永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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打ち明ける想い 前編

 夕食を食べ終わったら「風呂に入りなさい」と母さんが言う。

 そういえば一昨日の夜以降、風呂に入ってない。昨日の今頃はちょうど身体を女の子にされていた時間帯だ。

 

 お風呂の脱衣所に入る。

 母さんが「援助はいる?」と言ってきた。実際の所、本音では願ってもないありがたい申し出ではあったんだが、午後の服選びのこともあってなんか嫌な予感がしたから「嬉しいけど」と言う感じで丁重に断った。

 

 

 シャツとズボンを脱ぐ、ブラを外す、パンツを脱ぐ。本日二度目の全裸。

 鏡に映る裸の自分を見る、ああ、可愛いしエロい。きっとこんな可愛い子が彼女だったら男は幸せだろうな。しかも老けないというおまけ付きだ。

 でも、中身は男だ。って、これから中身も女に変わらなきゃいけないんだよなあ。

 

 ともあれ、少し寒い。

 ……と言うかかなり寒い。もとより暑がりよりもやや寒がり寄りだったが、ここまで寒がりじゃなかったぞ!?

 ま、まずい! 冷たい冷たい! 手が急速に冷えてく!

 こ、これも身体の変化のせいかな、ともあれ、急いで湯船に行かないと!

 

 身体にお湯をかけ、少し温まる。

 そういえば、女性は「冷え性」ってのがあったよな。温泉に行くと大抵「効能」にあるあれだ。

 ともかく身体を洗う。いくつかあるタオルの中から1つを選び、よく濡らして石鹸をこする。

 うまく泡立ったら身体につけて……

 って、あんまり強くこすらないほうがいいだろうな。見ぬからに痛みやすそうな肌をしてる。

 

 ……慎重に……慎重に、ってこれじゃ洗えない、少し、もう少しだけ強くっと。

 ええい! まどろっこしい!

 

 さすがに、強くしても大丈夫だろう。

 

「うっ……!」

 

 やばいやばい、男のときのような力の入れ方をしたら、流石に痛覚を感じた。

 これよりは弱くしないと。

 

 ふう、ともあれ全身を洗い終わったので、シャワーで流す。

 次に髪の毛だ。これは大変だろう。

 

 女性の場合はシャンプーの他にリンスというものがあるが、とりあえず今日は使わないでおこう。まずはこの長さの髪洗いに慣れてからにしないと、勝手もわからないうちに下手に手を出すとろくなことになりそうにない。

 

 まずは頭と背中までの髪全体をシャワーで洗う。

 シャンプーを取り出して泡立ててっと。頭を泡立てる。これは男も同じはずだ。

 

 頭の部分をゴシゴシっと。おおっ洗えてる洗えてる。

 

 ……あ! 首から下の髪の毛を洗い忘れてた。流す前に気づいてよかった。

 とりあえずさっきと同じようにシャンプーを押してっと。背中に手を回して……うー大変だ。

 うーん、母さんもロングじゃないけど、ヘルプ断らなかったほうが良かったかなあ。

 まあいいや、とりあえず、何とか手を工夫すれば届くはずだ。重力の助けも借りれば……よしっ!

 

 髪の先端までシャンプーが行き届いたのを確認したら、とにかく流す。うーん、今回はこれでもいいか。

 

 にしても寒い。

 湯船を見る。早く入りたい。

 

 

「あ、そういえば髪が湯船に浸かるとまずいよなあ……」

 

「……ん~?」

 

「……まあいっか!」

 

 って。よくない気もするけど、もし失敗したらしたでそれはまた次に活かせるだろう。

 ふう、うーん、とは言っても、やっぱ髪入り込むのはなあ、それに先端だし。

 

 まあ、次からは髪留めを使おう。

 

 「ふう、暖かい……」

 

 いつもより熱く感じる風呂だが、いつもより冷えてる状況ならこれでいいだろう。

 

