永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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PCトラブルや某ウイルスなどもあって更新が遅れました(感染はしてませんが)申し訳ありません。
後、東京五輪が延期になっちゃいましたね。執筆当時はコロナのコの字も無かったとはいえ、未来の予定事象を小説にするとこういう事あるんですよねえ……


塩津幸子、女の子へ向けて 1日目

「うーん……」

 

 また次の週の月曜日、先週は大学の皆にスカート姿を見せたけど、今日からはカリキュラムが行われる。

 今日は少し早起きし、まず朝のカリキュラムと夕方のカリキュラムを行うことになっている。

 カリキュラムは今週と、それから土日に続けられることになっている。

 大学への通学も考慮されて、石山さんよりも長い時間が取られていて、石山さんは学校を休んでいたため、その分短い日数になった。

 ともあれ、朝を起きたらまずやること。

 もちろん、今日の服装を何にするかと言うのはほぼ決まっている。

 問題なのは――

 

「どのスカートにしよう?」

 

 スカートはどれもロングで落ち着いた感じになっている。

 もちろん、それは、もう11月も半ばに入っているという理由が大きいのだけれど。

 

「よし、これにしよう」

 

 選んだのは、石山さんと初めて着た時と同じ青いワンピースで、これまでのよりもおしゃれ度も増している。

 そしてもう1つ大事なのが、この服は後頭部にも大きなリボンをつけること。

 これによって、ますますおしゃれ度もアップする。

 

「ふふ」

 

 目立つリボンをつけるだけで、印象が全く違う。こんなのでも大きく変身したように感じるのだから、女性というのはすごいなあと思う。いや自分も女性だけど。

 少しだけ上機嫌で、階段を降りる。

 

「おはよー」

 

「幸子おはよう、今日からカリキュラムね」

 

 今日の服装を見たお母さんも上機嫌だった。

 やっぱり何だかんだ言って、娘が女の子らしくなっていくのは母親としても嬉しいのだろう。

 

「うん」

 

「じゃあ早速、朝ごはんを作っていくわよ」

 

「はい」

 

 まずは、お母さんから朝御飯の作り方とメニューの決め方を習う。

 カリキュラムの本によれば、「家事ができなければ女の子として失格」と書いてあり、また容姿面では既に生まれつきの女の子を大きくリードしているため、家事や男受けする振る舞いや性格といったものを磨いていかないといけないという。

 確かに、容姿面が大きくリードしていて家事が下手だと余計下手に見えたりしちゃうんだろうなあとは思うし、覚えておくのはより重要だろう。

 

「幸子、美人は性格も美人じゃないといけないのよ。家事を覚えることで、思いやりを覚えることも出来るわ」

 

「はい」

 

 生まれつき美人の女の子は、ちやほやしてもらえるため、自ずと優しさを始めとした女の子らしい振る舞いを身に付けることも多いが、TS病の女の子の場合、男として育ってきたため、そうしたことは自分で覚えないといけない。

 そのためには、まずはやっぱり家事の力が必要になってくるみたいで、単にスキルを磨くだけではなく、家庭的になることで性格面にも良い作用が働くのだ。

 

「うちの家族の好みは知っているわよね?」

 

「うん」

 

 俺は、一つ一つ、お母さんに言われた通りにご飯を炊いて味噌汁を作る。

 うーん、改めて料理なんて作ったことないから、「朝ごはんを作っていく」と言われても分からないことだらけだ。

 はじめはできなくて当たり前だし、とりあえずお母さんに聞けばいいだろう。

 

「ねえ、これどうすりゃいいんだ?」

 

「あ、ダメダメ」

 

 お母さんから待ったが入る。

 何かまずったか?

