永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
ピピピピピッ……ピピピピピッ……
「んんーっ!!!」
今日は9月1日。夏休みが終わって最初の登校日になる。
夏休み中も、桂子ちゃんとちょくちょく天文部に顔を出していたので、制服自体はずっと着ていないということはない。
浩介くんとのデートも、水族館以降何度か重ねたが、資金的な節約もあって、簡素なものが増えた。
あたしの肩こりがひどいので、家電屋さんでマッサージ器を楽しむデートなんて言う特殊な変化球もあった。
でも今気になるのが……
「あーあ、分かってたけど夏休み終わって早々女の子の日かぁ……」
凄く身体が重たい。憂鬱だ。
前日にナプキンをつけておいてよかった。寝ている間にナプキンに血だまりができてた。
これは所定の場所に捨てないと。
重い身体を引きずりながらパジャマを脱いで生理用パンツを取り出す。
そこの近くにあったナプキンを袋から取り出す。
先に制服を着てから腹痛に耐えつつトイレの中へ。古い生理用パンツを脱いで、使用済みナプキンをトイレットペーパーで包んでゴミ箱に入れる。
自室に捨てたり、トイレットペーパーに包まないで捨てると臭いがひどくなると母さんに言われたのでできた習慣だ。
とにかく不潔になるのは男以上に致命的だ。女の子のかわいさは清潔感に支えられているところもあるのだ。
ともあれ重い身体を引きずりながらリビングに出る。
「おはよー」
「おはよう優子、元気ないわね」
母さんが心配そうに言う
「うん……」
「女の子の日でしょ?」
「ふぇ!? な、何で――」
「娘の生理周期も大体わかってきたからね」
変態だー、変態がいるよお……
「まあいいわ。今日は夏休み明けでしょ、9月末にはテストもあるんだから勉強しないと」
「う、うん……」
新学期早々なのは嫌だけど、試験と重なるよりはマシかなあ……
「さ、とにかく朝ご飯食べなさい」
母さんが朝ご飯を持ってきてくれる。
朝ごはんは相変わらず昨日の残りが多いけど、ほうれん草をはじめとする緑黄色野菜が中心。
正直ありがたい。生理の日はどうにも食欲が増してしまう上に、ほうれん草と人参を特に食べたくなってしまうからだ。
「ふふん、優子の生理周期を知るのには、こういう意味もあるのよ」
「そ、そうなんだ……あはは……」
確かにありがたいと言えばありがたい。まあ毎日一緒に暮らしているお母さんだし嫌でも生理周期は知られちゃうかな……
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした。優子、辛いのはわかっているけど早めに出ないと遅刻しちゃうわよ」
「う、うん。分かってるって」
学校に行くために生理になったのはこれで2回目。
幸い明日明後日は土日だから月曜日に生理が来た1回目よりはマシだ。
こんな状態では今日の体育は100%見学になる。だから体操着は持っていかなくてもいいだろう。
バッグを肩にかけ、重い身体を引きずりながら駅へと歩く。
「おはよーって優子ちゃん大丈夫!?」
ホームで桂子ちゃんが話しかけてくる。
「あー大丈夫じゃないよ桂子ちゃん……」
「あ……うん。夏休み明け大変だね」
桂子ちゃんが察してくれる。女子同士ありがたい。
「あはは……」
会話もとぎれとぎれ、でも桂子ちゃんもあまり話しかけてこない。
この辺りは女の子の配慮もある。
「それじゃあ教室で、ね」
「うん……」
桂子ちゃんが先に歩く。あたしは重い身体で、道行く他の生徒に抜かされながら歩いていく。
今でもあたしが通りかかると、男子の噂になる。
でも情報が行き届いていないのか、あたしに好きな男の子ができたことはほとんど知られていない。
下駄箱から靴を履き替え、教室へ。
ガラガラガラ
「おはよー」
「お、優子おはよう! 大丈夫か? 9月早々元気ねえな!」
恵美ちゃんが声をかけてくれる。
「ああ……うん……ちょっとお腹が、ね……」
「ああ、そうか。うん、すまん……」
これだけで何を示すか女子には分かる。
