永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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林間学校三日目 長い自由時間

 自由時間中、私達はルームメイトだけではなく、色々な人達と遊ぼうという話になった。

 サッカー部の虎姫ちゃんや、学年の女子グループのリーダーの一人だった桂子ちゃんはともかく、私は女子として、普段は他のクラスの子とはあんまり交流がない。

 

 今回の自由時間で、何か交流でもあればいいんだけど……

 

「あれ……優子さん! 優子さんじゃないですか!」

 

「あ、龍香ちゃん!」

 

 龍香ちゃんが声をかけてくる。近くには知らない女子がいる。

 

「えっと、あなたが石山優子さん?」

 

「う、うん……」

 

「元々は男の子だったのにある日突然女の子になったんでしょ? そのことについてちょっと聞きたいと思って」

 

「は、はい。あたしでよければ――」

 

 私は、その女子……1組の女の子にTS病の大変さなどを教えた。

 でも、自分の意志で女の子になると決めたこと。乱暴だった昔を捨てる決意も語った。

 

 

「でさでさー、優子ちゃんってもう生理来てるのー!?」

 

「ぶー」

 

 いきなり生理のことが出てきて吹き出してしまう。く、口に何も含んでなくてよかった。

 

「ちょ、ちょっと……女の子がそういうの……はしたないわよ!」

 

 私が抗議する。

 

「ふへー、本当に女の子らしいなー、そんなの気にしなくてもいいのにねー」

 

「だめよ! あたし、女の子は女の子らしくしないといけないって心に決めたんだから!」

 

「優子さん、こう見えて結構繊細なんですから。デリカシーないこと言っちゃダメですよ!」

 

「はいはい堅いこと」

 

「でも、優子さんはまだまだ、深い所で女の子になれてないんですよ!」

 

「え? そうなの? もうどこからどう見ても女の子そのものじゃんこの子」

 

 そう言ってくれるのは嬉しいけど……でも課題は課題。

 

「チッチッチッ……まだまだ女性特有の感性や趣味、恋愛観と言ったところでは、優子さんはまだまだ鈍いんですよ。ガールズトークもついていけないことが多々ありますからねえ」

 

「ううう……龍香ちゃん容赦ないよお……」

 

「まあでも、そういった所も、優子さんは少しずつ改善して、女の子になっていきたいと言ってます。本当にすごい人ですよ」

 

「あ、ありがとう……」

 

 努力が認められるのは嬉しい。

 

「でも、優子ちゃんってどういう性格なんです? やっぱりその辺はまだ……」

 

「うーん、性格は、優一だった頃に比べるとむしろ正反対って感じですよ!」

 

「というとーどんな?」

 

「優子さん、とっても繊細で、傷つきやすくて……すごい泣き虫で……だけど誰よりも健気で、名前の通り優しい女の子ですよ!」

 

「や、優しいの? 私?」

 

「うんそうですよ。優しくありたいという気持ちは、誰にも負けてませんよ」

 

「龍香ちゃん! ありがとう!」

 

 女の子らしい性格になりたいと思っていたから、乱暴な性格だった昔と正反対になれたのはとても嬉しいこと。

 

「ほら、またちょっとだけ、涙ぐんでるでしょ?」

 

「え?」

 

 確かに、言われてみれば。心は動かされていたかも。

 

「なーんて、嘘ですよ。優子さんは確かに嬉しかったり悲しかったりすると、とてもよく泣きますけど、そこまで泣き虫じゃないです」

 

「もー! 龍香ちゃん!」

 

「そして怒った時も可愛いんですよ」

 

「あははははは」

 

 ううう、完全に遊ばれてる……

 

「おっと、あんまりいじるのも可哀想だからこの辺にしておきますよ」

 

「それよりも、実は優子ちゃんにもう一個聞きたいことがあるのよ」

 

「何?」

 

「永原先生のことですよ。あの噂って本当なの? それから誰が証明したの?」

 

「ええ、永原先生が499歳ってのは小谷学園の近くにある佐和山(さわやま)大学の蓬莱教授が証明したそうよ」

 

「ええ!? 蓬莱教授がですか!?」

 

 龍香ちゃんも驚いている。

 

「そうなのよ」

 

「ふへー、あのノーベル賞学者がねえ……ってことは優子ちゃんも」

 

「うん、交通事故とかで死ぬ確率なんて早々ないし、多分100、200年後、もしかしたら1000年後でもこの姿で生きてると思う」

 

