永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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楽しい夏祭り 永原先生の着物

 朝起きる。今日は昨日に引き続き夏祭りの日。でもその日は夕方から集合だ。

 夏休み中はすっかり朝の日課になったお人形さん遊びをする。重たそうなドレスを脱がしてあげて、カジュアルな衣装に着替えさせてあげる。

 お人形さんは何を着せても可愛く似合う。お人形さん遊びは衣装のバリエーションが多いと意外と楽しい上に、一見とんでもない組み合わせが意外と似合ったりと、新しい発見も多い。お父さん譲りの全方面に対する好奇心もあってか、ついのめり込んでしまうのだ。

 夏休みが終わったら、平日は程々にしておこう。

 

 今日は母さんの家事を手伝いつつ、最後の宿題を消化しながら時間を過ごしていた。

 宿題を終わらせたあとのことを考える。この後、ひたすら暇になる。

 桂子ちゃんたちと遊ぼうかなあ? 海や夏祭りだけではなく、夏休み中にできそうな遊びをたくさんしたい。

 山は林間学校があったし……うーんプールとか? それだとまた水着になるのよねえ……

 あ、他にも遊園地とか水族館とかもあるか。

 

「優子、昨日の海はどうだった?」

 

 昼食の支度をしていると、母さんが話しかけてきた。

 

「うん、楽しかったよ」

 

「そう、それはよかった」

 

「でも課題もできたかな?」

 

「ん? どんな課題?」

 

「えっと……実は……」

 

 恥ずかしいけど、あたしは母さんに、浩介くんと起きたことを話す。

 ここでも「名前呼びなんだね」って言われたけど、もういいや。多分夏休み終わったらまた言われそう。

 

「優子、それ大胆すぎよ……」

 

「うん、浩介くんには刺激強かったみたいで……」

 

 日焼け止めクリームの話もしたので、やっぱりこう言われた。

 

「無理も無いわよ……母さんだってお父さんに頼むのは……恥ずかしいわねえ……」

 

 母さん、変なこと言わないでくれ……

 

「でも、結局それでも治らなくて……」

 

「……優子、いくらなんでも生き急ぎすぎよ」

 

 やっぱり母さんも同じことを言う。

 

「……それ、浩介くんにも永原先生にも言われた」

 

「でしょう? 気持ちは分かるわよ。でも、そういつもうまくは行かないものよ」

 

「でも心と体の不一致は……」

 

「うん分かってる。優子が一番辛いことはね。でもね優子、あなたはいつも、女の子になろうとすることで褒められてばかりいたわ」

 

 そりゃあそうだ、多くのTS病の患者は男に戻りたいと思い、不可能と言われても、無駄にあがき、絶望し、自ら命を絶っていく。

 そうでなくても、渋々女の子の不便な生活を受け入れるのが普通だった。

 

 永原先生は、そんな患者たちを多く見て長い時を過ごしてきた。

 

 でもあたしは違った。

 TS病になる前、あたしはひどく乱暴で、すぐに怒り、優一の名前を汚し続けた。

 生まれ変わるのに必死になった患者は、有史以来殆ど居ないという。

 

「優子は、一生懸命に女の子になろうとして、困難も乗り越えてきたわ。それはとても立派なことよ。でもね、それがいつも成功し続けるとは限らないの」

 

「う、うん……分かってる。本来はもっと長い時間をかけて治すものだって、永原先生が――」

 

「でしょう? 優子、あなたに時間はたっぷりあるのよ」

 

「で、でも浩介くんは?」

 

「浩介くんが若いうちに治るものでしょ?」

 

「う、うん……」

 

「焦っちゃダメって言われたでしょ」

 

 母さんも同じことを言う。ああ、やっぱりあたしのわがままなのかな……でも、努力は続けよう。

 

 

「優子、そろそろ着替えて行ったほうがいいんじゃない?」

 

「あ、うん」

 

 おっと、いい時間になった。

 そろそろ浴衣にしないと。

 ううう、今更だけど、浴衣は露出度低いけど、やっぱりノーパンノーブラっていうのは落ち着か無さそうだ。

 

 まずPCを開いて浴衣の帯の締め方が載っているサイトを開く。

 この前買った浴衣を取り出し、服を全部脱いで全部丸出しになってから浴衣を着る。

 鏡付き机で確認する。ちょっと遠いのが不便だが仕方ない。

 

 帯を確認、一つ一つ丁寧にやっていく。

 帯の片側を折って肩に巻きつけて、2回巻きつけて、三角に折って、えっと……次がこうかな?

 

 えっと、それでこの結び目を上手くまわして……よし! できた!

