永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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塩津幸子、女の子へ向けて 5日目 後編

「あ、会長ありがとうございます。さ、次は体操着に着替える方法よ」

 

「え!?」

 

 教室に入ると、水着と体操着が置いてあった。

 体操着はともかく、水着は完全に季節外れだ。

 

「もしかしたら、高校生活前提のこの訓練の中では、一番役に立つかもしれないわよ。幸子さんは将来何回も女子更衣室に入ることになるんだから」

 

「え、ええ……」

 

 確かに、その通りだよな。

 

「というわけで、制服から体操着に着替えてみて?」

 

「え!? みんなの前で?」

 

 いきなりのご注文。さっきと同じような……

 

「何言ってるの、これは女子更衣室の訓練よ。それに体操着とスク水の場合は着替えにも着替え方があるのよ。大丈夫、ここの着替えは失敗してもスカートめくりはないわよ」

 

 どうやら、失敗でもお仕置き免除らしい。

 

「そ、そう……」

 

 そこは安心だけど「失敗=おしおき」みたいなものだものなあ……

 

「じゃあまず上の方だけど、こっちは普通に着替えて大丈夫よ。今の季節ならシャツ着てるからブラジャーは見えないわね。でも夏は仕方ないわ」

 

「あ、これはダメなんですか……」

 

「うん」

 

 石山さんによれば、上の部分は季節によっては見えてしまうのは仕方ないという。

 ただし、スカートなら、パンツ見えずに着替える方法があるという。それを自分で見つけなければならないというわけだ。

 無論、これはノーヒントでもすぐに分かった。

 要するに、着る時には体操着から着て、脱ぐときにスカートから着ればいいはずだ。

 どうやら、石山さんのお眼鏡にもかなったみたいで、ニッコリと笑っていた。

 

「うん、いいわね。次の水着は、間違えてもめくらないけど──」

 

「うん、やってみる」

 

 水着の着方は、ゆっくり慎重に石山さんに教わり、こちらも無事に終わった。

 将来的に着るのかは分からないけど、女の子としてはこれらは必ず覚えなきゃいけないことだろう。

 

「これでいいかな?」

 

「うん、ちゃんと見えてなかったわよ。いい、カリキュラムはスタート地点よ。気が緩んでパンツ見えてしまうのはダメよ」

 

「うん、分かっているよ」

 

 そう、これは目標でもなんでも無い、自分の人生はこれからも続いていくものだから、「今課題をクリアできればそれでいい」とは決してならない。

 そのような意識で課題に挑んだら最期、せっかく美少女になったのに、女の子として魅力のないダメ女になってしまう。

 

「でも幸子さん、めくられる度に反応が女の子らしくなっているから、あなたは成績優秀よ」

 

 石山さんが微笑んだ。

 

「あ、ありがとうございます?」

 

 石山さんは褒めてくれるけど、私にはよく分からないから、困惑した反応しかできない。

 

「でも、これから女の子を続けると、スカートめくられたらもっとかわいい反応になると思うわよ」

 

 そんな風に言われても、全くわからない。

 

「でも、模範解答分からない」

 

「今はまだ知らなくていいわよ」

 

 石山さんが交わす。うーん……そうだっ!

 

「いや、その……知りたいんですけど、できれば石山さんが実践して欲しい」

 

「え!?」

 

 石山さんが動揺した隙に、一気に距離を詰めてスカートの裾を掴む。

 

「えいっ!」

 

  ぶわっ!

 

「きゃあああああああああああああ!!!!!」

 

 子供っぽい水玉模様が見えたと思ったら、石山さんが悲鳴をあげ、スカートを押さえた。

 

「あうう、は、恥ずかしいよお……!!!」

 

 そして、地面にへたりこんで顔を真っ赤にしてしまった。

 

「う、うおお……石山さん、さすがですよ……」

 

 思わず感心したくなるくらいの恥じらい方に、これが模範だと思い知らされた。

 こ、この境地に達するには、まだまだ修業が必要だよね。うん。

 

「あうあう……もう、恥ずかしいよぉ……」

 

 顔をうつむけている。これ、男子が見ていたら興奮するなんてもんじゃないだろうなあ……

 

「さっきまでノリノリでスカートめくってきたからね、ちょっと仕返しにって思ったけど……石山さん女の子だわ……」

 

「そうでしょ? 石山さんは優等生だもん」

 

 恥ずかしくてへたり込んでいる石山さんに代わって、永原さんが説明してくれる。

 

「そうねえ、幸子もああいう風になりなさい」

 

 そしてお母さんも「あれを模範としなさい」と言う。

 正直まだまだ難しいよこの反応は。

 

「もうエッチなんだからあ……」

 

 石山さんはまだ床にへたり込んでスカートを抑えている。

 

