永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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本能を女の子にするということ

「……そう、上手く行かなかったの」

 

 永原先生が残念そうに言うけど、表情では「やっぱり」と言う色を隠せていない。

 元々永原先生の視点から見れば無謀なことだったのかもしれない。

 

「うん、あたし、浩介くんが大きくなってる所、頭では嬉しさと興奮でいっぱいだったのに……」

 

 下品だと言われるかもしれないけど、やっぱりあたしのこの身体、好きな人に興奮してもらえるのはとても嬉しいこと。

 あたしが本当に、男の子からも認められるくらい、魅力のある女の子になれた証だから。

 

「石山さん、泣いていたわね。もしかしてそのことで?」

 

「う、うん……あれだけしてもらったのに……」

 

「日焼け止めクリーム、篠原君に塗ってもらったんでしょ?」

 

「……それでもダメだった。せっかく恥ずかしいの我慢したのに……」

 

「石山さん、さっきも言ったけど――」

 

「分かってるよ!!! 分かってるわよ!!!」

 

 つい大声を上げてしまう。また涙が出てくる。

 

「……」

 

「でも……悔しいのよ。悲しいのよ!!!」

 

 感情任せに思いをぶつけてしまう。感情的になって解決する話じゃないのに。

 

「石山さん……」

 

「一生懸命に女の子になりたいって、あたしずっと……ひどく乱暴だった自分を変えたいってずっと頑張ってきて……クラスのみんなに、優子はちゃんと女の子だって言ってもらえて……好きな男の子まで出来たのに!!! なのに……なのに……うっ……」

 

 感情のままに、ワガママを言ったらまた涙が出始めた。

 

「石山さん……」

 

「あたし、浩介くんを好きになった時……女の子としての恋を知ることが出来たわ。だからそば屋で永原先生が会計取っていた時……キスしようと思ったのよ……だけど……」

 

「……そうだったのねえ……石山さんの今日の水着も?」

 

「……うん、浩介くんを興奮させたくて、選びに選びぬいたわよ」

 

「その目論見は上手く行ったかしら?」

 

「う、うん……」

 

 明らかにトイレにしては長いし、間違いなく上手く行ってる。

 

「石山さん……あなたがどうしても、今すぐこれを治したいというなら……カウンセラーとしてそれは止めるわ。ひどい副作用が起きかねないわよ」

 

「……」

 

 ついにドクターストップまでかかってしまう。もはや早急に結果を出すという当初の目論見は諦めなければならない。

 

「来年の卒業式、それまではゆっくり夏休みも含めて、デートしながら治していきなさい。大丈夫、あなたにとって1年半何て一瞬に等しい時間よ」

 

「そ、そう……」

 

 でも、浩介くんにとっては長いよなあ……

 

「でもどうして……林間学校の時の登山や……あの時の後のおんぶは平気だったのに……」

 

「それは石山さんが、時間が経って……本当の恋に、はっきりと目覚めたからよ」

 

「恋したから、こんな困難がでてきたってこと?」

 

「ええ」

 

「うっ……それってあんまりだよ……」

 

 また涙目になる。

 

「……実はね、石山さんの症状には荒療治の方法も確立されているのよ。でも、オススメはしないしやってほしくないわ。絶対にね」

 

 永原先生は水着の可愛さに似合わない神妙な面持ちで話す。

 

「そ、それってどういう……!?」

 

 正直、藁にもすがる思いだ。例え悪いとしても……治したい。

 

「それは……妊娠して、赤ちゃんを産むことよ」

 

「え? ええ!? なな、何で赤ちゃんって……」

 

 ある程度身構えていたけど、それでもあまりに衝撃的な発言にしどろもどろになってしまう。

 確かに、推奨なんてとても出来ない方法だ。前言撤回、これは無理。

 

「石山さん、以前にも話したけど、私達は完全な女性だから子供も産めるわ」

 

「ええ……」

 

「……私達を惑わす男女の違いの中でも、妊娠能力というのは最も大きな違いと言ってもいいわ。女の子たちは、赤ちゃんをお腹の中に宿して、死ぬほど辛い目に遭って子供を産むのよ」

 

「知ってる」

 

「でもね、あれだけ苦しい目にあっても、多くの母親が出産した時に『女に生まれてよかった』と思うのよ」

 

「どうして? あんなに辛いんだろ?」

 