「1000年後かあ……私のおばあちゃん、人生はあっという間って言ってたけど、永原先生に言わせれば、500年はあっという間っていうのかな?」

 

「それがね、そうでもないのよ」

 

「どういうこと?」

 

「江戸時代までは結構あっという間だと思ってたけど、ここ100年、特に最近70年はまた時間の進みが遅くなった気がするんだって」

 

「たしかに、最近の時代の変化はすごいですからねえ……」

 

 

「ねえねえ、石山さんでしょ? 色々話聞きたいんだけど……」

 

「あ、はい」

 

 また別の知らない女子があたしに声をかけてきた。

 すると、どこから聞きつけたのか。他のクラスの女子が大人数集まってきた。

 

「ねえねえ、あの日救急隊員が来てたけど、どんな感じだったの?」

 

「えっと、下腹部が痛くなって、保健室行こうとしてそのまま倒れて――」

 

「それで、血を吐いたんですよ!」

 

「ちょ、ちょっと龍香ちゃん!」

 

「でも、それが私達の見た『優一』としての最後の姿でしたよ」

 

 

「永原先生の噂って本当なの?」

 

「ええ。佐和山大学の蓬莱教授が――」

 

 

「ねえねえ、どうやってその女の子らしい仕草と言葉遣い覚えたの?」

 

「永原先生がカリキュラムを作ってくれまして――」

 

「どんなカリキュラムなの?」

 

「えっと、掃除洗濯と言った家事だったり、スカート穿いて出かけたりして――」

 

「へえ、大変そうねー」

 

 

「ねえねえ、女の子の日の時ってどうするの?」

 

「ちょっと! その質問答えるのはやだよ!」

 

 てか、まだ来たの2回だけだし。

 

「えー別に女の子しか居ないしいいじゃん!」

 

「嫌よ! 何処に男子が居るかわからないのに」

 

「「「えー!」」」

 

 女子たちが一同に不満の声を漏らす。

 

「嫌ったら嫌よ!!! セクハラやめてよ!」

 

 説明するの恥ずかしいし。

 

「ほらほら皆さん、優子さんは花も恥じらう乙女なんですから。恥ずかしそうにしてますよ!」

 

 龍香ちゃんが永原先生と同じことを言う。乙女って言ってくれるの、やっぱり嬉しい。

 

「「「はーい……」」」

 

 何とか生理の時のエピソードは聞き出されなかったが、TS病のこと、カリキュラムのこと、永原先生のこと、根掘り葉掘り聞かされてしまった。

 

「あらあら、女子の皆さんで集まってどうしたんですか?」

 

「あ、永原先生!」

 

「ねえ先生、先生が500歳って本当なんです?」

 

「江戸時代とかどういう生活してたんですか?」

 

「はいはい、一人ずつ、一つずつ質問して下さいねー」

 

 最終的には、永原先生本人が登場し、その場を明け渡すことになった。

 最も「石山さんも帰らないで」と言われたので、かなりの時間を拘束された。

 そのうち男子も集まってきたし。

 

 関ヶ原の戦いの見物談の他にも、江戸城での日常についても話してくれた。年長者ということで、多くの大名や旗本が話を聞きたがったが、公的には江戸初期の生まれとなっていたため、関が原については話せなかったらしい。

 最も、戦国生まれだったのはみんな知ってたらしいけど。

 それと、9代将軍の言葉はやっぱり分からなかったらしいが、「大岡出雲守」と言う人が通訳になってくれたので戦乱の時代のことを話したそうだ。

 

 また、戦国時代の人とあって、戦争についても「人の摂理」「無くすことは不可能」「珍しいことではない」と言うだけで悲劇性については何も語らなかった。

 

 ともあれ、永原先生が「この辺で解散」と言った頃には、もう昼食も目前だった。

 私は携帯電話で桂子ちゃんに「レストランで落ち合うので私の分の食事券を持ってきて欲しい」とメールを送り、2階のレストランに集合した。

 

「ふー、虎姫ちゃん、桂子ちゃん、食事券」

 

「あ、はい」

 

「ありがとう」

 

「にしても優子、大変だったね」

 

「え?」

 

「とぼけないでよ。優子ちゃん、女子たちに捕まったんでしょ」

 

「う、うん……そうだけど……」

 

「質問攻めにされてたよね。永原先生が来ても逃げられなかったし」

 

「うんうん」

 

