永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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第四章 男を好きになるということ
お人形さんで遊ぼう


「優子ー荷物届いたからここにおいておくわね」

 

「あ、母さんありがとう」

 

 林間学校に持っていって、バスに放置してあった荷物が届いた。今頃篠原くんのも届いているはずだ。

 

「着替えはもう洗濯機に入れておいたから……それより優子、このお土産、どうしたの?」

 

「え?」

 

 母さんが着せ替え人形セットのお土産を持っている。

 

「そ、その……お土産店で見て……」

 

「ふーん……お土産店でねえ……」

 

 母さんがなにか意味深な口調で言う。

 

「母さん……女の子がお人形遊びしちゃダメ?」

 

「ううん、そんなことないわよ。ただちょっとこのお人形、懐かしくて可愛いと思って」

 

 母さんによると、このお人形はシリーズ化されているロングセラーで、母さんが子供の頃にも遊んだというのだ。

 

「母さん、あたしね。林間学校とかでも『優子はまだまだ深い所で女の子になりきれてない』って言われてて……特に女の子の感性の理解についてはまだまだだと思うのよ」

 

「うんうん」

 

「……女の子らしく、お人形遊びすれば、少しは理解できるかなって」

 

「そう……そうよね。優子には女の子向けのお遊びも必要よね……母さんも遊んでいい?」

 

「うん、いいけど……」

 

 いい年してって言うのはやめておく。あたしはおばさんになることはないんだから。

 

 まずは箱を開ける。まず人形と衣装の部分を出して、一番奥に取扱説明書を発見。でも、まずはともあれやってみよう。

 最初に取り出したものをもう一度見直す。下着姿になった人形に幾つかの小さな衣装がある。

 これを着せ替えて遊ぶんだろうか? でも服のバリエーションは多くない。

 

 とりあえず、まずはいくつかあるスカートのうちの一つを取り人形に着せてみよう。

 ……あれ? うまくはまらない……うーん、サイズが小さいような……

 

「優子、説明書読んでみて?」

 

「え?」

 

「説明書も読まずにいきなり始めちゃ駄目よ。お人形さんが可哀想でしょ?」

 

「う、うん……ごめんなさい……」

 

 母さんに言われるがままに説明書を読む、スカートはファスナーを降ろさなきゃいけないとある。

 そう言えば、そうしないと穿けないサイズのスカートもあるにはあったが、あたしもなんかお尻のファスナーが気になって滅多に穿いてなかった。

 

 早速ファスナーを発見し、それを下ろしてから穿かせてあげる。

 次に豪華な装飾があしらわれたドレスが目に入る。

 

 こちらもまずはボタンを外してから両腕にかけさせる。私の身体と違い、胸が出てないのでかなり着せやすい。

 ふと人形を見る。やっぱり人形とあって姿形も整っていてとても愛くるしいと思う。

 ともあれ、これで上下が完成だ。うん、お人形さん遊び一人でできた!

 

「できたー!」

 

「ダメよ優子! まだ足りないわよ!」

 

 母さんにダメ出しされる。

 

「え?」

 

「ほら、装飾品とか、靴とかあるわよ。優子も頭にリボンするでしょ?」

 

「あ、本当だ」

 

 お人形さんのリボンを取る。

 よし、あたしがいつもやっている要領でやってみよう。

 ……あ、あれ? うまくいかないわね……

 えっと、ここをちょうちょ結びに……また失敗……

 

「うーん……」

 

「優子どうしたの?」

 

「うまく結べないのよ……」

 

「……頑張って。手先が器用になれれば家事もしやすくなるわよ。繰り返し失敗して覚えていってね」

 

「う……うん……」

 

 母さんに拠れば、お人形遊びもまた、家事の訓練の一環にもなるということ。

 今までを振り返ってみると、立ち居振る舞いや言動、性自認を女の子にすることが主になっていて、こういう女の子特有の遊びや文化を、まだ殆ど体験していなかった。

 せいぜい、少女漫画や女性誌を読んで、感想文を書いたくらいだ。

 

 

  ピーピピピピー……ピーピピピピー

 

 ふと、突然携帯電話が鳴る。桂子ちゃんからだ。

 母さんが部屋から出る。

 

「はい、石山優子です」

 

「あ! 優子ちゃん! 今どこ? 大丈夫?」

 

「今は家にいるよ……うん、今はゆっくり休んでる」

 

「どうやって帰ったの? 新幹線?」

 

「うん、永原先生によるとこのあたりはみんな旅行会社が保証してくれるって言うから大丈夫」

 

「……警察の人はなんて?」

 