 

 でもやっぱり、中がスースーする。それに大事な部分とは布一枚分しかないからかどうも落ち着かない。

 

「母さん! これでいい!?」

 

 母さんに確認してもらうためリビングへ、下半身と胸が落ち着かない……

 

「んーちょっと待ってね?」

 

 母さんが入念にチェックする。

 

「帯の位置はもう少しこっち側にして……よし!」

 

「えへへ、どうかな?」

 

「うん、かわいいんじゃない? でも浴衣だとその白いリボンはあんまり似合わないわねえ……」

 

「んー? そうかなあー?」

 

 前頭部、左目の上側にあたしがいつもつけている白リボンについて、母さんが注文をつける。

 

「花の髪飾りの方がいいと思うのよ」

 

 そう言うと母さんはあたしの部屋に掛けていく。そして1分も経たないうちにあたしの所に戻ると、白い花が数個付いた、いつものリボンよりもかなり大きい髪飾りを持ってきてくれる。

 

「母さんがつけるからね」

 

「う、うん……」

 

 かなり時間がかかる。

 止め方はいつものリボンとは違い、針とピンで止める感じ。

 頭におもりがついているような感覚を受ける。見た目通りの重さでリボンとは大違いだ。

 

「か、母さん……なんか重たい……」

 

「あら? でもかわいいわよ。鏡で見てきて?」

 

「う、うん……」

 

 言われるままに鏡へ移動する。

 

 頭におもりが付いたためか、さっきより下半身と胸は気にならないが、それでもスースー感がなくなったわけじゃない。

 ううう……誰かに襲われたらどうしよう……

 襲われてノーパンノーブラなんてバレたら絶対その後も正当化されちゃうよなあ……でも下着つけたらあんまりにみっともないし……あうぅ……ジレンマ……

 

 鏡に付く。

 

「おおお……」

 

 女の子になった自分の姿はもう見慣れたものだ。男だった頃の姿ってどんなだったっけ?

 ……ああ、うん、そうだ。悪人顔だったよね。髭が濃くて体毛もすごくて髪がちょっと薄くて……うん、思い出せた。

 危ない危ない、さすがにこんな短時間で男の頃のことを忘れてしまうのはまずい。

 

 女の子になりきるとしても、男の頃のことは、過去に犯した罪の記憶として覚えておかなきゃいけないことだ。

 

 

 ともあれ、鏡に映っていたのは浴衣姿の、女の子。これが今のあたし。

 それはやっぱりかわいくて、特に髪飾りがかなり目立つけど、髪飾りに負けないくらいの可愛らしい顔。

 これだけ派手な装飾をしても、顔への注目が行くというのはやっぱりあたしはすごいかわいい女の子だということ。テレビでも女の子の可愛いアイドルがたくさんいるけど、それでもあたしよりかわいいと思ったことは一回もない。

 ただ一つ残念なのは、胸が目立ってみっともないことだ。普段の洋服ならあたしの巨乳は一際映えるけど、和服だと中々そうも行かない。

 昔は貧乳より巨乳のほうがむしろコンプレックスになっていたというのは、あたしからすると信じられない話だったが、今こうやって浴衣を着てみて、彼女たちの悩みが痛いほど伝わってくる。

 しかも、浴衣で歩くとちょっと胸がこすれる事がある。これについては新しい対策を考えないと行けないが、残念ながら今からでは間に合わない。

 

 ともあれ、次に荷物だ。財布や携帯などを入れた小さなポーチを持っていく、こちらも色合いということもあって母さんに注意された。大きさも小さく、帯の中に入る程度にしておく。

 

 よし、これでOK、念のため、帯の中にタンポンも入れておく。でも、そもそもノーパンで生理来たらどうしよう……

 日程的にはまずありえないから大丈夫だろうけど。

 

 玄関の前に行くと、下駄が置いてあった。靴のサイズは把握されていたので、こっそり買ったものかもしれない。

 まあ、詮索してもしょうがないか。

 玄関の靴の高さに降りると、体の中の風通しが更に良くなった気がする。あうう、心臓がバクバク行ってるよお……

 でも、集合時間もあるし行かなきゃ!

