永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「さ、幸子さん、もう覚悟はいいわよね? 今のあなたが男湯に入ったら通報されるか集団で囲まれてレイプされるわよ」
石山さんは、俺を女湯に入れたくてうずうずしている。
うー、さっきの女子更衣室でさえ緊張したのに、女湯にまで入れられるのはやはり心臓に悪いぜ。
「えっとその前に、休憩」
「え?」
石山さんがちょっと面を食らったような表情になる。
「いやその……単純に疲れちゃって」
そう言うと、石山さんの緊張が一気にほぐれた。
安堵の表情を浮かべながら、洋風と和風の休憩所があったので、今回は和風を選択した。
「ふう、そうよね。確かに疲れたもの」
石山さんは、うまく足を工夫しながら伸ばして休む。
俺も、丈が長いとはいえ、はだけやすい浴衣なので、特に注意をする。
実際、今の感じだと、運が悪ければ中身まで見えてしまう恐れがある。
「ねえねえ、あの2人組かわいくない?」
「本当だよな。あ、でも黒髪の子は男慣れしてそう。青い髪の子は原石だよな」
原石、かあ。
今は女の子っぽい感じの浴衣を着ているからいいけど、さっきみたいな地味な格好じゃあ、この評価は得られねえよな。
男たちの品定めの会話を聞きながら、疲れをとりつつ、なおもさっきの陰口を思い出す。
俺のあの服は、センスがないのだと言う。
こうして浴衣で揃えれば、俺の評価も悪くはない。
永原さんや余呉さん、そして今日会った比良さんを見ても、TS病はかなりの美少女として生まれ変われることは確かだった。
それを思うと、ますますさっきの「センス無い」が胸に響く。
どうして、胸が響くのか、どうしてこんなに心臓が痛いのか、その理由は俺も分からなかった。
「幸子さん、そろそろ行こうかしら?」
「う、うん……」
しばらく休憩した後、俺たちは立ち上がり、「大浴場」のある場所を目指す。
男湯と女湯に別れていて、男湯の場所には、大勢の男性が中に入っていくのが見えた。
不思議なものだ、ついこの間までにはあそこに当たり前に入り、そしてここは絶対に入れない神聖な場所だった。
でも今は、入っていい場所と行けない場所が逆転して──
「幸子さん、もうあなたがそこに入ることは無いわ」
石山さんの無慈悲な宣告のみが、そこに響いていた。
「は、はい……」
他数人の女性と共に、俺は脱衣場の中に入っていく。
最初、「なんだ男湯と変わらねえじゃん」と思った。
だが次の瞬間、女性たちの笑い声や雑談する声が、俺を急激に現実に引き伸ばしていく。
下を向いていると、裸の女性が前を堂々と横切った。
元男の俺に、何の違和感も感じていなかった。
「さ、こっちよ」
石山さんの誘導で、ロッカーへと向かっていく。
ロッカーの前につけば、少しは落ち着くことが出来た。
女湯に必須な、裸の女性というものを、見なくて済むからだった。
「さ、タオルを巻いて、きちんと隠すのよ」
……隠していない人もいたという反論は無意味だろう。
TS病になったら、大袈裟なくらい女の子を意識しないといけないから。
「さ、脱がないと温泉に入れないわよ」
石山さんが、服を脱ぐようにせがんでくる。
石山さんを見れば、晒しを取り、バスタオルを既に巻いていた。
俺も意を決して浴衣を脱ぎ、襦袢を脱ぎつつ見えないようにバスタオルを巻いてみた。
途中、俺たちを噂していた声も聞こえたが無視することにした。
そして、ついに大浴場に向けての扉に進むことになった。
「っ……」
石山さんに悟られないように、俺は必死で平静を装った。
年齢がいっている女性も多いが、「裸の女性」というだけで、どうしても興奮してしまう。
隣りにいる石山さんの体つきは凄まじく、特に胸のナイスバディぶりは、見ていて清々しくなる。
いや、俺だって胸は大きいんだけど、石山さんと並ぶとそこそこって感じになるんだから恐ろしい。
「さ、ここよ」
かけ湯に足を踏み入れる。
どうやら、前の人が終わり、俺たちの番らしい。
石山さんが、慣れた手つきで体を洗う。
すると、俺の方に渡してきたので、俺も平静を装って体を洗ってみる。
