永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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かしまし娘たちのお泊まり会 前編

  ピンポーン

 

「はーい!」

 

 突然、家の呼び鈴が鳴る。

 私より早く、母さんが応答する。

 

「あ、いらっしゃーい! 優子ー! お友達来たわよー!」

 

「はーい!」

 

 母さんの声であたしも急いで玄関まで行く。

 

「こんにちはー優子ちゃん!」

 

「遊びに来たぜ!」

 

「こ、こんにちは……優子さん……」

 

「こんにちは桂子ちゃん、恵美ちゃん、さくらちゃん」

 

 あたしの家のお泊り会に参加してくれたのは桂子ちゃんに恵美ちゃんにさくらちゃんだった。

 

「いらっしゃい、歓迎するわね」

 

「へえ、この人が優子のおふくろか」

 

「あんまり似てませんわね……」

 

「さ、さくらちゃん……」

 

「まあ、後天的に変わったからねえ……」

 

「あ、でもちょっと顔の輪郭とか似てる気がするよ」

 

 桂子ちゃんがフォローする。

 

「まあとにかく、上がってくれるかしら? 今ジュースとお菓子出しますからね」

 

 母さんが2階のリビングへと走って消える。

 

「お、お邪魔します……」

 

「お邪魔するぜ!」

 

「お邪魔します。へえ、優子ちゃんの家ってこうなってたんだー」

 

 3者3様に「お邪魔します」をする。

 

「部屋に案内するわね」

 

 スカートはミニだけど、家の階段では見えないようになっている。思いっきり覗かれたらダメだけど。

 ともあれ、あたしは自分の部屋の前につく。

 

「ここがあたしの部屋よ」

 

「ほほう、楽しみだぜ」

 

「うんうん」

 

 大人しめなさくらちゃんは黙っているけど、桂子ちゃんと恵美ちゃんが楽しみにしている。

 

「じゃあ開けるわね」

 

  ガチャッ

 

「「「お邪魔しまーす」」」

 

 3人を先に部屋に通す、恵美ちゃんやさくらちゃんはもちろん、幼馴染の桂子ちゃんも部屋に入れたことがない。

 

「ほー、優子の部屋ってこんななんだ」

 

「意外とシンプルですね……」

 

 恵美ちゃんとさくらちゃんが話す。

 一方で桂子ちゃんは難しい顔をしている。

 

「桂子ちゃんどうしたの?」

 

「うーん、何か女の子の部屋って感じがしないのよ」

 

「む、たしかにそう言われてみれば……」

 

「そんな気もしますねえ……」

 

 恵美ちゃんとさくらちゃんまで同調している。

 

「そ、そんな三人とも……」

 

 正直に言われるとショックな言葉だ。

 

「きっと優子ちゃんがまだ優一だった頃からあんまり変わってないからだと思うのよ」

 

「んー……それは良くないですねえ……」

 

 桂子ちゃんが指摘し、さくらちゃんが同意する。

 

「あ、でも本棚……ここは女の子の部屋ですよ……」

 

「お、本当だ! 少女漫画がずらりと並んでるな」

 

 カリキュラムで与えられた少女漫画と女性誌だ。もう殆ど読み尽くしてしまったが、まだ未読の本もある。

 

「うーん、何ていうか……今の部屋の雰囲気だとむしろこの少女漫画が浮いている気もするのよねえ……」

 

「ううむ、桂子の言う通り、確かにそんな気もするなあ……」

 

 本棚は女性も使っているだろうシンプルな木の棚ではあり、少女漫画などの女性向け中心だが部屋全体からすると浮いているのかもしれない。

 

「あ! でも見てください、机の上にあるこのお人形……」

 

「ああ、これ優子ちゃんが林間学校で買った……お? 早速遊んだの?」

 

 桂子ちゃんが可愛らしい服を着せられている着せ替え人形を見て言う。

 

「う、うん……せっかく買ったからお人形さん遊び始めてみたけど……あまり衣装が多くないからちょっと組み合わせも切れてきて……」

 

「ほほう、優子はお人形が好きなのか?」

 

「そ、そりゃあ……あたし女の子だし……」

 

「んー、ぬいぐるみとかカーテンの色とか工夫できないかなあ……」

 

 桂子ちゃんが思案している。

 

「うーん、やっぱ部屋も女の子っぽくした方がいいかなあ……」

 

「うん、優子ちゃんが今一歩女の子になれないのは、こういうところにも原因があると思うのよ」

 

「そう言う桂子、お前の部屋はどうなんだ?」

 

