永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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小谷学園ミスコンの意外な刺客

「そっち、机の配置はこうした方がいいんじゃないか?」

 

 今日は授業もない準備日。明日から二日間文化祭になる。

 教室では男子が掃除をし、店舗レイアウトを揃えていっている。

 

「椅子の配置も考えると、この配置のほうがいいと俺は思うんだよ」

 

「あーそうか」

 

「この方が女子も曲がらなくて済むだろうし」

 

「やっぱり厨房からまっすぐ出せるようにしないと」

 

 男子たちが机の配置で議論している。

 

「おーい、窓こっちは拭き終わったぞ」

 

「よし、飾りも出来たし、試して見るぞ」

 

「お、良さそうじゃん」

 

 一方で、別の男子たちは飾り付けに勤しんでいる他、窓に関しては椅子の上に乗った男子が2人がかりでくまなく掃除している。

 

「よし、積み方はこれでいいか?」

 

「これだと冷蔵庫のスペース使いにくいよ。こっちの方がいいって」

 

「ふむふむ」

 

 また、冷蔵庫に食品や飲み物を詰めている姿も見える。

 

 

 さて、一方であたしたち女子がするのはお店から届いたメイド服の試着だ。

 

「はーいみなさん、女子更衣室を借りてますから2組に分かれて試着してください」

 

「「「はーい!」」」

 

 2年2組の女子17人と永原先生で18人、本番では3人ごとに6回のシフト制になる。

 あたし、桂子ちゃん、龍香ちゃん、永原先生、虎姫ちゃん、恵美ちゃんがそれぞれリーダーになって回していくことになった。

 ちなみに、あたし、桂子ちゃん、龍香ちゃん、永原先生の4人は我が2年2組が誇る「美少女四天王」ということで、それぞれ混雑時間帯に配置する工夫をする。ちなみに四天王最強はもちろんあたしだと思っている。

 

 ともあれ、そうやって回していくと2日目の後夜祭だけ1回ローテーションが余るので特別ローテーションとしてあたし、桂子ちゃん、龍香ちゃん、永原先生を出すことになった。

 

 ともあれ、あたしたちがまず女子更衣室でサイズを確認する。

 そこにあるサイズはSSからLLまでだ。

 あたしは身長的にはMサイズだけど……

 

 

「うーん、やっぱりMは入らない……」

 

 胸がきつく、そのせいでなかなか入らない。

 下半身の方はむしろちょうどよくフィットしているのに。

 最初に服を買った時、母さんはよくサイズを見つけてきたと感心する。うーんやっぱ普段着より需要の少ないコスプレ衣装だとまた違うんだろうなあとは思う。

 

「優子ちゃんのは特注した方がいいと思うのよ」

 

「やっぱり?」

 

 胸が大きすぎるとこういうことになるのね。

 

「そうですねえ。私もSSだと胸がきついですし」

 

 メイド服を試着している永原先生が言う。

 ややぶかぶかに見えるもSサイズで上手く行っているように見える。

 

「仕方ない……Lサイズを着てみるよ」

 

 一回り大きいLサイズ。

 これなら入るけどウエスト周りをちょっと締めないとスカートが長くなってしまう。

 そのためには服をちょっと工夫しないといけない。

 男子の劣情に訴える必要がある以上、他の子よりスカート丈が長いのは、やっぱり何だかんだでマイナスだ。

 

「うーん、確かにLサイズなら入ったけど面倒な作業が増えちゃったなあ……」

 

「あーあ、贅沢な悩みだなあ……」

 

 恵美ちゃんが羨ましそうに言う。

 

「で、でも、恵美ちゃんも似合ってるよ」

 

 普段はガサツでオシャレも全然しない恵美ちゃんだからこそかわいく見えるというのもある。でもやっぱり他の子を見るとそうでもないと思ってしまう。

 ……そうか、こういう状況の時に母さんが言っていた化粧っていうのも必要かも。そしたら、恵美ちゃんももっとかわいく見えるかも。

 

「永原先生、恵美ちゃんなんですけど」

 

 提案してみよう。

 

