永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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塩津幸子、女の子へ向けて 2~4日目

 翌日、大学から帰ってきた俺に課せられたのが洗濯だった。

 母直伝の洗濯方法や、部屋干しのコツといったものを一つ一つ丁寧に学んでいく。

 そうした中で分かったのが、家電の進化だった。

 何でも、お母さんのお母さん、つまり俺のおばあさんは、手押し式の洗濯機で、更に先祖になると洗濯板と桶で洗う必要があったという。

 専業主婦の時間が増えたのもこうした家具による発展の功績が大きいという。

 そういう意味で、昔の女性に比べれば、家事という「女の子の魅力」を磨くためのハードルは格段に下がっているとも言えるわけだ。

 石山さんは特に家事に重点を置きたいとも言っていて、石山さんによれば「あたしもカリキュラムを受けていた時は『優子は美人だけど、家事ができないと立派なお嫁さんになれない』と母さんから言われたわ」とのことで、TS病のカリキュラムでは家事というのは特に重要視されている事項らしい。

 

「ふふ、幸子もスカートが板についてきたわね」

 

 トイレから出ると、お母さんが声をかけてきた。

 

「あ、ああうん」

 

「ところで幸子、トイレはどうしたかしら?」

 

「え!? えっとその……」

 

 母さんが、急にトイレの話をしてきた。

 いったい行きなり、どうしてなのか?

 そういえば、さっき水を飲まされたっけ? もしかしてこれも訓練なのかなあ?

 

「いい? まさかと思うけど、スカートを脱いで床に落としたりしてないわよね?」

 

「ギクッ」

 

 実は、今までスカートをわざわざ脱いだりしていたのだ。

 もちろん、大学に行っていた時も、女子トイレの中ではそのような脱ぎ方をしていた。理由は何となくだ。

 この辺り、まだ穿いたことはないけど、ミニのスカートならやりようがありそうなことはわかっているけど。

 

「はあ……そんなことだろうと思ったわ」

 

 母さんに呆れられてしまった。うー、でも女の子としてのトイレの流儀なんてわかりようがないんだし、教えてくれてもいいような気が……うー、これも教育の一環ってことかな?

 

「うー、床につけちゃいけねえのは分かってたけど」

 

「こら幸子! 女の子がそういう言葉遣いしちゃダメでしょ?」

 

 すかさず怒られる。

 

「うっ……床につけちゃいけないのは……分かってたわよ」

 

 そして、怒られたら都度「言葉遣い」を訂正しないといけない。

 

「うん、よろしい」

 

「わ、私は女の子……私は女の子……女の子らしくかわいらしい言葉遣いをしなきゃいけない……」

 

 石山さんの言いつけ通り、暗示をかけ続ける。

 女の子になるためには、小さな積み重ねが必要で、堕落が最大の敵になる。

 そう思い、これも積み重ねの1つと自分に言い聞かせる。

 

「いい? スカートはトイレが楽なのよ。覚えておいてね?」

 

「は、はい……」

 

 そして、トイレのやり方について、詳しく指導を受ける。

 うーむ、でもよく考えたらソッチのほうが楽だよな。うん、めくった方が。

 

「それから、最後に下着を元に戻すときに、スカート巻き込まないように注意してね。もし気づかないまま巻き込んじゃったら丸見えになっちゃうわよ」

 

「ああ、うん」

 

 悟の時なら「ラッキー」って所だけど、自分が当事者になったら洒落にならない大惨事だ。

 もちろん、世の女性たちはそんなことは滅多に引き起こさないだろうし、実際自分もそんな場面を見たことがない。だけど、今の自分は女の子としては体が大きいだけで「幼い女の子」と殆ど変わらないんだし。

 とにかく、こういう女の子の作法は覚えておかないといけない。

 実際に女としての生活もスタートしたけど、今は大学の小さな空間だけで、今後は世界も広くなっていく訳だし。

 

「ふふ、幸子も訓練を積むのよ」

 

「うん」

 

 カリキュラムは進んでいく。

 そういえば、石山さんがカリキュラムを担当することもあるんだっけ?

 そっちはどうなるんだろう?

