永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「「「ごちそうさまでした!」」」
みんなでごちそうさまをし、後片付けに入る。
まず水をかけて火を消し、火災の危険性を消す。
私達は椅子や紙皿などを所定の位置に捨て、男子はテーブルなどを片付ける。
「うーん」
「どうしたの優子?」
「ああいやゴメン、何でもない……」
「そう? ちょっと顔色悪いよ」
「う、うん……」
ちょっと3日分の疲れが出ている。多分前回前々回の経験から明日は大丈夫だと思うけど、明後日あたりからはちょっと辛い一日になりそうだ。生理も人生三回目だけど、慣れることはない。
ふと思う。今後の人生で、生理は何回来るんだろう。一番長生きの永原先生でさえ、今も来てるって言ってた。
480年間女性をやっているとして、月に1回とすると……4800に960を足すから……5760回か……5000ヶ月長い年月だ……
そしてもし1000年生きるとしたら1万回以上の生理を経験する。と。
月に一回とは言っても長生きすればそれだけ来るってことか。ちょっぴり憂鬱だ。
ともあれ、生理のことを考えるのはそこそこに、片付け作業を再開する。
折りたたんだ椅子やテーブル、そして鉄板も、所定の位置に置いておけば、後はホテルの人が片付けてくれるそうだ。
私達が片付け終わると、とっくに日は落ちていた。
私は篠原くんと合流し、永原先生のもとへ行く。
「さ、花火大会に向けて、少しだけお手伝いするわよ」
「「はい!」」
「じゃあこっちに来てくれるかな?」
この後は小さな花火が行われる。そのことで、少しだけ運ぶのを手伝うのだ。他のクラスの実行委員には、それぞれ別の役割が与えられていて、私達は花火師さんたちとともに荷物を運ぶことになっているのだが……
「おっ! 嬢ちゃんはこれだけ持ってくれ。そこのガタイいい兄ちゃん、お前は嬢ちゃんの2倍な。あー危険なもんは運ばんことになっとるから安心せい」
「あいよ」
「……う、うん……」
「どうしたお嬢ちゃん? 女の子でもこれくらい持てるはずだぞ」
うわーこの量はちょっと厳しいかなあ……女の子でも持てると言っても、あたしは女の子の中でも力ない方だし……でもやらない訳にはいかないし……
うじうじしてても仕方ない、とりあえず持ち上げてみよう。
「うーん!!!」
よし、何とか持ち上がって……
「わっわわっ!!!」
足が、危ない!!!
……ドスンッ
「はぁ……はぁ……」
「お、おい、大丈夫か? すまねえ、ちょっと女の子には多かったか……」
ぜ、全然前に進めない……二回に分けないと……
「……ほら、い、石山。持ってやるぞ」
「篠原くん……ありがとう」
篠原くんが私の荷物の半分を持つ。ただでさえ私の2倍を持っているのに、最初のと合わせれば、篠原くんは私が持つ5倍の量を持つことになる。
私は半分でも力を入れながら持ち運んでいるにもかかわらず、篠原くんは平気な顔をして持ち上げる。
「ほう、お前相当鍛えてるな!」
篠原くんは、花火師さんよりも多くの荷物を持っていて、花火師さんの方は年齢がいっているためか結構踏ん張りながら運んでいるが、篠原くんは涼しい顔で運んでいる。
篠原くん、篠原浩介くん。本当に力強い男の子。
でも、私もちょっとだけ貢献する。
「おし、ここに置いていてくれ」
そう言われたので、花火師さんに言われた場所に置く。
「おーい、全部運び終わったぞー」
「お、もう戻っていいぞ!」
「「はい!」」
その声を聞き、返事をしていると、永原先生が駆け寄ってきた。
「二人共、お疲れ様、さ。花火見るわよ。2組はこっちよ」
永原先生の声とともに、私達も他の生徒たちがいる元へ。
花火師の人が来る。
花火師さんのうちの一人が代表して、他のクラスの実行委員がセッティングしてくれたマイクと朝礼台の前に立つ。
「えーみなさん。本日は『山のはて花火協会』の花火をご見物いただき、誠にありがとうございます。当花火協会は、えー江戸時代。幕末の創業です。老舗の匠の技を、是非ご覧ください」
よく考えたら創業が幕末期ってことは永原先生の方がこの花火協会より倍以上生きてるんだよな。
江戸時代よりも前からの老舗は、戦国時代の影響もあって激減するって聞くし、やっぱ永原先生ってすごいわ。
「えーこれから行います花火は、まず――」
花火師さんが、花火の内容を説明する。
本当に小規模なもので、小谷学園生だけに開かれた、ささやかなお祭りという感じだ。
時折ジョークも混ぜてくれるが、年齢的なギャップがあるためかあまり受けていない。