「数え切れないくらいめくられちゃったからね、1回位仕返しだよ」

 

 私がニッコリと笑うと少しだけ気分がスッキリした気がする。

 でももう一つ気になったのが、水玉模様だ。

 

「それにしても、石山さんって結構子供っぽい下着穿くんですね」

 

 正直そこが意外だった。

 

「え!? いいじゃない、かわいいんだから」

 

「でも水玉ってないでしょ水玉って……私の部屋にもあるけどさ」

 

 女の子というよりは、もはや「女児」と言ってもいいかもしれない。

 見た目から言えばより幼く見える永原さんが穿くほうが、多分似合うくらいの。

 

「もう、結構お気に入りなのよこれ!」

 

「そ、そう……」

 

 石山さんが力説すると、思わず少し引いてしまう。

 石山さんによるとお気に入りだという。

 

「それに、子供っぽいと言っても、男の子はそれが好きだったりする人も多いのよ。幸子さんも将来好きな男の子が出来たら、ちゃんと好みに合わせないとダメよ。彼氏だって彼女に好かれるために必死なんだから」

 

 むむむっ……同じ元男として、これ以上無いほど説得力がある話だ……やっぱりこの手の論争だと石山さんはあまりにも強い。

 

「はーい……」

 

 そう返事すると、石山さんが立ち上がった。

 

「さて、とにかくこれで、学校でするべきカリキュラムは終わりよ。幸子さんの男時代の服の一部を持ってきてくれたと思うけど、帰りにこちらのリサイクルセンターに寄っていってください」

 

 石山さんは何事もなかったかのように振る舞っている。うーむ、まためくってみたいけどさすがに自重しておこう。

 

「分かってます」

 

 お母さんが言う。

 そう、今日のもう一つの目的は、もう着なくなった男時代の服を捨てるというもの。

 このリサイクルセンター、おそらく石山さんも同じように服を捨てた場所なのだろう。

 

「それでは、来賓出口まで見送りますね」

 

 こうして、私達は無言で学校の廊下を進んで行き、いよいよ別れの時が来た。

 

「はい。今日はありがとうございました」

 

「ありがとうございました」

 

「いえいえ、お二人とも、明日がカリキュラム最終日ですし、今日もまだ残っていますのでこの先も気を引き締めてください」

 

 そのような挨拶があった後、学校を後にする。

 

 

「はー、終わったー!」

 

 石山さんたちに見送られ、小谷学園を出る。

 そして、石山さんに貰った地図(といってもインターネットにあるものの印刷だけど)をたどってリサイクルセンターに入り、衣服を売ることになった。

 ここで、お母さんは掘り出し物を見つけるというので別行動になった。

 ちなみに、明日以降は男時代の本などを売ることになっている。どちらにしても、「男に戻るな」ということを強く意識させるためにこうしたカリキュラムを設けているのだろう。

 しばらくしてリサイクルセンターの人から買取のお金を受け取ると、お母さんが既に買い物を終えたみたいだった。

 ちなみに、買いたい物は何もなかったらしい。

 

 次に、昼食の話になった。

 結局、昼食はここで食べることになったので、仙台にもあるチェーン店か、オリジナルのお店かで迷ったけど、結局美味しそうな駅前のお店にすることになった。

 仙台の中心部なら飲食店はたくさんあるけど、郊外となると相当少なくなる。

 一方で首都圏は郊外だろうがお構いなしに大量の飲食店がある。

 仙台の人間からするとまるで繁華街が延々と広がっているような印象さえ受ける。

 

「ふふ、幸子かわいかったわ」

 

 石山さんや永原さんに似た、少し意地悪な笑いを浮かべている。

 

「うー、素直に喜べない」

 

 服とか顔とかがかわいいならまだしも、恥ずかしい目に遭わされるシーンがかわいいと言われると、少し複雑な気分になる。

 

「ううん、それだけじゃないわよ。幸子、カリキュラムが進むごとに自然としぐさも女の子っぽくなっていたわ」

 

 どうやらお母さんの目の付け方は別の部分にあったらしい。

 

「そ、そうかな?」

 

「うんうん、幸子はいい子になるわよ」

 

 やはりこういう所はまだ、女の子にはなりきれていないらしく、自覚はなかった。

 こういった、より女の子としての深みを極めるのには、長い年月がかかりそうだった。

 幸いなことに、私にはそのための時間は有り余るほどに残されているけれども、それでも時間が解決してくれる気には、今はなれなかった。

 永原さんや余呉さんくらい長生きすれば違うんだろうけど、まだ10代の今の自分にはあんな気の遠くなる年月の想像はできない。

 

「……」

 

「どうしたの幸子?」

 

「ああうん、遠い未来のこと考えてた」

 

