永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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都会の2人旅 幸子サイド 前編

「すみません、待ちましたか?」

 

「あらおはよう」

 

 待ったかどうかの言葉には返答していない。多分気にしていないのだろう。

 そして、目の前にいる石山さんはやっぱり、眩しいようにかわいらしい女の子で、半年前まで男とは、とても思えなかった。

 

「もう、そんな服で来たの? まあいいけど」

 

 石山さんはやや呆れ気味に言う。

 

「いやその……だって……」

 

 スカートとか、やっぱ怖い。

 

「幸子さん、今日は女の子の生活を知るために、あたしの特別講習ということになっているからちゃんとするのよ」

 

 石山さんから、服装を注意されてお説教を受ける。

 うー、やっぱりかあ……

 

「お、おう……」

 

「あと、まだ来ていないという報告ですけれど、そろそろ女の子の日も来ますからね」

 

「うげっ……」

 

 石山さんから、生理の話が飛んできた。

 うーやっぱり来るのか、今までの知らないことの中でも、最も男女の違いを見せつけられる出来事とも言える。

 すごく気分悪くなって、痛いんだろうなあ……想像したくもない。

 

「生理用品の使い方は習った? 習わないとダメよ」

 

「いや、習っていない」

 

 正直にここは言わないと、後で大変なことになりそうだ。

 

「はぁ……そういうことだろうと思ったわ。あなたのお母さんに連絡して、大至急講習するように言っておきます」

 

「……」

 

 俺は思わず、苦笑いをしてしまう。

 正直、考えたくもない。だからもう、笑ってごまかすしか無い。

 

「幸子さん、これは笑い事じゃないわよ。これを超えられないで自殺する患者も多いのよ」

 

 優子さんは相変わらず、「自殺するぞ」と脅してくる。

 

「う、うん……」

 

 曖昧に、返答するしか無い。

 とにかく情報量が違いすぎる。

 

「幸子さん? 死にたくないなら、あたしたちの言うことを、お願いだから聞いてね」

 

「は、はい……」

 

 とにかく、ここは表面的にでも従っておかないといけないだろう。

 

「それから、今日は大目に見るけど、服装も、飾りっ気も何もなしはダメよ」

 

「だ、だって……」

 

 うぐっ、また話を蒸し返された。よっぽど単色服とジーパン、装飾品一切なしのこのスタイルが気に入らないらしい。

 でも遠く東京までスカートで行く何て無理だよお……

 

「いい? 女の子はオシャレして、見られることで可愛くなっていくのよ」

 

 石山さんは、あくまで「女の子らしく」のスタンスを崩さない。

 

「でも……まだわからない」

 

 オシャレコーディネート、そんなのは男時代からあまり興味がないから分からないというのが本音。

 

「……じゃあ、あたしの服はどう?」

 

 そう言うと、石山さんはワンピースのスカートの裾を摘まんで広げるポーズをしてきた。

 その動作は、「男の知識」がなくても、「世界一かわいいんじゃないか?」と思えるくらいかわいらしくて――

 

「そ、その……似合ってると思うぞ!」

 

「こら! 言葉遣いに注意してって言ったでしょ?」

 

 素直な感想が漏れたと同時に、石山さんからお叱りの声が上がる。

 気を抜くとすぐにダメになる。

 

「に、似合ってるわよ」

 

 すかさず、訂正する。

 

「よろしい。さ、言葉遣いを間違えたら『私は女の子』でしょ?」

 

 あうっ、とにかく暗示かけなきゃ。

 私は女の子……私は女の子……

 

「さ、ともあれ、大都会は初めて?」

 

 石山さんが話題を変えてくれた。

 

「うん、すごい街並みだ。俺の……」

 

「ギロッ!」

 

 石山さんの眼光が突き刺さる。

 うえーやっちゃったー。

 

「わ、私の街だって、あの地方じゃ一番大きいのに、やっぱり格が違う……わ」

 

 慌てて訂正する。

 

「ふふっ、じゃあ行きましょうか」

 

 ふー、どうやら、見逃してくれたみたいだ。あぶねー

 

「さ、幸子さん。まずはあたしたちの協会の本部に行きますか?」

 

「え? じゃ、じゃあ折角だから」

 