 一通り温まると風呂から出る。

 身体を拭く、次いで頭と髪の毛。よし、こんなもんだろう。

 脱衣所に戻り、バスタオルを拭く。鏡をもう一度見る。

 やっぱ可愛いしエロいよなあこの子……これが自分の姿だってんだから驚きだ。

 悪人顔で性格も乱暴な俺が、一夜にして絶世の美少女か。しかも老けないと来た。こんなことがあり得るんだから驚きだ。

 

 そんなことを考えながら一通り体を改めて拭く。

 

 あ、着替え持ってくるの忘れた。あーバスタオル巻いて部屋まで行くしか無いか。

 バスタオルに手をやる、えっと、下だけという訳には行かないよな……

 

 これで大丈夫かどう鏡を見る。なんか心許ないし、家の中とは言えこれで歩くのは……

 

 っていつの間にかご親切に着替えが置かれてるじゃないか。まあ、バスタオル1枚というのも、主に親父には精神衛生上悪いからな。

 

 まずはブラから……

 って、これ後ろで止めるタイプなのか。

 う~難しい、はあっ……

 

 

 ……よしっ! ついた。前で留めるブラより着心地はいい。前につけるやつはどうも継ぎ目が胸に当たっていたが、これはそういうものではないということに気付いた。

 

 付け外しは大変だけどどうも俺の新しい身体は肌も敏感みたいだし、こっちの方にしていきたいかもしれない。

 

 ともあれ、パンツも穿いて更にパジャマに着替える。うむ、着心地もいい。

 しかし、何やら違和感がある。

 

 背中に髪が張り付いてる。あちゃー十分拭ききれてなかった。

 そうか、髪を湯船に入れちゃうとこうなるんだな。やってしまった!

 

 うー、地味に辛い。

 

 なるほどなあ、洗うのも大変だし世の女の子が髪を切りたがるのも分かる気がする。

 とにかく、今の違和感は時間が経てばなんとかなるだろう。

 

 自室に戻り、テレビのニュース番組でも見て気を紛らわせよう。

 そういえば、今日の授業分のプリントもあったな。でも今はやる気が起きない。

 勉強以前に、今後の日常生活が心配だ。永原先生のカリキュラムも、日常生活レベルらしいから、学校生活もまた違うだろう。

 

 夜9時45分、いつもより早めにベッドに入る。

 あまりにも一日が濃すぎて、いつもより睡眠時間が長くなる。

 

 ………

 ……

 …

 

 目覚まし時計が鳴り、朝起きる。

 クローゼットを開けてハンガーを見たら制服がない!

 そしてようやく、自分が女の子になっていたことに気付いた。クローゼットにあった鏡を見て確認する。

 

 とりあえず、学校は休みだ。そもそも女子の制服を調達しないと行きようがない。

 

 リビングに行くと両親がもう朝食を食べ始めていた。

 

「あ、ゆう起きた? 今朝ごはん持ってくね」

 

「あんまり作りすぎないでくれるか? この体、結構少食みたいだから」

 

 昨日、苦しい思いして食っていたから、俺の体のことを考えてそう伝える。

 

「ああ、ごめんなさい。そうよね、ゆうももう女の子だもんね」

 

 家計的には食費がかからなくなってありがたいものなのかな? よく分からないけど。

 

 ともあれ、いつもよりかなり少ない朝食を食べる。

 これまで病院食、ハンバーガ屋、そして昨日の夕食に続いて女の子になってから4回目の食事だがやっぱ一口一口が遠く感じる。

 汁物の時なんかは早く食べないと冷めたりしちゃうからな。今後は考えものだ。

 

 ともかく、4回食事をしてみてわかったのは、どうやら幸いにも味覚の好みにはさほどの変化はなさそうだということだ。

 

 そうだ、昨日考えた決意について話さないと。

 

「ねえ……」

 

「ん?」

 

「あ、あの……お……わ、私、大事な話があって」

 

「ああ、昨日の話だろ? ゆう、お前はどうしたいんだ?」

 

 初めて親父が声をあげる。

 