「ええ、田村さんがどうかしました? たしかにいつもよりかわいいですが――」

 

「あたしが思うに、恵美ちゃんは化粧させるともっといいと思うんですよ」

 

「え!? あたいが化粧? んなんしたことねえし興味もねえよ!」

 

 恵美ちゃんがちょっとだけ驚きながらもそっけなく言う。

 

「じゃあ文化祭の時してみたら? 普段とのギャップでメイド服との相乗効果でかわいくなると思うわよ」

 

「……なるほどなあ……確かに、文化祭くらいあたいもちょっとかわいくなってみてえしな」

 

 実際この衣装に決まったのも恵美ちゃんの賛成があったからだ。

 

「というわけで、永原先生、恵美ちゃんにお化粧させましょう」

 

「……なるほどねえ……私、化粧はよく知らないんですが……」

 

「ええ!? 永原先生って、化粧知らなかったのですか?」

 

 龍香ちゃんが驚く。

 龍香ちゃんのメイド服姿も実によく似合っている。いつもとは違うベクトルでの美人という感じだ。

 

「ええ、私老けませんから。必要が無いんです」

 

 確かにカリキュラムにもその理由でなかったしそのせいで母さんに教わることになったけど、あたしは母さんから教わった化粧のことをすっかり忘れていた。

 

「ひょえー、そうですよね……はい」

 

 永原先生のメイド服姿。こうしてみると、一人だけ新人っぽい。

 というか、永原先生がメイド服になると、生徒たちと比べて圧倒的に外見が幼く見えてしまう。頭のカチューシャが特にそう感じるのかもしれない。

 

「永原先生、その見た目だと幼く見えません?」

 

 桂子ちゃんが言う。

 

「えっへん、それこそが武器になるのよ木ノ本さん」

 

 永原先生が堂々と胸を張る。

 自分の需要がどういう方面なのか理解している証拠だ。

 

「でも、クラス全員の年齢を全員足しても――」

 

「石山さん、新年度始まる前から抜かれてるわよ」

 

「え!? あ、そうか……」

 

 高校2年生というと、16歳から17歳だが、18歳まで後1日というのもあり得る。

 とすると、クラス32人全員の年齢の合計がとり得るのは512歳から575歳までだ。永原先生が500歳になるのは来年のことだ。

 

「でも、1年生のクラスを担当する時は、最初はもうクラス全員の年齢の合計よりは年上ってことがあるわね。中学校や小学校だともうクラスの全員の合計年齢より年上なのが当然になるわね」

 

 そう考えると改めて永原先生ってすごい人だ。あたしたちの人生がまだ短いのもあるが、女子17人の年齢の合計よりも永原先生の方が年上なのだから。

 

「あ、でも私は1年から3年までの残り11クラスの担任の先生の合計年齢よりは年上よ」

 

 やっぱり永原先生は恐ろしい人だ。

 

 

「それにしてもあたしもサイズLなのね」

 

 正直に言うとこのままだとむちむちを通り越してちょっと太く見えてしまう。

 

「うーんそうだ! 優子ちゃん、私が着やすいように直しておこうか?」

 

「え? 桂子ちゃんやってくれるの?」

 

「うん、Lサイズでもお腹が太く見えないようにしておくわよ」

 

 桂子ちゃんのありがたい言葉。

 

「じゃああたしはサイズLで」

 

 

「はーい、そろそろ2組目に託しますね。私は先生ですから、このままいます。皆さんサイズ覚えてくださいね」

 

「「「はーい」」」

 

 ということで、永原先生以外の女の子が一斉にメイド服から制服に着替えなおし、もう半分の女子が試着のために入れ替わる。

 

「桂子ちゃん、どうやって縫うの?」

 

「優子ちゃん、私に任せて」

 

 ともあれ今は桂子ちゃんを信じるしかないかな。というわけで「石山優子 Lサイズ」と書く。

 2組目の女子たちも戻ってきたため、それぞれ希望サイズを書いていく。

 ちなみに永原先生は「SSサイズで何とか工夫する」ということだったので「永原マキノ SSサイズ」と書いてあった。

 