「逮捕はされたけど、多分裁判までは行かないってさ。でも会社はクビになるだろうって」

 

「そう……」

 

「あたしからも聞いていい? みんなはどこまで事情知ってるの?」

 

「添乗員さんが優子ちゃんと篠原を殴ったって所までよ。優子ちゃん顔とか傷ついてない?」

 

「ああ、あたしは大丈夫。突き飛ばされただけだから」

 

「ええ!? でも痛かったでしょ? 泣き声が外まで聞こえてたよ」

 

「多分それは痛みじゃなくて恐怖で……泣いた時だと思う」

 

「ふーんそうなんだ……でも痛かったでしょ? 男の人に突き飛ばされたんだから」

 

「うん、背中打っちゃって……それと恥ずかしくて……」

 

「うん、そうだよね。あんな所で泣いちゃたわけだもんね」

 

「う、うん……それに……」

 

「それに?」

 

「突き飛ばされた時スカートめくれちゃって……」

 

 本当は篠原くんに見られたのが一番恥ずかしかったんだけど言わないでおく。

 

「あーそっちねえ……うん、とにかく災難だったわね」

 

「……それよりも、他のみんなも心配してると思うからあたしの無事をちゃんと連絡してあげて」

 

「あー、うん。分かった。じゃーねー」

 

「うん、バイバイ」

 

  ピッ

 

 電話を切り、母さんに声をかけ、もう一度お人形遊びをする。

 何とか試行錯誤して私のように頭にリボンを付けることに成功。次からはもっと時間を短縮したい。

 

「ふう、リボンはこれでOK」

 

 普段と逆の方向から結んでいるのも、難しくしている要因かもしれない。

 

 他にカチューシャや帽子、靴下や靴も色々なバリエーションがある。

 カチューシャを髪にかけてあげる。ちょっと髪に引っかかっているので、傷つけないように丁寧に。

 靴の方は足にかぶせる。こっちは案外簡単だ。

 よし、今度こそ大丈夫のはず!

 

「母さん……これでどうかな?」

 

「うん、可愛いわねえ!」

 

 目がぱっちりとした人形の女の子があたしを見つめている。

 

「優子、この人形は色々なシリーズがあって、服装などのバラ売りもあるわ。おもちゃ屋さんでたくさん買って、バリエーションをたくさん試すといいわよ」

 

「……うまく行けば、あたし自身にも参考にするの?」

 

「うん、だけど優子はこの人形と違って胸がすごいからそのあたりも気をつけないとね」

 

「か、母さん!」

 

「ふふっ、優子。それは武器なのよ。存分に使いなさい」

 

「う……うん……」

 

 また反論したら色々ある……と言うより実際武器という側面もあるのは事実なので、反論もしようがなく、そのままにしておこう。

 武器……そういえば登山の時篠原くんに使ったよねこれ……

 

 

「はー疲れたー」

 

「優子、もう疲れたの?」

 

「だって、林間学校で大変な目に遭って、それで帰ってきたばかりでお人形さん遊びしたんだもの」

 

「そ、そうだったわね、ごめんなさい……」

 

 また少し肩が痛む。マッサージしたい。

 

「……母さん、肩揉んで?」

 

「え?」

 

「ちょっと肩こっちゃって……」

 

 母さんは困惑しつつも肩を揉む。

 

「ああー気持ちいいー」

 

「優子どうしたの? こんなに肩こって……」

 

「あはは、女の子になって3週間位でもうずっとこりっぱなしなのよ」

 

「ああ、そうよねえ……無理も無いわ。ところで林間学校はどうだったの?」

 

「ああ、うん。えっとね――」

 

 あたしはマッサージしてくれている母さんに林間学校での4日間について話した。

 初日に移動し、また初めての風呂ではバスタオルをうまく巻けなかったこと、二日目の登山で篠原くんにおんぶしてもらって山に登ったこと。

 この時、母さんから「少しは運動した方がいい」と言われた。

 

 三日目の森林教室やバーベキューのこと、自由時間中に少女漫画を読んでいたら学年中の注目の的になったこと。また花火の時にも篠原くんに助けてもらったこと。

 四日目には添乗員さんに乱暴されかけたのを篠原くんに助けてもらったこと。その後は警察署で事情を話した後、永原先生と篠原くんと共に永原先生の故郷を巡ったこと。

 

 もちろん、永原先生が新幹線で話したことは言わないでおく。これは3人だけの絶対の秘密だから。後は個人的にも篠原くんと恋に落ちたことも言わないでおく。

 

「ふーん、そうなんだ」

 

