永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
サー
「ど、どうかな……?」
「まあかわいい!」
恐る恐る、スカート姿で試着室から出ると、おふくろが、感激していた。
「幸子さん、怖がらなくて大丈夫よ」
石山さんは落ち着いていた。
「でもこれ、なんかスースーして落ち着かない!」
試着室から出るために、ちょっと歩くだけでも、億劫になってしまう。
「大丈夫よ、あたしも最初はそんな感じだったから」
「で、でも……!」
確かにかわいいけど、無防備にすぎる。
穿いてみて分かったけど、やっぱり、まだスカートは俺には早いと思う。
「永原会長、今です!」
「ええ!」
「なっ!」
突如、女性2人に胸を揉まれ、下からスカートを覗かれた。
「石山さん、こっちは大丈夫みたい」
「こら塩津さん! なんでトランクスのままなの?」
うあー、下着チェックまでするのかよ!
「だ、だって、は、穿きたくない!」
スカートだけでもかなり抵抗感あるのに……!
「何言ってるの? あなたは女の子なんだから、ちゃんと女の子の体に合った下着を穿きなさい!」
うえーまた怒られちゃった!
石山さん、やっぱり怒ると怖い……
「や、やだって。ブラつけるだけでも大変だったのに!」
しかし、2人に半ば強引に試着室に押し戻されてしまう。
外に出ようとすると、また2人がかりで押し込まれてしまう。
それでも、何とか出ようと抵抗するが……
「女の子のパンツを穿くまでここから出してあげないわよ!」
「そんなー」
再び押し戻され、カーテンを閉められ、そして、出されたのは死刑宣告だった。
「ほーら、観念しなさい」
「はーい……」
永原さんも、味方はしてくれない。
俺は、素直に余呉さんの忠告を聞いておけばよかったと後悔し始めていた。
とはいえ、時間は戻せない。もうやるしかない。
破れかぶれ気味にトランクスを脱いでノーパン状態になり、俺は女物のパンツを手にとってその形態を見てみる。
男だったから、女の子の下着にはとても興味があった。
しかし、こうして手にとって近くで見てみると、トランクスと比べると布が遥かに少なくて防御力が無さそうだった。
意を決して、足にかけて穿いてみる。
そして、恐る恐る上まで引き上げてつけてみると、意に反してその穿き心地はよかった。
「おー」
圧倒的にトランクスより穿きやすかった。
女物のパンツは、女の子の体に併せて作られているのもあって、優しく肌にフィットしててとても落ち着くものだった。
──完全敗北を、認めざるを得なかった。
俺は、脱いだ男物の服を持ってもう一度試着室から出る。
今度は脱いだトランクスがあったので、同じようなことにはならなかったが、おふくろにこれらの服を没収されてしまい、しかも「買い取り」になった。
つまり、俺は強制的にこの服でいることになってしまった。
「幸子さん、穿いて見てどうだった?」
石山さんが、穿き心地を聞いてくる。
正直かなり恥ずかしいぞ。
「そ、その……」
「ふふっ、付け心地いいでしょ? ゆったりフィットしてて」
石山さんが笑っていた。
いかにも「勝った」と思ってる顔だ。
多分、石山さんもなりたての頃は、同じように思ったのだろう。
「う、うん……残念だけど、俺、負けたよ……」
「こーら! 俺はダメでしょ?」
また石山さんに訂正させられる。
うーやっぱり余呉さんより厳しい人だなあ。
「すみません……残念だけど、私の負けです……」
「うんうんOK」
「石山さん、暗示かけさせ忘れてるよ」
前言撤回、もっと厳しい人いた。この人、自分から見たら師匠の師匠だもんなあ……。
「あ、すいません会長」
「わ、私は女の子……私は女の子……」
声に出し、自分は女の子であると刷り込んでいく。
「さ、服選びを続けるわよ。保険があるからどーんとたくさん買うわよ!」
「「おー!」」
その後も、女物の服や、例えばジーパンのようにややラフな格好でも、自分のサイズに合ったものを買わされた。
靴もそうだし、とにかく俺を女にするために、ビシバシとされていくらしい。
おふくろはかなりハイになっていて、途中俺も「着せかえ人形じゃない」と怒ってしまった。
特におふくろが着せようとしているのは、明らかに「特殊用途」って感じで、男ウケが悪い服も多い上に、よしんば男ウケ全般は良くても、彼氏とかそういう人がいたら絶対して欲しくない格好ばかりだ。
特に「ヒョウ柄」とか絶対男ウケ悪くて、俺もまっぴらごめんだったわけだけど、こういう時だけ石山さんも永原さんも一丸となって支持してくれるのは有り難かった。
永原さんをそう言っていいのかはともかく、外見という意味ではおふくろ以外は完全に「若い女の子」になっている。
である上、TS病というのもあって、男の気持ちや男ウケが手に取るように分かる……永原さんもそうなんだから俺としては驚きだ。
だって戦国時代でしょ? その時代の男の価値観って絶対今と全然違うはずだしでも合ってるんだよなあ……いつの時代も案外男が女に求めるものって同じなのかも。
「あ、ごめん。あたしも買いたいものあるからちょっとだけ抜けていい?」
買い物中盤、石山さんが突如そんなことを言ってきた。
ちょっと離脱するらしい。
「ああ、うんどうぞ」
永原さんの承諾を得て、石山さんがちょっと抜ける。
その間にも買い物が進む、とにかく保険が降りるということで、恐ろしい量の服を買っていく。
まあ、性別が変わった以上、こうはなるんだろうなーTS病って珍しいから保険会社からすればこれだけ買われてもほとんど「無視できる」といっていいレベルなんだろう。