永原先生は分かるのか、少しだけ笑ってることがあるなあ……
あ、でもよく考えると永原先生と花火師さんより私達と花火師さんの方が年齢的にはずっと近いはずなのに……
……考えても仕方ないか……
「――えー、以上で私の方からの説明は終わります。何かご質問はありますか?」
「……」
「えーなければ、早速花火大会の方に入りたいと思います。あ、玉屋でも鍵屋でもないのでそこの所はよろしくお願いします、以上!」
花火師さんがそう言うと、また別のクラスの生徒がマイクと朝礼台を片付け、急いで列に戻る。
準備ができたのか、花火師さんたちが合図を送り、火をつけるような動作をする。
ボーン! バラバラバラ……
天に向かって一筋の光が放たれると同時に激しい音がしたと思ったら、乾いた音と共に円形の花火が開く。
オーソゾックスだが、やっぱり間近で見ると迫力がある。さっきの説明だと控えめで小さいものらしいけど。
「すごいわねえ……花火の進歩……」
次々打ち上げられる花火を見て、永原先生がそうつぶやく。
小さいながらも色々カラフルで、時折拍手も沸き起こっていた。
「永原先生、どういうこと?」
「私も江戸城に住んでいたからね。常駐と言っても街に繰り出すことはよくあったから、時折町娘として隅田川の花火を見たことがあるのよ。その時は色なんて無かったし、火事の危険性ばかり高くて……よく禁止されていたのよ」
「火事……ですか……」
たしかに当時は木造建築だっただろうし、火災になりそうなのは分かる。
「ええ。私が住んでいた当時の江戸はもう本当によく火事が起きたものよ。中でも江戸城に住み始めて4年後に起きた大火事の凄まじさは忘れようもないものだったわ。江戸城の天守が燃え落ちて……再建もできなかったんですもの」
永原先生がまた昔話をする。
「永原先生、そんな火事でよく生きていましたね」
「ええ、4代様が私を一番に逃がせと仰せでしたので上様とともに無事に非難することが出来ました」
「江戸城まで燃えるとは……凄まじい火災だったのねえ……」
「……ええ、眼下の江戸の街を見れば、逃げ遅れた人々が次々と……本当に、4代様の江戸城定住の仰せがなければ……あるいは噂の広まりと拝謁が遅れていれば、私もあの火事で死んでいたかもしれません」
「永原先生が元々住んでいた場所は?」
「端の方でしたけどそれでも焼け落ちてました。鎮火しかかったと思ったら別のところから出火するなんてこともありました。ともかく私の499年の人生の中で、戦乱の時代を除いて命の危険を感じた唯一の事件ですよ」
花火を見ながら、当時の大火事の凄まじさを証言する永原先生。
「去年の糸魚川で起きた大火とは?」
「あんなもの、子供の火遊びよ。人が死ななかっただけでも大成果よ」
永原先生の冷徹な一言。花火もまた、私達の会話を無視して進む。
これは青い花火でささやかに文字が書かれている。
「そういえば70年前の戦争の時は?」
永原先生に質問する。
「あの時は女学校の先生として地方に疎開していたわね、いざとなれば一人で山中に逃げる手立てもあったので問題ありませんでした」
「じゃあ東京大空襲とかは?」
「噂でしか聞いたことないわよ。関東大震災の時は山口に赴任していたし」
「意外と運がいいの?」
「いえ、明治以降、今のこの辺に定住するようになったのは昭和30年頃からですから。それまでは教師生活するにしても、色々な場所を渡り歩いていましたから。むしろ災害に遭遇するのは運が悪い方でした」
先生という職業が、永原先生を長生きさせたのかもしれない。
「そう……」
「さ、私のこともいいですけど、花火見ましょう」
「そうね……」
まあ、花火見ながら話してたんだけど。
「えー、次でラストとなります」
マイクを持った花火師さんがそう伝える。
前方を見ると一際大きい花火があった。これよりも大きいというから、さすがに最後はそれなりのものを用意している。
「いきまーす!」
今までそんな掛け声してなかったが、真打ちは流石に気合を入れるというか。
「それっ!」
花火師さんは、意味もなく掛け声を上げながら普通に火をつけ、颯爽とした足取りで普通に退避する。
「ドンッ」っとこれまでよりも一際大きな音がしたと思えば、今まで一番大きな円を星空輝く夜空に描き儚く散っていく。
この一瞬のために長い時間かけて作るのが花火職人だ。
短い時間のために長い時間をかける。本当にすごいことだ。
私なら、こんなすぐ終わることに長い時間なんてかけられない。
まして彼らの人生は、私や永原先生よりもずっと短いのに……
パチパチパチパチパチパチパチパチ
ワーワーキャーキャー!!!