 

「え!?」

 

「言葉遣いよ。『これどうすればいいのかしら?』ほら、やってみて」

 

「こ、これどうすればいいのかしら?」

 

 言われるがままに復唱してみたら、自分でも信じられないくらい、かわいらしく柔らかい声が流れた。

 印象が、全く違う。

 

「ええ、すごいかわいいわ」

 

「うん、わ、私は女の子……私は女の子……女の子らしく話さないといけない……」

 

 女の子として、暗示をかける。

 これ1つ1つが、将来の自分の材料になっていく。

 女の子らしい格好で、女の子らしい言葉を使うだけで、周囲の印象も、そして自己評価も全く変わってくる。石山さんなんか典型的だった。

 

「ふう」

 

「さ、続けるわよ」

 

「はいっ!」

 

 その後も、何度か言葉遣いを注意された。

 だけれども、まだまだぎこちないけど、少しずつ女の子になれそうな気がしてきた。

 何より修正後の声の印象はこれでもかというほど女の子らしさに溢れている。

 つい先日まで男として過ごしてきたからこそ、その貴重さもよく分かる。

 ともあれ、食事ができたら男たちを呼んで食べて、大学へ行く時間へとなった。

 

 一旦カリキュラムはお休みで、学生生活へと入る。

 

 

「お、塩津おはよ……って今日はすげえな!」

 

「手原さん、大谷さん、おはよう」

 

 にっこりと笑い、愛嬌満点に2人に挨拶をする。

 

「あ、ああおはよう、それよりもさ、来年のワールドカップはどうなるかね?」

 

 どうやらサッカーの話題をしたいらしい。よしここは……

 

「うーん、今の監督のままだと、グループリーグ敗退しそうだわ」

 

 よし、言えた!

 

「わ?」

 

「え!? 塩津、どうしたんだよその言葉遣い」

 

 案の定、2人が驚いていた。

 

「え? 今の言葉遣い、変だったかしら?」

 

 一呼吸間を置くだけで、全然違った。

 少し意識するだけで、簡単に女の子の言葉が出てくる。もちろん、無意識はまだまだ無理だと思うけど。

 2人は一瞬凍りつき、そして納得した風の表情になった。

 

「あーそっか、塩津も女の子だもんなー……」

 

「だなあ」

 

 女の子だから女の子の言葉遣いなのはむしろ当たり前のこと。

 ということで、こちらから説明せずとも、手原も大谷も十分に納得してくれた。

 

「ふふっ」

 

 とは言え、まだ彼氏彼女だとか、恋愛についてはよく分からない。

 女の子として成長すれば、サッカーサークルの誰かか、またはこの大学の誰かか、あるいは就職後に恋愛をするかもしれない。

 でもやっぱりまだ、女の子としての男の魅力についてはよく分からないし、それについてはかなり長い年月が必要になる予感もする。

 石山さんは半年で彼氏ができたし、優秀な人なら2、3年で彼氏が出来るけど、もちろん俺はその何倍もの時間をかけないといけないはずだ。

 

 その時まで、手原と大谷が手持ちぶさたでいてくれる保証なんてどこにもない。

 

「うーむ」

 

「でも、塩津なんだよな。あのしぐさとか」

 

 自分でも気付いていない仕草から、やはり悟と結びつけられてしまう。

 悟としての自分を完全に捨てるというわけではないから、別にしょうがないとは思うけれども。

 それにまあ、ちょっとした癖くらい、誰にだってあるわけだし。

 

「なあ、あの塩津に彼氏とか出来たりすんのかな?」

 

「さあ? 分かんね」

 

 俺にも分からない。

 とにかく今は、カリキュラムを進め、女の子を身に着けていかないと。

 

「さて、講義の準備だな」

 

 2人の会話を聞きながら、俺は大学の講義の支度をした。

 もちろん、まだまだ女の子に成りたてなので、女言葉が出てくる時の方が少ない。

 もし家の中でカリキュラム中だったなら、お母さんに怒られてしまうところもあったと思う。

 

 

 一方で、サークル仲間たちがそうであるように、女言葉が出ると驚かれて、その後に「違和感がない」と言われることも多かった。

 確かに中身はまだまだ男と言っちゃっていい身分だし、これから女にならなきゃいけないわけだけど、見た目も声も完全に女の子なので、内面を変えていくのは、時間さえかければ難しいことではないと思う。

 実際、「悟だった」という知識さえなければ、女の子らしい言葉遣いや仕草をすれば、違和感なく女性として受け入れてくれるはずだ。何せ黙っていても女湯に堂々と入れるわけだし。

