永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
ピーンポーン
番組も終盤に差し掛かった時だった。
「はーい!」
誰かが部屋の呼び鈴を鳴らしたので私が出る。
「石山さーん、食事後処理の時間ですよー!」
「あ、永原先生」
ドアを開けると永原先生が食事後処理の時間だという。
「じゃあ桂子ちゃん、虎姫ちゃん、私行ってくるからねー」
「はーい、いってらっしゃい」
「じゃあ石山さん、行きましょうか」
まず永原先生とエレベーターに並ぶ。中に入り永原先生はレストランのある2階の他に、もう一つ違う階のボタンを押し、「閉」ボタンを押す。
「ドアが閉まります」という音声とともにエレベーターのドアが閉まり動き始める。
「じゃあ私は篠原君を呼んでくるから、先にレストランに行っててね」
「はーい分かりましたー」
なるほど、永原先生が押したのは篠原くんが止まってる部屋だったのか。
私は単独で2階に行き、レストランに行く。
すると他の実行委員と先生が何人かいた。でも全員ではないようだ。
数分後、永原先生と篠原くんを含む数人が到着、全員集まったということで、少し早いが前倒しで仕事を始めるとのことだ。
「券の組数を見てください、先ずはその仕分けから始めます」
「「「はい」」」
永原先生の実演とともに作業が始まる。
「えーっと、これは3組……」
券を4つの山に分け四つの箱があり、組ごとに区分けていく。
券のデザインは組が一番目立つようになっているのでそうそうミスはしないようになっている。
あたしの身体能力はどんくさいが、これに関しては平均的な速さを確保できている。むしろ篠原くんよりやや仕事が速いくらいだ。
「2組……4組……4組……1組……3組……」
いいぞいいぞ。時折手が交錯しそうになるが、大惨事にはならない。
「……よし、山が空になった!」
「あら、石山さん、篠原くんすごいわねえ。一番乗りよ」
「お、ホントだ」
「分かってると思うけど、ここからクラスの名簿を確認するのよ」
「うん大丈夫」
私達が終わって1分くらい後、全員の作業が終わる。
2組の箱を取り、大きなテーブルに移動する。
篠原くんと共に名簿の書かれている場所に置いていく。
「えっと、安曇川虎姫……石山優子……木ノ本桂子、ああ、あたしたちの部屋かこれ」
「……高月章三郎……志賀さくら……」
クラスメイトの名前をつぶやきながら一人一人対応する所に入れていく。
「あれ? この名前?」
知らない名前があったので一旦どけておく。3組ってあったぞ……
32枚を2人で16枚なので時間はそこまでかからない。というか4組128人なので全部を一人でも十分やれるような作業量だがまあいいだろう。この弱い身体にとっては負担が減るのはありがたい。
「よし終わり! 篠原くん、そっちは?」
「う、うん。ぜぜっ……全部終わったよ」
やっぱり何か対応ぎこちないなあ……
「すみませーん、誰か3組の券を一枚持ってませんかー!?」
「あ、任せて……はーいこっちでーす」
私が3組の実行委員に券を渡す。
「す、すみませんありがとうございます」
3組の男子実行委員が私の胸を凝視しながら答える。
ここで「やだっ、胸ばっかり見ないで」って小悪魔的に叱ってもいいけど、彼のその後のクラスでの立場を考えて黙っておく。
「よし、とりあえず2組は全員食事に出たわね」
「そ、そうみたいだな」
篠原くんがそっけなく答える。
1組3組4組も、それぞれ実行委員が異常なしを伝えると、永原先生が解散を宣言。
かなり丁寧にやっても15分程度で終わった作業なので、部屋に戻ってパジャマを持ってきて風呂に入るまで十分に間に合う。
最も、2組は、今日は2番目の風呂が予定されている。林間学校の風呂は一斉参加してもいいし、参加せずに敢えて人の少ない時間帯を狙うのもありだ。
まあ、大抵の人は一斉参加のときだけ入るんだけど、特にきれい好きの女の子とか極端にシャイな人とかは後で一人で入ったり、明日の朝にも入ったりするのだ。
私も女の子なので、明日以降は一日2回以上のお風呂を心がけたいと思っている。
ともあれ、部屋に戻る。
「ただいまー」
「あ、優子おかえりー」
虎姫ちゃんが迎えてくれる。
部屋では地域番組の次に報道されていたドキュメンタリー番組を見ていた。
人類の謎とやらで、終わる時間がちょうど風呂ときりが良いらしい。
「人類って不思議だよね」