「私にもよく分からないんだけど、お腹の中にいる新しい命に対する、いわばメスの本能なんじゃないかな? とにかく保護しなきゃいけないって、赤ちゃんがかわいくてかわいくて、心を奪われてしまうのよ」

 

 確かにそういうのがあるかもしれない。よく分からないけど。

 

「う、うん……でもそれがどうして?」

 

「石山さん、出産の痛みと喜びは本当に強烈らしいのよ」

 

「よく分からない」

 

「私も実際に体験したわけじゃないけど、妊娠と出産を経て『女の子』は『母親』になるのよ。こんな話があるわ」

 

「?」

 

 永原先生が少し話題を変えた感じになる。

 

「ある日ね、一組のカップルが居たの。ところがストーカーが彼女を無理矢理犯したのよ」

 

「ひどいなあ……」

 

「で、妊娠してしまったから、彼氏と一緒に堕ろすつもりで病院に行ったのよ。二人とも忌々しいレイプ犯の子供なんて産みたくないって思ってたからね」

 

「ま、まさか……?」

 

「そうよ。病院に行って妊娠しているかの確認のためにエコーを見たらしいのよ……そしたら彼女は彼氏に涙ながらに『堕ろしたくない! 産みたい!』って言うようになってしまったって」

 

「またわがままだねえ……」

 

「そう思うのは子供を知らないからよ。お腹の中の子供を守りたい、自分の子供を守りたいというのは、どんなに自覚なく、否定しようとも思っても否定できないものよ」

 

「……もちろんこれは極端な例だしそう言う誘惑を覚えたとしても、断ち切って堕ろす人のほうが多いけどね……だけどそう言う人もいてしまうくらい、赤ちゃんというのは大きな存在なのよ」

 

「妊娠してしまうだけでこうなるのか……」

 

「そうよ。そして赤ちゃんが生まれると強烈な感情が出るわ。まだサンプル数は少ないけど、私達TS病の人が出産した時の母性は凄まじいものがあるのよ」

 

「どうして?」

 

「だって、男が子供なんか産めるわけ無いでしょ。妊娠と出産は、言うなれば女性にのみ許された特権よ。だから、新しい命を産むっていう行為は、私達を身体の本能から潜在意識まで徹底的に女にしてしまうわ。既にどれだけの覚悟と自覚を持っていても、出産した時以上に『女』を思い知る瞬間はないわよ」

 

「じゃあ、みんなそうすれば……」

 

「無理よ」

 

 自殺よりはマシと思ったものの、永原先生の非情の一言。

 

「ど、どうして?」

 

「男に戻りたいと思った人を無理に妊娠させたケースはないわ。それに、そんなことをしたら犯罪よ。つまり、本人の合意のもとで恋愛しなきゃいけないの」

 

 まあそりゃあそうだな……

 

「でも十分に底の底まで女の子になりきらないで恋愛しようとすると、石山さんみたいな症状が出ることもあるのよ」

 

「それに、女の子になりきれたとしても、恋愛して結婚するハードルが高いし、あるいは女の子になりきれずに無理に妊娠しても、不幸の連鎖になるだけよ」

 

「つまり女の子に完全になった上で、更に心の底から母親になりたいと思わないと無理ってこと?」

 

「そうよ、石山さんはその覚悟はまだできないでしょ? まだ前段階も達成できてないのに」

 

「う、うん……」

 

「それに、妊娠するためにすることがあるでしょ。仮に心が女の子になっていても、身体の反射と本能が男性のままでするのはとてつもない苦痛を覚えるわよ……今の石山さんもそうだと思うけど、自分の中に2つの人格があるように感じてない?」

 

「え、ええ……確かにそんな感じもします」

 

 あたしも、クリーム塗った時に大きくなってるのを見ただけで吐き気がしたし。

 

「そこよ。ましてや妊娠のためにすることは、今のとは比べ物にならない事よ」

 

 それがどういうことを意味するかは知っている。間違いなく吐きながらすることになる。これじゃあたしもだけど、それ以上に浩介くんが可哀想だ。

 でも正直、あたしも理性が崩壊しかけた時、浩介くんに無理矢理でもいいからされたいと思ってしまってもいた。

 

「それにね、仮にそれをクリアしたとしても妊娠と出産において私達に立ちはだかるのは、私達の体質よ」

 

「それって、老けないって言うこと?」

 

「そう。子供を産んだTS病の人を悩ませるのが旦那さんや子供に先立たれるということよ。それを嫌がって恋愛や出産ができない人が多いわ。私もそうかもしれないわね」

 

