永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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都会の2人旅 幸子サイド 後編

 石山さんが少女漫画を数冊買い、鞄に入れると、このビルから出て、乙女ロード探検になった。

 

「石山さん、これって?」

 

 写真の中でタキシードを着た男性が数人、いかにもなポーズを決めていた。

 

「どうやら、執事喫茶みたいね。あたしもよく分からないし……彼氏もいるからやめておくわ」

 

「ああ、そうだな」

 

 石山さんは彼氏持ちだ。

 俺も元男だから分かるが、男は自分の女について他の男に敏感だ。

 そうした臭いをつけると、男は嫉妬に狂ってしまう危険性がある。

 もちろん、石山さんの彼氏さんがそこまで見抜くとは思えないものの、関係維持には、こうしたことは関わらないのが鉄則なのは俺にはよく分かった。

 

「幸子さん、あたしたちは女の子になると言っても『元男』という事実は消えないわ。うちの会長だってそうよ。だから、そのことはメリットはメリットとして、存分に活用するといいわよ」

 

「はい」

 

 石山さんが言うことはもっともだった。

 そう、男心がわかるというのは、女になってからの恋愛では、逆に強力なアドバンテージになる。

 

「さ、次に進むわ。次はいよいよ女湯よ」

 

「……はい」

 

 とうとう、この時がやって来たと俺は思った。

 女湯に入るのは、もちろん俺が石山さんと一緒に東京に来る大きな目的でもある。

 

「さ、地下鉄に進むわよ」

 

「はい」

 

 東京の地下鉄は複雑だ。

 仙台は南北線と、最近開業した東西線の2路線だけだし、後はJRは東北本線と利府支線と呼ばれる短い路線に、震災から復旧した石巻に向かう仙石線、山形までの連絡線として仙山線、後は仙台空港に鉄道が延びているくらいだ。

 バスは市内を縦横無尽に走ってはいるが、それは東京とて同じこと。

 それを鑑みれば、この東京という街は異様極まる。

 新宿駅も池袋駅はもちろんのこと、さっき新幹線を降りた大宮駅でさえ、仙台駅よりも人が多いとさえ思う。

 

 石山さんに導かれ、俺は再びICカードをタッチして地下鉄へと向かう。

 

「ふえー、東京の地下鉄って凄いな」

 

 見るからに圧倒される駅と路線の数、しかもそこにはJRが入っていないし、更に東京周辺の鉄道まで入れたら、把握している人がいるのかどうかさえ怪しいレベルになってくる。

 それだけ、東京の人の数は仙台とは比較にならない。ということだろう。

 

「あはは、この路線図覚えている人なんてほとんどいないわよ」

 

「お……私の地元は最近『東西線』が出来ただけで後は『南北線』があるだけよ」

 

 まだ、言葉遣いはぎこちない。

 

「随分とシンプルだよね」

 

 大都会というのは、どうにも好かないものだ。

 

「というか、首都圏が異常なだけでしょ?」

 

「あはは……」

 

 電車は順調に路線を走る、面白いのは、東京の地下鉄は中心にある「皇居」を避けている。

 恐らく、「通らない」というよりは「通れない」というのが正解に近い印象を受けた。

 

「へえ、幸子さんはそっちをよく使うんだ」

 

 俺たちは、バスや車といったのが多い。

 もちろん、地下鉄もよく使うけど。

 

「そそ、車は必須だしバスも便利だよ」

 

「次は、新橋、新橋です。乗り換えのご案内です――」

 

「幸子さん、乗り換えるよ」

 

 石山さんがそう指示し、俺は石山さんの後ろについていく。

 石山さんも石山さんで、駅構内の案内図を見ながら、進んでいく。

 うーむ、やはり東京レベルの複雑さは当地の人でも中々把握しきれないらしい。

 それでも、俺に比べれば遥かに人混みには慣れている感じだった。

 

 地下鉄を乗り換えて次の駅でまた乗り換えるという。

 今度は地下鉄ではなく、「新交通システムゆりかもめ」という路線に乗るらしい。

 

「こっちね」

 