桂子ちゃんが話を振ってくる。
「私は、TS病がどうして起きるのかが不思議かなあ……」
「確かに考えてみればとんでもないよねえ……」
虎姫ちゃんも加わる。
「でも、私が不思議なのはTS病の人が不老になることよ。性別が変わるより不思議よ」
「うーんでも、不老ならほら、ノーベル賞の蓬莱教授の研究もあるしそこまで大きいことじゃないと思うけど」
「うん、優子ちゃん……やっぱり性別変わることの方が不思議よ……」
「うーん……」
しばらく考えてみるが、ちょっと思いつかない。
番組は進む、ホモなんとかというのがいっぱい出て、私達は「ホモ・サピエンス」というらしい。
そうこうしているうちに、番組が終わった。
どうやら現生人類の誕生でこの番組はおしまいらしい。
「さ、優子ちゃん、お風呂行きましょう」
「……うん」
お風呂、女風呂。
そう言えば、女の子になってから温泉や銭湯に行ったことがない。
ついに私も女の子同士でお風呂。とっくに女子として受け入れられたと言っても、やっぱり緊張してしまう。
もちろん永原先生が教頭先生を撃退しなければ私は別の時間に隔離される運命だった。もちろんそれよりはずっといいけど。
「女の子同士別にいいじゃないの優子」、いくら自分に言い聞かせても、この緊張は収まりそうにない。
「優子、緊張してる? 私もよ」
「そうねえ、どうしたって身体洗う時は裸になるわけだもの。もちろん分かってるとは思うけど、誰も優子ちゃんのことを拒絶したりしないわよ」
「そうですよ。さ、タオルとバスタオル、それからパジャマを持って行くぞ!」
「う、うん……」
少しの不安を抱え、私達は階段を上る。
そして階段とエレベーターを出て正面がT字路になっていて、右側に男の湯が、左側に女の湯がある。
ちらっと右側を見ると、男子が集合していた。
もう私は右側には行きたくない。
左側を見る。赤い暖簾の女の湯。未知の領域だ。
でも私は実行委員、集団の先頭に入る。
「えっと……皆さん、お、お風呂の時間です!」
雑談に講じていたクラスの女子たちが私を見る。
ちなみに17人全員集合していて何人かは緊張していた。
「これからお風呂に入りますが、泡を湯船に入れたり、湯船で泳いだり、バスタオルのまま入るなどの、入浴マナーに反する行為は、他の人の迷惑にもなりますので、ご遠慮ください!」
よし言えた!
「じゃあ入ります!」
私はそう言って扉を開け、スリッパを脱ぐ。
他の女子も続く。脱衣所に入る。
平常心平常心……でも、今までの着替えるところとはやっぱり違う。
どうしても心臓が凄まじくバクバク行っている。クラスメイトの女の子たちの裸を想像してしまう。女の子に自分の裸を見られることを想像してしまう。
……ああ、やっぱり桂子ちゃんたちの言う通りだ。女の子になりきっているようで、まだ深い所で「男」が出てしまっている。
でも入らないことにはしょうがない。まずは持ってきたパジャマを中に入れ、頭のリボンを解き、脱衣所のかごにタオルをかける。
黒いワンピースの背中のファスナーを外し、脱ぐ。
ワンピースを丁寧に畳む。
靴下とシャツを脱ぎ、下着姿になる。
これ以上はみんなに晒したことがない部分。やはり躊躇する。ふと横を見る。みんな脱ぎつつも、バスタオルでうまく前を隠している。よし、これで。
ブラジャーのホックを外し、片手で胸を隠すとバスタオルを使う。幸い胸が大きいため挟んで支えることが出来た。
次にパンツを脱ぐ。両手を使い、うまくバスタオルで隠しながら、いつもの二倍の時間をかけて脱ぐ。小さいタオルと入浴用の髪留めを持ってこれでOKだ。
「お、優子、やっぱすげえなその体!」
「え、恵美ちゃん!」
恵美ちゃんが声をかけてきたと思ったら、素っ裸になっていた。私みたいに隠していない。
あまりにも堂々としていて、視線をそらすことが出来ない。
テニスで鍛えているためか、「動ける」体つきだが、胸はもちろん私の圧勝だ。
「あ、優子ちゃん。そういえば優子ちゃんっていっつもリボンしてるよね」
「うんうん、オシャレだと思ってはいたんですが、前頭部にリボンを付けるようになったきっかけってあるんですか?」
桂子ちゃんと龍香ちゃんが食いついてくる。龍香ちゃんは小タオルだけ持っていて上半身を隠してない。緊張はするけど、不思議と興奮度は高くない。桂子ちゃんは私と同じく上下半身バスタオル仕様だ。
うーんと、何だっけ? あっそうだ!
