永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「うーんっ!!!」
目覚まし時計なしに、朝早く起きる。
「んー」
桂子ちゃんと虎姫ちゃんはまだ寝ている。
時間は昨日より少し早い4時25分。
桂子ちゃんと虎姫ちゃんの睡眠を妨げないように注意しつつ、ベッドに座る。
今日も朝風呂に、向かう予定なので、バスタオルと小タオルを取る。
今日の服選びを考える。今日は午前中には森林教室で森の生物なんかを学び、午後はバーベキューの準備と、4クラス合同でのバーベーキューで早めの夕食を取り、後片付けした後は夜の草原で花火だ。
ちなみに、花火の準備は私達実行委員も手伝うことになっている。
この時間はまだお風呂は掃除の時間なので、あてもなくぼーっとしつつ、顔を洗っていると、桂子ちゃんが起きてきた。
「あ、おはよー優子ちゃん」
「あ、桂子ちゃんおはよー」
顔を洗い、歯を磨く。これはいつも通りだ。
あたしと入れ替わるように、桂子ちゃんが洗面台へ。
自室に戻ると、虎姫ちゃんも起き始めていた。
「うううん……」
「と、虎姫ちゃんおはよう」
「あー優子ちゃん……んー私が最後かあ……」
虎姫ちゃんが起き上がり、電気をつけ、3人共洗面台で顔を洗い終わるのを待つ。
やはり外はまだ薄暗い。8時間睡眠ということを考えれば、昨日あの時間に寝てしまえば、この時間に起きてしまうのも道理だろう。
「ねえ桂子ちゃん、虎姫ちゃん」
「ん? どしたの優子?」
「今日は三人でお風呂入らない?」
「えー!? 今から?」
「うん、ちょうど4時半から開くみたいだし」
「お、一番風呂か。いいねえ」
「……うん、特にやることないし、私も行こうかな」
「上の大浴場にしよう。昨日見て景色が良かったのよ」
「ふむふむ。そうと決まれば早速行きましょうか……」
虎姫ちゃんと桂子ちゃんがタオルを持つ。そして他の人の睡眠を妨げないように、慎重にドアを開閉し、階段を踏みしめ、浴場のある8階へと上がる。
初日同様、左側に進み、女湯に入る。
ガラガラガラ……
ふと中に入ると、一人の女性がちょうど服を脱ごうとしている所だった。
「あら、今日は三人?」
「あ、永原先生!」
昨日と同じように、永原先生だった。
「私達、優子ちゃんに誘われたんだけど、先生も一番風呂?」
「ええ、そうよ。それにしても3人も来るなんて珍しいわね」
「昨日入ってみてわかったけど、やっぱり早朝で少人数の一番風呂は気持ちいいですから」
「ふふっ、できればあんまり広めないで欲しいかなあ……」
「そ、そうよねえ……」
少人数で入るからこそ、一番風呂の良さがある。消毒臭なんかもほぼしないわけだからね。
私達は服を脱ぐ。流石に4回目の風呂とあって心臓はほぼ平常通りだ。
「石山さん、大分慣れたわね」
「まあ、その……脱ぐの四回目だし」
緊張するのは最初の方だけだったし。
「それでいて、ちゃんとバスタオルは付け続けるんだよね」
虎姫ちゃんがからかう。
「そ、それは……」
「安曇川さん、石山さんは花も恥じらう乙女なのよ。そういうことを言っちゃ駄目です!」
は、花も恥じらう乙女だって……そう言ってもらえるなんて女の子冥利に尽きるわね。
「は、はい……すみません」
それに私だけではなく桂子ちゃんもバスタオル付きだ。逆にバスタオルもなく特に気にしてないのが永原先生と虎姫ちゃんの2人だ。
ともあれ4人で風呂を開ける。もちろん先客は誰もいない。軽くかけ湯で身体を洗って汗を流すとともに、肌をお湯に慣らす。そして全員で大浴場に入る。
「ふうーーーー」
ゆっくりくつろげる早朝の乙女たち安らぎの花園。
特に理由はないけど壁にもたれかからず、浴槽の中央で外を見つめる。
「優子ちゃん!」
桂子ちゃんが話しかけ、肩に手をかける。
「マッサージしてあげるね」
「あ、ありがとう……んーやっぱり肩揉まれるの気持ちいいわー」
桂子ちゃんのマッサージは、虎姫ちゃんや恵美ちゃんと比べると力は弱めだが柔らかくて気持ちいい。
「にしても……んっ……優子ちゃんすっごいこってるよ。いつもこんな感じなの?」
「うん、だいたいこんな感じ……あーそこ、そこが気持ちいいのよ……」
「ちょっと、石山さんだけじゃなくて、私も揉んでくれる?」
永原先生が肩もみしてとアピールする。
背は150もなくてかなり低いけど、その割には胸が大きめだ。普段着てる服が着痩せ効果があるものなのか、こうして改めて見ると、さすがに私ほどではないけどそれなりに大きい。
「はいはい、先生には私が付いてますよー!」
虎姫ちゃんが手を上げ、永原先生の肩を揉む。
「あー安曇川さん、もう少し右上をお願い。んーーーーー! そう! そこがいいのよそこが……あー!」