 永原先生が遠い目で見る。

 

「いずれにしても、荒療治の方法は存在しないに等しいと」

 

「ええ、そう言う理解でいいわ……石山さん、今はその水着で意中の人を興奮させたんだからそれでよしとしなさい」

 

「は、はい先生……」

 

「それにしても、石山さんのその水着……」

 

 永原先生があたしの水着をひと通り見てくる。

 

「本当男の欲望をよく捉えているわね……」

 

「えへへ……」

 

 正直褒め言葉だ。

 

「襲われたりしなかった?」

 

「ちょっとだけ最後の方で……」

 

「え? 篠原君、一体何したのよ?」

 

「言わなきゃダメ?」

 

「ふふっ、ちょっと聞きたいかなあ……」

 

 ううっ、恥ずかしいけど……言ったほうがいいかも……

 

「前の方は自分で塗るってことになって、む、胸とか……あと正面からももを塗ったのを見せつけて、最後に……パレオの中の下腹部に塗ろうとして……」

 

「うんうん」

 

「仰向けになって、恥ずかしかったけど……めくろうとしたら……クリーム奪われて……」

 

「無理矢理塗られたのね」

 

「う、うん……」

 

「篠原君、理性残ってよてかったわね」

 

 永原先生が神妙な面持ちで言う。

 あたしも分かる。冷静になればこのまま犯されていても文句は言えない状況。

 

「ええ、今思えばそのまま処女を奪われなかったのが不思議なのよ……」

 

「だってここ、海水浴場よ、そんな所で始めたら石山さんも篠原君も捕まってたわよ」

 

 つまり、浩介くんに理性が残っていたということ。

 

 永原先生と話していると、足音が聞こえてくる。

 

「あ、そろそろ話を終わるわね。いい? 今日の話、絶対に他の人に話しちゃダメよ」

 

「わ、分かってるって……」

 

 妊娠だの出産だの、正直まだ早い話だし。

 

「あれ? 先生もここに居たんですか?」

 

 浩介くんが戻ってくる。息は整っているけど妙に汗だくになっている。

 

「ええ」

 

「浩介くんどうしたの? トイレにしては随分遅かったね」

 

 あえて意地悪を言う。何だろう、小悪魔になった気分だ。

 

「え? そ、それは……その……こ、混んでて……」

 

「今日はそこまで混んでないけど? ねえ本当は何してたの?」

 

 何をしたかなんて分かりきっていても、つい浩介くんの口から言わせたくなってしまう。

 

「い、言わせないでくれよ恥ずかしい……」

 

 浩介くんが抗議する。既にそれが何をしていたか自白しているようなものだけど……

 

「あら、さっきクリームで水着めくられた時も恥ずかしかったわよ。浩介くん教えてくれないの?」

 

「おまっ、あれは……石山が塗って欲しいって言うから……」

 

「う、うん……まあ、どうしてもって言うなら追求はしないでおくわね」

 

 こういう所でちゃんと引いておけば嫌われないことをあたしは知っているのだ。

 このあたりはTS病らしい駆け引きかもしれない。男の気持ちを理解しにくい生粋の女の子ではなかなか出来ない芸当だと、あたしは思う。

 

「さ、残りの時間はみんなと遊びましょ。まだまだ長いわよ」

 

「うん」

 

 永原先生の言葉で、そういえば他のみんなはどうしたのだろうと急に気がかりになる。

 浩介くんはまだ座っている時に立ち上がる。

 

 お尻にちょっとだけ違和感を感じる。ちょっとだけ水着が食い込んでた。

 何の気なしにパレオの中に手を入れて、水着の食い込みをパチンと直す。

 

「こら石山さん」

 

「え? どうしたんですか永原先生?」

 

「海で無防備になるのはいいけど、いくら何でも今のはガードが緩すぎるわよ」

 

 何か怒られてしまった。

 

 ふと、足元を見る。

 真下から浩介くんが水着の中を覗いていた。

 

 顔が真っ赤になっている。

 おっぱいの大きさに目が行きがちだが、あたしはお尻も結構大きい。十分アピールになる。

 

「な、なあその……石山……」

 

「あ、浩介くんどうしたの?」

 

「お、俺……熱で干からびちゃうから……」

 

「……」

 

「あらあらまあまあ……」

 