 

「行ってきまーす!」

 

「はーいいってらっしゃーい。鍵閉めておくからそのままでいいわよー」

 

 母さんの声とともに家の鍵を開け、ドアを開く。

 夕方夏の生ぬるい空気が上下から入り込んでくる。

 しっかり閉めていても、突然帯が解けて裸を晒すかもしれないという恐怖感が襲ってくる。

 家を出て道路に出る。閑静な住宅街で誰もいないのに、そこらじゅうから見られているような感覚。

 ノーパンノーブラになるだけで、緊張感が段違いだ。

 露出度は普段着ている制服や私服より段違いに低い、なのに、昨日、女の子として不特定多数に出てから、一番露出度が高かっただろう水着になったときよりもずっと緊張感が高い。

 

 やはり、大事な部分に直接フィットしないというのはとてつもない緊張感をもたらすみたいだ。

 まあ、普段の服でもパンツ見られないようにしてるから緊張感はあるけど。

 

 普段の道を進む、今回の祭りの神社はあたしの家からの徒歩圏内にある。

 まずは桂子ちゃんと一旦合流し、そこから神社の前に集合することになっている。

 ゆっくりと道を進む、カランコロンという下駄の音が心地よいが緊張感は勢い高まっていく。

 

 桂子ちゃんとのいつもの分かれ道に来た。

 するとちょうど黄緑色のシンプルな浴衣姿で歩く女の子を見かけた。

 

「あ、桂子ちゃん!」

 

「優子ちゃんこんにちはーちょうどよかったね」

 

「うんうん、ナイスタイミングっていうの?」

 

 桂子ちゃんの髪飾りは赤と白の花。あたしよりもオシャレな感じ。

 浴衣のシンプルさと上手くギャップを作っている。

 そう言えば、桂子ちゃんもノーパンノーブラなのかな?

 あたしよりは胸が大きいわけじゃないから、巨乳でもそこまで目立った感じじゃないけど……

 

 うー、せっかく慣れ始めたと思ったのにまたスースー感を感じちゃったよ……

 帯はうんときつく締めてあるのに微量の風でも全部解けてしまうような錯覚に陥っちゃうし。もう少し意識しないようにしないと……

 

「じゃあ行きましょうか」

 

「うん」

 

 桂子ちゃんの声とともに、横に並んで広い歩道を歩く。

 集合場所の神社は駅を過ぎて更に向こう側に徒歩数分、タイミング次第では駅で誰かと合流できるかもしれない。

 

 

「優子ちゃん髪飾り可愛いね」

 

 歩きながら、桂子ちゃんが話しかけてくれる。

 

「えへへ、そうでしょそうでしょ?」

 

「いつもの白いリボンとは違う感じ」

 

「やっぱり?」

 

「そうそう、いつものはちょこんと自己主張してる可愛さがあるっていうの? でも今のは顔に負けないくらい主張してやるっていう気持ちを感じるわね。でもそれでいて、ちゃんと顔の方が可愛くなってるから素晴らしいわ」

 

 桂子ちゃんが具体的に褒めてくれる。こういうことをスラスラ言えるのは、お世辞ではない証拠だ。

 

「んっんぅ……!」

 

 少し風が吹く。緊張感が漂う。

 

「どうしたの優子ちゃん? そんなに緊張して……」

 

「だ、だって……浴衣だし……」

 

「うん、浴衣はガード固いから大丈夫よ」

 

「あうあう……」

 

 言葉に詰まってしまう。知っているとは言っても、中に何も付けてないなんて言っちゃったらはしたないし。

 桂子ちゃんは涼しい顔で歩く。やっぱり以前にもノーパンノーブラを経験しているせいだろうか?

 あたしは初めての経験だからこんなに落ち着かないのかなあ?

 

 今のあたしの人間としての年齢は17歳だけど、女の子の年齢はまだ生後3ヶ月ちょっとの赤ちゃんでしかない。

 そう考えれば、「生き急ぎすぎ」といった皆の言葉を理解できる。そうだ、赤ちゃんなんだ。

 多分この感覚も、いつかは慣れる。そう思いたい。

 

 駅に着くにつれ、人も増える。大勢の話し声が聞こえる。

 そんなわけ無いとわかってるのに、周囲の人全員がみんな透視能力や心を読む能力があるように感じてしまう。

 あう、見ないで、見ないで……

 

浴衣だからパンツやブラを付けないのは普通だって分かってても、やっぱり意識してしまう。

 

「優子ちゃん、大丈夫? 少し深呼吸してリラックスした方がいいよ?」

 

「う、うん……すぅっーーーーーーーーはぁーーーーーー」

 

 言われるがままに深呼吸する、あんまり効果がない。

 でも、駅から出ると、同じ祭りが目的と思しき浴衣姿の女の子がたくさんいた。

 中には男女のカップルも居る。

 

 そうだよね、彼女たちもノーパンノーブラなんだよなあ……

 あれ? でも意外とラインが出てみっともない子が結構いるぞ。

 ……嫌な能力だ。面倒臭がって下着を付けてる子を見分けることが出きてしまった。

 ってことはやっぱり、あたしがノーパンノーブラなのバレているのかもしれない。

 