「永原先生、真田幸村って言い方がどうしても気に入らないみたいで、珍しく凄い怒ってたよ」

 

「あー幸村って言わないらしいねー……あ、そういえば永原先生はどうして真田の子孫に仕えないのかしら?」

 

「うーん、そういえば何でなんだろう?」

 

 理由は知ってるけどすっとぼける。

 

「まあ、永原先生も教師としての生活もあると思うから、今更なのかも知れないわね」

 

 嘘をつく。本当は今も初恋の罪悪感をのに引きずっているのに。

 

「そうよねえ……」

 

「それに仕えてたのも……永原先生が20歳の時までだから480年は前のことよ」

 

「想像もつかないわね」

 

「ええ、あたしも、永原先生に以前真田家の人が使っていた城の跡地に行ったんだけど、殆どただの山だったわよ」

 

「風化するような時間、生きているってことよねー」

 

「でも、あたしもそんな人生になるんだよね」

 

「大変よね優子」

 

「うん。この病気の自殺者が多いのもこういう側面があると思うのよ」

 

「そうねえ……」

 

 あたしはまた人形を見る。

 あたしのコーディネートで可愛く出来ている。髪型を変えたりもできるそうだ。

 お人形さんなら、ずっと遊べるのかな? ううん、そんなことないわよね。だってこのお人形さん、毎日遊んでたら多分100年持たないもの。

 

 

「あ、そうだ優子! 体育の先生から補講の話があって31日の……再来週月曜日の午前10時に教室に来て欲しいって」

 

「あ、うん。ちょっと待って……」

 

 私は林間学校のバッグから携帯カレンダーを出す。生理の予定から大きくずれている。

 あたしの予測では明日日曜日から3日を特に辛い日と見ている。

 

「うん、それで大丈夫だと思う」

 

「じゃあ大丈夫って連絡しておくわね」

 

「ありがとう……」

 

 

 あたしはその後はゲームをすることにした。少し前までゲームと言えば男性向けな趣味だったかもしれないけど、暇をつぶすのにはこれがいいし、幸いユニセックスに遊べるので有害性もない。

 そして、「優子、ご飯よー」という母さんの声とともに、久々に我が家のご飯が登場した。

 

「優子、最終日は災難だったな。大丈夫だったか?」

 

 食卓の場で、父さんが声をかける。

 

「ああうん。助けてもらったから」

 

「そうか。実は明日、旅行会社の社長が見えるそうなんだ」

 

「あー、一応あたしに謝りに来ると」

 

「ああ、後篠原さんところにも謝りに来るらしいんだ」

 

「うん……」

 

「篠原さんの方にお礼は言ったか? 随分世話になったって聞いたぞ」

 

「ああ、うんもちろん……」

 

 お礼どころか恋に落ちてるなんて言えない。

 

「まあ、とりあえずお疲れ。明日から夏休みだな」

 

「あ……うん……」

 

 体育の補講とかもあるんだけどね。

 

 

 ずっとホテルのお風呂ばかり入っていて、家のお風呂に入るのも久しぶりだ。

 でもやることは行く前と変わらない。敢えて言えば、バスタオルを巻いてお風呂に入る必要がないということ。

 

 今はお風呂で汚れを落とす時間も楽しい。きれいになるってやっぱりいいことだし。

 今日は朝に続いて二回目のお風呂。

 身体と頭をよく洗う。今更だけど大泣きした後なので顔も洗っておく。

 

 湯船に浸かる。久しぶりの水道風呂。身体を温めキリの良い所で素早く身体を拭く。

 

 以前は拭き方に苦労して、冷えに苦しむこともあったけど、今ではそれもだいぶ緩和された。

 季節自体が夏に向かっているという面もあるだろう。

 

 持ってきた下着とパジャマに着替える。パンツは生理用で、今日もワンピースタイプのパジャマだ。寝る時もお洒落したいときや、生理が近い時はいつもこれだ。

 

「ふう……」

 

 自室に戻り、ちょっとだけ夏休みの宿題をする。

 少し気分が悪いけど、そう言うときにこそ、宿題を片付けないと行けないと思った。

 

 寝る前に、生理用ナプキンを取る。ワンピースの中に手を入れて、パンツを一旦脱いでナプキンを付け、いつでも眠れるようにする。

 

 生理中になると、もちろん起きているときもあるけど、朝起きたら出血してたなんてこともよくある話だからだ。

 

 

 

  ピピピピピッ……ピピピピピッ

 

「うーん……」

 

 何となく起きたくない。

 4日分の疲れと、生涯3度目の生理の痛み。

 始めの頃は軽い生理からはじまると言うのに、TS病は重い大人の生理から始まるから、これにはまだ慣れない。

 