「私? うーん、少なくともカーテンはピンクだし、布団ベッドも赤やピンクにしてあるわね。後……机周りももう少し整理されているわね」

 

「そう言えば、机周りもちょっと乱雑してますねえ……」

 

「優子ちゃん、部屋の乱れは心の乱れよ。女の子らしくない部屋にいるから、深い感性で女の子になりきれないのよ」

 

「ううう……反省します……」

 

 ど真ん中直球の正論に、反論ができない。

 

 

  ガチャッ

 

「はーい皆さん、お菓子とジュース持ってきたわよ……ってどうしたの難しい顔して」

 

「ああ、おばさん。優子ちゃんの部屋なんだけど――」

 

 桂子ちゃんがあたしの部屋について、少女漫画とお人形さんくらいしか女の子らしいアイテムがなく、足りないと話す。

 カーテンや部屋全体の色調、女の子らしい小物類の不足といったものだ。

 

 一方、話している間に開けられた箪笥の中は女の子そのもので、生理用品もちゃんと箪笥の中に入っていたのは概ね好評価をもらった。

 

「でもよ、あたいはそこまでこだわってねえぜ」

 

「そんなんだとまた優子ちゃんに差をつけられるわよ」

 

「うぐっ……」

 

 桂子ちゃんの非情な言葉が恵美ちゃんをグサッと刺す。

 

「でもそうねえ……優子の部屋も少し女の子っぽくしないといけないわねー」

 

「おばさん、明日にもホームセンター行きましょうよ。部屋のカーテンとか入れ替えるだけでも違うと思うのよ」

 

「そうよねえ……よし、そうしましょ!」

 

 母さんも乗り気になる。

 

「ええ!? でもお金かかるんじゃ――」

 

「これも優子のためよ。それとも女の子らしくない部屋がいいの?」

 

「……」

 

 ぶんぶんと首を大きく横に振る。

 

「あ、あたしも女の子っぽい部屋にはしたいけど――」

 

「じゃあ決まりよ。大丈夫、ちょうど例の事件の慰謝料も入ったから」

 

「ええ!? どうして渡してくれなかったの!?」

 

 正直驚きだ。

 

「ゴメンゴメン忘れてたのよ」

 

「ち、痴漢されたのあたしなんだから!」

 

「分かってるわよ……」

 

 高校生には大金だからと言っても、被害者の慰謝料の使い道くらい被害者が決めるのが筋だ。

 

「ともあれ、その慰謝料で模様替えするってことだな!」

 

「う、うん……」

 

 まあ、使いすぎて慰謝料が残らないことはないよね?

 

「でもそうねえ……女の子らしい部屋にすれば、優子もきっと更に女の子らしくになれると思うわよ」

 

「でもどんな感じにすればいいの?」

 

「うーん、やっぱりカーテンをピンク色にしたいわねえ」

 

「あと、机の上だな。優子はここが殺風景だけど、これを女の子向けのキャラクターとか、あるいは女の子らしいアイテムを置くといいと思うぜ」

 

「お、女の子向けの作品? 少女漫画雑誌なんかにある?」

 

「そういえば優子ちゃんって、スマホじゃなかったんだっけ?」

 

「う、うん……」

 

「あ、でもでも、据え置き機がありますよ」

 

「後携帯ゲーム機かあ……うーん」

 

 桂子ちゃんとさくらちゃんが何か考えてる。ちょっと聞いてみよう。

 

「どうしたの二人とも?」

 

「ああうん、優子ちゃん……乙女ゲームってやる?」

 

「ええ!? 乙女ゲーム?」

 

「優子さん、女の子向けの恋愛ゲームのことです。18禁のもありますけど、コンシューマーで全年齢として出てるものも多くあります」

 

「ほうほう、桂子やさくらは?」

 

「私は持ってないわね」

 

 桂子ちゃんが言う。

 

「私は……1,2作品ほど……」

 

「おいおい、そんなんで大丈夫なのか?」

 

 恵美ちゃんの言うことは最もだけど……

 

「まあまあ、こういうのは有名所を買えば大丈夫よ。確かに優子はお人形遊びはし始めましたけど、まだまだ女の子の遊びや女の子の趣味に慣れていないもの。そう言うところを補うのもいいわね」

 

 母さんまでノリノリだよ……

 まあ、もっともっと女の子らしくするためにも、こういうのは必要だと思う。

 

「あーでも、乙女ゲームはもう少し後にしようかな」

 

「そうだな。今は部屋の模様替えだけして、様子見した方がいいぜ」

 

「えっと、じゃあ明日は……」

 

「模様替えのために、ホームセンターに行きましょう」

 