マッサージ師二人の癒やしで、大分肩がほぐれた。
「さ、そろそろ朝日が出るわよ。行きましょ」
「「「はーい!」」」
永原先生が声をかけると全員で露天風呂へ。
まだ太陽が出ていないが、空はもう明るい。薄明っていうんだっけ? まあいいや。
ドアを開け、4人の女の子が露天風呂に入る。ホテルの最上階から見下ろす眼下の風景と、山の麓の町並みは、昨日よりも幻想的に見えた。
露天風呂で、桂子ちゃんと虎姫ちゃんが何か雑談をしている。あたしと永原先生も時折そこに交じる。
風呂に入りながら景色を眺めているうちに、空が急速に輝きを増す。今までも明るいと思っていたが、もっと明るくなる。
やがて、遥か彼方から太陽が出る。どうやら、左右どちらからでも日の出が見えるように、露天風呂は東側になっているようだ。
「ほーすごいねー」
「きれいよねえ……」
虎姫ちゃんと桂子ちゃんが感激している。
少し太陽が眩しいけど、朝日の昇る瞬間を温泉に浸かりながら見るというのはやはり素晴らしいものだ。
「そういえば、優子ちゃん」
「ん?」
「この朝日もきれいだけど、確かに優子ちゃんのほうがきれいかな……」
「あ、その話?」
昨日の永原先生の話だ。昨日の日の出を見て、あたしのことを「きれい」と評したその話。
「うん、でも答えはちゃんと見つけないと駄目よ」
「ええ、木ノ本さんと安曇川さんの言う通りよ」
「せ、先生まで」
「それにしてもおはよーって感じだよね」
「そうよねえ……」
「でこっちは、おはおっぱい! って感じ!」
虎姫ちゃんのよく分からない台詞とともに、むにっと胸を触られる感覚。
脇の下から腕が出て、私は胸を触られていた。
「やあああああああああ!!!」
私は悲鳴を上げ、慌てて両手を引き剥がす。
「もう! 虎姫ちゃんやめてよ!」
性的興奮という感じではなく、悪戯心からの悪ふざけだと思うけど。
「ごめんごめん、朝日に照らされてる優子の胸があんまりにきれいだったから……つい」
「あうあう……」
女の子同士でも、セクハラされるのはやっぱり恥ずかしい。
「こら安曇川さん! ダメでしょ。石山さん、とっても恥ずかしがり屋さんなんだから」
「ごめんなさい。でも、やっぱり先生のカリキュラムってすごいよねえ……」
「そうねえ……優一はあんなに乱暴な男だったのに、優子ちゃんになってからはこうも女の子らしくなるんだもん。さすがの私もちょっと嫉妬しちゃうよ」
「う、うん。あたし、生まれ変わりたかったから」
「そうよ、石山さんくらいうまく行った子は居ないわよ」
「うまくいかない場合ってあるの?」
「ええもちろんよ、例えば――」
永原先生が、成績不良者について話している。今みたいなセクハラに恥ずかしがることもなく、それどころか積極的に胸を触らせに行ったりしてしまうのが成績不良者の特徴らしい。
特に不良が目に余ると女の子になりきれず、最終的に男に戻る道に入ってしまい、最後は自分の体が嫌になって自殺してしまうパターンもあり得るそうだ。
そして、永原先生は「あの時の繰り返しになるけど、TS病の女の子は男には二度と戻れない。男を捨てて女の子として生きるしかない」と重ねて強調していた。
「明日も早起きしたらここに来る?」
虎姫ちゃんが提案する。
「いや、明日は地下の一番風呂にしようかなと思ってるんだけど、桂子ちゃんは?」
「うーん、景色はないけど、地下のほうが広いよね」
「それに明日にはここを出るわけだから、一回くらいは地下の朝風呂を経験しておきたいのよ」
「そうね、私も石山さんに賛成ね」
「よっしゃ、じゃあ明日早起きしたらそうしよう」
女子4人組が、一応の合意を確認、日の出後、再び大浴場に戻り、身体を温め、朝風呂が終了した。
着替えている間も、ちょいちょいガールズトークを挟みつつ、桂子ちゃんと虎姫ちゃんにまたセクハラされながらもパジャマに着替え直した。
多分このセクハラは何度されても慣れることはないと思う。というよりも、されればされるほど恥ずかしがり度も上がってる気がする。
「ねーねー、朝食まで部屋でゲームしようよ」
「いいわね。優子ちゃんは?」
「うーん、そうしようか。3人で対戦はしてないよね」
私達が持ってきたゲームはターン制の陣取りゲーム、ゆっくり考えながら出来るゲームで、シンプルながらも奥深く、それでいて頭脳戦、最大4人まで対戦可能となっている。
「よっし。じゃあ始めようか」
私たちはゲーム機を起動し、それぞれ対戦の準備に入る。
さて、私はゲーム画面に見入り、デッキを見返し、配置につかせる。
「よし、はじめ!」
「「おー!」」
ゲーム画面が進む。戦況は私に有利だ。
罠を仕掛ける。よし、虎姫ちゃんが引っかかった!