 ともあれ、協会の本部というのには興味がある。

 

「うん分かった。ついてきて?」

 

「はい」

 

 石山さんはまず、エレベータのボタンを押して呼び出すと、先に俺を中へ入れてくれる。

 そして「49」のボタンが押された。

 すると恐ろしい勢いで階数の数字が上がっていく。

 

「うわー速いよこれ」

 

「でしょ?」

 

 49階という上層部まで行くわけだから、速度が必要なのは分かるけど。

 

「49階です。 49th floor.」

 

「49階のさらに一室なんだ」

 

 どうやら、階の全てを借りているわけではないらしい。

 

「意外に小さいな」

 

「うん、珍しい病気だもんね」

 

 そして、とある扉の前に到着した。

 どうやら、鍵がかかっているらしい。右側のカードキーだろうか?

 

「ちょっと待っててね」

 

 石山さんがポーチの中からカードを出してきた。

 どうやらやっぱりこれがないと開かないらしい。

 

   ピピッ、ガチャッ

 

 タッチする音とともに鍵が開く音がする。

 

「はい、どうぞ」

 

「お、お邪魔します」

 

 少し緊張しつつも、石山さんについていく。

 しかし中は、そう凝った感じではない。

 オフィスがどんな感じかはわからないけど、あんまり大差がなさそうだ。

 

「意外と普通ですね」

 

 協会の中で女の子を強調するのだから、もっとそういう感じかと思ったんだけど。

 

「オフィスビルのテナントだからね」

 

 石山さんについていき、扉をくぐって部屋を変える。

 すると、さっきよりも大きな部屋に、また若い「少女」としか言えない外見の女性が何人か見えた。

 彼女たちは、書類の整理をしているようだった。

 

「あら、石山さんいらっしゃい……この子は?」

 

 そのうちの1人がこちらへと話しかけてくれた。

 

「うん、この人が塩津幸子さんです」

 

「あら、はじめまして。私は比良道子です。僭越ながら、ここで副会長をさせていただいております」

 

 どうやら、またお偉いさんの登場みたいだ。

副会長ということは、見た目にそぐわず相当な年齢なのだろう。

 

「えっと……おっ……私が塩津幸子です」

 

 危ない危ない、石山さんに怒られちゃう。

 

「余呉さんと石山さんから話を聞いているわよ。成績不良何だって?」

 

 比良さんが、にっこりと笑いながら話す。

 俺は頭に血が上ってしまい……

 

「なっ……! なんで俺がそんなこと……しまった!」

 

「幸子さん。ちょっとこっちに向いてくれるかしら?」

 

 またしても言葉遣いを間違えたことに気付いたときには、背後からただならぬオーラが漂っているのに気付いた。

 

「は、はい……」

 

 向くのは怖い。でも、向かないことには進まない。

 俺は、ひっぱたかれる覚悟で恐る恐る体をこちらに回転させた。

 

「こら!!! そういう言葉遣いをしているから、あなたは成績不良なのよ!!!」

 

 石山さんに、大きな声で、思いっきり怒られた。

 予想していたこととはいえ、立て続けに3回目ともなるとやはりこうなっちゃうのは当たり前のことだった。

 

「そもそも女の子というのはですね……かわいくておしとやかで優しくて穏やかで清楚で清潔できれいにおしゃれで、清く正しく美しく、家事をこなせてきちんと一歩引いて男性を立てて、恥じらいの心を持ち、柔らかくて気品があって優しくて、包容力で包み込んで人を癒して、日々女性を磨きながら、やがて素敵な旦那様を見つけて家庭に入って、家庭に入ったら今度は慈しみの心を持って旦那様に寄り添って男を立ててあげて、そして子供たちにも母性を持って接するものよ。そういう女の子になれれば、あなたは真に『幸子』になれるのよ」

 

 石山さんは人差し指を口の前に立ててお説教の姿勢を見せる。

 石山さんが言う「女の子」は、確かに「女の子」としての目標だと思う。

 