「でも確かに、みんなが聞きたがってたのは事実だと思うのよ」

 

「ええ、私達は優子ちゃんや先生の秘密を本人の口から聞いてるけど、他のクラスの人は又聞きなのよ……だから、まとまった自由時間のあるこの時間に根掘り葉掘り聞きたいと思うのは当然よ」

 

 確かに、他のクラスの人の立場ならそうなるよね。

 

「さ、お昼ご飯にしましょ。どうやらバイキングではないようですよ」

 

 食事券を見てみると、いつもと違うデザインで「1000円」と書いてある。

 3人がけのテーブルに案内されると、いつもは存在しない呼び鈴が3つある。

 

「どうやら一人1000円までは無料らしく、それ以上は追加料金が必要だそうです」

 

 ふむ……

 

 メニューにあるのはラーメン、そば、うどん、スパゲッティといった麺類の他、ピザやカレー、とんかつ定食、焼肉定食などもある。

 だいたいどれも1品と飲み物で1000円前後になるように出来ている。

 

「よし、とんかつ定食とオレンジジュース」

 

 虎姫ちゃんが決めると、呼び鈴を押す。

 微かにベルの音が聞こえ、ウェイトレスがこっちに来た。

 

「ご注文お伺いします」

 

「とんかつ定食にオレンジジュース」

 

「かしこまりました」

 

 そして注文表を置いていく。

 

 その後、私は天ぷらうどんと麦茶、桂子ちゃんは醤油ラーメンとミニ餃子を頼んでいた。

 餃子は3人で食べていいとのこと。3個だったのでありがたく1個食べさせてもらった。

 

 私だけ10円超過だったので、10円玉を帰る際に支払う。食事の終了までは時間があるので、自室に戻り休憩し、永原先生に呼び出されて実行委員のいつもの仕事をする。

 自由時間に夢中になってたせいか3人が食事を失念していたが、幸い2組からは0だった。

 今回の昼食の無料券は軽食屋さんでも使えるのが不幸中の幸いではある。後で永原先生が教えてくれたが、このメニューは軽食屋で出しているものらしい。

 

 

 ともあれ、昼食が終わったら午後の自由時間に入る。女子に捕まることもなかったので、私は自室に戻る。

 桂子ちゃんは何処かに出かけていて、私は虎姫ちゃんと、虎姫ちゃんが呼んだ恵美ちゃんのマッサージを受けていた。

 

 というのも、私が1時間5000円のマッサージ師を呼ぼうとしたので、虎姫ちゃんが「恵美と二人でマッサージする」と言ってくれたためだ。

 

 うつ伏せになって肩や背中をマッサージしてもらう。

 

「あああ、気持ちいいー!!!」

 

 相変わらず虎姫ちゃんと恵美ちゃんのマッサージが気持ちいい。

 肩こりには毎日悩まされているけど、こうしてほぐしてもらう時は至福の時だ。

 

「それにしてもよ。肩揉まれて気持ちよさそうにしてる優子って可愛いよな」

 

「うんうん、何もしなくても可愛いですけど、やっぱり幸せそうにしている優子が一番よね」

 

「ええ、そう? ありがとう……あーそこよそこ、うん、そこがこってるのー!」

 

「しっかし、重いだろそれ?」

 

「え、うん。何キロあるかわからないよ……」

 

「聞くところによるとEカップで大体1キロ位らしいぜ」

 

「え? でも私……」

 

「あー言わんでいい言わんでいい」

 

 今のカップ数はEより大分大きいし、間違いなく1キロじゃ効かない重さ。というか、あの店でブラジャーがあったのが奇跡なレベルだし。

 

「よし……こんなところかな!」

 

「ありがとう」

 

  ガチャ

 

「あ、恵美ちゃん来てたんだ」

 

 部屋に入ってきたのは、桂子ちゃんだった。

 

「ええ、優子がマッサージ師呼ぼうとしてたから、私が恵美ちゃんを呼んだんですよ」

 

「あはは、優子ちゃんらしいわね」

 

 マッサージが終わり、私はバッグから少女漫画を取り出し、読み始める。

 転校生との恋での障害。転校生はスポーツに夢中で、恋愛に鈍感だということ。

 それでも健気にアタックを続ける主人公。

 

 ……お、ついに告白した。

 私も、頑張れ頑張れと意味もなく応援してしまう。

 

 結局恋は実ることになってハッピーエンドだ。

 

「優子ちゃん、少女漫画好きですよね」

 