「さ、幸子さん、あたしは髪を洗うのに時間がかかるから、自由行動よ」
そう言うは早く、石山さんはそのまま洗面台とシャワーのある場所へ進んでいった。
「うー」
俺は女湯に取り残されてしまった。
周囲の女性が俺を見ている。そこには願望の眼差しを向ける人や、嫉妬や殺意を向ける人もいた。
しかし、元男の俺を見て、不審者がったり、叫んだりといったことはない。
俺は、タオルなどを持って洗面台まで進む。
女性たちの裸は、最初こそ刺激的だったが、あまりの大盤振る舞いに、すっかり目も慣れてしまった。
人間の適応力は怖い。
それにしても、うー、女性の裸に興奮しないって、おばさんとかばかりならともかく、若い女性の多い温泉施設なのに。
俺は色々なことを考えながら、居心地の悪さをごまかしつつ、何とか洗面台の前に到着し、座ってみる。
鏡の中の俺が、複雑な表情で俺を見つめていた。
「ああ……」
水色のショートヘアーに、この世の人とは思えないくらいのかわいらしい顔は、まさに美少女アイドルで、肌は色白ながらも健康的なエロスを感じさせる体型で、石山さんには負けるとはいえ、胸を売りにしたグラビアアイドルに十分なれるくらいに大きな胸、体を洗うために、巻いていたタオルを脱ぐと、タオルの上からでも分かるくらいに魅力的な女体のすべてが鏡に映った。
何度となく、お風呂場で見てきた自分の女体、蛇口を捻ってお湯を出し、タオルにつけて、ボディーソープを染み込ませ、泡立てて丁寧に柔らかい肌を清潔に保っていく。
その所作一つ一つが、まるで絵画のように美しく、全身が泡立ったところで、シャワーの蛇口を捻って洗い落としていく。
泡が全て落ちたら、今度は髪の手入れをする。
髪を洗う時、女の子の髪は男に比べて遥かに丁寧である必要があることが分かった。
俺が思うに、ショートヘアーでも男よりはずっと髪が多くて長く、それだけでも手入れが大変だと思った。
俺でさえそうなのだから、同じTS病でしかも背中まで延びている石山さんはもっと大変だと思う。
最近は少し延び始めていて、おふくろが理髪店に連れていってくれるという。
髪を濡らし、シャンプーを手にとってごしごしと地肌を洗う。この地肌への洗い方が俺には難関だ。
後ろからは、多くの女性が通っているのが見える。
俺が女湯にいても、誰も違和感を感じていない。鏡を見ればそれが当たり前だということが分かる。
俺は、俺は本当に、女しかないのだろうか? 大学生にもなってこうして女湯にまで入れられて、でもって見知らぬ女性でさえ、俺のことをごく当たり前に受け入れている。
髪を流しながら自問自答する。そして最後にボディーソープを泡立てた小さなタオルを洗い流し、次の人のために座った椅子をお湯でさっと流す。この辺りは、男と同じだ。
違うのは、バスタオルで隠しつつ進むこと。
女湯の女性は、隠している人とそうでない人が半々くらいだった。
「ふー」
とりあえず、俺は一番近くにあった「薬湯」に入ることにした。
あまり人気がないのか、そこには誰もおらず、俺は一人だった。
でも今は、その方が都合がいい。とにかく、今の状況をゆっくり整理したかった。
バスタオルを脱いで全裸になってから湯船にゆっくりと浸かる。
どこからか、女性たちが、かしましく世間話をしている声が聞こえた。
目の前を通る裸の女性たちは、俺をごく自然に受け入れている。あたり前のことなのに、心に強く響いてしまう。
俺がここに受け入れられているという事実をもう一度考える。
「ああ、やっぱり、やっぱり、女、なんだよな……」
漫画喫茶の時よりも遥かに強烈に、俺は「女」を刻み付けられている。
女になったら、もう二度と戻れないというのがTS病の鉄則だった。
「それに引き換え、あっちの人はセンス無いわよね……」
脳内に突然、さっきの女性たちの声が響き渡る。
ジーパンとトレーナーだけの、あまりにもラフで女らしさの欠片もない服装の俺と、緑のワンピースに前頭部にちょこんと添えられた白いリボンでおしゃれに決めた石山さんが横に並んでいる姿。
「センス無いわよね」
また頭に響く。気にする必要無いじゃないか。
俺は、俺は本当は男として生きたいんだろ?
