永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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メイド喫茶を準備しよう

 文化祭でクラスの出し物が決定した。この後は具体的にどういった出し物にしていくかということを話し合う。

 あたしたちのクラスの出し物はメイド喫茶に決まった。

 当然メイド服が必要になるのだが……

 

「それで、裁縫できる女子っている?」

 

「うーん……あたしはできるけど、さすがに一人じゃあ……優子ちゃんはどう!?」

 

「え!? 無理だよ桂子ちゃん……」

 

 カリキュラムにも裁縫なんてなかったし、小学校の家庭科でちょっとやっただけだ。

 裁縫に自信あるのは桂子ちゃんだけ、他の女子でもできないことはないという人もそれなりにいたけど、やっぱり本格的なメイド服を作るとなると話は別だ。

 

「でも買うと言ってもどこで?」

 

「病院近くのリサイクルショップにあるかも」

 

 話し合いの時、あたしが男子の制服と体操着を捨てたリサイクル店の名前が出る。

 でもあそこにメイド服なんてあったっけ?

 

「うーん、そうだ。優子さん、桂子さん、ちょっと偵察してきてくださいよ」

 

 龍香ちゃんが言う。

 

「う、うん……」

 

 ともあれこうして、桂子ちゃんとともに帰り道にリサイクル店に立ち寄ることになった。

 

 

 そして学校からの帰り道、あたしと桂子ちゃんでリサイクルショップへ道を進む。

 

「本当にあるのかなあ?」

 

「時期とかにもよるらしいからねえあそこは」

 

 あたしも詳しくは知らないけど。

 

「桂子ちゃんは立ち寄ったことは?」

 

「うん、何回かあるよ、優子ちゃんは?」

 

「あたしは……女の子になってから1回だけ」

 

「あー、そういえばあったねえ……」

 

「うん、優一だった頃の制服と体操着を捨てに行ったのよ」

 

 そんな会話をしつつ、リサイクルショップに到着する。

 制服も売られている3階に、衣服類は集中している。ということは、他の階は見なくていいということを意味する。

 

 まず目に入ったのが小谷学園の制服。

 

「もしかして、優一の頃の制服はまだあるのかなあ?」

 

「あったとしても見分けつかないよ」

 

 あたしの中でも時間とともに徐々に「優一」の記憶は薄れていく。もちろん元の人格を忘れてしまうことはないだろうけど思い出す機会も減っている。

 男子の制服も、優一が着ている姿よりも浩介くんが着ている姿の方がイメージしやすい程度には。

 

 ともあれ次に見たのは普段着の古着コーナーだ。

 

「……ここにはなさそうだね」

 

 というよりも、パッと見た感じではそもそも「中古コスプレコーナー」そのものがない。

 普段着のコーナーも念のため入念に探してみるが、もちろんメイド服なんてものはない。

 

「やっぱりない? こっちはどうだろう?」

 

 作業着のコーナーやスーツなどのコーナーはあるが、メイド服らしきものはない。

 

「ないみたいだね」

 

「うん、じゃあクラスに報告しないと」

 

 文化祭3日前からは本格的に授業も短縮され、文化祭の準備に専念できる。それまでは概要の決定だけで我慢しないといけない。

 学生の本分はやはり勉強ということだろう。

 

「じゃあ帰ろうか」

 

「うん」

 

 桂子ちゃんとあたしの二人で帰るというのも久しぶりだ。最近は一人で帰るか、駅まで浩介くんと帰るかだ。

 ちなみに胸を押し付けることはもうすっかり慣れっ子になった。やっぱり一歩一歩結果が出ている。

 

「優子ちゃんは、篠原くんとはどうなの?」

 

「うん、大分良くなったよ」

 

「具体的には?」

 

「うん、胸を押し付けても大丈夫になったよ」

 

「あ、うん……よかったわね。でも優子ちゃん、そういうのは直接言っちゃダメだよ」

 

 桂子ちゃんのごもっともな指摘。確かにはしたない。

 

「あ、あはは……ゴメン」

 

「ああいいのよ、優子ちゃんはもう『ほとんど女の子』と言ったって男が出るのは普通のことよ」

 

「う、うん……それにしても桂子ちゃんって裁縫も出来たんだね」

 

「出来ると意外と便利よ? 今は優子ちゃんのぬいぐるみさんやお人形さんたちも新しいけど、必ずボロボロになっていっちゃうから」

 

 ああ、それは嫌だ。

 

