永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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一歩一歩、女の子へ

 生理のハプニングもあって、カリキュラムは来週の月曜日に延期になった。

 結局生理の痛みは水曜日まで徐々に弱まりつつも続いた。

 それで、今日はもうナプキンも不要になった木曜日だけど……

 

「やっぱりスカートにしようかな?」

 

 本当は、月曜日をスカートデビューの日にしたかったんだけど、ちょうど生理のこともあったし、今日のスカートデビューは結果的により良いものとなった。

 でも、肝心のスカートをどれにするのかってことだけど……

 

「今は寒いし、この暖かそうなスカートでいいよね? うん」

 

 長さも膝丈で落ち着いているし、今はもう冬に近い。だから初めてにはちょうどいいかな?

 

「足を見せるのもあれかなあ……」

 

 本当は、そういうのは少しだけ見せるのがいいけど、季節を考えて自重することにした。

 春には多分、皆も受け入れてくれるし、ミニスカートはその時になってからでも遅くはないと思う。

 

 靴下も温かく長いのを採用し、またおしゃれとして石山さんとの2人旅でつけた後頭部の黄緑色の大きなリボンもつけて準備万端になった。

 

「よし」

 

 

「おはよー」

 

「おはよー幸子、今日はスカートなのね」

 

 スカート姿はこれで3回目で、石山さんとの2人旅の時の教訓が上手く生きていた。

 母親も母親で、さすがに3回目ともなればそこまで驚いた感じではなかった。

 今日いきなりだったら、着こなすのはまあ無理だろう。

 とにかく、男の服とは違いすぎる。

 

「うん、わ、私だって女の子だもの」

 

 リボンについては、あまり言及されなかった。

 

「お姉ちゃんやっぱかわいいよなあー」

 

 徹も、まだ他人事感が抜けていなかった。

 もちろん、長い目で見た理想は、手原や大谷たちが俺を女として意識するということ。

 とはいえ、俺も男の経験が色濃く残っているので、それが進めば、最悪手原たちに無理やり犯されるということもシナリオとして想定しなければいけない。

 だけど、それはそれで、女として成長するために必要なことかもしれない……何て考えてしまっているうちは、まだまだ当事者としての自覚は薄いのかもしれない。

 

 ともあれ、少しだけ寒くなった足元を気にしつつ、いつもの大学への道を進んでいった。

 

 

「おはよー」

 

「おはよ……って塩津! どうしたんだその格好?」

 

 手原と大谷が、口をあんぐりしていた。

 それもそのはずで、今まで縁がなかった姿だったからなおのことだ。

 やっぱり、スカートを穿いたのはかなり衝撃的らしい。

 

「あーうん、だってこれからは女として生きていくんだよ」

 

「いやそ、そうだけどさ」

 

 手原はやっぱり、男時代の自分を引きずっているみたいだ。

 確かに、一時期は「性別適合手術」の話まで出たことを考えれば隔世の感はあるよな。

 

「あの塩津がスカートって」

 

 大谷の一言にちょっとだけカチンと来る。

 

「むっ、大谷、女の子がスカート穿いちゃいけないのか?」

 

 確かに、悟の体でこんな服装したらキモいだろうけど。

 でも今は違うんだ。とやかく言われる筋合いはない。

 

「いやさ、ほら。確かにかわいいんだけどさ」

 

 手原はまだ納得しきれていないらしい。

 かわいいと言ってもらえたのは良かったけど。

 

「かわいいんだけど?」

 

「いやほら、うん、やっぱり初めて見る時はどうしてもビックリしちゃうって言うか」

 

「うんうん」

 

 まあ、確かに分からないでもないけど。

 

「そうそう、2人に言っておかなきゃいけないことがあって」

 

 いけないいけない。この事話さないと。

 本題を忘れちゃいけないよね。

 

「「え?」」

 

「来週からサークル1週間休みになるんだ」

 

 2人はさっきほど驚いた様子はなかった。

 

「そりゃまたどうして?」

 

