永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
冬が日に日に近づいている、そんな11月日曜日の仙台市。
朝を起きて、今日がカリキュラムの最終日と気づく。
昨日石山さんがいる関東まで出向いたのもあって、かなり深く眠った感じだった。
「えっと、今日は……」
下着選びに服選び、今日はミニスカートの指定日で、悟だった頃の面影を捨てるための最後の試練を受ける。
ミニスカートといっても、実際にはかなりの種類がある。元々幸子の服も、スカートを多めに買っていて、これもまた女の子としての自覚を持たせるためにこうなっているという。
「うーん」
やっぱり、スカートはピンク色がいいかな?
それならきっと、女の子らしいって思えるし。
「あ、でもこっちもいいわね」
自分の髪の毛よりも濃い青い色のミニスカート。
でも、手に取ったら、さすがにこの季節で寒色系はよくないとも思い始めた。
「うーん、うーん……」
堂々巡りの結果は、白いYシャツと黒いコートに淡いピンクのフレアミニだった。
飾りすぎないその様子は、いかにも男が考える「かわいい服」って感じだけど、石山さん曰く、「女の子は男の子にモテてこそ」ということで、こうした所は武器にしていいと言っていた。
「おはよー」
「あら幸子おはよう」
「お姉ちゃんおはよう」
徹はまだ、私の女の子らしい姿に慣れていないのか、ちらちらとスカートの揺れる裾と胸を見入っている。
多分、今後とも同じだと思う。
石山さんと東京で遊んだ時もそうだったけど、かわいい女の子へ向けられる周囲の視線はとても多い。
ここ最近の大学での周囲の視線も、まさに「アイドル」のような扱いで、気恥ずかしさと同時に、女性としての優越感を覚えていた。
「徹、台車を用意して? 悟の持ち物、今日売りに出すの」
「はーい!」
既に食べ終わっていた徹が勢いよく立ち上がる。
自分は、昨日の作法通りスカートの後ろを押さえながらゆっくりと座り、パンツが見えないように足も揃える。
「ふふ、たった一日でもうこんなに。カリキュラムはすごいわね」
「えへへ……」
女の子らしくなっていると誉められて、素直に嬉しいと思えるようになった。
かわいい女の子の自分を、受け入れることができている。
今は徹だけだけど、いずれはあの2人にも女の子として意識される自分になれると思う。
お母さんの笑みは、少しだけ違和感のある笑い方だった。
でも、あまり気にしない方がいいと自分に言い聞かせた。
それよりも、今日はカリキュラムの総仕上げに当たる日だから、頑張らないといけない。
「ふふ、幸子、知っているとは思うけど、今日は失敗したらスペシャルなおしおきが待っているわよ」
「す、スペシャルって……」
「さ、きちんと売ることよ」
お母さんの言葉を踏みしめつつ、私も荷物運びを手伝おうとする。
スペシャルなおしおきって……なんかもう嫌な予感しかしない。
「あ、幸子はいいのよ」
「え!? でも……」
「徹が運んでくれるから大丈夫よ。それに、中でカート押さなきゃいけないんだから、今のうちに体力も温存しないと。幸子は女の子なのよ。力仕事くらい男の子に頼りなさい」
うーん、まあお母さんがそう言うなら。
「さ、まずは車の中に入って入って」
お母さんに促され、私と2人で車の中に入り、荷物入れは全て徹がしてくれた。
「じゃあお姉ちゃん、気を付けてな」
「うん」
少しだけ悪い気分もしつつ、私は徹に見送られながら出発した。
車はどんどんと加速し、着いたのはやはり名取にあるショッピングモールだった。
早速駐車場に車を停車し、外に降りる。