「でも幸子さん、今のあなたのその服装、身だしなみ、振る舞い、歩き方、言葉遣い、態度、どれを取っても下品だわ。女の子として失格よ。そんな乱暴でぶっきらぼうな態度とがさつな言動で、本当に女の子として大成できると思ってるの? 今のあなたみたいに、容姿だけで女子力ゼロの下品な女の子が、男性から好かれると思ってるの? 生まれつきの女の子ならともかく、あたしたちTS病の女の子は女の子らしい女の子を徹底的に目指すくらいでちょうどいいのよ!? ねえ幸子さん、あなた女の子としてちゃんと自覚あるのかしら? ちゃんと女の子らしく生まれ変わらなきゃいけないって覚悟があるの!? いつまでもうじうじしてちゃダメでしょ!!!」

 

 俺は、弾幕のように浴びせられる正論に、何も言い返すことができなかった。

 

「あら、石山さんってスパルタなのね。報告書にもビンタしたってあるし」

 

 いたたまれなくなった様子で、比良さんが助け船を出してくれた。

 ようやく、石山さんからの矢のようなお説教が収まってくれた。

 

「あはは、あの時の幸子さんは本当に取りつく島もなかったから仕方なくね」

 

「そう……」

 

 石山さんも、やはり上司には強くは出られない。

 うー、それにしても、さっきのお説教の内容から言っても、やっぱり後天的な女性だからこそ、「女性らしさ」は大事になってくるのかな?

 そうじゃなきゃここまでいかにもな「女の子らしくしなさい」何てお説教されないと思うし。

 

「幸子さん、次からはもう、私たちにはっきり聞こえるように声に出して暗示しなさい。心がこもってないと、いつまでも女の子になれないわよ」

 

 ついに石山さんから、「声に出しなさい」と言われてしまった。

 

「わ、私は女の子……私は女の子……」

 

「うんいいわよ。言葉遣いを間違えたら、『女の子の言葉を使わなければいけない』とか、『女の子なんだから女の子らしくならなきゃいけない』というのも効果あるわよ」

 

 うー、暗示が増えちゃった。

 

「は、はい……女の子は女の子の言葉を使わなければいけない……女の子は女の子の言葉を使わなければいけない……」

 

 言われるがままに、声に出す。うー、結構恥ずかしい……

 

「ふふっ、かわいいわね」

 

「うんうん」

 

 比良さんの「かわいい」という言葉に石山さんがうなずいている。2人とも笑顔だ。

 うー、顔が赤くなりそうだよ……

 にしてもこれ、恥ずかしいだけで意味あるのかなあ?

 何か騙されてる気がする・・

 

「それで、会というのは?」

 

 ともあれ、せっかく本部まで来たんだし、協会についてもう一度おさらいしなきゃいけないよなあ・・こと言わない

 

「あたしたちTS病の患者で作る団体よ」

 

「ええ、それは分かってるけど、具体的な会の主張とかは?」

 

「あたしたち日本性転換症候群協会はね、大きな主張は一個だけよ」

 

 どうやら、そこまで大きなことを主張するつもりはないらしい。

 

「うん、それって?」

 

「あたしたちの扱いについてよ。知らない?」

 

「う、うん……」

 

 具体的には、まだよく分からない。

 協会の活動というからには、社会に理解を広めるってことだろうけど。

 

「じゃああてずっぽうでいいわ。どんな主張をしてると思う?」

 

「そ、その……やっぱり元男として理解してほしいとか?」

 

 というか、特定の属性で団体組むってそれくらいだろうし。

 

「ふふっ、残念ながら不正解よ。今のは模範解答ならぬ模範誤答よ」

 

 石山さんはいたずらっぽい笑みで優しく語りかける。

 

「え!? じゃあ模範解答は!?」

 

 どうやら、一番都合のいい誤答を俺がしたらしい。

 比良さんもニヤニヤしている。

 うー、何か変な感じがする。

 

「あたしたちを、一人の女性として扱ってほしいということよ」

 

「え!? ど、どうしてそんな……」

 

「幸子さん、それはね、さっきも言ったように、私達TS病患者は、女の子として生きていかないと、あたしたちは立場を失って最終的には精神的に崩壊しちゃうのよ。幸子さんみたいな生き方をする人を応援していた時代もあったわ。でも、全くうまく行かなかった。今でもうまくいった例はないのだ。だからまず、女の子として生きていく以外の道はないことを分かってもらうために、経緯を知っている人も含めて、周囲の人が意識改革して、それと並行して本人も変わっていく。そうすることで、女性としての人生を歩み続けるの。そうすればあたしたちは、初めて長生きのスタートラインに立てるのよ」