「賛成ー!」

 

 当事者のあたしそっちのけで盛り上がる。まあ女の子らしく部屋が変わるのは嬉しいし、それでもいいんだけど。

 

「よっしゃ! 明日の予定も決まったし、お菓子食べようぜ!」

 

「賛成ー!」

 

 みんなでお菓子を食べ始める。母さんは空気を読んで外に出る。

 あたしはビスケットを一枚食べる。

 

「それでさー優子ちゃん。体育の補講ってどんな感じだったの?」

 

「体力テストだったよ。優一のままじゃ使えないから」

 

「ほほう、で結果は?」

 

「うん、散々だったよ。握力とか男の頃の4分の1だったし……」

 

 あたしはそう言いながら体育の先生がくれたプリントを渡す。

 

「うっわーこれは思ってたよりひでえな……」

 

「あ、でも前屈がそこそこですよ」

 

「うん、身体だけは優一より柔らかいのよ」

 

 ちょっとだけ自慢する。

 

「にしたってこれはないぜこれは。優一だった頃の記録もあんだろ?」

 

「う……うん……」

 

 あたしは机の奥のファイルにしまってあったプリントを漁る。

 名前欄が「石山優一」になっている。嫌な思い出もたくさん詰まったファイルだ。

 

 その中で、体力テストの結果を見つけ、恵美ちゃんたちに見せる。

 

「こ、これ……」

 

「うえっ何だこれ……!」

 

 恵美ちゃんが開口一番に驚愕の声を漏らす。

 

「す、すごいですよ優子さん……」

 

 軒並み7点以上の高得点が並ぶ。特にシャトルランはとんでもない数字だ。

 

「おいおい、男女の差はあるけどよ……テニス全国一のあたいだってこんな点数出せなかったぜ」

 

 もちろん総合評価も一番いい記録、もっと言えば最高カテゴリーの中でも上位だ。

 体力テストの総合点、優一時代は学年でも篠原くんと並んでトップレベルだった。

 篠原くん体力テストは凄かったけど、気は弱かったから優一時代のあたしによく怒鳴られていたのよね。

 

「んでこっちが優子さんの点数ですよね?」

 

「ほとんど1から2じゃねえか……」

 

 並ぶ数字は悲惨の一言。しかも男としての高得点から、女としての低得点なので、落差は一段と激しい。

 

「上体起こし……何だよこれ……」

 

「優子ちゃん、上体起こしの回数。いくらなんでもこれはないわよこれは……」

 

 桂子ちゃんと恵美ちゃんが体力テストの中でも一番悲惨な記録になっている上体起こしについて突っ込む。

 

「だ、だって、あたし……上半身重くて……」

 

「……あ、うん……すまん……」

 

「実際、これ本当に重いのよ。最初の数回でもうヘトヘトだったわよ」

 

 あたしが胸の下で腕を組みながら言う。

 

「んーまあ、あたいもそんなでかいの付けてたらテニスで全国一にはなれなかっただろうけどよー」

 

「にしてもこの成績はないですよ優子さん……」

 

「優一がこんなに凄かったんだから余計にねえ……」

 

 3人がそれぞれ言う。

 

「で、でも……あたし、もう強くなんかなりたくない!」

 

 強くなったらまた、嫌だった日々に逆戻りしそうだから。弱いままがいい。

 

「うん、優子、お前の気持ちもわかるぞ。でも限度ってもんがあると思うんだ」

 

「まあまあ恵美ちゃん。優子ちゃんはまだまだ女の子になるための勉強もあるんだから」

 

「うーん、そうは言っても……」

 

「それに、優子ちゃん、本当に優一だった頃はトラウマなのよ」

 

「あたし、乱暴だった自分を捨てられたのも、弱くなったおかげだって思ってて。だから……力を持ちたくないの」

 

「んまあそうだけどよお……林間学校だってナンパされただろ。あん時篠原が助けなかったら、今頃大変だったぞ」

 

「うん……でも……やっぱり男の子に守ってもらいながらがいい……」

 

「……まあ、確かに優子は複雑な過去があるし、あたいも無理にとは言わねえけど……あたい個人としては、やっぱり最低限の自衛くらいは出来たほうがいいと思うぜ」

 

「……」

 

 あたしは、「また篠原くんに守られたいからいいもん」と小声でつぶやいた。

 

「ん? 何か言ったか?」

 

「優子さん、何か小声で言いました?」

 

「ああ……うん、ごめん。何でもないよ」

 

「ふーん、変な優子ちゃん」

 