「えっとその……協会のカリキュラム、女の子らしい女の子になるためのトレーニング受けることになったんだ」

 

 2人共、それを聞いて納得したような表情となった。

 

「あー、塩津もしかして今日のスカートも?」

 

「いや、これは自主的に。やっぱりさ、女として生きていくんなら、きちんと女の子らしい女の子になりたいって思って。この前も、ほら……あんなことがあったばかりだし」

 

 そこまで言うと、2人は腕を組ながら唸って何かを思慮していた。

 手原も大谷も大学生、生理があるからこそ女の子が赤ちゃんを作り産めることを知っている。

 同時に、生理というのは男が絶対に知り得ない女の子のトップシークレットで、その後の損害さえ省みなければ、知ろうと思えば知ることが出来る女湯や女子トイレとも一線を画するものだ。

 恐らく、これに並び立つものはそれこそ妊娠・出産しか無いだろう。

 この前の出来事により、周りの人も「覚悟」が伝わってくれたのだろう。

 

「分かった。俺たちも、出来る限りのことはするよ」

 

「ああ、今日からは、名実ともに『幸子』だな」

 

 やっぱり、手原も大谷も大人だった。

 体で理解できずとも、ある程度理屈で知ることが出来る。

 いや、むしろこの問題は感覚的になった方が理解しやすい案件ですらある。

 だって、今の自分の見た目を見たら、あの時の女湯の時と同じように扱われるのが普通だもの。

 

「しっかし、いくら何でも豹変しすぎだろ」

 

「ああ、土日に何かあったのか?」

 

 手原と大谷が訝しむ。

 うーむ、確かにそれはその通りだ。不審に思うのも無理はない。

 

「うん、その事なんだけど……昼休みにまた、いいかな?」

 

「「ああ」」

 

 

 昼休み、ご飯を食べ終わったら、2人に日曜日にあった出来事を詳しく説明した。

 石山さんという女子高生のTS病患者

 そして予想通りと言うか、女湯に入らされたということは物凄い羨ましがられた。

 手原は、「まあそりゃあ女湯になるんだろうけど……」と歯切れが悪く、大谷の方は「くそー、うらやましいぜ」と言っていた。

 

 女湯に入れられたことで、自分のアイデンティティを考えることになり、そして「悔しい」という女としての感情が芽生えたことも話した。

 

「悔しい……かあ」

 

 手原が、教室の天井を見上げて話した。

 どうやらかなり深く思念しているようだ。

 

「確かに、それは『女の人格』だよなあ」

 

 男だったら、石山さんと会う前の俺だったら、別に「センス無い」と言われてもどうとも思わなかった。

 でも今は違う。女として、かわいくなりたいという思いが、今は確実に芽生えている。

 

「うん」

 

「にしても東京ってすげえとこなんだな」

 

「だなあ。行ったのは1回だけだけどとにかく熱気が違うんだ」

 

 手原と大谷は、俺のことはそっちのけで、東京に関する話題にシフトしていた。

 

「ああ、よく分かるぜ」

 

 そして、話題は東京での具体的な部分にシフトする。

 2人も、東京での様子などにシフトしていった。

 

「まあ仙台ぐらいがちょうどいい町だよ。東京は人多すぎる」

 

 最近では、仙台にも外国人観光客が押し寄せるケースも増えたけど、東京のそれは仙台なんかの比ではなかった。

 そもそも、電車の長さからいって頭おかしかったしその長い電車がものすごい本数来るわけで、仙台って田舎なんだなあって思ったくらいだ。

 

 そんなことを考えながら、俺たちは昼間を過ごした。

 

 

「うお、塩津どうしたんだ!?」

 

「おいおい、塩津お前、スカート穿いたのか」

 

 放課後、案の定サッカーサークルの連中に蜂の巣にされた。

 うー、女の子だからスカートになったってそんなにおかしなことじゃないはずなのに、やっぱり塩津悟の存在感はでかいよなあ。

 

