永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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楽しい夏祭り みんなで盆踊り

「あ、そうだ。石山……」

 

 盆踊りに行く途中、浩介くんが話しかけてきた。

 

「どうしたの?」

 

「手、繋ごうぜ」

 

「あ、うん……」

 

「おお、それでこそカップルですよ、うん」

 

 龍香ちゃんの煽りを無視して、浩介くんが手を近付けてくる。

 あたしもちょっとだけびくっとなる。

 みんなが見ている前で手をつなぐ。どう見てもカップルがすること。

 

 意を決してあたしは右手を浩介くんの左手に合わせ握る。近くに龍香ちゃんがいることは気にならなかった。

 

 浩介くんが握り返してくる。一瞬だけドキッとしたが、特に何もない。

 

 大丈夫、怖くない。あたしは女の子……あたしは女の子……

 ……どうやら手をつなぐことは上手く行ったみたい。ちょっとだけ取った水ヨーヨーの輪ゴムが気になるくらいかな?

 

「さ、盆踊りはこっちだな」

 

「ええ」

 

 徐々に盆踊り会場が近付くにつれ、人だかりも多くなる。やはり早めに来てよかった。

 

「あ、優子ちゃんと篠原くんに龍香ちゃん!」

 

 盆踊り広場の端の方に行くと、桂子ちゃんと永原先生を見た。やはり永原先生の着物は良い目印になる。

 

「桂子ちゃん、いたんだ」

 

「うん、ところで、二人とも手繋いでるね」

 

「う、うん……手は平気みたい」

 

「そう、よかったね。優子ちゃん、慌てないで一つ一つ次のステップに進めばいいのよ」

 

 桂子ちゃんが励ましてくれる。

 

「うん、ありがとう桂子ちゃん」

 

「な、なあそろそろ離さないか?」

 

「あ、うんそうだね」

 

 ともあれ手を繋ぐことが出来たのは大きな一歩だ。こうすれば次は腕を絡めたり出来るし、最終的にはキスやその先まで……ってダメダメ、一気に結果残そうとしてもうまくいかないでしょ優子!

 

 あたしは自分に言い聞かせつつ手を離す。連絡先も交換したし夏休みの残りの時間……デ、デートに誘おうかな……

 ま、まあいいや。ともあれ今は盆踊りを楽しもう。あんまり激しく動くのはまずいけど。

 

 

「ああこれ、私のおじいちゃんから貰ったものです。20年位前かしら」

 

「へえーすごいんですねえ……」

 

 一方で、永原先生の方は知らないおじさんと着物について話している。

 おじさん、その着物、そう言うレベルじゃないぞ。下手したら重要文化財ものだぞ。

 ……と言いたいが、まあ本当のことを言っても信じてもらえ無さそうなので、体のいい嘘をつく。まさに嘘も方便だ。

 おじさんたちの会話につれ、永原先生の着物に着目する祭りの参加者が多い。

 何だろう、この祭りの主役は永原先生な気がする。ちなみに、永原先生と桂子ちゃんもお面を買っていた。

 

「桂子ちゃんと永原先生も盆踊りに?」

 

「うん、ちょっと見てみようかなあって。それにしても優子ちゃんいかにも夏祭りって感じだね」

 

「うん、自分でもそう思うかな」

 

 そう言うとあたしは鬼のお面をかぶる。

 

「おお似合ってるねえ……外した時のギャップが大きいよー」

 

「うんうん、私もそう思いますよ」

 

 桂子ちゃんと龍香ちゃんまで、浩介くんと同じことを言う。でもまだ何か納得がいかない。

 ……浩介くんも男の子だし、これは「男が出た」というよりは優子個人としての感性のズレだろう。

 

 とにかくお面を付けたままにさせられた。

 

「そうだ、篠原さんもそのお面被ってみてくださいよ!」

 

 龍香ちゃんが言う。

 

「あ、そういえば被ってなかったな……よしっ!」

 

 浩介くんがひょっとこのお面をかぶる。

 

「おお、風流だねえー」

 

「うんうん、夏祭り感が増してますよ!」

 

 あたしに負けず劣らずの好評ぶりだ。

 盆踊りの時間が近付く。

 

「お、先生ここにいたのか!」

 

 恵美ちゃんが近付く。

 恵美ちゃんは鬼のお面をかぶったあたしに一瞬怪訝そうな表情を見せるが、胸元をちら見するとすぐに気付く。

 

「およ、この鬼のお面……もしかして優子か?」

 

