永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
翻って、今日は優子さんと会う日になった。
俺はいつもより早い目覚ましで起きる。
パジャマと下着を脱ぐと、全裸の自分が鏡に写る。
「やっぱかわいいよなあ……」
冷静に見ると、やはり「物凄いかわいい」というのがわかる。
ここ最近、余呉さんに永原さん、石山さんといった「かわいい女の子」と立て続けに遭遇してきたから麻痺しているけど、俺だって彼女たちに負けねえくらいの容姿は持っているんだった。
以前より打ち合わせた通り、俺はシンプルな色の服に、ジーパンといった極めてラフな格好に着替え、バッグと財布、スマホを持って、昨日作り置きしておいた朝食を食べると、家を出て鍵を閉める。
「うー、寒い……」
外に出ると、寒気が襲いかかってきた。
女の体になってからというもの、とにかく寒いのに弱くなった。
もちろん、「冷え性」というものがあることは知っていたけど、それにしたって中々ひどい。
「真冬とかどうすんだよ……」
駅につくまで、俺はそんなことを考えていた。
自分としてはこれから厳しくなる冬で、寒さに弱い女性の体でどうすればいいか考えなければならない。
仙台行きの早朝の電車に乗り、俺は仙台駅に到着する。たった1駅だから在来線はすぐだ。
そして、広い構内に対して朝早くで人もまばらな状況を見ながら、人生でも殆ど足を踏み入れたことのない「新幹線ホーム」へと向かう。
新幹線は無論のこと、朝早くの仙台駅もほぼ体験がなかった。
在来線のホームとはやや離れたところにあり、ホームに停まっている「東京行き」の「はやぶさ」を目指して改札口からエスカレーターを登る。
この列車は当駅始発で、永原さんによれば、「大宮駅」で「湘南新宿ライン」に乗り換え、新宿駅で降りて「A」出口へ向かえばいい。
迷いやすいので、地図をよく見て冷静に行動する必要があるという。地図の画像は予め送ってくれていたとはいえ、このあたりは注意だ。
そして、その出口から見てすぐのビルの1階で、石山さんが待っていてくれる。
ピンポーン
「14番線の電車は、6時36分発、はやぶさ2号、東京行きです」
駅の機械的なアナウンスが、俺を高揚感に包み込む。
大学生とはいえ、この新幹線のホームに1人でいると、「冒険」のような気分になる。
そして見える黄緑色の近未来的なデザインも、これからの俺を暗示しているような、そんな気もした。
「ふう」
空いた新幹線車内に入り、チケットを見て慎重に座席を選ぶ。
号車番号、そして数字の番号にアルファベットで座席の位置を特定できる。
「よし、ここだな」
この緑色タイプの電車に乗り、はるばる東京に行く。窓側の、普通車指定席だった。
その期待感は言い表せないものだった。
休日とはいえ、朝早い列車ともあって、発車時刻直前でも車内は空いていた。
正面の扉の上にある電光掲示板では、列車名と行き先、停車駅の案内と、号車名、そして指定席の文字も見えた。
静かな空間に、少しずつお客さんも入るが、おじさんおばさんが多く、俺のような若い女性はいないみたいだ。
「ご案内いたします。この電車は、はやぶさ号東京行きです、途中の止まります駅は、大宮、終点東京です。この電車は──」
案内の音声と共に、高揚感が増してくる。行ったことのない街に行くドキドキもある。
石山さんのいる東京という街で、様々に観光したりして、俺に自覚を促してくれるという。
女性としての自覚が持ててなければ、結局は自殺に突き進むと諭されたのだった。
「東京行き間もなく発車いたします」
電車が発車するというアナウンスと共に、かすかに「ドアが閉まります」という女性のアナウンスがしたかと思えば、「うぃーん」というわずかな音と、注意しないと分からないほどに小さな衝撃で、窓の外の景色が動き出した。
初めて向かう東京への高揚感を感じていると、新幹線ではよく聞くと言われるメロディが流れた。
「――この電車は、東北新幹線、はやぶさ号、東京行きです。全車、指定席で、自由席は、ございません。次は、大宮に止まります。車内は、デッキ、トイレを含めまして、全て、禁煙です。お客様にお願いいたします。携帯電話をご使用の際は、デッキをご利用下さい。Ladys and gentleman――」
非日常の空間が流れていた。
俺が住む仙台の町が、どんどんと遠ざかっていく。
景色がどんどん、早く流れていく。それと同時に、轟音が車内に響いていく。
俺は、隣の大宮駅で乗り換えることになる。
景色の流れは早い。速度計のアプリでも、320キロを指すらしいけど、それについては分からない。
「ふう」
大宮駅から乗り換えた在来線は、いわゆる「朝ラッシュ」というものに、平日ならぶち当たることになる。
もちろん今日は休日なので、そういったことはないと思いたい。いや、東京ならあり得るかもしれないかな?