そして、夏冬の私服の後はパジャマ選びに入る。
これも、男のパジャマと違ってあまりにも数が多い。
スカートタイプのものもあって、明らかに「流石に寝る時はやばいだろ」と言いたい。
しかし、これについても永原さんの支持で、かなり多様性のあるパジャマが選ばれていく。
永原さんによれば、「女の子の人格が出来てからの好みを考えて」とのこと。
同じように男から女に変わっても、その女性としての人格は色々と変わるらしい。石山さんと永原さんも、確かに結構違うみたいだし。
最も、生粋の女の子に比べれば遥かに画一的でもあるらしいけど……まあそれは男を知っているせいだという。
「お待たせー!」
しばらくすると、石山さんが戻ってきた。
よく見なくても、石山さんのスカートの下の生足がストッキングになっていた。
「あ、石山さん、おかえりなさい。ストッキングにしたんだ?」
永原さんがそう話す。永原さんは生足のままだ。
「うん、寒くなってきたからね」
どうやら、石山さんは寒さを気にしてストッキングにしたらしい。
さすがに、東京の人にこの季節の夕方の仙台で生足はきついだろう。日が落ちてくれば寒さも厳しくなる。
一方で、永原さんは長野の出身だし昔はもっと寒かったことも考えればこのくらいの寒さはどうってこと無いんだろう。
服選びが終わったら靴選びで、抵抗感があり気になっていたロングスカートは、まだぎこちない。
「さ、こんなものかしら?」
買い物が一段落すると、おふくろが一声かける。
買った衣服の量は物凄く多く、台車が複数必要になっている。性別が変わることは、本当に凄まじい影響があるけど、この「衣服まるごと買い替え」は、その最たるものだと思う。
「うん、これだけあれば今のところは大丈夫よ」
そうはいっても、台車が4台もあるからかなり大きい。
「そうだね。じゃあみんなで手分けして運ぼうか?」
「「「はーい!」」」
永原さんの掛け声と共に、1人1台で台車を押し、車に服を押し込んでいく。
買い物が終わると、家に戻ることになった。
車に乗る時に、石山さんがスカートに注意するようにしつこく言ってきた。
とにかく、女としてはしたない言葉遣いも、スカートを気にしないふるまいも、怒られる対象らしい。
石山さんは俺よりも2歳若いけど、3桁年齢の余呉さんと比べても厳しい人という印象はぬぐえない。
間違いなく、あの時にひっぱたかれたのが印象に残っているせいだと思う。
「うー」
徹にこの格好を見せなきゃいけなくなることに気付いてから、俺も気が重くなる。
さすがに「男に戻る」ことは諦めざるを得ないとしても、だからといってすぐに「女として生きていかなきゃいけない」ともならない。
石山さんによれば、言葉遣いの矯正が一番簡単で、これはやろうと思えば男でも可能らしい。
カリキュラムではそうした言葉遣いの矯正と並行して、女性の感性や習慣を身に付けていくという。
車が家につき、俺は最後尾に並ぶ。
11月という寒い時期なのもだけど、とにかくスカートは心許ない。
「ただいまー!」
「お、お姉ちゃんスカートか!」
俺の姿を見て、徹がかなり驚愕した声を出す。
お姉ちゃんって呼ばれることについては、もうあれこれ言わないことにしよう。
というか、お姉ちゃん呼びを拒絶したなんて知ったら、また石山さんに怒られそうだし。
「あ、ああ……ちょっと、不本意だ」
でもやっぱり、まだぶっきらぼうになる。
「でも見違えたな。今の幸子、どこからどう見ても女の子だ」
父親まで力になっている。
「うんうん、お姉ちゃん結構かわいいじゃん!」
「か、かわっ……!」
徹が言った言葉に、俺は詰まる。
確かに、第三者目に見たらかわいいんだろうけど、いざ自分が言われるのは御免被りたい。
「あら、女の子にかわいいって、最高の褒め言葉じゃない」
すると石山さん、全く反論できないド直球の正論に、更に窮地に追い込まれる。
「むむむ……」
石山さんに、「女の子なんだからかわいいって言われたら喜びなさい」って言われそうだ。
「ま、ともかくこれを部屋に運んでくれるかな?」
石山さんが、男衆にそう呼びかける。俺も、運ぶのを手伝う。
「おう!」
石山さんの言葉に男衆が気合を入れる。
服を持ちながら、家の階段を登り、俺の部屋に入ったら、今日買った服を、空になっている箪笥に服を入れる。
……ん? 空に? 空に???
おいおい、待て、待て待て待て! 何で箪笥が空になってるんだ!?
「な、なあ……さっきまでの服はどこに行ったんだ?」
ま、まさか買い物中に……
「ふふっ、あれはもう、服としては使わないわよ」
石山さんが「当然」と言った感じで話す。
「なっ……勝手に捨てないでよ!」
どうやら、男たちが買い物中にしていたらしい。
「『服としては』、よ。もう女の子なんだから男物の服なんていらないのよ。これからは早く女の子になるためにも、常日頃から女の子の服を着なさい。いいね!?」
石山さんがまた威圧感を出す。
女の子らしくないと叱られる時、どうしても、ひっぱたかれた時のことを思い出す。
「は、はい……」
ともあれ、この箪笥は、女の子の服しかない。
明日以降も、強制的に女物になるということだ。
「じゃあ私たちはそろそろ出ます。もし何かありましたら支給のテレビ電話でお呼びください。ただし各々の都合もありますから、出られない場合は別の人が代理になります」
ともあれ、服を仕舞い終わったら、石山さんたちが今日のところは引き上げてくれるというので、俺たちは見届けることにした。
石山さんたちが、家を後にする。
ようやく肩の荷が下りたと思いつつ、こうして、俺の人生で最も長い時間が、終わった。