桂子ちゃんも私に攻撃を仕掛ける。でも、冷静に守ればOKだ。
このゲームはうまくバランスが取られていて、3人対戦といっても2人で1人をいじめようとするとペナルティが出るようになっている。
ペナルティが出ない程度に私はうまく協力関係をかき乱し、最終的に勝利を収めた。
「よし、まず1勝!」
「優子ちゃん強いねー」
「えへへありがとう」
このゲームは優一だった頃にもプレイしていて、その時の貯金もあってややこちらのデッキが強い。
2,3度対戦したが、いずれも私が勝利した。
「うーん、ちょっと強いねえ……」
「ゲーム機変えてみる? デッキの編成もあるだろうし」
「お、そうしようそうしよう」
私が虎姫ちゃんや桂子ちゃんの方のデッキを使い対戦を再開。
すると7:3くらいで私が勝つくらいにはなった。
「うーん、優子ちゃん強いねー」
「うんうん、別の人のを使うのって大変だろうに」
「ありがとう。でも、そろそろ15回位になるし、そろそろ食事の準備しよっか」
「そうだね、着替えよっか」
まず桂子ちゃんが着替えのため別室に入る。今日は森林教室もあるので、3日目用に黒系統の長ズボンを穿くことにした。
代わりに上の方は、登山はしないので青い無地の服ながらもちょっとだけフリルの付いた感じにする。
もちろん、頭のリボンについてはいつも通りだ。
虎姫ちゃんが着替え終わり、最後に私が着替える。
それぞれ3日目朝の食事券を持ち、今日もバイキングに行く。
今日は昨日と違い、パンとコーヒー、そして野菜サラダという洋風の朝食にしてみた。
虎姫ちゃんは昨日と同じようにご飯味噌汁に鮭という感じ。
桂子ちゃんはご飯とパン、コーヒーとごちゃまぜな感じだ。
「「「いただきます!」」」
今日の朝食も、3人でガールズトークをしながら食べる。
虎姫ちゃんは恵美ちゃんのグループの子で、グループへの帰属意識も強かった子だ。
でも今は、こうして桂子ちゃんと仲良く話せている。
話してて思う。この学校の人は、いい人ばっかりだ。
朝食をあっという間に食べ終わり、ジュースを2,3杯飲み、私達は自室に戻る。
40分位して、私はいつものように食事券を整理し、クラス全員の食事を確認する。
そしてその足で、私達はバスに乗り込み、近くの森林教室へと向かった。本当に10分そこらでついてしまったのだから徒歩でも良さそうな気もするけど。
「えー皆さん、本日は、山と森林の生体について勉強します。クラスごとに2班に分かれ、各インストラクターが皆さんをご案内しますので、指示に従ってください。1組1班が私、1組2班が――」
森林教室の責任者の人が森林教室について説明し、各インストラクターを割り当てている。
この森林教室、先生は無論のこと、何故かバスの添乗員さんまで参加している。バス近辺の警備は運転士さん任せということだ。
「それでは、2組2班の皆さん。出発しまーす!」
うちの2組2班を担当してくれるインストラクターが声をかけ、先行していた班に続く。
どうやら、森林は遊歩道になっていて、1週をぐるりと廻ることが出来るようだ。
ちなみに「森林の植物を取らない」「動物に餌をやらない」と言った、自然豊かな土地ではよくある注意書きは、ここでも見られた。ちなみに、熊は出没しないらしい。
森林を少し進むと、何か草木を揺らす音がした。
どうやら動物らしいが、それが何なのかは確認できなかった。
うさぎ? 狐? シカ? いや、そもそもそれらって森林に住むのかな?