ともあれ、始発の仙台を過ぎて案内放送が終わり、正面の電光掲示板を見てみると、JRの関連会社と思われる観光案内やPR、そして天気予報と新聞社提供のニュースが流れ始めた。
新幹線に乗るのも久しぶりでよく覚えてなかったが、どうやら同じ表示を2回繰り返すらしい。
様々なニュースを見ながら、俺は外の田園風景を見る。
仙台を新幹線で出ると、あっという間にこうした風景になるが、東京はそうもいかないらしい。
東京というのは、たとえ新幹線であっても、まるでどこまでも都市が続いているような、そんな錯覚さえ覚えるのだという。
車掌さんが巡回し、また駅を高速で通過すると、正面の電光掲示板には、「ただいま白石蔵王駅付近を通過中です」という文字が見える。
小学校の社会科で習ったように、|仙台から東京に行くには、宮城県から福島県に入り、そこから栃木県と埼玉県を経て東京都に至ることになる$実際には茨城県もかすめる$。
ゴーという音は激しく、また、窓が風圧に叩きつけられている音もする。空気抵抗だって凄そうだ。
この車両はかなりの高速のため、やはり最高速度付近はパワーを使うのかもしれないな。
車内は、朝の早い時間帯で空いているのもあって、走る時に生じる音以外はとても静かで快適だった。
俺は外の景色を見たり、電光掲示板のニュースを見たりして悠々と過ごす。
電光掲示板のニュースが一巡した時には、やや遅めのスピードで「宇都宮駅」を通過していた。
ここからは、首都圏に入ったのか、急速に都会感が溢れ始めていた。
「すげえ……」
新幹線が進むごとに、どんどんと周囲も都市化していく。
やがてスピードが更に落ちてきた。
おっとそうだ、トイレを先に済ませた方がいいな。
新幹線のトイレ個室はもちろん男女共用だから、心置きなく使うことができる。
個室の中は在来線のそれと比べても広く、使いやすい。
そう言えば、東京とかだと電車の中にトイレがないこともしばしばらしいから、気をつけておいたほうがいいな。
特に女の体は、どうもそのあたりが弱いらしいから、飲み物には特に注意しないといけなさそうだ。
そんなことを考えながら、トイレを済ます。
流すボタンを押し、「プシュッ」という、列車のトイレ独特の音がする。ここら辺は在来線ともあまり大差ないようだ。
「間もなく、大宮です。お出口は──」
席についてしばらくすると、放送が流れてきた。
おっと、降りなきゃ行けねえな。特急券は大宮までなので、小さな鞄を持って再び座席を立つ。
車掌さんの乗り換え案内を聞きながら、俺は新幹線を降りる準備をする。
「Ladys and gentleman, we will soon make a brief stop at Omiya.」
降りる準備といっても、やることは小さな鞄を持ってドアの前に立つだけだった。
「ふう」
大宮の時点で、既にとてつもない大都会に目がくらくらする。
ドアが開いたと同時に俺は新幹線を降り、ホームを歩く。
「えっと、乗り換えは……」
事前の話では、乗り換えの改札と、下車する改札で別なのでよく注意しなきゃいけない。
といっても、この乗車券は東京都区内までの乗車券になっていて、大宮駅でなら途中下車が可能なので、一応間違えてもリカバリーは効くと永原さんに言われた。
永原さんは、鉄道にも詳しいらしい。
「よしっ」
ともあれ、切符を取り出して改札に通す。
そして俺は、かねての予想通り、「湘南新宿ライン」を目指す。
「えっと、ここが──」
意外とホームの位置は分かりやすく、次の列車のホーム時間を見ることが出来た。
それにしても、列車の本数がものすごく多く(いや仙台だって昼間でもそれ相応の本数はあるが)、しかも編成両数が15両とか10両のようなにわかに信じがたい数字が並んでいた。
仙台の場合、JRは大体は2両編成が1単位で、長くてもせいぜい6両だし、もちろん本数だってこんなに多くないし、路線図も複雑ではない。駅の間の距離だってもっと長い。
「それでいて朝は満員なんだろ……」
そう考えると、この東京という都市は、狂っているとしか思えなかった。