この花火が終わると、どこからともなく歓声と拍手が湧き上がる。
花火師さんたちが一礼し、再びマイクを持ち、ただシンプルに「ありがとうございました!」とだけ言って退場する。
短い言葉に全てを込める。まさに花火師さんの魂だ。
そう言えば、校長先生も話を短くまとめていた。
意外な所で、共通点を見つけることが出来たように思う。
「はーい! みんな集合よ!」
花火師さんの終了の挨拶の後は、後片付けは花火師さんがしてくれるため、私たちは部屋に戻る。
この後はしばしの自由時間ののち、お風呂だ。今日はまた最上階の風呂である。
「優子ちゃん、永原先生と何話してたの?」
桂子ちゃんが声をかけてくる。
「うん、江戸時代の花火のことと、火事のこと」
「火事って……あの火が燃える方でしょ?」
「う、うん……」
「永原先生は何だって?」
「江戸城に住んですぐの時に大きな火事があって、江戸城も燃えたそうよ」
「へえーそんなこともあったんだー」
やはり桂子ちゃんも驚いている。私も、江戸城まで燃えたという大火事は知らなかった。
「それで、よく花火も禁止されていたんだってさ」
「ふーん……」
「江戸時代に永原先生が見てた花火は色とかもなかったって」
「そうなんだ……ねえ優子ちゃん、話は変わるけど」
「うん」
「今日の花火はどうだった?」
「うん、小規模だったけどきれいだったわね。豪快なだけが花火じゃないって言うの?」
「よく言うわね優子ちゃん」
「あはは……」
エレベーターに乗り、部屋で虎姫ちゃんとも合流し、昨日やったゲームを再開する。
「よし、勝った勝ったー!」
「あーやっぱり優子ちゃん、頭脳系のゲームは強いよねえ」
「優子、何気に頭いいですからねえ」
「それほどでもないよ……」
「でも、優子ちゃん、男の頃より成績が良くなってる気がする……体育は例外だけど」
「あはは、体育苦手ということも含めて当たりかも」
心なしか勉強する時間も増えて小テストの成績も良くなった気がする。荒れなくなったせいだろうか?
男だった頃はストレスばかりたまっていてゲームにぶつけたりすることも多かった。改めて、女の子にされたことを「救い」だと感じる。
「よし、もう一戦!」
もちろん頭脳系ゲームとはいえ、全戦全勝とはならない。もしそうなれば、あの日のゲーセンや球技大会の時のように、ハンデが課されるだろう。
でもそうならないのはちょっぴり悔しいかな。私はいつもハンデをもらう側だったし、たまにはハンデあげて勝てるようなゲームが欲しいなあと思ったりする。
うーん……でも欲を出しすぎちゃダメかな。
「優子、時には欲張りやわがままも必要だけど、今のような欲張りはダメよ」そう言い聞かせて恵美ちゃんから時間だという指摘を受けて、林間学校5回目のお風呂へ。
脱衣所に入り、他の女子たちとともに服を脱ぐ。誰もいない朝とかなら露出に爽快感を覚えることもあるけど、やっぱ他の目があると恥ずかしい。女の子同士と言ってもやっぱり恵美ちゃんみたいに堂々と何ていうのは出来ない。
「いや、出来てもやってはダメでしょ! ああやって恥じらいを捨てたら女の子失格よ優子!」そう自分に言い聞かせながら服を脱ぐ。
身体を洗い、頭を洗う。
バーベキューの後なので、顔も洗おうと思ったが、残念ながら風呂から上がってからになりそうだ。
「ふうーーー!」
「虎姫から聞いたぜ。優子って家庭的なんだって?」
湯船で近くになった恵美ちゃんが話しかけてきた。
「あ、恵美ちゃん……うん、まだまだ道は遠いけど、母さんに料理を土日に教えてもらってて……」
「へえーすげえじゃん。あたいなんてそんなのからっきしだぜ」
「母さんが、いい料理作れないといいお嫁さんになれないって」
「ふへーそうなのかー」
恵美ちゃんが不思議そうな顔をする。もう十分だろって顔だ。
「母さんね、『優子は美人だからってそれにあぐらをかいちゃダメ。可愛いだけじゃなく家事もできる女にならないと旦那さんは喜んでくれない』ってさ」