ちなみに、荷物を出す作業はお母さんも手伝ってくれた。
「じゃあ、お母さんも買い物があるから、ここで合流しましょう」
「はーい」
お母さんと同時に車を出て、重い台車を押している私がやや出遅れる。
お母さんと私はエレベーターを使い、目当ての階へと向かう。
「じゃあ幸子、女の子らしく頑張るのよ」
「うん、頑張るわっ!」
お母さんに笑顔で見送られ、更に1つ上の階へ。
古本に古着に古レコード、中古ならなんでも買い取ってくれるこのお店に行けば大丈夫、近くには休憩所もあるしそこでゆっくり休むといいだろう。
「すみませーん」
「はい、ご用件は……売却でよろしいでしょうか?」
店員さんも慣れているみたいだ。私の荷物を見てすぐに売却だと気づいてくれる。
「はい、こちらにある古着と古本全てで」
「かしこまりました。番号札でお呼びいたしますのでしばらくお待ちください」
店員さんに番号札を渡され、私は忘れずにスカートのポケットに仕舞い込む。
うー、ミニスカートはスースーするけど、札の重みでちょっとスカートが下がってるから気を付けないと。
ちなみに、財布は胸ポケットにあって、やはり大きめの私にとってはどちらもセクシーポジションになっている。
「私もちょっとは誘惑しちゃってもいいよ、ね?」
ピンク色のかわいらしさを強調したスカートを眺めつつも、見えてきた中央の休憩所が目に入る。
うーん、誘惑する前にちょっと眠くなっちゃったな。
「ふあー!」
かなり疲れた上に、番号はまだ時間がかなりかかりそうだったので、休憩スペースが空いているのもあって、私は倒れ込むように座ると、ふかふか椅子にそのまま眠りについた。
「んー」
ショッピングモールは喧騒があるので、あまり深く眠ることができなかった。
「ふー」
起き上がってみると30分も経ってなかったが、眠気はかなり落ちていた。
自然に立ち上がり、スカートのポケットに手を入れて札があることを確認する。
「よしっ」
どうやら、まだ私の番にはなってないみたいで、番号札はまだ余裕がある。
それを確認すると、私は暇潰しも兼ねてショッピングモールの別店舗を散策する。
うーん、あ、このおもちゃ屋さんがいいかな?
「えっと……女の子のおもちゃは……」
結構所狭しと並んでいて、迷ってしまう。
女の子向けのおもちゃのコーナーに行くと、あったのは人形とかおままごとセットとかだった。
うん、やっぱり女の子と言えばおままごとよねえ。
「えっと、これは……」
胸が大きいので足元があまりよく見えない。
しゃがむと石山さんのレッスンの時見たくなるので、体を前に屈めて……よしっ。
「へえーきせかえ人形セットって結構たくさんあるのねー」
でも、値段が高くて、大学生の私にはちょっと厳しい。
名残惜しい気もするけど、とりあえず元に戻す。
「ふう」
ともあれ、もう少しかかりそうなら、先にお昼ご飯を済ませてしまうのもありかも。
……お母さんにメールしてみよう。
題名:お昼ご飯について
本文:買い取り査定に時間がかかりそうです。お昼を先に済ませてもいいですか?
……送信っと。
ブーッ! ブーッ! ブーッ!
「お、早いわね」
買い取り査定が、まだ全然私の所まで進んでいないのを見てたら、お母さんから返信が来た。
題名:Re:お昼ご飯について
本文:ええ、各自でバラバラにとりましょう。こちらも買い物が長引いてます。母より
うん、そうと決まれば最上階のレストランエリアに行こう。
私はそう決意し、エレベーターに乗って、最上階で降りる。
最上階と言ってもそこまで高い訳ではない。
並ぶお店はチェーン店ばかりだけど、品目は出揃っている。さてどうしよう?