 サイズを見る。概ね殆どの人がSからLサイズを希望している。

 永原先生だけSS、一番体格がいい恵美ちゃんがLLだ。

 

 ともあれ、18人分のメイド服は、試着分を除けば、明日にも学校に届くそうだ。

 

「さて、これでやることはおしまい。これで後は男子を手伝うもよし、部活委員会を手伝うもよしよ。では、解散」

 

 永原先生の号令の下、各自自分の持ち場へと移動する。

 桂子ちゃんとあたしは教室に入り、男子の手伝いに合流することにした。

 

 

「わあ、もうこんなに出来てる」

 

 見ると男子たちが窓を拭き、机やいす、飾り付けもほぼ全て出来あがっていた。後はこれでリハーサルをするだけだ。

 

 普段の勉強机も、一瞬で模擬店に早変わり。椅子の装飾も素晴らしい。

 

「うん、すごく良さそう」

 

 今日は最後に接客のリハーサルをすることになっている。

 その時はメイド服ではなく、一応制服ということにはなっているけど……うーん、「ご主人様」役には男子生徒がなるのかな?

 だとしたら、浩介くんが相手だといいなあ……

 

 

「あ、そうそう。石山さんに木ノ本さん、二人には伝え忘れていたことがあったわ」

 

「あ、はい」

 

「何ですか先生?」

 

 永原先生が声をかけてくる。

 

「二人はミス小谷学園コンテストの予選のための写真を撮ってほしいのよ。あ、ちなみに制服よ」

 

「あ、うん。そうだったね」

 

 文化祭1日目に行われるミスコンの予選投票はまずは制服写真での選考になっている。

 普通はないが、あまりに得票率が悪いと予選の段階で落選して、一般公開される2日目の本戦に進めないこともあり得るから怖い。

 まあ、優勝候補のあたしや桂子ちゃんにはそれは不要な心配事だけど、それでもミスコンの前哨戦として、大事な役割がある。

 

「後、文化祭2日目は私服審査と水着審査もあるから、私服と水着も持ってきてね」

 

 み、水着審査。そういえば去年もあったなあ……

 

「えっと、海の時ので大丈夫かな?」

 

「ええ大丈夫よ」

 

 永原先生が言う。これは追い風だ。

 

「分かりました」

 

 既に海水浴場で不特定多数に見られているし、あの水着は男受けも良さそうだったので、当日もパレオをはためかせればかなりの得票を得られそうだ。

 ……浩介くんが見ていたらまた恥ずかしくなっちゃうかもだけど。

 

「あ、そうそう。もう一つ伝え忘れていたことがあったわ。実は今年のミスコンだけど……私も出るわよ!」

 

 永原先生の意外な言葉。

 

「「えっ……」」

 

「「ええええええええええええええ!!!!!?????」」

 

 あたしと桂子ちゃんが二人して驚く。

 作業中だった男子も作業を中断してみんなこっちに首を向けてくる。

 

 な、永原先生がミスコン出場?

 いや、たしかに外見年齢は若いし、永原先生は独身だけど、でも高校の文化祭のミスコンテストに先生が乱入するなんて聞いたこともない。

 

「ふっふっふっ……普通先生はミスコンには参加しないんだけどね。何か今年はそういう気分になっちゃったから急遽出てみようって思って」

 

 不敵な笑みを浮かべながら永原先生が言う。

 

「でも先生、制服って……」

 

「大丈夫よ。例のリサイクル店でもう買ってあるわ」

 

 ヒエー根回しがすごい。

 

「なんだなんだ、先生がミスコンに参加すんの?」

 

 高月くんが食いついてくる。

 

「そうよ」

 

「いやいや、これ生徒のミスコンだよね?」

 

「ううん、小谷学園のミスコンよ。先生が参加しちゃいけないなんて決まりはないわ」

 

「むむむ、たしかに小谷学園らしいわね……」

 

 あたしも感心してしまう。

 

「でしょ?」

 

「確かに先生は見た目『だけ』なら子供っぽいからなあ……」

 

 高月くんが「だけ」を強調する。

 

「ちょっと高月くん!」

 