「その……女の子になって初めて外出した日に、母さんが私の前頭部に白いリボンを付けてきて、『黒い髪に白いリボンは映える』って言われて、それがやっぱり可愛くて、それ以来そこにリボンをつけるようになったわ」
「へえ、そうなんですか!」
「と、とりあえず入ろうよ……!」
「おう、そうしようぜ!」
あたしの掛け声で、女子たちが一斉に風呂に入る。
まず「かけ湯」の所に行列ができた。
桂子ちゃんと恵美ちゃんがまず湯をかける。バスタオルは濡れ濡れだが仕方ない。あたしは支えないと落ちちゃうけど、他の子は両手離しても落ちてない。
うーやっぱりスキルの差が出ている。でも直接聞くわけにも行かないし……どうしよう……
ともあれ、私も見よう見まねで湯をかける。
風呂は大浴場と露天風呂がある。17人にしては少し広々だ。
まずは身体を洗うため、そちらに移動する。左隣は桂子ちゃんみたいだ。そういえば、桂子ちゃんの裸も見たことはない。
流石に身体を洗う時はバスタオルを脱がざるを得ない。
ううう……やっぱり他の人が居る所で完全な真っ裸は恥ずかしい。
ともあれ、まず桶にお湯を入れ、タオルを濡らし、膝に置いてボディーソープを付けて泡立てる。
念入りに身体を洗う。特に胸の谷間は汗が流れ落ちやすいので注意する。
女の子になったばかりの頃は力を入れすぎて肌が赤くなったりしたこともあったけど、今はもうそういうことはなくなった。
一通り入念に洗ったら一旦流す。夏場は汗がひどい時には二度洗いということもするが、今回はしない。
洗いすぎも肌に良くないからだ。
さっきまで話していた女子たちも一斉にシーンと静まり返り、洗うことに専念している。
左手で小タオルを桶につけて泡を取ると同時に右手でシャワーを操って身体を洗い流す。
桶が泡で大変なことになっているので、一旦捨ててシャワーを使って念入りに洗う。これは身体を拭く時に使うから重要だ。
次に髪の毛を洗う。シャワーでまずよく濯ぎ、シャンプーを頭にかける。鏡を見ながら上向きを意識する。
地肌をよく洗い、次に髪の下の部分を手入れする。
少し時間をかけて、シャンプーがよく通るように待つ。
シャワーで勢い良く洗い流す。
洗い流しつつリンスを手に取る。このあたりは少女漫画雑誌にたまたま載っていたことをそのまま実行する。
そして髪を徹底的に洗ったら、最後に風呂に入るためにヘアゴムで髪の毛を上にまとめて終了。もう一度バスタオルを身体に巻き付け小タオルを腕に乗せ、風呂桶にお湯を張って、椅子を洗えばもう大丈夫だ。
見てみるとクラスの半数以上が既に湯船に浸かっていた。
まずは一番大きな湯船に浸かってみる。そこは龍香ちゃんや桂子ちゃんを始め、何人かが入っていた。
恥ずかしいけど、バスタオルのまま入浴は不可なので素っ裸になってから湯船に入る。
「いやあ、優子さん女子力高いですねえー!」
裸の龍香ちゃんが話しかけてくる。
「え? どういうこと龍香ちゃん……」
「いやだってほら、リンスなんて使うんですよ。私だって彼氏とのデートのときくらいですよ!」
「そ、そうなんだ……」
でも女子力高いって言われるの嬉しい。やっぱり何だかんだでまだまだ女の子経験浅くて、このバスタオルで早速ボロが出てるし。
「身体も丁寧にちゃんと洗えてましたし、ヘアゴム持って髪を大事にしてる所もマルですよ!」
「あはは、実は女の子になって最初の日に風呂に入った時、髪を湯船につけて失敗しちゃって……」
確かパジャマの背中に濡れた髪がひっついちゃったんだ。
「おおう、やっぱり優子さんの今の女子力の間には、涙ぐましい努力があるんですね!」
「でも、バスタオル、まだうまく巻けないのよ」
「あはは、そのあたりは自分の体格とも相談ですよ。特に優子さんの場合は……」
「う……うん……」
やっぱり胸の話題になる。なんかこの胸、浮いてる気がする。
「それにしても、やっぱ優子ちゃんってスタイル抜群だよねえ……」
「え、えへへ……」
桂子ちゃんがあたしのスタイルを褒めてくれる。可愛らしい美人に褒めてもらえるのはやっぱり嬉しい。