 

 石山さんが、また基本から丁寧に教えてくれる。

 このあたりは、本当によく復習しておいたほうが良さそうだ。

 

「それでね、幸子さん、あなたのことを、何も知らない人が見たら、あなたのことを男だなんて思うかしら?」

 

 TS病患者は、女性として生きていく以外には自殺の道しか残されていない。

 その時に周囲の理解として必要なのは、第一印象の見た目通りの扱いなのだという。

 この辺りが、他の性的少数者と一線を画する所だと俺は思った。

 

「それは、思わないと思う」

 

 外見だけ見て、俺を男なんて思う人がいたら、それはそれで病気だと思う。

 

「でしょ? 今のあなたは女の子そのものよ。だからね、もしTS病だと知ったとしても、第一印象そのままに、あたしたちを見て欲しいのよ」

 

「そ、そうなんですか……」

 

 とはいえ、その事実を知ったら第一印象そのまんまに見てもらうのも難しいと思うけど。

 

「幸子さん、ここの協会の普通会員は、TS病の女の子なら誰でもなれるわ。入会資格はさっきのあたしが述べた協会の方針に賛成できるか。のみよ」

 

「……まだ、おれ……わ、私にはよく分からない」

 

 正直な、感想だ。

 

「そうね、その様子じゃ、入会は時期尚早よね」

 

 比良さんは、「まだまだだね」と言わんばかりに頷きながら話していた。

 

「うん、あたしもそう思う。言葉遣いも服装も、入会までに矯正しないとね」

 

 比良さんの言葉に石山さんも賛成した。

 

「は、はい……」

 

 俺もまた、同意見だった。

 

「じゃあ、今日はもう失礼しますね」

 

「お疲れ様でしたー」

 

 石山さんと比良さんが、話をまとめる。

 比良さんも、別の仕事があるらしい。俺がいても迷惑だろう。

 

「失礼します」

 

 最後に俺が頭を下げて挨拶し、部屋を出る。

 

 

「さ、幸子さん、東京に行くわよ」

 

 俺たちはビルの屋内を進みつつ、エレベーターに戻ってきた。

 比良さんも恐らく、相当な年齢なことは想像が出来た。

 永原さんが499歳で、永原さんの次に年上の人が半分も生きていないということは250にはなっていない。

 とはいえ、副会長と言っていたし、江戸時代の生まれで間違いないだろう。

 またエレベーターがものすごい勢いで下っていき、気付いたら地上にいた。

 

 

「次はどこに行くの?」

 

 エレベーターを降り、俺は聞いてみる。

 

「近くの漫画喫茶よ」

 

「え!? それくらいうちの町にも――」

 

 正直、東京まで来てそんな所行ってもという感じではある。

 

「ふふっ、ただの漫画喫茶じゃないわ」

 

「え!? それって……?」

 

 ただの漫画喫茶じゃないって? どういうことだろう?

 

「ふふっ、そこの女性専用スペースよ」

 

「じょ、女性専用……!?」

 

 石山さんから出てきた甘美な響きに、思わず俺は唾を飲み込んだ。

 確かに、女子トイレとか女湯とか、この世の中には女性専用の空間は数多い。

 でも、今まで俺はそれから逃げてきた。そう、「男として」そうした場所に興味があるからこそ、避けてきたのだ。

 だけど今回はもう、逃げられそうにないみたいだ。

 

「当たり前でしょ。あたしたち女の子なんだから。女の子が女性専用スペースを使って何がおかしいの?」

 

 石山さんの口調が、また少しだけ強くなった。

 

「うっ……た、確かにそうだけど……」

 

「じゃあ決まり。予約までしてあるんだから、行きましょう」

 

 石山さんに腕を掴まれ、ビルを出て、最寄りの女性専用スペースのある漫画喫茶の方向に進むことになった。

 うー、女性専用、男だったら絶対に知り得ない場所に、今から行く。

 女性専用……女性専用……うー、考えるだけで胸がどきどきしちゃうよお……

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