教室を見渡すと、浩介くんを発見する。気分を悪そうにしているあたしを心配そうな顔で見つめてくれる。
ロッカーから1時間目の教材を出し、椅子に座る。夏休みの宿題のために教材の多くを家に持ち帰っていたため、宿題の終わった教科から、夏休みの天文部の活動時に少しずつ入れ直しておいて正解だった。
他のクラスメイト達も次々入ってくる。
最後に永原先生が入ってくる。
「はーいみなさん、9月になりました。9月は特に全校集会はありませんので去年と同じく今日から早速授業を開始します……石山さーん、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫じゃないです先生……」
意地を張るメリットは何もないのであっさりと言う。実際お腹痛いしめまいがするし。
「あらあら、保健室で休んでもいいのよ」
「は、はい……」
元気なく答える。男子の一人が何か言いたそうだが、虎姫ちゃんが「ギロッ」と睨みつけて黙らせている。
ホームルームは続く。あたしは机に突っ伏しながら聞き流す。
永原先生に体育の見学の旨を話す。1時間目までの休み時間にポーチから痛み止めを取り出して、水飲み場に行く。
痛み止めを口に含み水を飲む。これで少しは効いてくれるといいんだけど、あまり期待しすぎるのも良くない。
ともあれ生理の度に保健室で寝ていたら成績にも影響しかねない。
あたしはそう思い、さすがに体育は見学だけど1時間目からともあれ授業を受けることにする。
「なあ、優子ちゃん大丈夫なのか?」
浩介くんが心配そうに声をかけてくれる。
「あー、浩介くん、心配してくれてありがとう。でも大丈夫じゃないよ」
「大丈夫じゃないなら休んだ方がいいんじゃないか?」
「でもそういうわけにもいかないのよ。『これ』が来るたびに休んでたら成績も悪くなるし……」
「そうなんだ、女子って大変だな……」
「あはは、でも男だって……いや男の子のほうが大変だと思うよ……」
あたしが言う。
「そ、そうなのか、優子ちゃんが言うと説得力あるなあ……」
「あ、あはははは……」
嫌でも昔のことを思い出してしまう。でも、過去は変えられない。
今は女の子だけど、昔は男の子だったことは。
1時間目が始まる。9月1日ということで、皆まだ夏休み気分が抜けていない。
でも、授業は秩序良く進む。授業中のおしゃべりとかもあたしが優子になったばかりの頃に比べると減少傾向だ。
でもあたしはほとんどノートも取れず、息を荒くしながら、苦しみながら授業を受けている。
先生からも心配されて、やっぱり「大丈夫じゃない」と答える。
先生の「保健室行ったら?」という言葉も無視していたものの、最終的に1時間目の終わりの方で「保健室に行きなさい」という命令に変わった。
命令なら仕方ない。あたしは立ち上がり、ふらふらと歩く。クラスは騒然とする。
するともう一人立ち上がる。
「先生、俺が連れていきます」
浩介くんの声がする。
「え? 篠原、そういうのは女子が――」
「あ、あの……浩介くんでいいですから……」
クラスがまた騒然とする。
あ、しまった。クラスの中ではまだ名前呼びになったの知ってるの少なかったんだった。
「おい、あの石山、今篠原のこと」
「そういえば石山に彼氏できたとかいう噂あったけどよ……」
「くそう! ちくしょう!」
「お前悔しいのかよ!」
「だってよ、昔のことはともかくあんなかわいい子だったのに……」
「ま、あきらめるしかねえぜ。林間学校の時、篠原の奴、体張って石山を守ったって話だぜ」
「あーあ、実行委員のくじ引ければあなあ……」
男子が話し込んでいる。浩介くんが肩を貸してくれて教室を出ていく。
「はぁ……はぁ……」
「優子ちゃん、大丈夫か? 歩ける?」
「ちょっときついかも……」
浩介くんに介護されながら、無人の廊下を歩いていく。今日は前回以前の生理よりも重い気がする。
「優子ちゃん、あの……」
「うん?」
「ちょっと止まってくれるか?」
「うん」
言われるがままに立ち止まる。
「ちょっとひざを曲げてくれる?」
「んっ……」
何するつもりなんだろう?