 

 

 翌水曜日は掃除、木曜日には買い物の極意を教わった。

 買い物のは、カリキュラムというより「お母さん流の品物の選び方」っていう感じではあったけど。実際、カリキュラムになさそうな節約術なんかもついでに教わったりしていて、オトクな気分も味わえる。

 水曜日木曜日は平日なので、大学に通いながら、きちんと課題もこなしていくことができた。石山さんと違い、大学に通いながらなので、行う課題も格段に少なくなっている。

 お母さんもお母さんで、負担が減っているのは確かだろう。

 そして金曜日に行われるのが、ついに戸籍の変更だという。いつもの通り、大学が終わってすぐに課題に取り掛かることになる。

 また、膝上の、少し短いスカートを穿くように言われたので、この寒い季節のことも考慮しストッキング着用にしてみた。

 うー、女子高生ってすごいよなあ。この季節でも生足なんだし。

 

 

「いい幸子? これは幸子の手で提出すべき書類よ」

 

「うん、わ、分かってる……わ」

 

 ともあれ、水を飲んでから区役所に行くことになった。水を飲ませるというのは以前にもあったから、きっとトイレ関係の課題がまたあるのだろうなあと思いながら役所に向かっていった。

 住んでいる区の窓口に、名前と性別の変更届を出す。

 本来なら家庭裁判所の許可が必要ではあるのだが、TS病だけは例外で、「裁判で争う余地もない」として区役所への提出で事足りることになっている。

 

「さこっちよ」

 

 母親が運転する車に乗る。

 ちなみに、俺の免許も早めに更新しなきゃいけない。悟の免許はもう、使い物にならないからだし、協会の支援があるとは言え、体がガラッと変わったのである程度の講習をまた受けないといけないそうだ。

 ともかく、塩津悟の痕跡を消していくのが今後の自分の役目になる。

 車に乗せられると、区役所まで一直線だった。

 

「えっと、こっちよ」

 

 区役所のある一角に、所定の書類を渡す窓口があり、書類は必ず自分の手で渡す必要がある。

 手続きが完了すれば、正式に塩津幸子になれる。

 

「幸子……かあ……」

 

 母親が、とっさに思い付いた名前が幸子だった。

 その名の通り、「幸せな子」という願いが込められている。

 女性としての人格が芽生えた後も、この名前を変えようと思ったことはない。

 確かに、考慮した時間は短いし、いかにもという感じな名前でもある。

 でも、やっぱりかわいい名前だし、自分にもふさわしいかな? 何て思っている。

 TS病の女の子たちは、名前は結構短い時間で決まるそうで、長い間使っていくはずなのにギャップが大きい。石山さんも1日で決めたって言うし。

 

「すみません」

 

「はい」

 

 区役所の窓口の担当者に話しかけてみる。

 

「こちら、お願いできませんか?」

 

「……はい、分かりました」

 

 私の書類を受け取り中身を確認すると、窓口の人が大切に担当者に渡した。

 処置が終わったら郵便で届くことになっている。

 ともあれ処置が終わったので母さんのところに合流する。

 

「さ、今日のカリキュラムはこれで終わりよ幸子」

 

「ふう、でもその前にトイレにいってもいいかな?」

 

 そして、狙い通り、トイレに行きたくなってきた。

 女子トイレなら何度も入っているとは言え、やはりこういったカリキュラムでは「改めての復習」も大事なのだろう。

 

「ええ、その代わり、幸子が多目的トイレに入らないか監視するわね」

 

「はい……」

 

 うー、女子トイレ自体は既に大学で入り慣れているとはいえ、母親の監視があるとこれはまた入り辛い。

 やはりここも、女性特有の香水と血液を混ぜたような匂いが立ち込めていた。

 うーむ、男子の思う女子トイレとは大分違うよなこれ。

 

「ふう」

 

「正しい入り方するのよ」

 

「はーい」

 

 スカートを下ろしてはいけない。

 こんな状況で女子トイレに入ったら、もちろん対処法はこれだけになる。

 

  ペロン

 

 スカートをめくりあげ、ストッキングごとパンツを下ろし、便座に腰かける。

 

「ふう……」

 

 うむ、既に何度か試しているとは言え、これなら確かに服が汚れないよな。

 ともあれ、さっき警告されたように、事故に気を付けながら服を元に戻す。

 うん、慣れはじめが一番危ないとも言うし、気を付けないといけねえな。

 

「よしっ」

 

 トイレを出ると母親が待ち構えていた。

 

「幸子、どうやってトイレ入ったかしら?」

 

「え、えっとその……こう……めくって……」

 

 うー、言葉で説明し辛い……

 

「ああうん、それで正解よ。そう、下ろす必要はないってことよ」

 

 うん、ともあれ、これで大丈夫かな?