「そうよね、幸子、徹やその子供たちが死んでも、ずっと生きているものね」

 

 ここ数日、ずっと女の子としての生き方を学んでばかりだったし、その前も男女の違いに戸惑ったり抵抗したりしていて、すっかり影が薄くなったけど、このTS病にはもう1つの大きな特徴として、「不老」というものがある。

 永原さんが言っていたように、「不老」は「不死」を意味しない。

 だから、交通事故に遇えば死ぬし、自殺してしまえばもう二度と生き返れない。

 それでも、老化をしないということは、そういった不運に巻き込まれない限り大丈夫ということでもある。

 永原さんは、500年近く生きてきたし、余呉さんも既に180歳を越えている。

 自分も、いつか何百歳となった時、同じTS病の仲間以外の人たちとうまくやれるのだろうかという不安が、どうしても付きまとってしまっていた。

 

「うん、今はまだ、女の子に適応するので手一杯だけど、いずれそういうのも考えないと」

 

「うん、そうよね」

 

 今はまだ自覚はないけれど、将来的には石山さんと同じように彼氏を作ったりといったこともあり得ることになる。

 けれども、そうなれば必ず寿命問題がつきまとう。

 その時の気持ちの持ちようなども、石山さん、相談した方が……いや、これは永原さんや余呉さんの方がいいかな?

 

「ま、とにかく幸子は今はまだ女の子としての自覚を持つことからよ。今日だって、いっぱいおしおきされちゃったものね」

 

「う、うん……」

 

 お母さんの嗜虐心が、最近ちょっと引っ掛かる。

 確かに、教える側から見ると、がさつだった中身がどんどん女に近付くわけで、やっぱりそういう心を刺激しちゃう要素があるのかもしれないけど。

 

「でも幸子、本当に見違えるようになったわよ。カリキュラム始める前と比べても、ね」

 

 女の子の体と、女の子になろうという気持ちの2つがあれば、意外と簡単に女の子になれるのかもしれないけど。

 

「う、うん……」

 

「お待たせいたしました──」

 

「お、来たわね」

 

 私たちの会話も、店員さんが持ってきた食事によって、途切れた。

 

 

 帰り道も同じように電車に乗り、はやぶさ号で仙台へと戻っていった。

 行きと比べると、リラックスした帰路になれたと思う。

 

「ただいまー」

 

「お姉ちゃんお帰り。どうだった?」

 

 家に帰ると、徹が出迎えてくれた。

 すっかり日常化したためか、私がスカートを穿いていることについては、もう徹も何も言ってこなくなった。

 

「ああうん、まあ……ちょっと、ね」

 

 正直言いにくい。

 

「ふふ、幸子ったらいっぱい失敗しちゃって、石山さんにいっぱいおしおきされちゃったわよ」

 

「お、おしおきって……ごくりっ」

 

 徹が思いっきり唾を飲み込んだ。

 うー、知られたくないけど。

 

「まあ、幸子の名誉のためにも言わないでおくわ」

 

 ふう、よかった。

 それでも色々と妄想されそうだけど、まあそれは仕方ないかな。

 

「とにかく、関東まで行ってきたから疲れたよ」

 

「うん、ゆっくり休んできてね」

 

 昨日みたいな失敗をしないために注意しつつ、ベッドで休むことにした。

 カリキュラムは明日の日曜日で最後になる。

 月曜日からは、また大学での日々に戻る。いや、カリキュラム中も大学はあったけど、それに専念できる形になる。

 一年次は必修科目も多いし、これからのことも考えると留年する訳にはいかないもの。

 

「……」

 

 部屋には、サッカー系の雑誌や男性向けの本が束ねられていた。

 代わりに本棚を埋め尽くしているのは、協会から貰った少女漫画や女性誌だった。中身はおしゃれ系統や、スイーツを始め甘いもの、更には恋愛話の特集が多い。

 明日、男だった時に着ていた服も含めて、これらを古本屋と古着屋に売りに行かないといけない。

 この前の戸籍変更の提出もそうだけど、このカリキュラムは男を捨てることが求められている。

 自分から男を捨てることを意識することで、より女という存在を染み込ませる効果がある。更に言えば、その時の服装は必ず「ミニスカート」と決まっている。

 とにかく、徹底的に女を自分の中に刷り込ませる必要性がある。

 今の自分は男ではない、もちろん「第3の性」でさえない。女を強調したような女だから。

 

「さようなら、悟……」

 

 自然と出た言葉だった。

 どうしても、未練は残ってしまう。

 明日のカリキュラムにしても、男の未練を残さないための儀式でもあることに自分は気付いた。

 そして今の言葉は、まるで悟が別人であったかのような口調になっていた。

 少しずつだけど、やっぱり自分も変わりつつある。そう思わせる、時間だった。

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