 電車の群衆の中に、どうやら知っている人は居ないみたいなので、桂子ちゃんとそのまま神社の前まで進むことにする。

 

 普段この方向は殆ど行かない。駅の向こう側は最近になってちょっとだけスーパーなどの商業施設も出てきたけど、役所の最寄り駅のほうが断然便利だからだ。

 

 

「ねえねえ、あの二人美人だよね」

 

「うんうん、特に黄緑の子、オシャレだよねえ」

 

「でもさ、青い浴衣の子、顔はかわいいと思うよ」

 

「うーん、浴衣だと黄緑の子のほうが似合ってると思うけど確かに顔はそうかも」

 

「黒髪もきれいだしねえ」

 

 

「桂子ちゃん、やっぱり噂になってるね」

 

「まあねえ。今頃つぶやかれてるかもよ」

 

「ふええ!?」

 

 「自意識過剰でしょ優子」と何度自分に言い聞かせても、スマホで盗撮され、「ノーパン浴衣娘」としてつぶやかれてしまう自分を思い浮かべてしまう。

 いくら理屈でわかっていても、不安感を抑えることが出来ない。

 夏に珍しく涼しい風が入る。ブラジャーとパンツを付けてない上下半身に刺激が来る。

 冷静に、落ち着いて、大丈夫、見えないから。ありったけの言葉を使い暗示する。

 

「優子ちゃん、落ち着かないのは分かるけど大丈夫よ。みんな付けてないんだから」

 

 本当はそうでもないことは知っている。

 

「仮に付けてる子が居たとしても、それはみっともなくて女子力の低い女がしていることなんだから、堂々とすればいいのよ」

 

「わ、わかってるけど……」

 

 桂子ちゃんも桂子ちゃんなりにフォローしてくれる。

 あーあー、あたしも浴衣でノーパンノーブラでも桂子ちゃんみたいに冷静になりたいなあ……

 

「ま、みんなで夏祭りを愉しめば、そう言う感覚もなくなるわよ」

 

「う、うん……」

 

 ともあれ今は、桂子ちゃんを信じるしか道はない。

 神社が近付くにつれ、浴衣の密度が増える。夏祭りは昨日と今日の二日間。

 そこかしこに話し声が聞こえる、家族連れ、カップル、友人同士。中には浴衣ではなく、学校の制服だったり完全な私服だったりする人達もいる。

 

 そんな中で、ひときわ目立つ着物を着ている女性。

 柄こそ比較的シンプルだが、番傘を持って髪を上にまとめ上げ、かんざしまで付けている。まるで時代劇か京都の観光都市の女性だ。

 

 でもそれが、永原先生であることに気付くには時間はかからなかった。

 

「あ、永原先生」

 

「あら、石山さんに木ノ本さん」

 

「先生、その着物……一体……」

 

「ああうん、320年位前に江戸城でもらったものよ」

 

「え!? これ江戸時代の!?」

 

 桂子ちゃんが驚く。かなり保存状態がいい。本来なら美術館ものだ。

 

「ええ」

 

「誰にもらったんですか?」

 

「吉良上野介殿よ」

 

「え? 吉良上野介?」

 

 誰だっけ? 何処かで聞いたことある名前だけど……

 とにかく大名のような偉い人には違いない。そうだとしたらとんでもない値段がつくんじゃないかな? よく分からないけど。

 

「……ええそうよ。吉良上野介殿には着物をいくつかもらったわ。どれももったいなくて片手で数えるほどしか着たことないけど、今日は私も久々の夏祭りということで、特別に着ることにしたわ」

 

「じゃ、じゃあいつも和服を着る時は?」

 

「……いつもは石山さんたちと同じような浴衣や戦後に買った和服を来ているわ」

 

「そうなんだ……ところでその傘は?」

 

「傘は新しくて戦後のものよ」

 

 そうか、傘は雨で痛むもんなあ……

 

「ええ、私も和服を着てた時代の方がずっと長いから、今でもこっちのほうが落ち着くのよねえ」

 

 確かに洋服が本格的に強くなったのは戦後からだもんなあ……

 あたしたちにはもう半ば神話化しているような時代だけど、永原先生の人生からすれば戦後の70年だってそんなに長い時間じゃないということだ。

 

「そういえば、他に誰か来てないの?」

 

「ええ、まだよ」

 

 確かに集合時間はまだ先だ。ということで、あたしたちはここで待つことにした。




吉良上野介については色々あると思いますが、本小説では基本的に善人として登場します。
当時を生きていたと言っても永原先生もあくまで1人の人間ですので
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