……今更のような理論で、さっきの女の声を封じようとする。
「センス無いわよね」
しかし、俺の意に反して、頭の中で声はますます大きくなっていく。
女性たちは、相変わらず俺の存在を気に止めず、たまに俺の大きな胸とかわいらしい顔を見て、羨ましさと嫉妬の視線を浴びせていく。
服を着ていたときにはそんなことは無かったのに、こうして「裸」という「平等」になった途端、女性たちの目付きが変わっていった。
「それに引き換え、あっちの人はセンス無いわよね」
「~~~!!!」
バシャーン!!!
声になら無い声が上がり、俺は腕を振り上げ、湯船に叩きつけて込み上げてくる感情を強引に発散させた。
一瞬、周囲の視線が俺に向けられて、すぐに収まる。
その視線は、俺が男だからではないことは明らかだった。
すぐに、俺に込み上げてきた感情を理解できた。
……そう、これは「悔しさ」だった。
悔しくて、堪らない。何故? それは「かわいいのにセンスがない」と言われたから。
石山さんのことを、改めて思い出す。
かわいらしい顔に、女の子らしい言葉遣いに、優子の名前の通り穏やかな女の子で、でも母親としての厳しさも持っていて、おしゃれがとても上手で胸も大きくて。
俺は、石山さんに何もかも負けていた。
スタイルは仕方ないとしても、かわいさも、性格も、魅力も、何もかも負けていた。
もしかしたら、運動神経では勝っているかもしれないが、そんなものにもう、意味を見いだせない。あれほどサッカーに打ち込んでいた日々がもう、夢幻のようで。
この2週間で、「男」という圧倒的な存在を自覚させられ、石山さんに運動神経で勝ったとしても何の意味もないことを痛いほど思い知らされた。
さっきの鏡の中に映った俺を思い出す。
「うぁあああああああああ!!!」
周囲に聞こえない位小さな声だけど、俺は確かに慟哭した。
悔しい、悔しくて堪らない! あれだけのかわいらしさと魅力を兼ね備えているのに、「センスがない」せいで、彼女に何もかも負けているという事実。自分がブスであることを受け入れることができなかった。
あんなにかわいくてきれいで、そんな自分がブスな訳無い、なのに、あのキラキラ輝く石山さんの前では、救いようの無いくらい惨めな女だった。
もう一度、裸の俺を思い浮かべる。そして、似合う服を着ておしゃれをした俺をイメージする。
……ダメだ。おしゃれを、本格的なおしゃれをした俺がいない。
また悔しさが、込み上げてくる。
それは紛れもない、俺の中で眠っていた「女として」の悔しさ。
女の人格が、自分の中でも芽生えているということに気付いた瞬間だった。
「はぁー」
ため息が、一息混み上がってくる。
俺だって、ううん、私だって、おしゃれすれば、石山さんにも負けないはずなのに。
改めて、あのような格好で来た自分に後悔する。
そして、俺は今の混沌とした気持ちをごまかすために、湯船を立って別の場所に行こうとする。
バスタオルを持ちながら、うまく隠す。お尻は仕方ないにしても、大分様になっている。
相変わらず、胸への視線が凄い。
憧れと嫉妬の視線が、俺に突き刺さる。その度に俺は石山さんを思い出し、また心に悔しさを蓄えていく。
「……」
女として生きること、そのために何をするべきなのか、いくつものお風呂で休みながら、今日一日を振り替える。
石山さんには、女の子らしくないと、色々と説教されてしまった。
男としての自分を振り返る。果たして、今から男に戻れるのだろうか?