「食が細くなったから……」
よしっ、ミニスカートで寒いし、ここはラーメン屋さんにしよっと。
あ、でもラーメン屋さんも複数あるのよねー、地名は違うみたいだけど……うーん、近い方でいっか。
「あ、お母さん!」
「幸子じゃない」
お母さんも同じことを考えていたのか、地図から目をそらすとばったりと目があった。
確かに、レストランエリアへ行く道は限られているので、こうなっても全然不思議ではない。
というわけで、お母さんと一緒にラーメン屋さんに行くことになった。
「いらっしゃいませー」
お昼ご飯の時間帯から外れているため、意外と空いている。
私は店舗の手前のカウンターに腰を掛け、母さんがあらかじめ聞いておいたメニューで食券を買う。
ちなみに、食べるのは2人ともオーソドックスにラーメンだ。
「ふう、やっと一息ね」
「うん、お母さんの方は?」
「もう少し時間がかかりそうだわ」
お母さんのレジ袋を見てみると、どうやら食材を買い込んでいるらしい。
チラッチラッ
ラーメン屋さんの男性店員の視線を見ると、ラーメンを作りながらもちらちらと私の胸を見てるのが分かった。
これまでもこうした男性の性欲まみれの視線は浴び続けていたけど、やっぱり女の子になりたてでどうにも慣れないというのが本音だったり。
「あら幸子、視線気にしてる?」
どうやら、お母さんも気付いていたらしい。
「う、うん……私も男だったから、魅力は嫌でも分かるし」
「ふふっ、幸子にはまだ早いかしらねこの判断……」
お母さんは胸が大きいというわけではない。
私と並ぶと、私がかわいくて美人なのもあって到底親子には見えない。
って、自分で言っちゃダメか、やっぱりまだ「自己」が確立されてないらしい。
「お待たせいたしましたー」
「あ、来たわね」
その後も、時折会話を交えつつ、ラーメンを食べ終わったらラーメン屋さんから出る。
そして、再びお母さんと別れると、いつの間にか査定が終わっていた。
私は、番号札を見せて店員さんから買い取り額を受けとる。
ちなみに、この買い取り額は全額私の小遣いになる。
一部売れなかったものは、お店の方で処分することになった。
「よしっ」
私は、そのままエレベーターに戻り、地下の駐車場前の待ち合わせ場所に行った。
どうやら、お母さんはまだ買い物中らしい。
そして、何度かエレベーターが開き、お母さんいるかな? と、小さな期待と落胆を繰り返して、4回目にお母さんが乗っていた。
「幸子、待った?」
「ううん、別に」
「そう……じゃあ、帰るわね」
こうして、私達は車で元来た道を引き返す。
道すがらにお母さんから、「フィードバックをするから部屋にいて」と言われた。
「さ、部屋に行くわよ」
「はい」
何やら、怪しい雰囲気が漂ってきた。
でも、今日は殆ど別行動だったし、大丈夫だよね?
「ふふっ、幸子、今日のことだけど」
「うん」
「実はね、買い物は殆どしてないの。幸子のことを監視してたわ」
お母さんから衝撃の事実が発覚する。
「ええ!?」
「それでね幸子、休憩所で寝てたわね?」
どうやら、全部ばれていたらしい。
「うん、私疲れちゃって」
「はあ、こんなに短いスカートで寝たら、どうなるか分かってるかしら?」
そう言われると、私の顔が急に熱を帯びた。
あううー、恥ずかしい……
「幸子、今からあなたに罰を与えるわ」
「ば、罰って……」
「みっともなく、お行儀の悪いことを、カリキュラムの最終日にしてしまったのよ。当然、恥じらいの心を改めて身に刻み込むためにも、幸子にお仕置きしなきゃいけないわよ」
ごくりと唾をのみ込む。
これまでの経験から、ろくでもないお仕置きなのは簡単に推察できた。
「さあ幸子、スカート、めくりなさい」
「え?」
いきなりの発言に一瞬固まってしまう。
「恥じらいを捨てたら乙女じゃないわ。さ、それ植え付けるためにも、これは必要なことなの」
「は、はい……」
気迫に押され、私は恐る恐るスカートの裾を持つ。
そのままずるずる引き上げて……うー、想像以上に恥ずかしいよー。
「ほら、そんなんじゃダメよ」
「こ、これ以上めくったらパンツ見えちゃう!」
正直、この格好でも恥ずかしいのに。
「ダメよ! これはおしおきなの! きちんと上までめくりなさい!」
「はは、はい……」
お母さんの気迫に押され、私は更に上までめくっていく。
うつむきながら、お母さんからの「まだ」の声に、鞭で打たれるような感じで、更にめくりあげていく。
そして、もうこれ以上無理と言った所で、ようやく「ストップ」の声がかかる。
ただし、下ろしてはいけない。
「さあ幸子、今日はどうしておしおきされているのか、謝罪の言葉も添えて言いなさい」
こ、怖い……
