永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「……」
目が、覚めた。
頭が少しだけ、痛い。
あの後俺は、確か……そうだ、死ぬほど酷い目に遭って……
違うそうじゃない。大学から帰ってきて、突然謎の腹痛と吐血、それから射精で……うん、あれで確か死んだんだったよな?
ってことは、ここは三途の川か? 真っ暗でよく分からんが、どうやら今俺は布団を被せられて寝ているらしい。
辺りを見渡すと誰もいない。
よく見ると、あちこちに光があって、左腕に違和感を感じた。
輪郭だけでも、それが点滴であることが分かった。
死後の世界ではなさそうだ。
「生きてる……あれ?」
言葉が漏れて、大きな違和感を覚える。
俺の声、こんなに高かったっけ? いや、これじゃまるで女の子の声だ。
もしかしたら、病気の一環なのか?
生きていると言ってもとんでもないことをしでかした後だ、後遺症が残って、サッカーに影響しなければいいが……
意識がはっきりするにつれて、俺は胸に異常な違和感を感じた。
病室には誰もいない。
とにかく、電気をつけたいが、点滴のための針が邪魔だ。取れねえように気をつけねえと。
「……うー」
思わず唸ると、やっぱり、耳からは女の子の声にしか聞こえない。
いや、もしかしたら、俺の耳がいかれただけかもしれん。
お、これが電気つきそうだな。
カチッ
「うっ!」
眩しいのをこらえ、目をつぶり、更に布団を目に当てて少しずつ目を慣らしていく。
俺の予想通り、そこはどこかの病院の病室だった。
時計があり、時間は翌日の午前8時だった。
今日が土曜日で助かったぜ。
「随分長く寝てたみてえだな」
声に似つかわしくない、男口調が聞こえる。
いや、俺は男だから、ともかくそうしなきゃならんだろう。
視界を得た俺は、ベッドを立つ。
この部屋は狭い個室でベッドが部屋の面積の半分を占めている、入り口にかけての通路は狭く、おそらくあそこにトイレがあるんだろう。
「よし、トイレで考えよう」
相変わらず女の子の声なのはスルーし、点滴の器具を慎重に動かしつつ、ベッドを出る。
「あれ?」
着ている服が、無茶苦茶ぶかぶかになっていた。
起き上がって床に立つと、ズボンの裾が大きく床に付着していて、どうあがいても引き摺るしかなくなってしまっている。
要するにこれ、寝たまま体が縮んだってことだよな!? ったく、どうなってやがるんだ!?
いやそれだけじゃない、上の方もぶかぶかだし、更に言えば何だか上半身が重たい。
俺は転ばないように警戒しながら、トイレの部屋の前に到着する。
「ん?」
下を向いて、ようやく気付いた。
俺の胸が膨らんでいた。それもかなり。
そういえば、少し胸が擦れていたよな?
一体、どうなってやがる? 声が高くなったのといい、体が小さくなったのといい、まさか「女の子になっちゃったー」とか言わんでくれよ。
ガララララ……
扉を開けると洗面所になっていて、コップが置いてあった。
そして左に扉があって──
「だ、誰だお前!?」
部屋に入り、右側の鏡を見ると、見たこともない少女が驚いた様子でこちらを見つめていた。
少女は滅茶苦茶かわいい顔で、アイドルをやっても十分にやっていける素質がある。どこか儚さと幼さを感じさせる、美少女の中から選りすぐったような、そんなかわいい女の子だった。
水色の首までのショートカットの髪は、何でも似合いそうで、しかし着ている服はぶかぶかで、あまりにも似合いがない。
そして、やはりというかなんというか、胸の大きさはかなりのもので、いわゆる巨乳を売りにするグラビアアイドルやAV女優が、こういった大きさだよな?
外見はともかく、どこからどう見ても女の子としか言いようがない。
俺は、無意識のうちに逃避していた下半身に目を向ける。そして、意を決してパンツごと下ろしてみた。
「……うっ!」
思わず、後ずさりしてしまった。
よく見なくても、俺の人生の相棒は、跡形もなくいなくなっていた。
そしてこれは、つまり……やっぱり、女の子になってしまったらしい。下半身がこれでは、もう、何も言い訳ができない。
「よし」
俺は、興味本意で上の服も脱いでみた。
「うわっ!!!」
かわいい女の子が、俺の前で恥ずかしげもなくヌードをご開帳していた。
いや、これは紛れもなく俺自身で、俺は俺に興奮しているのか? 俺ってナルシストだったっけ? あーもうわけがわからないよ!