 駅から少し外れた場所で、俺たちは「ゆりかもめ」の乗り場に到着する。

 駅は見た感じ無人駅で、これだけの人でごった返す東京には、あまり似合わない空気を感じた。

 

「石山さん、これってモノレール?」

 

 石山さんに質問してみると、石山さんも首を傾げていた。

 まあ、首都圏に住んでいるから東京住みってわけでもないだろうし。

 

「うーん、あたしもモノレールって生ではほとんど見たことないからわからないや」

 

 ホームへ進むと、タイミングが悪いことに、俺たちがホームに到着すると同時に、電車が発車していた。

 そして見てみると、車両の後方には誰もいなかった。

 つまり、俺達の地元や地方だけではなく、東京にもワンマン運転があるらしい。

 

「ねえ、さっきの車両、車掌が見えなかったけど、東京でもワンマンってあるの?」

 

 

 

「え!? ワンマンって何のこと?」

 

 石山さんは、意味が分からなかったらしい。

 無理もない。

 

「ああうん、車掌がいなくて運転士一人で運転する列車のことを言うんだよ」

 

「うーん、あったようななかったような……」

 

 まあ、石山さんはそもそもワンマンの意味も分からないわけだから、質問に答えようとしても意味ないっぽいけど。

 俺の住む仙台市では、東北本線の、特に小牛田方面を中心に、ワンマン運転の列車が運行されている。

 さっきの地下鉄といい、地方都市と東京にギャップを感じるなあ。

 まあ、お互い若いし、そんなもんかも知れねえな。

 

「うーん……まいっか」

 

 ともあれ、記載の電光掲示板の案内にある次の普通列車の豊洲行きを待つことにした。

 他の案内を見た感じでは、特に快速や特急といった列車は走ってなさそうだ。

 

 

 そうこう待っているうちに、次の列車が来た。

 やはり、東京は来るのが早すぎる。

 それだけ乗る人が多いということだ。

 

「「!?」」

 

 俺たちは、2人して驚かされた。

 何せワンマンどころか、運転士さえも乗ってない様子だったからだ。

 

「びっくりしたよ。まさか運転士さんまでいないなんて、東京はハイテクだね」

 

 いくら人件費がきついと言っても、運転士までいないような列車は地方にもない。

 

「あーいや、うん。多分ここだけだと思うよ」

 

 やって来た電車の、一番前を陣取ることが出来た。

 レールは特殊な形で、高架というよりは「浮いている」という感覚に近かった。

 

 やがて電車が発車するという自動アナウンスと共に、扉が閉まり、ひとりでに動き始めた。

 

「次は、汐留──」

 

 アナウンスも自動で、乗組員は0、駅も無人という徹底ぶりで、俺は緊急時が不安になる。

 本当に、大丈夫なのだろうか?

 

「でもここ、高所恐怖症には厳しいよね」

 

「うんうん」

 

 石山さんと離しながら、やがて幾つかの駅を通りすぎると、目の前に海と共に、巨大なカーブが見えてきた。

 

「ねえ石山さん、これって……?」

 

「何だろう……わあ!」

 

 恐らく、勾配を緩やかにするための工夫だろう。

 大きく270度回転するパノラマはとても優雅で、そしてそのまま橋の下へと差し掛かった。

 

「あ、ここに出るのね!」

 

「え!?」

 

 石山さんは、「あの場所」と言った感じ。最も俺にはよくわからない。

 

「レインボーブリッジだよ」

 

 その名前は、俺にも聞き覚えがある。

 確か――

 

「あー、昔何かで封鎖せよとかやってた!?」

 

「???」

 

 また、通じなかった。

 石山さんは俺よりも2歳年下な訳だけど、実際古いネタなので、2歳の差は大きいのかもしれない。

 

「あー知らないならいいよ。わ、私も子供のころだったし」

 

 何とか女の子っぽい言葉を維持しながら、慌ててごまかすことにした。

 

 そのまま、海の見える場所を通る。

 ここがお台場だというのは、いくら東京に疎い俺でも分かった。

 その後、数駅過ぎて、石山さんが降りると言ってきた。

 

「ふー着いたね」

 