「は、はい。えっと、私は、ショッピングモールの休憩所で、不注意にもスカートの中を、ふ、不特定多数に見られてしまいました。お、女の子としてふさわしくない、は、はしたない行為でした」
パンツ見せながら反省させられる。
す、すごく恥ずかしいよお……
「ふう、下ろしていいわよ」
「あうう……恥ずかしかったー」
ようやくお許しが出てスカートから手を離す。
重力に従ってスカートがすとんと落下し、元の状態に戻ると、私はようやく一呼吸置く。
ぐいっ
「うわあっ!!!」
次の瞬間、お腹に腕を押し付けられる感覚に襲われ、急激に視界が低くなる。
そのままベッドに座っていたお母さんの膝の上に載せられると、今度はスカートがめくれ上がっていき、今度は後ろのパンツを丸見えにさせられる。
「幸子、あなたは今日は2回もパンツを見せていたわ。あのおもちゃ売り場で、あんな風にかがんだら、背の低い子供でなくても見えるわよ」
「あうっ」
どうやら、あそこでも失敗したらしい。
「さ、おしおきよ」
あうー、これって明らかにお尻ペンペン──
さらりっ
「ひゃうっ!!!」
お尻を叩かれると思ったら、さらっと触られた。
さらりっ
「はううっ……」
パンツを触られる感触が、さっき以上に恥ずかしさがこみ上げてくる。
「ほら、反省の言葉は!?」
「はいっごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
半泣き状態で、反省させられ、しばらくしてようやく解放された。
「ふえええ」
恥ずかしさのあまり、そのまま座り込んでしまう。
お母さんからよく反省するようにだけ言われ、部屋に1人になった。
「女の子って大変だ」
常に周りに見られ続ける。
それがかわいくて美人な女性なら、なおのこと注目を集めてしまう。今日だってそうだ。
石山さんも、いや、あの可愛らしい石山さんは、私なんかよりももっとこうした体験をしているに違いない。
「はあー」
美人の人生ってイージーモードで、しかも不老ともあれば得ばっかり何て考えていた時もあったけど、美人も美人で大変なことがよくわかった。
「幸子ー! 夕食作るの手伝ってー!」
しばらくして、慌ただしくお母さんに呼ばれる。
家事はとにかくこのカリキュラムで重視されている。
「はーい!」
特に、家事の能力がカリキュラムでは重視されている。
家事が出来ない、性格悪い、美人じゃないといった欠点は、結婚する上でマイナスになる。
性格面はTS病という特性上、男子の理想を再現しやすい。その上で家事が得意な美人となれば、女の子として引く手あまたよね。
だからこそ、家事の能力が重要ってことなのだろうけど。
「男子にモテるっか……」
「どうしたの幸子?」
家事の手伝い中も、私はいまいち集中できなかった。
カリキュラムの間でも、男子受けを徹底するように度々釘を刺された。
「その……今の自分……女の子になったばかりの私が男にモテるってどうなのかなって」
「あら? いいんじゃないかしら?」
お母さんは、あくまでも気楽をイメージしている。
「幸子も女の子なのよ、男の子を好きになって何もおかしなことはないわよ」
確かにそれはその通りで、ということはつまり将来は男の子のあれを──
うー、何か気持ち悪い。やっぱりまだまだ女の子にはなれていないっぽいなあ。
石山さんとかは、とっくにそういうのが好きになるくらい女の子になってるのかな?
「さ、そろそろ火を止めて」
「はーい」
その後、石山さんと最後にテレビ電話をした。
石山さんによれば、あの時のおしおきは一番重いのだったとか。
うー、成績がいいといっても、今後が不安になるなあ……
カリキュラムが終われば、ある程度「独り立ち」ということになる。
しかし、言うまでもなく自分は全く女の子として「独り立ち」出来ておらず、「とりあえず自他共に認める女の子だけど」という、何ともふわっふわっとした状態なのだ。
女の子になったから、石山さんみたいに彼氏を作りたいと思う。
でも、女の子の恋愛観も、まだ少女漫画の世界でしか知らない。
女の自分という人格が、まだあちこちで「工事中」といった印象を受ける。
でも、いつかは完成させなきゃいけない。
本当に完成することが出来るかはともかく、今は今後に向けて頑張らないと。
「徹を呼んできて」
「うん」
お母さんに言われ、徹の部屋の前に立つ。
「徹ー! ご飯だよー!」
「はーい! お姉ちゃん今いくよー!」
徹が、部屋を出てきた。そして、2人で縦に並んで歩く。
その間、私も徹も、何も喋らなかった。
明日からはいよいよ、独り立ちしなきゃいけない。
カリキュラムが終わっても、その後も人生は続いていく。多分この後も、困難は多いんだろうと、私はそう直感している。
不安でいっぱいだけど、時は無情に過ぎていく。ベッドに入れば、心地よく眠ることが出来た。