「ああ、そりゃあ女なんだしスカート位いいだろ? お前らが穿いたらキモいだろうけど」

 

 サッカーサークルの人はみんな鍛えてる「男らしい男」が多いので、ますます似合わない。

 

「うっ、まあそうなんだろうけど」

 

「思ったより似合いまくりだもんなあ」

 

 サッカーサークルの仲間たちが、なめ回すように自分を見つめてくる。

 正直、今まで地味で目立たない服装ばかりしてきた紅一点の女子がいきなりスカートに後頭部のリボンまでつけてやってきたらギャップのあまり注目しちゃう気持ちが痛いほど分かってしまうのが辛い。

 これが生まれながらの女の子なら、「何じろじろ見てるのよ!」で済むと思うけど。

 

「まあほら、元々素材は超一級だったし」

 

「だなあ」

 

 とは言え、自分で言うのも何だが、自分自身の見た目はかわいい女の子なので、すぐにみんな慣れてくれると楽観している。

 手原や大谷みたいに深い関係でもないし、女として生きていく決意をした詳しい経緯まで詮索はしてこないだろう。

 

「ま、この暑苦しい世界にはちょうどよさそうだぜ」

 

「だな」

 

 誰かが「ここにはちょうどいい」と言うと、全員がうなずいた。

 自分がこのサークルですべきことはこれまでと一緒で、今後はますます「女子マネージャー」の性格を強めていくだろう。

 といっても、ここは大会に出るようなガチのサークルではない。だからマネージャーの仕事なんてほとんどなく、せいぜい水を渡すことくらいになっている。

 バリバリにプレイヤーをして来た時代から見れば物足りないけど、それでも、このサークルにいさせてくれるだけでもありがたいというものだ。

 石山さんも言ってたように、もう女の子なのだから、女の子に出来ることをしていかないといけないな。

 

「ふう、さ、始めようか」

 

 部長さんの号令と共に男たちも散り散りになった。

 今日もいつも通り、サークル活動が始まった。

 

 

「おりゃー!」

 

「させるかー!」

 

「「おおー!」」

 

 心なしか、今日はみんな気合いが入っている気がした。

 うーん、やっぱり自分のお陰かな?

 

「ふー」

 

「はいお疲れ様」

 

 いつもよりも、心なしか高めの声で水を手渡した。

 思った通りで、女の子らしくなった俺を見てみんなやる気になったのだ。

 サッカー場にしても野球場にしても、チアガールやレースクイーン、またビール販売の売り子の女の子がたくさんいるわけだけど、やっぱり男だらけの暑苦しい男子スポーツの世界だからこそ、こういう女の子が清涼剤として必要何だと今になって思い知らされた。

 女の子になってからというもの、男女の間に横たわる様々な差を思い知らされてきている。

 TS病は、いわば記憶や経験だけを引き継いで全く別の生き物になるのと同じで、自殺率が高くなるのも当然と言えば当然だった。

 それに何より、ちやほやされてちょっとだけ「いい気分」になっている自分を感じて、「心の進行」が進んでいるなあとしみじみと思うようになった。

 

「塩津さん」

 

「うん?」

 

 部長さんが話しかけてきた。

 

「言いにくいんだけどさ、スカート穿いてきたってことは、もう男には?」

 

「うん、男の人生は、もう諦めることにした。だから、女として生きていくよ」

 

 涼しく、なるべく明るい声で話す。

 

「そうか……まあ、同じ病気の人も、みんなそう言っているんだっけ?」

 

 部長さんも、TS病のことについて少しだけ調べていたらしい。

 もちろん、50%を超える高い自殺率のことも頭に入っているんだと思う。

 

「ああ、今自分を担当している人は特にな」

 

「そうかあ、でもトランスジェンダー路線は自殺何だっけ?」

 

「うん、みんなすぐに死んでったって」

 

 部長さんは腕を組んで深慮している。

 その仕草は、手原とも似ていた。

 何とか、理屈を飲み込んでいるという感じのものだった。

 

