永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
ピピピピッ……ピピピピッ……
「ん……」
聞き慣れた目覚まし時計の音が、自分を起こしに来ていた。
今日はいよいよカリキュラムの中でも重要な日で、休日ではあるものの、石山さんの通う小谷学園に行くために早めに起きないといけない。
「ふう」
いつものように起きて、そして服装を決める。
服装についても、暖かい関東の活動を前提にしたものでいい。
「うーん」
今日の服選びはいつもよりとても悩む。
というのも、石山さんに誉められるためには当然スカートということになるわけだけど、どんなスカートがいいのか気になった。
あんまり短いと季節柄もよくないし、露出度の高い服はかえって叱られちゃう可能性だってある。
地味な格好、女の子らしくない格好は論外としても、「女性としてのコーディネート」をどうするかというのは、私には全く分からないし、もちろん母親に聞いていてはカリキュラムの意味がない。
自分で答えを見つけるというのは、やっぱり大変だけど……
「よしっ」
女の子と言えば、ピンク色。
そう思った私は、このピンクの、短いけどふんわりした暖かいスカートが目に入った。
うん、これなら大丈夫だと思う。
まずは服を脱いで裸になり、パンツとブラをつける。意識した訳じゃないけどこっちもピンク色。
女の子の下着にもすっかり慣れた。やっぱり女の体を強調した肉体になると、女性用の下着は欠かせなくなるよな。
更に服を着込み、後頭部につけるリボンは、今日は緑色にすることにした。私の水色の髪色と合わせると結構カラフルに決まってると思う。
テレビ電話で見る石山さんは、いつも白いリボンだけど、私はリボンの色にこだわりはない。
「おはよー」
「幸子おはよう、朝ご飯出来てるわ。食事が終わったら出掛けるわよ」
「はーい」
新幹線は速いとは言え、東京と仙台はそれなりに離れている。
なので、朝食を食べて、比較的すぐに出発する必要がある。
小谷学園までの案内は母さんが持ってきてくれている。
「幸子、今日はカリキュラムの中でも特に大事だから」
「分かってる」
手原たちにも、「カリキュラムが終わったら、気遣いしなくていい」と言ってある。
つまり、このカリキュラムが終われば、もう完全に女の子としての扱いになる。
もちろん、無意識に気遣いをすることはあるだろうけど、いつまでもそのままでは俺のためにもならないから。
「ごちそうさまでした……ふう」
ご飯を食べ終わり、後は出発を待つだけである。
電車の切符を受けとると、財布の中に大事にしまう。
「幸子、その服、かわいいわね」
いきなり褒められた。
「え……あ、うん」
やっぱりまだぎこちない。
かわいいと言われることはいいことだと分かってても、感情的に納得がいくまでは時間がかかる。
いくら理屈で納得しても、それだけではダメということ。最も、男に戻れないことが頭でわかっているなら、自殺は防げそうだけども。
もちろん、これもいつかすれば、「かわいいって言ってもらえて嬉しい」って思えるようになるんだろうとは思うけど、それはまだまだ先の話だ。
「幸子、今日は会長さんも立ち会うって」
行きの鉄道への道すがら、母さんが会長さんのことを話す。
石山さんにとっても、「TS病患者」への教育は初めてのこと。同じ学校の先生と生徒という関係からも、立ち会うにはうってつけだろう。
永原会長……今年で499年目の人生だというにわかに信じがたい人。
「会長さんかあ……」
永原会長とは、まだ一回しか会ったことはない。
普段は石山さんの通っている高校で担任の先生をしているのだという。
石山さんの話では、古典の先生だって言っていたけど、彼女の人生話が本当なら、これ以上に適格な科目はない。
「次は、仙台──」
「幸子」
「ああ」
ぼんやりと考えていると、母さんから声をかけられた。
仙台から新幹線に乗り換え、大宮駅で降りる。
そこからは、何度か乗り換えをして小谷学園に行くことになっている。
とにかく、大宮を出たら油断はできない。
「新幹線はこっちだぜ」
「言葉遣い」
「新幹線はこっちよ……私は女の子……私は女の子……女の子何だから女の子らしくしないといけない……」