 浩介くんの言った「熱で干からびちゃう」の意味は分かる。

 そもそもこの水着自体、かなりエロい。ウブな男の子には、超ミニスカートで無防備にパンチラしているのと何ら変わらないかも知れない。

 つまり浩介くんの目線では、超ミニスカートを穿いてパンチラしまくってる女の子がパンツに手を入れて直しているようなもので……って何考えてるんだ……

 とにかく、みんなの所に戻らないと。

 

 

「あ、桂子ちゃん!」

 

「優子ちゃんじゃない、どうしたの?」

 

 あたしは、さくらちゃんと虎姫ちゃん、恵美ちゃんとで泳いで遊んでいた桂子ちゃんに声をかける。

 呼びかけると桂子ちゃんが浜に上がっている。本格的に泳いでいるのかパレオを脱いでいた。

 

「ああいやその……日焼け止めクリーム塗ってて……」

 

「ふーん、それにしちゃ背中も塗れてるみたいだけど……もしかして……」

 

 かああああっという音がなりそうなくらい赤くなる。

 

「篠原くんに塗ってもらったんでしょ?」

 

「あうあう……」

 

「それで、どうだったの?」

 

「……桂子ちゃん、やっぱり駄目だったよ……」

 

「え?」

 

「身体のこと。まだ女の子になりきれてないの、だからあたし……荒療治しようと思って、浩介くんに……」

 

「そうだったのね。篠原、なんか不審なくらいすごい勢いでトイレに駆けてったから」

 

「って、おい!」

 

 浩介くんが桂子ちゃんに抗議する。

 

「あ、ごめん。いたんだね」

 

「なんか扱い悪いなあー」

 

 女の集団に男一人だと、やっぱり扱いも悪くなって可哀想だ。

 お泊り会のお父さんもそうだったし。

 

「でもね桂子ちゃん……あたしは……その……」

 

「ああ、優子ちゃん言っちゃダメ!」

 

 桂子ちゃんが大慌てで止める。

 

「石山さん、気持ちは分かりますけど、堂々と言ってしまえば失うものもあるんですよ」

 

 うん、そうだよね。公言しちゃいけないよね。

 女の子らしく慎ましやかにしなきゃ。

 

「あ、そうそう他の男子たちはどうしたの?」

 

「うーん他の3人は他の3人で、沖合競争とか言ってたわね」

 

「え? あんまり沖合に出られると困るけど……」

 

 永原先生が心配する。

 

「っと言っても恵美ちゃんが監視してるし……というか、こっち側に向かってるわよ」

 

「……そう、それなら良かった」

 

 永原先生がホッとしている。そうだよね、一応引率ってことになっているし、責任取らされちゃうわけだ。

 って、それ考えたらさっき浩介くん誘惑したのまずかったかなあ……

 治療成果も出なかったし、危ない橋を渡り損になってしまった。

 ともあれ、一旦ここで合流だ。

 

 

「あら、全員集まったわね」

 

 永原先生が、クラス全員が集まったのを確認する。よく見ると、他のクラスメイトも集まっていたのだ。

 

 

「ねえねえ、せっかく集まったし、スイカ割りしようよ!」

 

 桂子ちゃんが提案する。

 

「え? でもスイカなんて持ってきてないわよ」

 

 永原先生が言う。

 

「へへん、こんな事もあろうかと持ってきたのよ! ちょっと待っててね」

 

 桂子ちゃんが基地に駆け寄るとバッグの中から何かを取り出し始めた。

 そこにはやや小さめのスイカと目隠し、そして木の棒があった。

 

「よし、じゃあ誰に割ってもらおうかな……」

 

 スイカ割り、あたしはなんか嫌な予感するし、立候補しないでおこう。

 

「はい!」

 

 男子の一人が立候補する。

 

「よし、じゃあこれ付けてね」

 

 桂子ちゃんが目隠しを渡す。男子はちょっとドキッとしている。桂子ちゃんかわいいもんね。

 

「じゃあルール説明するね。振り下ろせるのは一回だけ、スイカに触れればそのカウントは無しよ。スイカを割ったらそこで終了、スイカに足が触れたら失格ね」

 

「OK」

 

 高月くんがその男子に目隠しする。スイカとまっすぐの位置に数メートルに立ってスイカ割りスタートとなる。

 

「よし、じゃあいくわよ……よーい、スタート!」

 

 永原先生の掛け声とともにいよいよスイカ割りイベントが始まった。


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