「正解!」

 

 そう言ってお面を外す。

 

「うおっ、お面の下は美少女とな。いいぜ、あたいそう言うの好きだぜ」

 

「屋台のおじさんたちもそうだけど……何かもう反応が金太郎飴だよみんな」

 

 あたしも、こうも同じ反応ばかりでやや呆れた感じに言う。

 

「それだけ優子がかわいいってこった。だろ? 篠原」

 

「お、おう……」

 

 急に振られた浩介くんが動揺しながらも答える。

 

 その表情はひょっとこに隠れていてよく分からない。

 

「おお、当てずっぽうだったけど、やっぱこのひょっとこは篠原か!」

 

「うん。そうだぞ田村」

 

 お面のまま話しているのは中々にシュール。微妙に声の響きも違うし。

 

「まあ、そりゃあ優子ちゃんと一緒にいる男子と言ったら彼しか居ないもんねえ……」

 

 

 話していると3人の人影が近付いてくる。

 

「お、小谷学園2年2組はここかな?」

 

「ええそうですよ高月くん」

 

 高月くんを始め男子組が帰ってくる。あたしと浩介くん以外にも、男女で交流があまりないのはちょっとつまらない。

 

 しばらくはこの状態で雑談を続けていたが、虎姫ちゃんとさくらちゃんも「間もなく、盆踊りを開始します」のアナウンスとともにこちらに合流。

 これで、最初に集まった時の11人が一個の集団になった。

 ちなみに、お面プレイは永原先生を含めた全員に驚かれ、そして「ギャップがいい」と言われた。

 ……もう知らないのでお面は外し、横につける感じに戻す。

 

 

「ねえねえ、あの人、すごい着物よねえ……」

 

「うんうん、相当な年代物って感じ」

 

「おばあちゃんの着物とかじゃない?」

 

「あーそうかも」

 

 

 この着物が出来るより、永原先生が生まれるときの方がずっと前の話だ。

 まあ、着物も着物で十分すぎるほど古いものだけど。

 

「えー皆様、これより盆踊りを開始します」

 

 マイクで司会の人が放送する。

 よく見ると提灯にはスポンサーと思しき企業や個人の名前が書かれている。

 中心には太鼓を持った人と、司会の人がいる。

 

「さあさあ、始まりますよ!」

 

 音楽が流れ、太鼓が叩かれ、レコードから女性の演歌が聞こえ、自然発生的に男女が入り乱れて輪を作る。

 

「私達も行きますか?」

 

 永原先生が言う。

 

「そうだな。行こうぜ!」

 

「おう! 石山も行こうぜ!」

 

 浩介くんを含めて男子全員が輪に入る。浩介くんはひょっとこのお面をかぶる。

 

「うーんあたしはちょっと待つ」

 

「ん? どうして?」

 

「ちょっと考えがあってね」

 

 ちょっと面白いことを思いついたのだ。

 

「そうか……」

 

 男子たちに続き、恵美ちゃんと虎姫ちゃんも盆踊りに、恵美ちゃんはさくらちゃんを引っ張っていく。

 

「ねえ桂子ちゃん、龍香ちゃん、永原先生……」

 

 あたしは計画上桂子ちゃんか永原先生はあたしと行動してほしいので盆踊りに入っちゃう前に呼び止める。

 

「どうしたの?」

 

「はいはい」

 

「はい」

 

「お面って持ってる?」

 

「ええ、持ってるけど」

 

「持ってますよ」

 

「私も」

 

 三人が浴衣からお面を出す。それぞれ熊のお面、馬のお面、そして鹿のお面だ。

 

「うん、4人で固まってこれをかぶって派手に盆踊りしようよ。めちゃくちゃにはっちゃけて」

 

「あら、いいわねえ……」

 

 永原先生が真っ先に賛成する。

 

「なるほど、終わった時に正体を明かすってこと?」

 

「そうそう、あたしたち美人だからきっとみんな驚くわよ」

 

「ええ、特に優子ちゃんが鬼のお面っていうのがいいわね」

 

「よし、石山さん、木ノ本さん、河瀬さん、是非やりましょう!」

 

「「「はいっ!」」」

 

 見ると野次馬ばかりではなく、かなりの人が踊りに参加している。輪が二重三重にもなる。お面を被っている人も何人かいる。

 

「よし行こう! 一番外側になるようにしてね」

 

「「「ええ!」」」

 

 あたしの合図とともに盆踊りに入る。

 

 