今でもまだ、言葉遣いを間違えてしまうことは往々にしてある。
母さんが逆方向に進もうとして慌てて引き留めるというやや急な状況だったので、間違ってしまった。
「ふふ、幸子も成長したけど、まだまだよね」
「うー」
もしかしたら、母さんの謀略だったのかも。
よく分からないけど。
切符を自動改札機に遠し、指定のはやぶさを見かけたのでそちらに乗車する。
「えっと、普通車……5号車の2番の……」
切符と、座席上に表示されている番号とをよく確かめてから乗る。
以前石山さんと会った時にも使ったけど、やっぱり座席の確認は大変だ。
「ここね」
「ええ」
私たちが乗ってしばらくすると、ドアが閉まる音がして、新幹線がゆっくりと走り始めた。
電車内で母さんと雑談しつつ、女の子の言葉遣いを心がける。
それでも、アウトとまではいかないものの完全に女の子らしい言葉遣いかと言えばそうでもないような言葉遣いが多い。
石山さんは、完全に「わよ」って言えるのに、やっぱり修行を怠っちゃいけないんだな。
「幸子、少女漫画読んで見て、どうだったかしら?」
カリキュラムの途中には、少女漫画を読むことで、少女の感性を学ぶ課程があり、自分も感想文を提出することになっている。
読書感想文なんて小学生の時以来だけど、読んだこともない少女漫画の感想文ということもあって、思ったより苦ではなかった。
「うん、感想文は書けたけど……どういう評価になるかは……」
石山さんと2人で東京を旅した時と同じで、恋愛ものばかりであるということを第一に上げた。
それは当然、女の子がそういった話を好むこと。
そしてヒーロー役の男の子も、先輩だったり同じクラス同学年のお金持ちだったり、あるいは学校の先生ということが圧倒的に多く、またそんな「憧れの存在」に対する恋愛の障害も、様式美が多いといった印象だった。
恋愛を全面に押し出さない少女漫画でも、恋愛要素皆無な少女漫画は、自分が読んだ限りでは限りなく0に近かった。
彼氏として結ばれたり、場合によっては結婚して家庭に入って子供を産むというエンディングもある。
結局、女の子が望む幸せの形について知るには、売り上げを出さなければいけない少女漫画は最適の教材だった。
単行本だけではなく、幾つかの少女漫画雑誌も読んだ。
少年漫画と比べると、ダイナミックな絵で訴える場面は少なく、代わりに主人公の女の子が顔を赤くしたり、あるいは地の文での心情描写がとても多い。
恋愛ものが多いといっても、中身はかなりの変化に富んでいる。少女漫画を読んで見て、まさか恋愛ものがこんなに奥深いとは思わなかった。
「ふふ、幸子、少女漫画は恋愛ばかり。でもその中身は?」
「うん、バリエーションは多い」
母さんと少女漫画について話す。
少女漫画特有の画風も多く、いわゆる「萌え絵」とも違う。
「そうそう、女の子の望みを叶えるのが少女漫画なのよ」
そういう意味で言えば、こうやって家庭に入って主婦をして、子供が2人いる母さんは今幸せなのかな?
「うん」
少女漫画も売り上げが大事だから、女の子の気持ちに寄り添ったものが多い。
だからきっと、こういう男の子と結婚したいというのが本音なんだと思う。
新幹線がどんどんスピードを上げていく。
相変わらず窓に吹き付ける轟音を聞きながら、一路南へ南へと進む。
そして、前回同様大宮駅で降りて、更に路線図と案内を頼りに、在来線を乗り継いで小谷学園の最寄り駅に着いた。
「こっちね」
幸いにして、駅構内には地図があって、小谷学園側の出口と道のりはすぐにわかった。
まあ、母さんが地図持ってるけど。
「ふう」
雰囲気は落ち着いているけど、通りはそれなりに賑やかで、ハンバーガー店や大きな病院も見えた。
郊外という感じではあるが、それでも仙台市民からすれば「栄えている」という印象だ。
やや小高い丘のところに、小谷学園の建物が見えた。制服姿はまばらだった。
「少ないわね」
「うん」
それにしたって、部活とか休日練習ありそうなのに。
もしかしたら、小谷学園はこういうのにあまり力をいれていないのかもしれない。
それはそれで学校の特徴なのかもしれないけど。
「えっと、来賓は……こっちね」
「あ!」
ご来賓の方のために設けられた入り口を通ると、すぐに石山さんと永原さんに出くわした。