 

 大学の生活自体は、以前とそこまで変わらなかった。

 もちろん、振る舞いや言葉遣い、お母さんがいないからと言ってハメを外してはいけないこともわかっていたため、今まで以上に気を遣うようになって、そのあたりが少し変わっていた。

 というか、外でもちゃんとした言葉遣いをする癖をつけないと、カリキュラム中に怒られるのは火を見るよりも明らかだしな。

 

 

「あの塩津に彼氏とか出来たりすんのかな?」

 

 大学が終わった帰り道で、手原の言った話を考える。

 

「彼氏……」

 

 男は、女が大好きだ。それは「悟の記憶」にも激しく染み付いている。

 そして、少女漫画の恋愛ものの多さを見ても、女の子の男好きはそれ以上とさえ思える。

 男が好きなのは、女の子のからだの中でも、例えばおっぱいとか下半身などになる。男に無い魅力こそ、女に惹かれる理由としては十分だ。

 もしこれから女の子に成りきるとして、女の子が好きな部位と言えば……

 

「うぐっ」

 

 当然、女に無いものということになる。悟として暮らした19年間、今は亡き相棒のことを思い浮かべてしまう。

 それは当然、未来の彼氏の「それ」が好きになるということで……

 

「想像できない」

 

 確かに、自分と同じ容姿のかわいい女の子が、いとおしそうにうっとりする姿は想像できる。

 でもその中身が自分自身という所まで、どうしても思考回路が回らなかった。

 一歩一歩前に進んでいるのは分かるんだけど、少しでも遠くを見ようとすると、途端に果てしない道のりだと錯覚してしまう。

 今大事なのは、それを見て悲観的になって、絶望したりしないことだ。

 後ろを振り返れば、男への道は、遥かに困難で、帰ることは決して叶わない死への道なのだから。

 

「ただいまー」

 

「幸子お帰りー!」

 

「お姉ちゃんお帰りなさい」

 

 皆が挨拶してくれた所で、今日もカリキュラムの続きを学ぶ。

 まだまだ始まったばかりだ。

 

 そして、午後は夕食作りの訓練になった。

 これからは掃除や洗濯といった家事の基本を学ぶことになっている。

 

 

 

「さ、幸子、明日もきちんと家事をするのよ。じゃあちょっと待っててね」

 

 家事の部分は比較的うまくいった。

 でも、実際に緊張するのはこれからだ。

 

「う、うん……」

 

 今日のカリキュラムの成果は、全てテレビ電話で関東にいる石山さんに報告することになっている。

 明日以降のアドバイスも、貰うことが出来る。

 まず、お母さんがテレビ電話に出て、それから俺の方が石山さんと応対することになっている。

 明日以降どうするのか、それについても考えていかねばなるまい。

 

 

「幸子ー!」

 

「はーい!」

 

 何分か経ってお母さんの呼ぶ声に反応し、テレビ電話に出る。

 テレビの画面の向こう側で、石山さんがにっこりと微笑んでいた。

 

「聞いたわよ」

 

「うん」

 

 石山さんと一緒に、カリキュラムの様子について話し合う。

 石山さんからは、いくつもアドバイスを貰えた。

 まだ「かわいい」と言われて嬉しいといった感情は芽生えていないけど、成長すれば、「かわいい」と言われて嬉しくなるし、「私ってかわいい」って、もっと積極的にアピールもできると、石山さんにアドバイスしてもらった。

 

 

「ふう」

 

 石山さんも、実際には女の子になったばかりで、まだまだ分からないことも多いという。

 それでも、自分の中にある女の子を深めていくことが、幸せな人生の近道だという。

 少女漫画にも、素敵な男性との恋を実らせるものがとても多い。

 後日談では、ヒーロー役の男の子と結婚し、子供が生まれ、家庭を持っていることが多い。

 少女漫画の恋愛像は、多くの女の子が求めている恋愛像ということ。

 女の子らしい女の子がどういうものか、石山さんも、学びの途中なのかもしれない。

 

「明日以降も、頑張らないと」

 

 言葉遣いは、特に気を付けないと。

 そう思いながら、眠りについた。

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