「あーあーあーよっこいよっこいどっこい!」

 

 盆踊りの曲とともにどんどん盛り上がる。あたしたちはフリーダムに踊る。

 必然と野次馬たちの視線も集まる。

 うまい具合に空気を読まない。でも司会者も、歌っている人も、太鼓も気にもとめないのだ。

 

 普通に手を振り上げる所で、派手にジャンプしたり、歌舞伎の見得のポーズを取ったりする。

 あたしはヨーヨーも使いパフォーマンスをする。

 あたしたちは一番外側で奇抜なお面をかぶる四人組を演じ続ける。最初こそざわついた感じだったが、その後は笑いも溢れるようになった。

 踊り方もバラバラなのが余計に面白おかしく、盆踊りの輪から抜けてあたしたちを見ようとする人まで出始める。

 頭のネジが外れたのか、最初こそ空気がスースーする感じもあったが、あたしはすぐに忘れてしまったのだ。

 

 そして盆踊りも終盤に入る。

 

「それそれそれそれ! 最後にもう一丁、そーれそれそれそれ!!!」

 

 演歌の人も盛り上がる。

 

「よおー!!!」

 

「「「よおー!!!」」」

 

 あたしが謎の掛け声をすると、他の3人も続く。

 

 そして太鼓の叩きが終わると、野次馬から拍手が来る。

 あたしたちは注目を浴びていることを確認する。

 

「じゃあ脱ごうか」

 

「ええ」

 

「そうですね」

 

「分かったわ」

 

 あたしたちは野次馬の密度が一番濃い所に顔を向け、お面を手に掛けさっと脱ぐ。

 

 

「「「うおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」

 

 野次馬が大歓声を上げる。

 

「すげえ!!! こんなに可愛い子たちだったのかよ!!!」

 

「もしかして、アイドルユニットじゃね?」

 

「ハチャメチャで面白いアイドルグループだよねえ……」

 

 

「優子さん、私達アイドルユニットだと思われてますよ」

 

「あはは、もしアイドルだったら龍香ちゃん大変だよ」

 

「そうですねえ……全く」

 

「って優子ちゃんも人の事言えないわよ」

 

「う、うんそうだね……」

 

 恋愛禁止は嫌だし、アイドルにはなりたくない。

 

 

 野次馬の歓声も冷めやらぬ中、司会の人が降りてくる。

 

「いやあ、やっぱりお祭りはこういうのがいると盛り上がるんですよー」

 

「ああどうも、すみませんお騒がせして」

 

「ああいや、ほらこのポスター見てくださいよ。この盆踊りはかき乱し歓迎なんですよ!」

 

「あ本当だ……」

 

 お祭りのポスターを見ると盆踊りについて「フリーダム盆踊り」と名付けられていた。

 直球なネーミングだが、ともあれ司会者の意図から鑑みれば、むしろ空気読めてないのは主流の輪の方だったらしい。

 

「それにしても、アイドルユニットとか何かです?」

 

「ああいえ、そういうのじゃないですよ」

 

 永原先生が対応する。

 

「でもあなた、着物も豪華ですしセンターじゃないんですか?」

 

「あはは、これはおじいちゃんに貰ったもので……」

 

 また嘘を言う。

 

「そうなんですか。いやそれにしても古いんじゃないですか? 明治とかそう言う時代のものですよね?」

 

「え? ああいやその……明治じゃないですよ」

 

 確かにこの着物は江戸時代だから嘘はついてない。

 

「そ、そうなんですか……ともあれアイドルでは無さそうですね」

 

「ええ……」

 

「というか、結構ノリノリだったよね先生」

 

 確かに、この4人で一番はっちゃけていたのは永原先生だった。

 

「久しぶりのお祭りだもの。楽しまなきゃ……平成に入ってからお祭りなんて殆ど来てなかったもん」

 

「そうだったんですねえ……」

 

「あ、あの……サインください!」

 

「え?」

 

 あたしにサインをねだる男が出てくる。

 

「あの、あたしアイドルとかじゃないよ?」

 

「いいんですよ、むしろアイドルなんかよりずっとかわいいじゃないですか!」

 

「写真、写真撮らせて!」

 

「あ、あの私彼氏いるからそういうの困るのよ……」

 

 龍香ちゃんが困惑する。

 

「ちっ彼氏持ちかよ……」

 

 撮影者が勝手に落胆している。ほんと身勝手だ。

 

「ほらここにサイン……」

 

「いやそのサインなんて……」

 