「優子のおふくろはもう結婚のこと考えてんのかよ!」
「あはは、そうみたい。あたしなんてまだ結婚相手の見当すらつかないのに……」
「そうか? 案外身近にいるかもよ?」
恵美ちゃんから意外な言葉が出る。
「え? 誰?」
「それは優子が見つけなきゃ意味がねえだろ」
「そう言われても……」
「優子さん優子さん、もう少し、自分に正直になってみるといいですよ。自分はどんな男性が好きなのか。まずそれを考えることからです。私も、彼氏をそうやってゲットしたんですよ」
「うーん……」
龍香ちゃんのアドバイスで好きな男性を想像する。
うーん、ダメだ、うっすらとしか想像できない……いや、うっすらなのかすらわからない……
私の方へ素敵な男性が迫ってきて……
か、顔がイメージできなくて、全く意味が無い……
「優子さん、あまり焦らなくていいのですよ」
「そうだぜ、あたいだってそんなの考えたことも殆どねえしよ」
「そ、そうなんだ……」
「何度も言うけど、焦らないことよ。優子ちゃんには時間がたっぷりあるんだし。それを考えると、本当に危ないのは恵美ちゃんよ」
桂子ちゃんが乱入する。
「なっ……あたいはだって……」
「だって?」
「テ、テニスが恋人みたいなもんだしっ!」
ありきたりな言い訳を言う恵美ちゃんに微笑みつつ、私は露天風呂へと移動する。
そこで山の夜景と星空をしばし楽しみつつ、みんなより少し早めに風呂に出た。
「もう少し入りなよ?」と桂子ちゃんに呼び止められたが「顔を洗いたい」と言って脱衣所に戻る。
顔を洗うと言っても、石鹸ではなく洗顔料を使うだけ。使い方も母さんから講習を受けずともうまくいった。
既に使ったことのある洗顔料だったので、安心して使用できそうだ。
バーベキューの後でちょっと顔を洗いたい気分なのだが、まずパジャマを着ることから始める。
そして他の子がお風呂から出始める頃には、あたしは既にパジャマを着ていて、洗顔料で顔を洗っている所だった。
「優子ちゃん、ねえ優子ちゃん」
「ごめん、ちょっと待ってくれる?」
話しかけてきた桂子ちゃんを静止する。
今は顔洗いに集中する。
手で水をすくい、勢い良く顔につける。とにかく洗い残しがあったら悲惨の一言だ。せっかく洗顔料を使って洗ったのに、何もしない方がいいってことになってしまう。
顔を拭く時も要注意だ、弱すぎても強すぎてもいけない。慎重に拭いていく。顔はやはり女の子の象徴だ。
いくら胸が大きくて身体もムダ毛一つないナイスバディと言っても、顔が不細工じゃ魅力は激減だ。
幸いTS病なのでシミやシワの恐怖に怯える必要はないのが幸いだ。
「優子ちゃんって、顔洗うんだね」
「うん、今日はバーベキューだったし……桂子ちゃんは?」
「あー部屋でゆすぐだけにしようかなと思ってたんだけど……やっぱりここで洗顔料使うわ……先に帰ってていいわよ」
「うん。桂子ちゃんが帰ったら寝るからね」
「ああ、うん。今日も疲れちゃったしね」
桂子ちゃんと、数人の女子を除き、私達は風呂から出る。
「優子って本当女の子らしくなったよな……あんな洗顔なんて、生まれつきの女の子でもめったにしねえぞ」
「だって、女の子は顔大事でしょ?」
「あ、ああ……」
「テニスが恋人な恵美ちゃんは腕や足のほうが大事かもしれないけど」
「ううっ……あたいもちょっとは女子力磨くかなあ……」
「ほう、恵美が珍しい!」
「だってよお、女になって2ヶ月ちょっとの優子にどんどん差をつけられてる気がしてよお……」
「でも私は、そのままの恵美でいいと思うけどなあ……」
「ありがとよ虎姫。でもやっぱ少し、ほんの少し、テニスの練習の合間でも見つけて、一から勉強し直すぜ」
虎姫ちゃんと恵美ちゃんが話す。恵美ちゃんはエレベーター、私と虎姫ちゃんは階段で。
私達は部屋に戻り、桂子ちゃんの帰室を待って、消灯し、眠りについた。