「よし、行こうか」

 

 ここまで来てしまった以上どうしようもない。

 それに、俺が東京に来たのも、もっと俺に女として生きていく覚悟を求めていたからだった。

 

「あ、見て! あれじゃない?」

 

 少し先に、大きな建物が見える。

 多分あれが、温泉施設だろう。

 

「うん、じゃあ行こうか」

 

「ね、ねえ石山さん」

 

 うー、やっぱり近くになると、二の足を踏んじゃうよなあ……

 

「ん?」

 

「どうしても、風呂に入らなきゃダメ?」

 

 最後のあがきを試みてみる。

 

「当たり前でしょ。ここに来なかったら、何のためにあなたを東京まで呼んだのか分からないわよ」

 

 石山さんは、即答だった。

 

「でも、お、女湯なんて……!」

 

 女湯、裸の女性がそこかしこに跋扈している中に、これから放り込まれるのだ。

 不安だらけだ。

 

「もう! 女の子が女湯に入って何が悪いのよ!? それともその体で男湯に入るつもり!?」

 

 また石山さんに怒られてしまう。

 

「ああいやその……」

 

 実際の所、私の行動を不審に思われないか心配でもあって……

 

「そんなことしたら通報されるか、はたまた男たちに囲まれて、レイプされるわよ」

 

 しかし、この姿で男湯はもっとヤバいことくらいは分かる。

 

「うぐぐ……!」

 

 なので結局、こうやって言い負かされてしまうのだ。

 

「さ、入るわよ」

 

 石山さんはまた迫ってきた。

 

「はーい……」

 

 でもやっぱり、まだ決心がつかないのは事実だ。

 

 俺たちは、温泉施設の中に入っていった。

 

「そうだったわ、まさかとは思うけど男物の下着とか穿いてないわよね!?」

 

 石山さんが、いきなりぐいっと言ってきた。

 

「当たり前だろ! 全部隠されちゃったし、それに、穿き心地がいいし……」

 

 もちろん、そんなことしたらひっぱたかれると分かっているし、第一あの日以来男の下着は穿かなくなってしまった。

 

「うん、よろしい。じゃあ行こうか」

 

 下着については、結局負けを認めざるを得なかった。

 

「う、うん……」

 

 そして次に行うのが──

 

「いらっしゃいませー!」

 

「学生2枚」

 

 また、石山さんが払ってくれた。

 

「学生2枚ですね。料金はこちらになります。ご利用の際にはチケット裏面の利用規約をよくお読みください」

 

「まずはあちらの更衣室でお靴をお預けになって、お好きな館内着にお着替えください」

 

「はい」

 

 ついに、女子更衣室の目の前に来てしまった。

 というか、女湯の前にこの難関が、いや女湯よりはマシだけどうぐぐぐぐ。

 

「どうしたの? 入らないの?」

 

「え!? あ、うん……」

 

 石山さんに、腕を引っ張られる。

 うー、結局拒否権はない。

 

「さ、レンタルの浴衣よ」

 

 石山さんが押し付けてきたのは「当然でしょ?」と言わんばかりのピンクの、これでもかと女の子を強調した浴衣。

 

「うっ……ちょっと派手すぎない?」

 

「あたしもおしゃれするんだからつり合い取らないとだめよ」

 

 少しだけ抵抗したが、結局押しきられるがままだった。

 そしてその次の部屋が、女子更衣室になっている。

 

「っ!!」

 

 ごくりと唾を飲み込んだ。

 女子更衣室は、当然女子が服を脱ぐ。

 この温泉は若い女性にも人気で、女の子たちが下着姿になり、雑談しながら浴衣を着ていた。

 俺には、刺激があまりにも強すぎた。

 

「さ、幸子さん行くわよ」

 

 なるべく石山さんを見るようにしながら、指定されたロッカーの前に進む。

 

「えっと──」

 

「はいこれ」

 

 石山さんが白い布を出してきた。

 石山さん曰く「襦袢」という和風用の伝統的な下着になるという。

 どうやら「パンツやブラジャーは使えない」らしい。

 

「え!? ノーパンノーブラなのかよ!」

 