「そうかあ……あたしも母さんにでも裁縫習うかなあ……」

 

 むしろ、今思えばカリキュラムになかったのが不思議なくらいだ。

 

「優子ちゃん裁縫したこと無いの意外だったなあ……」

 

 桂子ちゃんが不思議そうに言う。

 確かに女子力上げるには良さそうなスキルではあるけど。

 

「うーん……やっぱりできた方がいいよねえ……」

 

「そうだねえ、できないよりできた方がいいもん。だけど結構難しいからお母さんとかから少しずつ習うといいわよ」

 

「う、うん」

 

 ともあれ、お人形さんの修復とかしてみたい。必要になってから習うでもいいけど。

 

「それよりも桂子ちゃん、メイド服どうしようか?」

 

「うーん、やっぱり無難に買った方が良さそうだね」

 

 時間にも限りがあるし。

 

「買うとしてどういうデザインにしようか?」

 

「パソコンで調べて候補見つけるのがいいと思う」

 

「そうだね」

 

 ともあれ、あたしと桂子ちゃんはそれぞれ別れ際に「宿題」を確認しつつ帰路に就く。

 

 

「ただいまー」

 

「おかえりー優子ー」

 

 母さんが出迎えてくれる。

 

「優子、文化祭の出し物決まった?」

 

「うん、メイド喫茶になったよ」

 

「ええ!? メイド喫茶……じゅるり……」

 

 母さんから不穏なオーラが出る。

 

「母さん、その……あんまり暴走しないで」

 

「ふふっ、優子のメイド服姿が今から楽しみよ。メイド服はどうするの?」

 

「裁縫できるのが桂子ちゃんくらいしかいなくて、結局店で買うことになったわね」

 

「あら!? 大変! そういえば優子に裁縫教えてなかったわ!」

 

 母さんが驚く。

 

「え!?」

 

「ああいや、永原先生が最初にしてた日常生活向けのカリキュラムにはなかったんだけど……いつか教えておこうと思って忘れちゃってたのよ……しまったー」

 

 母さんが少し悔しそうな顔をする。

 

「う、うん……あたしも詳しく習った方がいいかなって」

 

 小学校の時やった内容も忘れてるし。

 

「ええもちろん。服や人形の修復ができると役に立つわよ。なんだかんだ言って男子はそういうのできない人が多いし、女の子としての魅力アップにもつながるわよ」

 

 うん、もっともっと女の子らしくなれるなら、あたしはそうなりたい。多分浩介くんも、その方が好きだろうし。

 

「まあでも、今は文化祭の準備に集中しなさい。文化祭のイベントは重要よ」

 

「うん分かってる」

 

 あたしも何となく、この文化祭で大きなことが起きそうな気がする。

 どういう根拠でそういう考えに至ったのか分からない。

 これが世に言う「女の勘」というものなのか、それともただの気のせいの迷信なのか、あたしには分からない。

 

 深く女の子になるにつれ、こういうことで悩むケースが増えた。たまたま印象に残ってないだけで男にも見られるような人間共通の事象なのか、それとも男にはない女性の強みが発揮されているのか。

 どちらでもいいという人もいるだろう。でも、何だろう、もっと知りたい。女の子を知りたいという気持ちが先行していく。

 人間の欲望は無限大だ。男でも、女でも。だから、男っぽい所を消したい、女の子らしくなりたいという気持ちも、今後も限りがない予感がする。

 

 ともあれ、メイド服について詳しく調べる。

 男の頃もそんなことしたこと無かった。あたしはPCの電源を入れる。

 PCが立ち上がったらWEBブラウザを立ち上げ、検索エンジンを頼ることにする。

 

「えっと……メイド服、種類っと」

 

 メイド服の種類が出てくる。調べた感じではやはりスカート丈、実用的なのはやはりロングスカートのメイド服だが、何だかんだで見栄えがいいのはミニだ。

 ミニスカートのメイド服は喫茶店などで使われるそうだ。家事で行うような実用的なメイドの場合はこんなミニスカートだとパンツが見えてしまうから、ロングスカートタイプになる。

 

 とはいえ、メイド喫茶では本当の家事を行うわけじゃない。高い所の窓拭きなんかは男子の仕事になるはずだ。

 メイド喫茶には段差があったり、あるいはかがんだりするわけではないので大丈夫だろう。

 とはいえ、あんまりに短いと普通に覗き魔とかも出るだろうしうーん……

 

「とりあえず、制服よりちょっと短いくらいにしようかな、それで上のデザインは……」

 