「いいじゃないですか!」

 

 桂子ちゃんがサインを迫られている。こっちもこっちで押し問答だ。

 

 

「ほらほら、散った散った!」

 

 浩介くんが間に入る。そして他の仲間も集まってくる。

 それを見て、野次馬もようやく退散してくれる。

 

「楽しかったね」

 

「おう、優子たち結構大胆だな」

 

「ちょっと見てましたけど……先生が一番張り切っていたような気がします……」

 

 恵美ちゃんとさくらちゃんだ。

 

「そうですか……」

 

「ま、祭りだし楽しまんとな! この盆踊り、フリーダムらしいし」

 

 高月くんも言う。ともあれ、一旦合流した後、手水舎の前まで来る。

 

「せっかく出し神社に参拝しましょ」

 

「え、ええ……」

 

 あたしは特に信仰心はないけど、まあせっかく来たし賽銭も入れてちょっと参拝しておこう。

 

「いい? 手水舎ではまず右手で柄杓を取って水をすくって左手を清めてから、左手に持ち替えて右手を清めるの。そしたらまた右手に持ち替えて左手に水をため手口を濯いでから、片手で元の位置に静かに戻すのよ」

 

「「「はーい!」」」

 

 永原先生の指導にクラス全員が返事をする。まあ、近くの掲示板に同じことが書いてあるけど。

 あたしはまず、左手にはめてある景品の水ヨーヨーを荷物台に置く。そろそろ邪魔になってきた。

 

 えっと、まずは右手で持って、3分の1……

 左手に持ち替えて3分の1……

 それから水を……おっと、もう一度右手に持ち替えてからだな

 水を飲んで口を清めてっと。

 

「ぺっ」

 

 ちゃんとした場所に捨てないとな。飲んじゃダメなんだよな……

 そして元に戻すっと。よしよし。

 

「あ、田村さんそれだめ!」

 

「あ、悪い悪い」

 

「バチが当たるわよ」

 

「へいへい」

 

 また恵美ちゃんが永原先生に注意されている。

 

「田村さんも、優子さんに負けたくないならお行儀よくしないとダメよ」

 

 お行儀悪いのはダメだよね、うん。

 

「は、はい……やっぱめんどくせえなあ……」

 

「恵美ちゃん、それじゃダメだよ」

 

「分かってるけどよお……」

 

 ともあれ、全員が手水舎で手を清め終われば、後は賽銭箱の前に来るだけだ。

 賽銭箱のある場所に向けて歩いていると、鳥居が近付いてくる。

 

「あ、鳥居の前で一礼するのよ」

 

 永原先生がそう言うと、鳥居の前で一礼する。

 あたしたちもそれに従う。

 そして祭りの参加者で賑わう場所まで来る、賽銭箱は近いが行列ができている。

 

「えっと、50円玉でいいかな?」

 

「賽銭額は自由よ」

 

 そういうのでみんな思い思いの金額を財布から出している。

 

「参拝の仕方はみんな知っているよね。『二拝二拍手一拝』よ」

 

 永原先生が言う頃には、参拝もあたしたちの番になった、左手の水ヨーヨーはそのままで、賽銭を入れたらまず二回礼をして、拍手を二回打ち、最後に一礼する。そして後ろの人のためにすぐに横に退く。

 

「お疲れ様、それじゃあもう一回自由時間にしようか。各自夕食代わりに屋台で食べ物を取ってきていいわよ。花火もあるから見たい時は気をつけてね」

 

「「「はーい!」」」

 

 全員が返事をする、そしてあたしと浩介くんが二人っきりになれるように上手く配慮してくれる。

 

 二人っきりになった途端、あたしはまた浴衣の下のことを思い出す。もうノーパンノーブラになって数時間が経っているはず。でも落ち着かない。

 

「ねえ浩介くん……」

 

「ん?」

 

「今日のあたしって何か変かな?」

 

「え? どうして?」

 

「ほらいくらお祭りでも、さ。ネジが外れているような気がして……」

 

「うんそうか? 元気な石山もいいと思うぞ」

 

「そ、そう……ありがとう……あのね、あのーね!」

 

「どうした石山?」

 

 やっぱり恥ずかしいけど、ノーパンノーブラのこと、告白しないと!

 

「ちょっとここじゃまずいから、こっちに来てくれる?」

 

「お、おう……」

 

 あたしと浩介くんは人気のない神社の小さな森へと入っていく。

 襲われるかもしれないけど、その時はその時で割り切ろう。


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