いや、医学的にはもう絶対に不可能だ。それだけではない、今こうして、俺は女湯を我が物顔で歩いている。
この状況で、「実は俺は男なんだ」何て周囲に表明して、理解されるわけがない。
「もう、後戻り、出来ねえよな……」
俺の近くでは、若い女性2人組がキャハハと笑い声を出しながら雑談に講じていた。
もちろん、裸の俺がいることには、何の気にも止めていない。全員が俺を、女扱いしていた。
「あ、幸子さん」
突如、石山さんが視界に入った。
そして、俺に声をかけてきた。
「どう? ここは?」
「うん、気持ちいいね」
「幸子さん、露天風呂行こうか?」
石山さんが、露天風呂に首を向ける。
「あ、ああ……」
二重扉を開ければ、露天風呂に繋がっている。
石山さんの後に自分が続き、冬の冷気をもろに受ける。
俺にとっても、この季節の東京に全裸で屋外にいるのは寒い、でも、俺よりもずっと寒そうにしている石山さんの震えぶりを見て、少し余裕が生まれた。
「きれいね」
「ああ」
西の空にオレンジ色の太陽が沈んでいく。
永原さんは、この夕日を何万回、いや、下手したら何十万回と見てきた。
たぶん俺も、女として生きれば、そういう人生を生きるんだと思う。
「うー」
石山さんが、右肩を押さえている。
どうやら、肩がこるらしい。
確かに、こんなに胸が大きいと、肩がこっても不思議じゃない。
俺は石山さんの肩に指を伸ばし、肩をもいでみる。
「あー、そこ。うーん気持ちいいわー」
石山さんが、やや色っぽい声を出してきた。
石山さんの肩は恐ろしいくらいに固く、頑固だった。
そして、こりを押しているうちにある部分を押すと、まるで肩の中に石が入っているみたいだった。
そこを刺激すると、石山さんは気持ち良さそうにしていた。
やはり、石山さんほどに大きいと、どうやってもこってしまうのだろう。
しばらくし、お風呂から出ることになった。
俺は体を拭き、慎重に服を着直す。石山さんも、晒しを巻くのに苦戦をしていた。どうやら着慣れてはいないらしい。
石山さん曰く、「晒しは自慢の胸を潰さないといけないし、かといって巻かないとみっともない」と言っていて、和服がやや苦手な様子だった。
「ふう、幸子さん、これであなたはもう男に戻れないわね。女湯まで入っちゃって今更男には戻れないわよ」
俺が決意を話そうと思った矢先に、石山さんがそう切り出してきた。
うじもじしていたが、俺にも俺で言わなきゃいけないことがある。
「ね、ねえ石山さん、そのことで話があるんだけど」
「うん?」
「わ、私! その……女として、女の子として生きていきたい!」
想いを、伝えた。
石山さんが、とても嬉しそうな顔をした。
「うん、でもどうして幸子さんはそう決意したのかしら?」
当然の質問をしてきた。
もちろん、答えは決まっている。
「お風呂に入っていて、疑問に思った。今の自分が何者なのか? もし男なら、女湯に入った途端叫ばれて逮捕されているはず」
「うんうん」
石山さんは、優しそうな表情で俺を見つめていた。
「そしたら、あの時センス無いって陰口を叩かれたのが急に悔しくなった。自分だって、おしゃれすれば負けないって思ったのに」
石山さんが、これ以上無いほどに柔らかく、天使のような笑顔になった。
それはもう、素晴らしい程にきれいだった。
「それで?」
「だから私、どうせもう戻れないなら、女として、女の子として生きていくから」
「幸子さん、その気持ちを忘れなければ、最後にあなたは救われるわ」
その後は、お寿司を食べ、またクレーンゲームで記念品をまたもらった。お菓子は、一部はその場で食べたけど、残りは帰りの電車で食べよう。
それにしても、甘いものってこんなに美味しかったんだな。
「さて、帰りの新幹線もあるし」
「うん、そろそろよね」
石山さんとの遊びも、これでおしまい。
俺はまた、元に戻らないといけない。
今はもう、あんな地味な服装で来たことを心の底から後悔していた。
大変お待たせしました。色々ゲームにハマったりしていました。