 正直、女物下着より厳しい条件だ。

 

「しーっ声が大きいわよ。ともかく、これに着替えること」

 

 石山さんが事も無げに言う。

 

「えー」

 

「着替えないと楽しめないわよ」

 

 だけど、周りの女子を見ると、そんなことはない。

 うー、刺激が強い。

 

「だって、周りはそんなの気にしてないよ」

 

「だめよ、はしたない人に合わせちゃいけません」

 

 石山さんがピシャリ。

 

「うー」

 

「いい? まずこうやって……!」

 

 洋服前提の下着を穿くと、体のラインが浮き出てみっともないと言う。

 石山さんは、細い紐を取り出してブラジャーを脱ぐ。

 

「い、石山さん、すげえ大きい……」

 

「ふふん、あたしの自慢なのよ。でも今は、和服だからこうやって封印するの。幸子さんはなくてもいいわよ」

 

 晒で胸を潰しながら、石山さんが説明してくれる。

 

「そ、そうなんだ……」

 

「ほら、幸子さんも着替えないと、余計に恥ずかしくなるわよ」

 

 

「うー、でも……女物穿いてるとこ見られたくない」

 

「何を言っているのよ。この後は素っ裸になって温泉入るのよ」

 

「うー」

 

「とにかく、着替えないといつまでも先に進めないわよ」

 

「は、はい……分かりました……」

 

 俺も意を決して、下着姿から服も全部脱ぎ、そこから襦袢と浴衣の順番に着ていく。

 

「ふう」

 

 石山さんは、少し厳しい目で俺を見ていた。

 そして案の定、「着替え方がはしたない」とお説教されてしまった。

 

「女子力は面倒くさいものよ。でも、だからと言ってだらけてたら、女の子としてドンドン堕落していくわよ。そんなことになったら、せっかくのかわいい顔が台無しになるわよ」

 

「女子力ねえ……女って大変だなあ……」

 

 正直、気が重くなる。

 

「幸子さん、決して他人事じゃないわよ! あなたも女子なんだから女子力高くないとダメでしょ……あたしもそこまで人の事言えないけどね」

 

 

「え!? 石山さんでも?」

 

 石山さんのいつもの説教の後、意外な言葉を口にして、俺も驚いてしまう。

 正直石山さんほど女子力高い女子っていないと思うけど。

 

「ええ、今は落ち着いたけど、特に8月の林間学校くらいまではよく『優子ちゃんは女子力低い』ってクラスの女子にお説教されたわ」

 

 まあ、生まれつきの女の子というわけではないから、そのあたりはまだまだなのだろうか?

 

「でもよ、もうすぐ12月だろ? やっぱそれだけ時間経てば違うんだろ?」

 

 とりあえず聞いてみる。

 

「ま、まあね……それから、暗示かけなさいとは言わないけど『だろ』じゃなくて『よね』を使うとより良いわよ」

 

 うー、こんなに目ざといのに……

 

「う、うん……まだまだ修行が足りないなあ……」

 

「お、幸子さん今すごくいいこと言ったわよ」

 

 石山さんが、急に強く反応してきた。

 

「え!? 何?」

 

 思わず聞き返す。

 

「今、『まだまだ修行が足りない』って言ったでしょ? 幸子さんの中で、女として生きることに気持ちが傾いている証拠よ」

 

 さりげなく、無意識に言った言葉に、石山さんは大きく反応していた。

 

「あ、うん……やっぱり、戻れないんじゃしょうがないかなって……」

 

 その場を、泥縄的に何とか取り繕う。

 

「ふふっ、どっちにしても、今のはとても大きな一歩よ。その気持ち、女の子として修行していくって気持ち、絶対忘れないでね」

 

 褒められたのは確かだ。

「あ、うん……分かった、わ」

 

 ともあれ、きちんと応答しておこう。

 

「ふふっ、じゃあ次の修行に行こうか?」

 

 石山さんが張り切っている。

 

「え!? 次の修行!?」

 

 もちろん女湯のことだ。

 うー、気が重い。

 

「うん、女湯に入るわよ!」

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