……うーん……まいっか!
ともあれ、インストラクターさんの先導で先へと進む。
「お、あなたは?」
「え? あたしですか?」
「うん。添乗員の……野洲です」
「ええ、知ってますけど、私に何か?」
「いや、名前を教えてほしいなって……」
んー? どういうことだろう? まあいいか。教えちゃいけない理由もないし。
「えっと……石山優子だけど……どうしたの?」
「あ、いやその……ゴホン。石山さんね……」
「???」
何かよく分からない反応だ。
しかしその思考も、インストラクターさんが一本の樹木の前でまた止まり、解説をしたところで止まる。
そうだ、今は添乗員さんのよく分からない行動はどうでもいいし、それよりもこっちを聞こう。後で感想文提出だし。
「えーこの木を見てください、この木は典型的な森林の木です。以前学校でもやったように、ここは森林の中でも比較的外側ですから、陽樹林になっています。もう少し中に入ると、極相林になります」
「ふむふむ……」
真剣に聞いている人もいるし、中には虚空を見つめたり、違う所を見つめたりしている。
でも、移動中はあれこれ雑談していても、インストラクターさんが説明する時は、一応静かにしている。
石山優一に怒鳴られるからという消極的な理由で付いたクラスの習慣だったものの、結果としてはいいことだったかもしれない。
森林の動物も数多く生息していて、それらの動物に関しても、インストラクターさんが多く説明している。
森林の生き物についての遊歩道は1時間半で一周できるほどの長さだ。
時折、遊歩道の道が狭くなっていたり、ぬかるみがあったりする。
インストラクターさんの注意喚起もあって、幸いうちの班では誰かがハマるといったトラブルはなかった。
「ふう、終わったね。どうでした優子さん!?」
森林教室が終わり、龍香ちゃんが話しかけてくる。
「うーん、ちょっとだけ楽しかったかな。森のこと、ちょっと知ることが出来た」
「そうですか、私はあんまり興味がわかなくて、ちょっと退屈でした」
「そ、そうなの? 龍香ちゃん、自然にはあんまり興味ない?」
「……優子さんって、結構なんでも首を突っ込むタイプですよね!?」
「あはは、色々なことに興味を持てるのかなあ? お父さん譲りかも」
「へえ、そうなんですか。優子さんのお父さんってどんな人です?」
「どんな人って……普通のサラリーマンかなあ……でも、確かに色々なことに興味持つ人だったねえ……」
「そうですか。ふむふむ……」
「でもよ、色々なことに興味を持てるってのもいいよな。あたいなんてテニスばっかだぜ」
「あ、恵美ちゃん」
今度は同じ班だった恵美ちゃんが話しに加わる。
「あーあ、この感想文どうすっかなあ……優子の写させてよ」
「いやいや、それは私もダメだって」
「あー、そうだな。すまん」
この後は、昼食を除いて、バーベキューの準備の時まで自由時間が続く事になっている。
その間、風呂に入る人、軽食屋で食べる人、ゲームコーナーで遊ぶ人、外のアスレチックで遊ぶ人、部屋で遊ぶ人などなど様々だ。
小谷学園の自由を象徴する時間だが、ただ一つだけ義務がある。今日の森林教室を受けての感想文を、提出しないといけない。
ちなみに、この感想文はホテルにあるPCコーナーで書いて印刷する人も居たりするが、もちろんとやかく言われることはない。
印刷代も自己負担で必要になるため、よほど自分の字に自信がない人以外は、手書きで提出するようになっている。
桂子ちゃん、虎姫ちゃんと一緒に机に向き合い、感想文を書き始める。
集中すれば以外にすぐに終わる。
面白かったこと、興味深かったこと、気をつけたことをそれぞれ書く。
樹木と森の発達についてはやはり理科の時間通りだったので興味深かった。
奥の方では陰樹林がたくさんあって、極相林になっていた。
気をつけたことと言えばやはりぬかるみや地面にある木の枝だ。転びそうにならないように、靴選びも慎重にしたいと書いた。
あまり長々しく書いても評価は良くならないため、簡潔にわかりやすくまとめる。
桂子ちゃんと虎姫ちゃんも、当り障りのないことを書き、私達は自由時間に入った。