「あの後考えたんだけど……わ、私! 今日から石山優一じゃなくて石山優子になろうと思う! そ、それで、それで、明日から永原先生のプログラムを受けて……一人前の女の子に、女の子になりたい!」

 

「……本当にそれでいいんだな?」

 

「ゆうの人生だから、私たちはどんな選択肢をしても止めないけど、一個だけいいかな?」

 

「何?」

 

「優一に対して優子って適当すぎない?」

 

「ううん、違うんだ……」

 

「どうして?」

 

「あ、あのね、実は……お……あ、あたし。本当は優しい性格じゃなくて、その」

 

「……ああ、そういうことか」

 

「そんなこと、まだ気にしてたの? ごまかしたって無駄よ。ゆうには言ってなかったけど『お宅の子は乱暴です』って先生に言われてたもの。とっくに知ってたわ」

 

 そうだ、先生の家庭訪問やらその手の報告は当然ある。冷静になればすぐに気付けそうなことだったのに。意外と俺もバカだ。

 

 

「で、でも……あ、あたし、本当にこの性格は嫌だった!」

 

 俺は、両親の前で胸の内を暴露する。

 

「だ、だから! 昔木ノ本……けっ、桂子ちゃんが、子の意味を教えてくれて。桂子ちゃん、子は一と了にわけられるから始まりから終わりまでって意味があるって」

 

 俺が新しい名前を「優子」に決めた理由を、丁寧に説明していく。

 

「今度は、今度は本当に優しい子になりたいんだ! 終わりは来るかわからないけど、最初から終わりまで優しい女の子に!」

 

 決意を伝える。もう迷ったりはしない。

 今度は、今度はちゃんと自分は女の子に、優しい女の子になる!

 

「……決心は堅いようね」

 

「ああ、永原先生に、連絡してくれ。石山優一改め石山優子は、これから女の子としての人生を歩むつもりだ。決意は堅いと」

 

「ええ、でももう少し待ちましょう」

 

 

 学校の朝礼が始まる少し前の時間、母親が電話を取って学校の電話番号を入力する。

 

「もしもし、永原先生いらっしゃいますか? …………石山優一の母です……はい、はい……それでですね、優一は優子に名前を変えて……ええ、カリキュラムを受けたいと……はい、はい……決意はとても堅いです、はい。あ、じゃあお願いします」

 

 電話で母さんと永原先生が話している。

 

「……永原先生、授業終わったら家に来るって」

 

 おお、これはありがたい。しかし、つきっきりで大丈夫なのか?

 いくら自分が難病で永原先生がTS病の支援員も兼業しているとは言え、他の仕事もあるだろうに……

 そのことについて聞いてみよう。

 

 とにかく今日は学校が休みだ。高校はまだ休んだことがなかったが、いざ休むとなるととても暇だ。

 ともあれ、部屋に入る。女の子として生きると言っても、自分の部屋にあるのは男向けの本ばかりだ。

 PCゲームで時間を潰そう。

 

 ……あれ? ここはこれでクリアできたはずなんだけどなあ。

 もう一回やってみよう。

 

 ……あれ? このパターンで間違いないよな?

 攻略サイトを見る。その通りだ。つまり反応が遅れているんだ。

 

 あー、くそっ! おのれ! 今まで出来たことが何で……!

 

 あーあ、これも女の子になったせいか。それにしても、女の子の生活ってないない尽くしだぜ。

 

 一旦ゲームを止め、女の子の不便さを思い出す。

 高い所に手が届かない、すぐにトイレに気づけない、たくさん食べることが出来ない、重い物を運べない、すぐに疲れて長時間の作業ができない、早く走れない、さくっと準備ができない、短時間で身体の手入れが終わらない、そしてさっきは反射神経まで衰えていることにも気付かされた。

 

 これで生理まで来るってんだから困った話だ。

 翻って女でしか出来なくて男ができないことってなんだ?