 今までは「好きな男の子に守られたい」と思うのは女の子の本能だと割り切っていた。

 でも、もしかしたら今までの意識のせいかな? とも思い始めた。

 あたしは今までも、「泣いてもいい、弱くてもいい、甘えてもいい、かっこ悪くたっていい。だって私はもう、女の子なんだから」と考えてきた。

 

 林間学校でも篠原くんには2回守られた。

 登山の時と添乗員に乱暴されかけた時。前者はさすがに恥ずかしいと思ったけど、後者は違う。

 

 もちろん、篠原くんに守ってもらえたことはとっても嬉しいけど、自分で何とかするべきだったとか、ましてや助けられたのは情けないことだとはこれっぽっちも思ったことはない。

 

 だって、あたしは女の子の中でも特に弱い女の子で、相手は成人男性。「抵抗して勝て」何て言う方がおかしい。

 強い女性として振る舞ってる恵美ちゃんだって、本気になった男相手じゃどうにもならないはずだ。

 だから、助けられたことそのものは仕方のないことだと考えている。

 

「どうしたんですか優子さん……考えこんで……」

 

「ああ、うん。林間学校の時のことを考えてて」

 

「おう、あの時のか?」

 

「うん、やっぱりあの時はあたしは多分例え鍛えててもどうにもならなかったと思う」

 

「……確かに優子ちゃんの言う通りよね」

 

「でもよ……」

 

 恵美ちゃんが納得行ってない様子だ。

 

「……恵美ちゃん、相手は成人男性だよ? 仮にあの時ナンパされたのが恵美ちゃんだったとしても、恵美ちゃんは大の大人の男性相手に素手同士で勝てる?」

 

「うぐっ……自信ない……」

 

「だって、あたしも恵美ちゃんも女の子だもん。本気になった男相手には、喧嘩で勝てないのが普通でしょ?」

 

「うー悔しいけど反論できない……」

 

「恵美ちゃんが武器にテニスラケットを持っていたとかなら話は別だろうけど、あの時のあたしは丸腰だったのよ。助けを求めるのは当然じゃない」

 

「何かこう優子の言ってること、理路整然としてて全部正しいんだけど……なんか気に食わねえんだよなあ……あたいが間違ってるだけなのによお……」

 

 どうにも納得していない表情だ。

 

「……恵美ちゃんはずっと『強い女』を目指してきたんでしょ? 今更変えるのは無理だし、それに変えたらテニスも弱くなるわよ」

 

 慌ててフォローする。

 

「う、うん……」

 

「あたしはね。女の子も強い女性になってもいいとは思うよ。でもそれはあくまで『女の中で』よ。男と肩を並べようとかそう言う気を起こさないなら、あたしは別に強くなろうとしてもいいと思うのよ」

 

「ふむなるほど……」

 

「あたしが体育の補講で行く通学路で、テニス部の恵美ちゃんを見たわよ。恵美ちゃん随分こてんぱんにやられてたけど……男子と練習してたでしょ?」

 

「あ、ああ。あたいの場合同じ高校生女子じゃ練習になんねーから、大学生の女子とかうちの学校の男子と練習してるんだ。大学生の方はむしろ勝つことの方が多いんだけど、男とやると全然勝てねえんだ」

 

「でも、恵美ちゃんは女子高生の中ではテニスは最強でしょ?」

 

「あ、ああ……」

 

「だったらそれでいいじゃない。もちろんこれから恵美ちゃんはプロになってそこで世界を目指すかもしれない。でも、もし仮に恵美ちゃんが女子で世界ランキング1位になって、四大大会を全制覇したからって、男子プロと混じろうなんて考えないでしょ?」

 

「……ああ、もちろんだ。男子と女子の試合、あたいも見てるけど、動き、体力、スピード、技術、どれをとっても住む世界が違いすぎる。女子の試合のレベルが低いことは、悔しいけど認めざるを得ねえよ」

 

「あたしが言いたいのはそういうこと。まあ、心の片隅にでも入れておいてね。もしコーチが違うこと言ったら、そっちを優先させてね」

 

「お、おう……」

 

「ところで優子ちゃん、何かゲームある?」

 

 桂子ちゃんが話を変えてくる。

 

「うん、あるよ。これなんてどう?」

 

「お、有名所だな。知ってるぜ。桂子とさくらは?」

 

「私もやったことあるわよ」

 

「私は今でもやってます……」

 

 一応二人対戦機能のあるゲーム。女の子になって初めて遊んだゲームであり、女の子として生きるためのモチベーションを与えてくれたゲームでもある。

 あたしは早速電源を入れ、二人対戦モードにした。


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