 

「女子トイレは並ぶことも多いから、余裕を持って行動するのよ」

 

「大丈夫、分かってるから」

 

 女の子になったら女子トイレに入ることも多くなるし、気を付けないと。

 男だった時は「随分並んでいる」という感じだったけど、自分が女子になったら他人事じゃない。

 というか、以前にも何度か行列のできている女子トイレを見てうんざりしたこともあったし、それを避けるために大学の敷地内をあちこちと歩いたこともあった。おかげで普段行かないような場所にも行くことになった。

 女性の場合、漏らしやすいとも言うし、気を付けねばならないだろう。

 既に女の子になって3週間が経つとはいえ、本格的に女の子も生活を始めようと決心したのは最近のこと。

 やはり、色々ありそうだ。

 

「じゃあ、帰るわよ」

 

「はーい」

 

駐車場に戻り、母さんの運転する車で自宅に戻り、その後は夕食を手伝った。

ともあれ、これで名実ともに「塩津幸子」として、私は歩むことになった。

 

「じゃあ幸子、少し休憩よ」

 

「はーい」

 

 室内は暖房気味になっているし、ストッキングは圧迫感があるので、脱いで生足で休憩することにした。

 ともあれ、今日は疲れたしゆっくり休みたい。

 

「ふう……」

 

 ストッキングを洗濯機に放り込むと、早速休むことにした。とにかく、足を休めたい。

 女の子としての人生にはまだ慣れない。

 だから、もう少し気を張った生活が続く訳だけど、そればかりでも疲れちゃうから、少しゆっくり休まないと。

 

  ガチャッ

 

「こらっ!!」

 

 突如、ドアが開かれると、母さんの怒った声が聞こえてきた。

 

  ぶわっ

 

 走り出す音が聞こえると、スカートが浮遊感に襲われた。

 

「わっ!」

 

「もうっ! パンツ丸見えじゃないの!」

 

 体を回転させて起こすと、母さんがお説教してきた。

 

「うー、休憩中なんだからいいじゃねえか」

 

「こらあ! 女の子がそんな言葉遣いしちゃいけません!」

 

 反論すると、言葉遣いが悪かったせいでかえって怒らせてしまった。

 うえー踏んだり蹴ったりだ。

 

「うっ、きゅ、休憩中くらいいいじゃないのよ」

 

「いけません! いい? 女の子はそういう風にだらしなくなると、すぐに女子力が無くなって、あっという間にダメな女になっちゃうのよ。家の中だからって、パンツ見せちゃダメよ」

 

「はい」

 

 母さんの言ってることは正論なので、一切反論ができない。

 女の子は気が抜けない生き物だ。

 

「さ、幸子、パンツ見られたら、どう思う?」

 

「どうって、そりゃあ……恥ずかしいと思うけど」

 

 まあ、さっきのは驚いた要素の方が大きいけど。

 

「ふふ、じゃあ、パンツ見られたら『恥ずかしい』って暗示をかけなさい」

 

「うぐっ……」

 

 改めて言われると、急に恥ずかしさが込み上げてくる。

 

「ほら」

 

 押し黙っていると、母さんに催促される。

 

「うっ……ぱ、パンツ見られて恥ずかしいよお……」

 

 わざわざ口に出して告白しないといけない。

 自分が悪いとは言え、結構きつい罰ゲームになっている。

 

「ふふっ、幸子、かわいいわよ。その心を大事にね」

 

「あうー」

 

 恥ずかしがる女の子がかわいいのは、自分もよく知っているけど、やっぱりいざ当事者になると、その恥ずかしさは倍増するなあ。

 

「幸子、布団を被るといいわよ。それなら中がだらしなくても大丈夫だわ」

 

 でもきちんと、次回からの改善点も話してくれるから、まあそれなりに親切だとは思う。うん。

 

「うん、次からそうするわ」

 

「ふふ、女の子になったわね、幸子も」

 

 母さんがにっこりと笑いながら部屋を出ていく。

 母さんが笑った理由は、本人が部屋を出てすぐに気付いた。

 それは、私の口から女の子らしい言葉が出たことだった。

 何気なくポロっと出たけど、とっても乙女になっていたことに気付かされた。

 

「……」

 

 石山さんの場合、男だった頃の人生には嫌気もあった。

 でも、私には男の人生に対する後ろめたい気持ちがあるわけではない。

 だから、理屈では分かっていても、「悟」を捨てることには抵抗感がある。

 今日はついに、町役場で性別と名前の変更届を提出した。

 後戻りが出来なくなったこともまた、事実だった。

 最初から後戻りすることはもうないと分かっていても、いざ本当に出来なくなるとかなりの覚悟が要求されるのもまた事実だった。

 

「一つ一つ、よね」

 

 だから、大事なのは積み重ねだと私は思う。

 少しずつ女の子としての成長を実感ができていて、石山さんとまた会う時、きっと大丈夫だろうと思えるようになった。

 土曜日は、石山さんの地方に行き、そこで直々に色々なことを学ぶ。

 何を学ぶのか、今から楽しみだ。

 

 ともあれ、今は休もう。女の子としての慣れない振る舞いを身につけるためにも、今はゆっくり休まねば。

 そう思い、私は布団をかぶせ、しばしの眠りにつくことにしたのであった。

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