「後、やっぱり私が確認した限りでは、優子ちゃん医学的にも正真正銘女の子だったよ!」
「ちょ、ちょっと桂子ちゃん!」
「まあほら、優子ちゃんどうやって洗ってるのかなあって気になっちゃって……」
隣だったけど見られてたのか……
「おーそうですか、まあ知ってましたけど」
「え? 何処で見てたのよ?」
「いやー、優子さんが脱いでいる時にちらっと。バスタオルで隠したつもりでしたけど、私の角度からでも、優子さん女の子だって確認しましたよ!」
「あうううううっっっ……」
龍香ちゃんに裸を見られていたと思うと、恥ずかしくって体が熱い、ゆでダコになりそう……
「まあそう恥ずかしがること無いじゃないわ、すぐ慣れるよ。それに今回はあくまで『最終確認』って言う意味もあったのよ。医療よ医療」
「じゃ、じゃあ桂子ちゃんそのバスタオル脱いでよ!」
湯船から立ち上がり、四隅で後ろ向きになりながらバスタオルを巻きつつフォローする桂子ちゃんに言う。
「え?」
あ、ちょっとまずかったかな……
「んー、ごめん、やっぱ恥ずかしいよね……」
よかった、納得してくれたみたいだ。
「あ! 私、露天風呂行ってくるね」
危険な香りのするガールズトークを避け、露天風呂へ。女子の何人かが付いてくる。他の子の裸は大分見慣れてきたけど、自分の裸を見られるのはまだ恥ずかしい。これも女の子になって「恥じらい」を意識してきた結果かな?
ともあれ、ドアを開け露天風呂へ。少し寒いのですぐに湯船に入る。
露天風呂からは満天の星空が見えた。もちろん屋根付きだから完全に見通しがいいわけじゃない、桂子ちゃんが、これが何処の星だとか言っている。
私もそれをなんとなく聞く。桂子ちゃんの説明は難しく、覚えたのは、夏の大三角形のうちデネブだけが規格外ということだ。
「残り10分よー」
脱衣場から永原先生の声が聞こえてくる。
「みんなー、そろそろ出る準備してー!」
「「「はーい!」」」
永原先生の言葉を受けて、私が指示を出すと、女子のみんなが勢い良く返事する。身体を拭いて脱衣所へ、かけ湯を浴びてる人もいる。
私は、ちょっとだけ打たせ湯のお世話になった。
今日は昼間マッサージ機を使わせてもらったけど、やっぱり肩こりは治ってない。
私は出口前で体を入念に拭く。他の子もそれぞれ自分のことに集中してくれていて、ちょっとだけ安心だ。まあ、もう多くのクラスメイトに見られちゃったし。
体をよく拭いたら脱衣所へ。少し寒い。
脱衣所ではバスタオルをまず乾かして、それから拭く。
身体を拭いたらまずパンツを穿く。バスタオルを胸に挟み、両手を使える状況にすれば大丈夫だ。
次にブラジャーを付ける。これは身体を前にかがめればOK。
次にパジャマを着る。ズボンを一気に穿き、次に上も穿く。ゆったりとしていて着心地がいい。地面に落ちたバスタオルを拾い、小タオルと着ていた服を持つ。頭のリボンも、寝る時はもちろん外すのでこのままだ。
「リボンしてない優子ちゃんって珍しいよねー」
「水泳の時以来かな?」
そんな話を尻目に、残り時間が少ないため、速やかに退出するように促す。
風呂場を出ると男子の姿は殆どない。時間を女子に合わせているので、男子には長いのだろう。
何人かはエレベーターを使い、何人かが階段を使う。
私たちは一階下の部屋なので階段を使用し、桂子ちゃん、虎姫ちゃんとともに部屋に入る。カードキーは桂子ちゃんが代表して持ってきてくれた。
「ふー疲れたねー」
「今日はもう休みたい……」
風呂あがり、やはり私達は3人共かなり疲れている。
「うんそうだね、明日は登山だし、まだ消灯時間じゃないけど、早めに寝る?」
「異議なし!」
「あたしも!」
「じゃあ消すね」
電気が消され、部屋の中央部にあったベッドにそれぞれ入る。
「おやすみー」
「おうおやすみー」
「おやすみなさい桂子ちゃん、虎姫ちゃん」
三人がそれぞれお休みの挨拶。まだ9時前で、就寝時間には早いけど、早く就寝して悪いなんてことはない。
疲れを取るため、会話はなくなり、それぞれが睡眠に専念していった。
今回風呂回です。この後の物語にも風呂回はちょくちょく挟まります