「なー。あたいなんて殆ど読んだことねえぜ」

 

「カリキュラムの時に読むように言われて、その時に渡されてからまだ読んでないのがあるのよ」

 

「そうか」

 

「まあ、せっかく貰ったし……読まないのも何だかなあって……」

 

「ふっ、今は、そういうことにしておいてやるぜ」

 

「でもでも、女の子が少女漫画読むのは普通のことよね?」

 

「うんうん、優子ちゃんは何もおかしくないよ」

 

 そうだった。もう女の子なんだから少女漫画読んで何も悪くないよね。

 やっぱり、まだまだ女の子になりきれてないよね、私。

 

「そうね、堂々と読めばいいのよね」

 

「うん、優子ちゃんの言うとおりよ」

 

「よし!」

 

「どうしたの?」

 

「読む場所変えるわね」

 

「そ、そう……」

 

 あたしは立ち上がり、桂子ちゃんたちを尻目に、少女漫画を2冊持って部屋を出る。

 そしてエレベーターで最も人通りの多い1階に移り、ソファーに座って、別の少女漫画を読む。

 

 この漫画はやっぱり恋愛系。うちの学校とは正反対に、校則の厳しい学校で、密かに恋愛するという感じだ。

 

 

「あれ、あそこで少女漫画読んでるの石山じゃね?」

 

 篠原くんだ。

 

「あ、本当だ……」

 

「おーい、石山!」

 

 高月くんが声をかける。

 

「うん? どうしたの高月くん? 私にどんな用事なの?」

 

「いや……その……石山って……少女漫画読んでるんだなって……」

 

「高月くん、女の子が少女漫画読んじゃダメ?」

 

「あっ! い、いやいや、全然そんなことないぞ。お、男だって読む人いるくらいだしな! なあ篠原!」

 

「あ、ああ。俺は知らないけど……」

 

「ふふっ。こっちは読み終わったから、篠原くんも読む?」

 

「ああ、いやっ……え、遠慮しとくよ」

 

「そう? あたしはもう少しここで読んでるから、篠原くんたちも自由時間楽しんでね」

 

「う、うん!」

 

 篠原くんがまた顔をそらしながら、足早に去っていった。

 少し経ってふと見てみると、高月くんが篠原くんをいじってるような様子が見て取れた。

 

 その後も、通りがかった何人かの男子がヒソヒソ話している。

 私が女の子向けの漫画を読んでいるというのは、やはり結構衝撃的らしい。

 絵的には可愛い女の子が少女漫画読んでいるだけなのだが、やはり学校中があたしの正体を知っているためそのあたりのギャップもあるらしい。

 しかも、誰かが少女漫画の内容を知っていたらしく、女の子が主人公で、校則の厳しい学校で密かに恋愛する話だということも噂が噂を呼び知られていった。

 

 時折声をかける人も居て、その時はさっきみたいに「女の子が少女漫画読んじゃダメ?」と聞くと、あっさり引き下がってくれた。

 

 何だろう、他のクラスの子からも、少しだけ好感度が上がった気がする。

 優一時代、小谷学園で珍しい乱暴者ということで他のクラスまで悪名が轟いていたが、その後も「乱暴者が可愛い女の子になって性格が丸くなるどころか正反対になった」というのが他クラスでのあたしの認識だった。

 

 それが、今は少女漫画を読むようになっている。

 内容もとてもメルヘンチックな恋愛もの。障害を乗り越えた恋愛という形だ。

 

 少女漫画は心情描写が多い。

 私が心まで女の子になる上で、現在の課題は「深いところ」だ。

 少女漫画を読めば、そういった深い心情、主人公の気持ち。これに共感出来るかどうか。共感は難しくてもまず理解から始める。

 

 少女漫画を読むのは、単なる暇つぶしではなく、そうした意味もあることに、私は気付かされた。

 

 憧れの男の子とデートすることになる。

 何だろう、この男の子すごくかっこいい……

 ふむふむ、こうすると女の子って惚れるのか……私もちょっとだけ気持ちは分かるかな。やっぱりかっこいいもん。

 

 少女漫画を読み続けていて、ふと時計を見る。

 バーベキュー実行委員の集合時間まで残り25分になっていた。

 一旦自室に戻り、桂子ちゃん・虎姫ちゃんと共に少しだけ雑談しつつ、私は永原先生から事前に呼び出されていた集合場所に行くことになった。


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