 よし、何とか候補を絞り出せたぞ。後はこれを印刷して……って印刷機使っていいか聞いておこう。

 

「母さん、文化祭の準備に印刷機使っていい?」

 

「あ、いいわよ」

 

 母さんから了承を得られたので、カラーコピーを3枚取る。

 印刷設定でちょっと戸惑ったけど何とか取れた。

 ファイルに入れて明日桂子ちゃんに見せよう。

 

 

「優子、どんなメイド服を候補にしたの?」

 

「え? この3つだけど……」

 

 母さんにプリントを3枚渡す。

 

「うーん……」

 

 母さんが思慮している。

 でも、母さんの性格からどれを推すかは分かっている。

 

「うん、母さんはこれがいいと思う」

 

「ですよねー」

 

 出してきたのは一番スカートが短いタイプのメイド服で胸のリボンと頭のカチューシャが強力に自己主張している。

 母さんらしいと言えばそうだ。

 

「でも、正直に言うとあたしもそれを第一候補に考えてたのよ」

 

「あら? 優子どういう風の吹き回し?」

 

「メイド喫茶だもん。この場合は直接的に訴えかけた方がいいのよ」

 

「ふーん、そういうものなのね」

 

 もちろんクラスメイトの反応も考えると、これ以上短いタイプは拒否される可能性が高いのであらかじめ却下しておいた。

 

「でも、もう少し大胆なのない?」

 

「あるにはあるけど……多分クラスメイトから拒否されると思う」

 

「ああ、そうか……そうよねえ……うん」

 

 母さんも納得してくれてよかった。

 

「でも、これでも優子が着た時はかわいいと思うわよ。きっと人気ナンバー1間違いないわ」

 

 母さんも太鼓判を押してくれて嬉しい。

 ともあれ、まずは桂子ちゃんに話してみよう。

 

 

「へえ、結構かわいいけど……抵抗感もあると思うわ」

 

「やっぱり桂子ちゃんもそう思う?」

 

 道行く通学路、駅までの間で桂子ちゃんと落ち合ったので鞄からメイド服の第一から第三候補まで見せあった。

 

「うん、ちょっと優子ちゃんの制服よりスカート短いし」

 

「でもさ……あたしが思うに、文化祭なわけだから、不特定多数の男性に好かれる必要があると思うのよ」

 

 あたしが趣旨を説明する。

 

「ふむふむ」

 

「つまり見られてなんぼって言うの? もちろんパンツ見えちゃうのはまずいけど」

 

「なるほど。とりあえず休み時間に提案してみましょうか」

 

 こうして、休み時間にはあたしの第一希望を女子のみんなに提出することになったのだが……

 

「ちょ、ちょっと……これは大胆すぎますよ……」

 

 実際の所、私服や水着に比べるとスカートがちょっと短いってだけなんだけど、やっぱりメイド服のイメージからすると相対的に大胆に見えるらしい。

 

「うん、でもあたしが思うに、文化祭なんだしちょっとくらい大胆なのがちょうどいいと思うのよ」

 

「うーん、私も彼氏に嫉妬されそうですよ……」

 

 龍香ちゃんもやや反対寄りか。

 

「うーん、私はどれでもいいけど……」

 

 虎姫ちゃんは中立。

 やや長い沈黙に至る。あたしの趣旨は理解してても、やはり抵抗はあるようだ。

 

「お、でもよ、あたい……あたいこれ着てみたいぜ!!!」

 

「「「え!?」」」

 

 均衡を破ったのは意外な声だった。

 

「え、恵美ちゃん……メイド服に?」

 

「あたい、あたいやっぱりちょっとは女の子してみたいんだぜ。普段はよ、テニスで強くなることばっか考えてるけどよ、こういう日くらい……たまには……おう……」

 

 ほんのりちょっとだけ赤くなってる恵美ちゃん。普段は豪快でかわいいという感じではない分、余計にかわいく見える。

 やっぱり希少価値も大事なのかな。あたしも、もうちょっと身の振り方を考えたい。

 

 うん、恵美ちゃんからも女の子の魅力を学ぶことはたくさんありそうだ。それは決して反面教師ってだけじゃない。

 恵美ちゃんも、女の子としてはあたしよりずっと先輩なんだし。初心を忘れちゃいけないよね、うん。

 

「……恵美さんからそう言う言葉が出るとは思いませんでした」

 

「失敬だな! ……ま、まあ日頃の行いが悪いせいもあるけどよお……」

 