「それ……よっと!」
「わわっ!」
浩介くんがしゃがんだかと思えば、ひざの関節を腕に絡められ、横に倒された格好で持ち上げられる。
いわゆる「お姫様抱っこ」の状態。浩介くんの顔がとても近い。
決して軽いというわけではないあたしの身体をひょいと守るように持ち上げている。
ドキドキドキドキ
キスしようと思えばキスできるくらいに顔と顔が近づく。
「じゃあ行くぞ」
「あ、あの浩介くん……」
「ん? どうした?」
「お姫様抱っこは嬉しいんだけど……」
「けど?」
「ス、スカート短いから……パンツ見えちゃうよお……」
重力に従い、スカートが垂れ下がってる。横から見たら丸見えだ。
「あ、で、でも……」
「浩介くんに見られるのが一番恥ずかしいけど……浩介くん以外に見せたくない!」
「大丈夫だよ、保健室までは短いし、身体壊すよりはマシだよ!」
浩介くんが自己主張する。
うん、今はちょっと甘えちゃお。
「う、うん分かった。でもちょっと角度変えてくれる?」
あたしは手でスカートを抑えて見えないようにできるように、膝と脚の角度を調整させる。
「うん、これでいいよ、じゃあ……保健室までお願い」
「おう!」
浩介くんが黙ってあたしを運んでくれる。
生理で体が重いためか、反射的な嫌悪反応もなく、浩介くんの近い顔にドギマギしてしまう。
「はぁ……はぁ……」
恋慕と生理でドロドロになった体内の反応で、あたしの息はますます荒くなる。
浩介くんはそんなことを知らず、ゆっくりと丁寧にあたしを運んでくれる。
ふと浩介くんを見る、時折視線が真下に来る。
そこはあたしの胸。水着のときのようではないけど、制服の上からでもはっきりと分かる巨大な果実に目が離せなくなっているのだろう。
でも、そんなことは、浩介くんはおくびにも出さない。
「大丈夫か、頑張れ、もうすぐだ」
浩介くんはあたしを心配する言葉を言う。それがたまらなく嬉しい。
身体が揺れないようにゆっくり、しかし歩幅を大きくすることで早く保健室に着くように配慮してくれる。
おんぶの時よりもずっと重く感じるはずなのに、浩介くんは涼しい顔で一歩一歩を踏みしめていく。
ああ、このまま時間が止まっちゃえばいいのに。
でも、そんなことはなくて、あたしたちは保健室の前まで来る。
ガララララッ……
浩介くんが器用に指と脚を使ってドアを開ける。
「すみませーん」
「はーい!」
保健の先生が立ち上がる。
「ってどうしたの!?」
お姫様抱っこしている様子に驚いている。
あたしもちょっと恥ずかしく、抑えていたスカートを更に強く抑える。
「あ、あの……優子ちゃんの気分が悪くて! お腹が痛いみたいで!」
「それでここまで抱っこしていったのねえ……とりあえずこっちを使ってください」
保健の先生がカーテンの一つを開ける。
浩介くんが歩き、あたしをそこに寝かせ、優しく布団をかけてくる。
キーンコーンカーンコーンと、ちょうど休み時間のチャイムが鳴る。
「じゃあ俺行くから、ゆっくり休むんだぞ」
「う、うん……」
浩介くんが去り、カーテンが閉められる。
あたしは思わず、「お願い! 行かないで」と言いそうになり、ぐっと堪える。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
全然落ち着かない。
浩介くんのお姫様抱っこ。弱い女の子を守る強い男の子。
また一つ、固い門が破られた感覚を受ける。
浩介くん、そういえば一瞬しゃがんでたけど……もしかしてパンツ見たのかな?