 

 うーん、あ! そうだ! 男はスカート穿けないな。後はそういえば出産もできないな。ってこれはメリットなのか分からんなあ。むしろデメリットの部類か?

 後はそうだなあ……女性専用のサービスも受けられるんだよな。最近じゃレディースなんちゃらとかよくあるし。

 他には男に守ってもらえるとかもかなあ、昨今じゃ日本は女にとことん甘いしなあ、さっきのデメリットも「女だから」と言って辞退することもできるだろう。

 

 それに、甘えれば金持ちとか寄ってきそうだ……ってこれは美人の特権じゃないか。

 うーん、幸いにも客観的に見て今の自分の容姿は超が付く美人でしかも超がつくほど可愛いから間違いではないか。

 

 でもどうなんだろう? メリット釣り合ってるのかな?

 いくら女に甘い社会になったと言っても、やっぱり身体能力が衰えたのは、出来たことが出来なくなるということで、単純に嫌な話だ。

 

 ……なるほど、男に戻りたいという思いを募らせてしまう患者が続出するのも頷ける話ではある。しかも老いて死ぬわけじゃなく、自分の周囲が死んでも生き続けなければならない。

 不可能と言われても奇跡を信じたくなるってことか。

 でも、それはもっと酷い結末を招く、昨日の永原先生もそう言っていたし、その前の医者の先生も、性別適合手術は止めていた。

 今更決意は変えるつもりは毛頭ない。これは俺に対する試練だ。逃げちゃダメなんだ。

 

 

 とにかく、ゲームを続けよう。攻略法はわかってるんだ。この身体に慣れれば少しはましになるはずだ。

 

 ……あーやっぱダメだ! あれ? そういえば女の子になって怒ったのってこれが初めて? 出来たことが出来なくなってるのもあるけど、そう言えば女の子になって気持ちが少し落ち着いている気がする。

 

 ゲームで自分の感情変化に気付けるものなのか! また一つ、新しい発見をしてしまった!

 

 ……お、よしよし、行けた行けた。

 ふうクリアできた……よし、これで難易度を一個上げられるな。最も、このハードモードは男だったときも無理だったからなあ。

 

 ……えい! えいっ!

 ああーやっぱここかあ……

 

 なんだろう、随分と新鮮な気持ちだ。こんなにゲームが楽しいと思ったのも久しぶりだ。

 不自由ばかりで嫌だと思っていたが、それを克服する喜びは何にも代えがたいものだ。何だろう、明日への希望が湧いてくる気がする。これから来る女の子としての生活に、とてもワクワクしていることに気付いた。

 

 単なるゲームだが、それでも俺に希望をくれたことは感謝したいものだ。

 

「ゆう、お昼だぞ!」

 

 親父が呼んでいる。よし、ゲームも切りが良いし、これで切りあげよう。

 昼食はラーメンだが、いつもより少ない。早速順応してくれて助かる。

 

 ……ずるっずるっ

 うむ、上手い。自分は味が濃いのが好きな質だが、これについてもやはり変わっていないようだ。

 ……ふう、よしよしスープも飲めたぞ。

 

「ゆう、ご飯を食べたら、先生がいらっしゃるから着替えなさい」

 

「はーい」

 

 早速自室に戻る。

 引き出しを開けるとまだ男物の服が残っていたが、当然多すぎて使えない。親父の体格とも微妙に合わないし、これらも古着屋行きだろう。

 昨日買った女物の服を取り出す。

 先生が来るとして、どうしようか……

 

 とりあえず、履き心地のいい白ズボンとTシャツにしよう。

 うーん、でもこれもちゃんと普段着でのスカートの経験も必要だよな。だとしたら今のうちにスカートに慣れておくべきか?

 ……まあ、そのあたりはカリキュラムでやるだろう。先生が来るんだ、スカートで何かまずいことをしたら大恥かくことになるし、今はこれでいいか。

 

 昼食の後、着替えも終わり、更にゲームに夢中になっていたら玄関の呼び鈴がピンポーンと鳴った。

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