「恵美が言うなら私もこの服でいいかな。何気に安いみたいですし」

 

 中立だった虎姫ちゃんも同調する。

 

「あ……そうでした……予算も……あるんでしたね……私も……これでいいです」

 

 さくらちゃんも賛成する。

 

「私も」

 

「あたしも」

 

「賛成ー!」

 

 恵美ちゃんの賛成から、まるで雪崩のように女子の間で賛成の声がこだまする。

 実はこのメイド服だけ、他の候補とは違い多く買うと割引がついてくるのだ。

 

「よっしゃ! じゃあ決まりだな!」

 

「ええ。それじゃあ17個注文して――」

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

「「「!!!」」」

 

 話し合いがまとまりつつあった矢先、意外な声がかかる。

 振り向くとそこに居たのは永原先生だった。

 

「あれ、永原先生……あ、あの……」

 

 もしかしたらこんな露出度高いのはダメと言いに来たのかも……

 

「注文する個数は17じゃないわ」

 

「え? それってどういうことですか?」

 

 何を言っているんだろう?

 

「ふふっ、注文する個数のは18よ」

 

 永原先生が言う。

 

「ええ? 18ってまさか……」

 

「そうよ、私もメイド服着て、メイドさんをするのよ」

 

「「「ええええええ!!!???」」」

 

 永原先生の突然の言葉に、女子はもちろん、側で傍観していた男子の間でも驚嘆の声が上がる。

 

「ちょ、ちょっと先生……先生がメイドって……!」

 

 恵美ちゃんが驚きの声を出す。

 

「あら? 小谷学園の文化祭、メイド喫茶で先生がメイドしちゃダメなんて決まりどこにもないわよ」

 

 小谷学園らしい永原先生の言葉。

 

「そ、そりゃあそうですけど……」

 

 確かに永原先生は容姿がかなり若いし、背だってよくよく考えればクラスの女子17人の誰よりも低い。

 永原先生が制服やメイド服を着てたら、外部の人は誰も永原先生を先生だとは思わないはず。

 

「じゃあ決まりでいいわね。フリーダムなのが小谷学園文化祭よ」

 

 永原先生が笑顔で言う。

 

「と、ともあれメイド服はこれで決まりでいいわね?」

 

「「「はいっ!」」」

 

 永原先生の返事が何故か一番大きい。

 まあ、小谷学園らしいと言えばらしいかな。

 

「それで、次にメニューだけど――」

 

 あたしは次に、メニューを提案する。

 飲み物と軽い食事。サンドイッチとかパンとかそういった感じの軽食類で、一応トースターと電子レンジ、冷蔵庫が使えるのでそれらで出来る範囲の内容にしていく。

 

 昼休みが終わる頃には大体の概要も完成していた。

 後はメイド服を買って、前日の準備日の仕立てに入るのみとなった。

 

 この日の放課後に、永原先生が件のメイド服が売っている店に予約の電話を入れてくれたそうだ。

 授業がない準備日に、女子が一斉にお店に行くことになっている。

 

 

「ふう、今日も終わった終わったー」

 

「優子ちゃん、最近ずっと文化祭準備に出ずっぱりだね」

 

 今日は浩介くんと並んで帰る。

 腕は絡めているが、今日の恵美ちゃんを見て、胸は押し付けないようにする。

 

「うん、なんか男子ほとんど参加できてなくてごめんね」

 

「ああいやいいんだよ、男子は各部活で忙しい人もいるしさ。それに店のレイアウト決めるの大変なんだぜ」

 

 ああ、そういえばそっちが男子担当なんだっけ?

 

「あとさ、一応厨房が男子担当だから食中毒の講習とか、これがまたつまんなくて面倒なんだぜ」

 

「あはは……よかった男子も忙しくて」

 

「まあ、サボって文化祭だけ楽しむのが一番だけどな」

 

 浩介くんがサラリと虫がよすぎることを言う。

 

「あはは、それは都合良すぎだってー」

 

 あたしも笑いながら話す。

 

「ところでさ、今度のデートだけど」

 

「うん」

 

「文化祭の振替休日なんてどう?」

 

「ああ、いいかも。後夜祭の雰囲気そのままにって感じ」

 

「うんうん。じゃあ集合場所は――」

 

 あたしたちにとって、ちょっとだけ文化祭が長くなりそうだった。

 ともあれ、天文部は今度こそ最終確認とリハーサルも終わり、あたしたちは文化祭に向けての好スタートを切ったのだった。


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