あうう……林間学校の時は偶然だったけど、意図的に見られたとしたら……
って、落ち着かないと……今はゆっくり寝て、気分を落ち着かせないと、せっかく浩介くんが気を配ってくれたんだから。
でも、心臓のドキドキが収まらない。
お姫様抱っこ……でも反射的な嫌悪感がなかった。
もしかして生理のおかげ? ううん、仮に違ったとしても、これはもう一歩「女の子」へと近付いた。そう思えばきっと、活路は見えてくるはずだ。
もし本当に浩介くんと触れ合い、キスし、あるいはその先……本能の底から浩介くんを愛することができたら、その時あたしの長い苦労も全て終わる。
本当の意味で、これから幸せな女性として生きていくことが出来るんだ。
目を瞑る。この痛みから逃れるように深く、深く眠っていく……
夢を見た。誰かが語りかけている。
低く、やや野太い声で「お前はそれでいいのか?」「優しい子になれるのか?」「男は何処へ行ったんだ?」と語りかける。
あたしは「あなたは誰?」と逆に質問する。
声の主は怒った。
「質問に質問で返すなバカ野郎!」「そんなことも分からねえのか!?」
夢の中で混乱する。あたしはそれっきり黙り込んでしまった。
声の主の方向は、白い霧に覆われ、見えなかった。
「んーっ……」
ほうれん草と人参、野菜類が食べたい。
「あれ? どうして保健室に?」
そうだ、浩介くんにお姫様抱っこされたんだ。
ともかく今の時間を見る。後7分で昼休み。そうだ、食堂に一番乗りしよう……
あたしは立ち上がり、カーテンを開け、保健の先生にお礼を言う。
保健の先生から、「お礼なら彼に言いなさい」と言われた。もちろん言わなきゃいけない。
でも今は……とにかく食堂へ行こう。
重い足取りで、少しふらつき気味に食堂へ行く。やっぱり、2回目と3回目の生理の時に比べて、かなり重たい。
そういえば母さんが「重い時と軽い時が来たりする」何て言ってたっけ?
食堂に到着する寸前、鐘がなる。もう少しだけど急ごう。
一番乗りを狙って、後1分ほどで大集団が駆け足で来る。
あたしは用務員さんが食べているのを見かけつつ、食券を買う。
買い終わると、物凄い勢いで駆け足の音が強まる。
身体にちょっとだけ鞭を打ち、食堂のおばちゃんに券を渡す。
「はーい野菜ラーメンね」
夏休み明け、昼食最初のお客さんはあたし。その後、男子の集団が食券を買っていく。
「あ、誰かいるぞ!」
「って、あれ石山先輩じゃねえか!」
「本当だ。でも顔色が悪いぞ」
「何があったんだろう? それもこんな早く」
「保健室で寝ていたとかか? でも何で?」
「さあ?」
1年生の集団があたしの噂をする。
あたしが気分悪い理由を察せないふりをしているけど、多分分かっているんだろう。
口に出したら確かに嫌われるからね。
あたしはともあれ、一番最初に食堂を使う。
野菜ラーメンをもらい食べる。
普段は食べる量も少なく、遅いあたしが、このときだけ食欲が旺盛になる。
きっとそれは、エネルギーを取り戻すため。
ラーメンを頼んでいた男子よりも食べ終わるのが早い。
この時のお行儀は、がっつく感じでお世辞にもいいとはいえない。でもこの時だけは、食欲が勝るのだ。
とは言っても、生理の時の一番重い日の時くらいだし、多分みんなもそれくらいは許してくれるはずだ。あんまりストレスを抱えてしまうと、かえってマイナスだし。
食べ終わり、教室に戻る。
「あ、優子ちゃん。もう大丈夫?」
「ああ、うん……ご飯食べて……少し……良くなったよ」
浩介くんに笑顔で答える。
「そうか、良かった」
まずい、浩介くんの顔を直視できない。
「ゆ、優子ちゃんどうしたの?」
「ああうん、ごめん……浩介くん……かっこよくて……」
「かっかっこ……」
「ヒューヒュー!」
「羨ましいぞこの野郎!」
「いつから射止めたんだ? このぅ!」
教室の男子たちから煽る声が聞こえる。
あたしは顔がじゅううと赤くなる。
ともあれ、これであたしと浩介くんの関係は、教室中の知られる所となった。
あたしはTS病の美少女で、しかも過去には乱暴者で悪名高く、改心後は下手な女の子よりも女の子らしいという評判もあって、小谷学園でも1、2を争うほどの有名人だ。
そんなあたしに彼氏ができている。
いや、正式にはまだ友達だけど、人の噂にとってそんなことはどうでもいいだろう。
昼休みが終わり、永原先生が古典の授業をする。思えば何だか懐かしい。
今日は夏休み明け初日ということで、課題の提出や見直しが、どの教科も主だった。
体育の授業は見学し、帰りのホームルームも終わって、あたしは生理の苦しさから逃れようと、制服からパジャマに着替えると、すぐに就寝の床ついた。