの人たちに会う機会は多分もう来ないと思う。

 短い間だったし、殆ど話すこともなかったけど、今こうして思えば、あたしたちは強い絆で結ばれていたことが分かる。

 いわゆる、「失って初めて気付く」という感じのものなのかもしれないわね。

 

「さ、もうそろそろだ」

 

 ストックホルムの街は意外と狭い。そのため、タクシーがスピードを出すと、意外とあっという間にホテルについてしまうらしい。

 あたしたちは、「ノーベル賞受賞者を歓迎する」と書かれたボードを見つめつつ、ホテルの中に入った。

 

 

「戻ったわー」

 

「あ、優子ちゃん、浩介くん、お帰りなさい。お風呂沸いているわ。あ、それから私たちはもう寝るわね」

 

「うん」

 

 パジャマ姿のお義母さんは、そう言うとすぐに寝室へと向かっていった。

 お義父さんももう寝てしまったらしく、この部屋にはあたしたちだけになった。

 無理もないわ。もうすぐ日付変わるものね。

 

「一緒にお風呂入る?」

 

「うーん、後にする」

 

 今は、そういう気分ではない。

 むしろ直前まで溜めていたかった。

 

「そう? じゃあ先に入ってるな」

 

「うん」

 

 お風呂場へ向かう浩介くん。

 うーん、思い出に一緒に入ってもよかったけど、そうなると確実にお風呂でしちゃいそうだし。

 

「ふう」

 

 あたしは、まだ一回も使ってない部屋への扉を開ける。

 といっても、この部屋はいわゆる和室で、扉ではなく襖というのが正しい。

 あたしは開けっ放しにしつつ、暖房をつけ、お布団を敷き始めた。

 そう、今日の舞台はここ。

 こんな遠くに来てまで和室にいる必要はないと思ったので使わなかったけど、今日だけはここで寝ることにした。

 

 

「優子ちゃん、出たよ」

 

「はーい」

 

 しばらくすると、浩介くんがお風呂から出てきた。

 しかし、パジャマではなく、さっきまで着ていたタキシードだった。

 しかも、ノーベル賞のメダルまで掲げていた。

 

「優子ちゃんも、ね」

 

「うん」

 

 浩介くんの意思は、よく分かったわ。

 あたしは浩介くんと入れ替わるようにお風呂場へと向かうことになった。

 

「ふう」

 

 あたしは、シャワーと慣れない西洋式のお風呂に浸かる。

 これも今回でおしまいだと思うと、とたんに名残惜しいものがある。

 ううん、今はそんなことより、これからのことを考えなきゃ。

 

 あたしはそう思い、浩介くんを待たせ過ぎないように、しかし体力を回復させるように十分考えながら、お風呂を満喫した。

 そう言えば、北欧と言えばサウナのイメージだったけど、今回は一回も行かなっかったわね。

 

 あたしは、お風呂から出て体を拭き、パンツとブラも取り替えずにそのまま同じ服を着込む。

 浩介くんがメダルを掲げていたのを見て、あたしもメダルを掲げることにした。

 うー、こういうのって初めてで、これも普段着のはずなのに何だかコスプレ気分だわ。

 あたしは、慎重に和室への襖を開けた。

 

 サー

 

「お待たせ、あなた」

 

 浩介くんは、タキシード姿。

 首からは、さっき見たときと同じ、ノーベル賞のメダルを掲げていた。

 最高の頭脳が持つ人だけが受け取れる名誉を受け取ったあたしたちが今からすることはとてもじゃないけど言い表すことが出来ない。

 

「おいで、優子ちゃん」

 

「はい」

 

 あたしはゆっくりと浩介くんに近づいていく。

 暖房の効いた和室に隣り合った布団が2枚敷かれている。

 部屋の片隅にはパジャマも置かれている。

 

「ねえ優子ちゃん、本当に今日でいいんだよな?」

 

「うん、そうよ」

 

 部屋にある時計を見ると、既に日付を過ぎていた。

 でもあたしたちにとっては、これからが重要な事になる。

 むしろ、授賞式や晩餐会よりも重要な事がなされるかもしれないのだ。

 