と、とにかく、服を着直してベッドに戻ろう。
ぶかぶかでも裸よりはマシだろ。な。
「どーすりゃいんだよ……」
もう一度横になり、俺はこれからが不安になった。
女の子になってしまう病気、そんなものにかかってしまうなんて……
まず、手原と大谷を始め、サッカーサークルの連中にどう話せばいいか?
大学をどうするか、家族に何と説明しようか、そして何よりこれから男としてこんな体でどうすりゃいいのか? いや女、だよなこれ?
ってことは、ともかく男に戻らないといけないってことか。
でもどうやって? というか、そもそも女が男になれるのか?
いやいや、男が女になったんだし、なれるだろ。
コンコン
「わっ!」
扉がノックされる音に、俺は驚く。
突然のことに、俺は一瞬飛び上がってしまった。
ガララララ
「悟!」
「兄貴……って、誰だお前!?」
入ってきたのは、両親と弟の徹、更に白衣を着たお医者さんだった。
「誰だお前とは失礼だな」
ぶっきらぼうな言葉は、この女の子の声に合っていなくて、なんかちぐはぐな不格好になってしまっている。
「いやいや、声を聞いたらますます『誰だお前』何だけど」
徹からのツッコミごもっとも。
「あー、無理もねえか」
女の子にふさわしくない乱暴な口調で話す。
いや、意識してやらねえと、俺が俺でなくなっちまいそうだぜ。
「それで先生、悟はどうなったんですか?」
お母さんが、心配そうな目で見てくる。
ともあれ、お医者さんの話を聞きたい。
「いわゆる、完全性転換症候群、通称TS病と呼ばれる病気です」
お医者さんから告げられた病名は、俺も名前しか知らない病気だった。
男が、女になってしまう病気というのは実在するらしい。
つまり、これは夢ではねえということだった。
「1つだけ聞きたい。俺はこのまま女なのか?」
「はい、そうなります。男には、戻れません」
お医者さんの申告は、容赦の無いものだった。
もう、男に戻ることはできないみたいだ。
「特殊な病気ですから、しばらくしたらTS病を専門にしているカウンセラーの方が見えられます。午後は健康診断になりますので、それまで食事抜きでゆっくり休んでてください。あ、点滴は取りますね」
「あ、ああ……」
お医者さんがそう言うと、俺に刺さっていた点滴の針をゆっくり抜き、絆創膏を張り付けて押さえるように言った後、部屋から出て、俺たち家族だけが取り残されてしまった。
「な、なあ兄貴」
「ん?」
徹は、困惑した表情で俺を見つめてきた。
男兄弟が、今は姉と弟みたいな絵面になってしまっている。
「これから、どうするつもりなんだ?」
「どうするも何も、まずは大学の勉強のこととか、手原や大谷たちのことを考えねえと」
幸い、大学は高校と違って「クラス」何て言うものはない。
だから、今の俺なら手原たちにとって、「塩津は行方不明」ということになるし……いや、音信不通はまずい。最寄りのバス停は彼らに知られているから、いくら仙台市は広いとは言え最悪家に突撃されるかもしれないし、正直にTS病になったって言うべきだろうか。
「でも、とにかくまずは悟がどうしたいか。だな」
お父さんがここで初めて口を開く。
「うむ、とにかく寝てても仕方ねえ。少し歩かねえと」
とにかく、サッカーをしてえしな。
「な、なあ兄貴」
俺がベッドから立ち上がると、徹が違和感を口にした。
俺も、ようやく違和感に気付いた。
目線が、やけに低い。
「あ、ああ……やっぱり小さくなったみてえだ」
徹と俺は、同じくらいの身長なのに、今の俺の目線は、徹の顎程度の高さになっている。
他の家族の身長の関係を見れば分かるように、俺の体が女になったことを考える間でもなく、俺が小さくなったことがよく分かる。
「悟、大丈夫なの?」
「分からん。だが、何とかしねえとな」
お医者さんからは、男に戻ることは出来無いと告げられたが、まだ諦めるには早い。
戻れないとすればこの体で生きていくしかねえ訳だけど、どこかに逃げ道があるはずだ。
とにかく、今はそれを信じるしかねえな。
「ああ」
俺たちは、少し重い雰囲気で過ごす。
誰も一言もしゃべらないけど、その方が、かえってよかったかもしれないな。