「間もなく──」
やがて、湘南新宿ラインの電車が到着するというアナウンスが流れ、俺は見よう見まねで並んでいる人の後ろに並び、電車の方を見る。
まるで蛇のようなどこまでも続いていきそうな、そんな気さえする長い電車の中に入る。
並んだのは電車の中央付近の所で、隣は2階建て車両だった。
どうもこれは、「グリーン車」と呼ばれるもので、特別料金が必要になるから注意しろというお達しがあった。
「ふう」
車内は意外と空いていて、俺は余裕で着席にありつくことが出来た。
電車は発車メロディと共にすぐに発車した。
車掌さんによれば、これから先は浦和、赤羽、池袋、新宿、渋谷、恵比寿、大崎、西大井、武蔵小杉、新川崎、横浜の順に停まっていくらしい。
車窓を見ると、線路の本数がとても多い。
しかも、一番奥の線路を見ていると、そこにだけホームがある駅があることに気付いた。
そして、よく見ると、青い電車がそこに止まっていた。もちろん自分たちの乗ってる列車にはホームそのものがないため、あっさりと通過してしまう。
要するに、この電車は「普通」と言っているが、実質的には「快速」の役目を果たしていることが分かる。
やがて、電車が高架に上がると、「浦和」に到着、そこから更に数駅を通過すると、途中何度か青い電車を追い抜きつつ「赤羽」へ、更に曲がりくねってゆっくりした速度で、今度は並行する電車が緑色に変わりつつ、「池袋」へ到着。ここまでは通過駅も結構あって、意外と次の駅までは長かった。
しかし、「池袋」からはわずかな時間で目的地の「新宿」へとたどり着いた。
降りる人も乗る人もホームにいる人も物凄い量で、その凄まじさに圧倒されてしまう。
「何なんだここは……」
俺はここで、圧倒的な孤独感を感じた。
新幹線の中でも、どこかそんな感じもしたが、「遠い場所に行くんだ」という高揚感もあった。
だがここは凄まじい。
田舎の人間は都会に憧れ、都会に行くと開放的になって節操が無くなるというイメージがあったが、俺は「仙台」という「東北では一番の都会」で育ったため、その仙台をも遥かに凌駕する「東京」に、ひたすら圧倒されるばかりだった。
この新宿駅を見て、俺の中で、「仙台に住み続けよう」という誓いができた。
幸い、|13歳の時に大きな地震$東日本大震災$があってからというもの、周囲の不幸でのし上がったという状況とは言え、仙台の景気は物凄いよくなったし、ここ最近でも、人手不足は続いている。
わざわざ東京に出る必要も、無いだろう。
新宿駅の中は、至るところで人で溢れていた。仙台駅の比ではない。
さっきの池袋もとんでもないところだったが、新宿はそれ以上だった。
俺は、スマホのメモを便りに、恐る恐る改札を出て、道なりに進む。
「えっと、こっちだから……」
口の悪い人は「新宿ダンジョン」何て言う言い方をするため、俺はあまりにも身構えすぎていた。
確かに、迷宮のように入り汲んでいるのは確かだが、そこかしこに案内図があるので、冷静に分析をしていけば、何度か後戻りはしたものの、「どうしようもなく迷子になる」などということは無かった。
永原さんが、出口までの道のりを、かなり詳細に案内してくれた図を書いてくれたことも大きい。
「よしここだな」
出口案内と、石山さんの指定した出口が会っていることを確認して、俺はエスカレーターに足をのせる。
そして、俺は地上に出た。
「すー、ふー」
意外なことに、仙台とは空気は対して変わらなかった。
もちろん、気温としては東京の方が遥かに暖かいが、空気の済み具合は同じくらい。
ともあれ、俺は正面に見える、頂上が見えないほどの高いビルに入っていった。
ビルの中は、休日ともあって人がまばらで、たまにサラリーマンが歩いている。
彼らの視線は、分かりやすいほどに俺の胸へと集中していた。新宿駅よりも人数が少ない分、余計に視線は目立った。
うー、胸の大きい女子の宿命だよなあこれ……
広いビルのロビーを一通り見渡すと、目的の人はすぐに見つかった。
緑色のワンピースを着て、黒い髪に白いリボンの女の子が、俺を見つめていた。