「優子ちゃん、あの、さ」

 

「うん?」

 

 浩介くんが、言いにくそうに言う。

 また何か、企んでいるわね。

 

「その、スカート……自分でめくって欲しいんだ」

 

「え!?」

 

 自分からスカートをめくるように言われたのは、これまでにも何度かあった。

 でもあたしには、単にめくられるよりもずっと恥ずかしいシチュエーションで、我慢できずに拒否しちゃうことも多いものだった。

 カリキュラムの時に、ヘマをしちゃって、母さんからおしおきされたあの場面を、嫌でも思い出させるからかもしれない。

 

「ほら、優子ちゃん」

 

「は、はい……」

 

  ファサー

 

 あたしは、恥ずかしさを必死にこらえながら、スカートの裾を掴んでめくり上げて、浩介くんにパンツを見せる。

 

「うひょー、エロいエロい、特にこのノーベル賞のメダルをつけてるのがたまらねえな」

 

 浩介くんが、あたしを言葉責めして煽ってくる。

 あたしは、否が応でもそれに反応してしまう。

 

「うおっ、優子ちゃん興奮してる? ふひっ、ノーベル賞受賞者ともあろう人が、こんなにみっともない姿晒して喜んでる変態だなんてみんなが知ったらどう思うかな?」

 

「うわーん、言わないでえー!」

 

 浩介くんの言ったことに反応してしまい、あたしも顔が赤くなる。

 みんなにはあたしと浩介くんの本性を知られたくない。

 義両親や実両親には、既に幾つかのことは知られているけど、それでもあたしにとっては恥ずかしいことには変わりはないから。

 

「ふふ、優子ちゃん、俺だってお相子だよ」

 

 浩介くんが元気いっぱいになっている。

 あたしはそれを見て、理性が急激に剥ぎ取られていく。

 

「う、うん……あなた……もう我慢出来ないわ」

 

 その言葉とともに、あたしたちはノーベル賞を投げ捨てた。

 

 

 

「ねえあなた……」

 

 全てが終わったら、あたしと浩介くんはパジャマに着替えなおしてそのまま和室の布団で眠ることになった。

 これまで以上にあたしは蹂躙と被征服感でいっぱいになっていた。

 

「ああ」

 

「今日ノーベル賞を貰った大学者がさ、世界一愚かな獣に退化した何て、世間が知ったらどう思うかしら?」

 

 さっき浩介くんに言われた、「ノーベル賞受賞者ともあろうものが」という言葉がそっくりそのまま返ってくる。

 最も、あたしもあたしで完全に我を忘れていたけどね。

 

「あはは……どうだろうね。でもさ、俺思ったんだよ」

 

 天井を見ながら、浩介くんとあたしはお互い顔を見せず話し合う。

 何だか、とっても不思議な気分だわ。

 

「うん?」

 

「俺達だって人間だからさ、男の本能には勝てんよ」

 

 浩介くんは、いつもの言葉を話していた。

 

「そう?」

 

「うん、実はさ、俺、殆どさっき理性が全く無かったんだ。ただ、すげえ本能がむき出しになったっていうか」

 

 浩介くんが意外な話をする。

 でも、あたしにはその気持はわかると思う。

 今日は今までとは違う、文字通りの「本来の目的」のためだから。

 

「もしかして?」

 

「うん、完全にオスの本能がむき出しになったの、初めてだったよ。今まではその、理性とかがあったんだけど、今日は完全に吹き飛んじゃって……目の前にいるのが優子ちゃんというより、一匹のメスというか……」

 

 浩介くんの声が、動物、特に猿の鳴き声に似ているように聞こえた気がしたのは、そう言う理由かしら?

 あたしもあたしで完全に抑え込まれちゃったものね。

 

「浩介くんがそうなるのも無理も無いわよ。だって、本当に本能的にすることだもの」

 

「だな。ノーベル賞の夜がこれというのも面白いけど……ともあれ、寝るか」

 

「うん」

 

 あたしたちはそれっきり会話がなくなり、暗闇の中で眠りについた。


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