石山さんは制服姿で、永原さんもOL風のレディーススーツだった。いかにも「先生」という感じだけど、何だか子供が背伸びしているという感じもする。
スリッパに履き替えて準備をする。
「幸子さん、こんにちは」
「う、うん」
石山さんは、自分の服装を見て、笑顔になった。
「今日は、幸子さんに高校生に戻ってもらいます」
石山さんが言うには、こうした学園生活における「スカート慣れ」や「女の子としての振る舞い」が大事になってくるとのことだった。
自分は既にもう大学生な訳だけど、それでもTS病患者には必要だという。
「こっちよ」
4人で、石山さんが普段使っている教室に向かう。
机の上に、石山さんが着ているのと同じ制服があった。
「幸子さん、今から制服に着替えてもらいます」
「はい」
「私が着付けを教えてあげるわね。スカートはむしろ短くていいわよ」
石山さんの目が、少し怪しく光った。
「いや、1人で出来るから!」
さすがに、1人で着替えられない何てことはない。
本能的に危険を感じた。
「あら? じゃあ外にいってるわね。着付けに失敗したらおしおきよ」
石山さんは、不穏な言葉を残しつつ、永原さんと母さんを引き連れてドアの外に出てしまった。
おしおきって……まさかそんな言葉が生で聞けるとは思わなかった。
「ふう」
着替えくらい一人でできる。
といったものの、女子高生の制服を着たことはもちろん無い。
カーテンが閉められた誰もいない教室の中で、服を脱いで畳む。
まずはYシャツを着る、次にリボンがある。
これはどうやら襟にかけるタイプらしいので適当に付ける。
そしてスカートだけど、これはおそらく折れば大丈夫なはずだ。
うー、やっぱり思ってたけど、女子高生のスカートは本当に心許ないなあ……石山さんとか、これより短いのに。
えっと、それで最後にこの制服の上着を着て……うん、多分完成ね。
「よし」
外で待っている3人をあまり待たせちゃいけないし、早めに報告しないと。
「できたよー」
「はーい」
石山さんたちが教室に入ってくる。
母さんが開口一番「まあかわいい」と言って来て、それに対して永原さんと石山さんはちょっとだけにこっとしている。
「うん、かわいいわね。でも……」
石山さんが、俺に近付いてくる。
「リボンが曲がっている! ダメよ!!!」
ぶわっ!
突然、スカートがめくれ上がってパンツ丸見えにされてしまった。
「なっ……てめっ……」
ぺろり
いつのまにか後ろに回っていた石山さんに、今度は後ろからスカートの両横を摘ままれぺろり。
永原さんが「あらピンク」と呟いた。
「リボンが曲がってるわ! それと言葉遣い!」
石山さんが大きく厳しめの声を出す。
「や、やめて!」
「いい幸子さん、リボンが曲がってちゃダメ、それから、今日から女の子らしく無い言葉遣いしたり、間違えたりしたらスカートをめくるわよ。暗示も、『私は女の子……私は女の子……』だけじゃなくて『私は女の子……パンツ見られて恥ずかしいよ……私は女の子……パンツ見られて恥ずかしいよ……』に変わるわよ」
石山さんが、スカートをめくると言い出した。
そして、それに対して恥ずかしがるように指示を出した。
「うーどうして?」
頭が混乱していたのが冴えてくると、急に恥ずかしさがこみ上げてくる。
「女の子として、はしたなく恥じらいがないのはいけません、今日はまだ訓練の日ですから、今のうちに恥ずかしい思いをした方がいいのよ。さ、やってみて?」
「わ、私は女の子……パンツ見られて恥ずかしいよ……私は女の子……パンツ見られて恥ずかしいよ……」
暗示を声に出すと、石山さんはとても誉めてくれた。
リボンをまっすぐに直すと、石山さんが「いいわよ」と言ってくれた。
「えっと、これでいいのかな?」
「残念だけど……」
ぶわっ!
また石山さんにめくられた。
「シャツ、ちゃんと入れなさい」
「は、はい……私は女の子……パンツ見られて恥ずかしいよ……私は女の子……パンツ見られて恥ずかしいよ……」
女の子のパンツというのもあるかもしれないけど、スカートの中を見られるのは実際にすごく恥ずかしい。
悟だった時にはついついスカートの中に視線が行っちゃってたけど、今思えば悪いことしたと思った。
「ふふ、かわいいわね」
永原さんと母さんも、不適な笑みを浮かべていた。
もう少し更新ペース上げたい……