 いや、女の子たるもの慣れるものではないと言うが、それでも辛いのを少しでも緩和しないといけない。

 でも、この痛みこそ、女の子の証でもある。だから、今は痛みが辛いとともに、ほんの少しだけ「ああ、女の子なんだな」と言う喜びを感じることもできる。

 

 

「う、うわっ……!」

 

 重い腰を上げ、生理用ナプキンを見てみると、真っ赤に染まっていた。やっぱりまだ驚きは隠せない。

 ともあれ、これを捨てないことにはしょうがない。パジャマがワンピースタイプでよかった。

 とにかく箪笥から新しい生理用パンツを出してナプキンを付けて穿き替える。また血が出そうになったので、古いナプキンを捨てるついでに、トイレに入ってそこに捨てるようにした。

 

 最初の時のようにふらふらすることこそなくなったものの、まだ目が回ることが多い。

 運良く前回も土日に生理が重なり、林間学校もギリギリ生理に当たらなくて済んだ。どうも、周期と言っても1日2日の誤差はあるみたいだ。

 

 

 携帯電話を見ると、メールがいくつか届いていた。

 クラスの女子たちから私を心配する声だ。

 丁寧に返信をしていく。篠原くんからメールはない。アドレスの交換などしていないからだ。

 

 クラスの女子たちからのメールの中には、桂子ちゃんからのメールもあり、こちらは心配する声ではなかった。

 

 内容としては、「恵美ちゃんが出るテニスのインターハイが終わったら今度女子たちで、優子ちゃんの家にお泊まり会をしよう」と言うものだ。

 日時を見てみると、体育の補講と重なってしまっている。

 

 その旨を返信すると、起きていたのかすぐに桂子ちゃんから返答があった。それによると、補講が終わってから1泊2日ということになった。

 参加する子を何人か呼ぶらしい。でも一応母さんに連絡しないと。

 

 そう思い、リビングへ向かう。

 

「あ、おはよう優子? どうしたの?」

 

「あーうん、今日はちょっとお腹痛いの……」

 

「あ、そうだったね。朝ごはん食べる?」

 

「うん……ところで母さん」

 

「どうしたの? 女の子の日にはもう慣れた?」

 

「そうじゃなくって、今度の31日の夕方くらいからクラスの女子とお泊まり会しようって話があって……」

 

「あらいいわねえ。うん、お友達とお泊まり会、優子の成長にも必要なことだと思うわよ」

 

「お父さんはどうしよう?」

 

「うーん、まあ書斎に籠もってもらえれば大丈夫でしょ」

 

 なんか扱い悪いけど、確かに書斎から出ること少ないもんなあ……

 

「さ、今はご飯を食べて元気出しなさい。今日からまた大変だと思うけど、頑張るのよ」

 

「う、うん……」

 

 さすがに三回目だし、慣れてはいないとは言っても、1回目2回目ほどにひどく辛いというわけではない。

 とは言え、それは1回目と2回目の間隔から周期をつかめてたことによる心の準備が出来ていたという側面が大きいもので、痛みそのものとかは、まず間違いなく今後も……例えば平気になるとかは無理だけど。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「優子、ご飯終わったらリビングの掃除しなさーい」

 

「えー」

 

 生理中くらい勘弁して欲しいと思う。2回目もそうだったし。

 

「こういう日に家事をすることも大事なのよ」

 

「はーい……」

 

 久々に一日ゆっくり過ごせる。

 そう思っていた矢先に、また家事の指示だ。

 2回目の生理の時もそうだったけど、生理の時にきちんと家事ができるように訓練しておかないと、旦那さんに嫌われちゃうそうだ。

 

 生理中に家事をしていて思う。やっぱり女の子も女の子でとても大変だ。

 ……男よりはマシかもしれないけど。

 掃除が終わったら、昨日見たくお人形遊びをしよう。少しは気が紛れるだろうし、少女としても磨きがかかると思う。

 あ、それから学校の宿題も、下手には動けないこの時期にやればいいかもしれないのでしておこう。

 

 お人形さん遊びをしていると、旅行会社の社長が見えて謝罪に来た。でもあたしは体調不良を理由に拒否してしまった。

 ただし、母さんには体調が悪いのは旅行会社の責任ではないことを超がつくくらい強調してもらい、謝罪は素直に受け取ること。更に手厚い保証をしてくれたことへのお礼を伝えてもらった。

 野洲の個人的な暴走だし、あんまり会社には悪感情を抱けないのも原因かもしれない。


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