「まあ、俺も専門家じゃないからね。で、新しいカウンセラーの人はどんな感じ何だ?」

 

「実は2個下の高校生何だけど、正直江戸生まれの余呉さんより厳しいよ」

 

「ほえ、意外だな。高校生がカウンセラーかあ」

 

 部長さんも、この意外な人事に驚いている様子だった。

 TS病は珍しいと言っても、もっと人材はいるはずで、高校生の石山さんが選ばれたのも、特例という感じが見受けられた。

 特に、かなり歳をとってる人も多い中で、自分より年下がカウンセラーになるのは、とても珍しいことだろう。

 

「うん、月曜日から本格的に『女の子の講習』が始まるんだ」

 

「講習?」

 

「ああ、今日スカートなのはその予行演習も兼ねているんだ」

 

「あーなるほどな。スカート穿かなきゃいけねえってこともあるだろうしな」

 

 女性として生きていくということを決めた以上、今後就職活動する時もだろうし、他にもおしゃれをしなきゃいけない場面だって十分起こり得る。

 そうなった時のためにも「スカート慣れ」は女の子にとって必須になる。

 ヒートアイランド現象のある都会とは言え、東北の冬は寒いので、最近ではズボン制服を取り入れている学校もあるのだが、得てしてズボンの人気は悪く、穿いているのもブスばかりだというのが男子の専らの評判だった。

 

「ま、あまりいいアドバイスもできないですけど、頑張ってください」

 

「はい」

 

 これだけかわいいしおっぱいもでかいので当たり前と言えば当たり前だけど、今日のスカートお披露目は概ね好評だった。

 俺にとってもまた、それは女の子としての自信にも繋がっていく。

 帰り道、ふとバスの窓から見えた自分の顔が目に入る。

 

「やっぱり、かわいいな」

 

 これだけの容姿があれば、自分のことがかわいく見えるのは当然のことだった。

 自分はかわいくないと思ってしまった時は、後にも先にもあのお風呂での時だけ。

 女の子には自信も必要で、特にこれだけかわいい自分なら、自信を持たないとかわいさを維持できないとも思っている。

 自分のことかわいいと思っている女の子、ブスなら痛いけど、ある程度以上にかわいい子が自分のことをかわいいと思うのは、俺としては「あり」だと思う。

 

「うーん」

 

 それでも、石山さんは無論のこと、余呉さんに永原さんと、立て続けに絶世の美少女と出会い続けたので、少しその自信も揺らいでいる。

 いや、自分だって彼女たちに混じっても、「どうしても勝てない」と思えるのは石山さん位で、永原さんと余呉さんには、胸を含めて多く勝機があると思っている。

 

「次は──」

 

 いずれにしても、今度の講習では間違いなく「おしゃれ」についても学ぶつもりなので、その時に質問をすればいいだろう。

 

「ただいまー」

 

「あ、お姉ちゃんお帰り」

 

 徹も徹で、姉扱いが板について来た。

 最初は拒絶していた女の人生だけれど、美少女に生まれ変われれば、それなりに楽しい人生になるのだと思った。

 

 

「女の子は見た目だよなあ」

 

 お風呂で自分の裸を見ながら呟く。

 もしこれが、ブスだったら間違いなく自殺だった。

 女の子は、男以上に見た目重視になる。

 TS病が美少女に生まれ変われる病気で本当によかったよな。

 美少女だからこそ、自殺率がこれで抑えられているのかもしれない。

 

 ともあれ、いくら見た目重視でも、内面が今のままじゃダメなのも事実、とにかく、頑張って女の子らしい女の子を心がけないと。

 

「言葉遣いかあ……」

 

 出来るのかな? 女の子らしい言葉遣い。

 余呉さんによれば、実は言葉遣いが一番簡単らしいけど。

 

「わよ……だわ……うーん……」

 

 語尾だけ言ってもそれっぽさは出ない。

 ま、とにかくカリキュラムになってから考えても遅くはないか。

 

 今日はともあれスカートを体験できたのは大きかった。それで良しとしよう。


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