 確かに普段の先生の服はレディーススーツとあって外見年齢は上がっているけど、合法ロリには変わらない。でも本人の前でそれを堂々と言うのは――

 

「……うふふっ、高月君、誉め言葉として受け取っておくわよ」

 

「っていいんですか先生!?」

 

 永原先生の意外な言葉に、思わず当の高月くん自身が突っ込んでしまう。

 

「ふふん、私も自分の何が魅力か? 何てことはわかってるわよ。伊達に女を480年やってるんじゃないんだから」

 

「あっはい……」

 

 最初に突っ込んだ高月くんの方が恐縮してしまっている。

 

「男の子は何だかんだで若くて幼い女の子が好きだもんねえ。だから制服を着た私は、石山さんや木ノ本さんの強敵になるわよ! 覚悟しなさい!」

 

 永原先生が宣戦布告する。

 確かに、顔とかあたしよりもさらに童顔だし、海での水着もかなり似合ってたし、真面目に相当な強敵になるかもしれない。

 

「ええ、あたしだって、負ける訳にはいかないわよ!」

 

「私も。やるからには全力で行くわ!」

 

 とにかく、女の子としてこのコンテストに負ける訳にはいかない。

 

「ふふふ、私にはもう一つ武器があるのよ」

 

「え? 武器って……?」

 

 あたしが聞いてみる。一体なんだろう?

 

「それは教師票よ」

 

「あ! そうか!」

 

 桂子ちゃんがはっとしたような表情をする。

 ミスコンは生徒と教師、一般の人の投票で決まるが、一人一票が原則だ。

 また、一般投票を除けば生徒会による重複投票を防いだ上での匿名の投票でもあるから、先生の票を永原先生にごっそり持っていかれる可能性があるのだ。

 生徒の得票数に比べれば少ないとはいえ、やっぱり脅威なのには変わりはない。

 

「ふふふ、教師票は根こそぎいただきよ。特に、約1名からは『天地神明に誓って永原先生に投票いたします』と言う誓約までもらってるわ」

 

「先生、それって小野先生ですよね……」

 

 桂子ちゃんが突っ込む。

 永原先生の教え子で、子供時代しょっちゅう叱られていた小野先生を脅迫したことは想像に難くない。

 

「ええ、その通りよ」

 

 さすがのあたしも、小野先生が気の毒になってきた。

 

「石山さん、木ノ本さん。あなたたちは、普段は私のクラスの生徒だけど、このミスコンでは叩き落とすべき『敵』になるわよ。覚えておきなさい!」

 

「ふふっ、それはこっちの台詞ね」

 

「ええ、500歳のおばあちゃんに17歳のあたしが負ける訳にはいかないわ!」

 

「ふふっ、言うようになったわね石山さん」

 

 永原先生とあたし、桂子ちゃんで三つ巴のにらみ合いが続く。まさに目から火花を出しているような感じだ。

 既に「女の戦い」が始まっているという感じだ。

 

「それじゃ、先に視聴覚室に行ってて。私は制服に着替えるから……ふふっ、楽しみにしててね」

 

 そう言うと永原先生が別の方向に向かう。きっと職員用の更衣室を使うんだろう。

 

「じゃあ桂子ちゃん行こうか」

 

「うん」

 

「永原先生の制服姿かあ、どんな感じなんだろう?」

 

 道すがら、気になるのはやっぱり永原先生の制服のこと。

 普段先生という立場の人が、あたしたちが来ている制服と同じ服を着ると言うシチュエーションはとても珍しい。

 

「うーん、かなりかわいくなると思うわよ。それも幼い方面で」

 

 永原先生の実年齢が40歳とかならまだ「美魔女」という呼び方もできるだろうが、499歳という実年齢はスケールが大きすぎて、イメージがつかない。

 その辺にいるおばあちゃんよりもよっぽど年上なのだが、そんな雰囲気は全くない。

 

「だろうねえ……さっき試着していたメイド服もそんな感じだったよね」

 

「うん。それに先生票が脅威だよね」

 

「うん、先生くらいの年代だといくら匿名でも気を使わざるを得ないし」

 

 ともあれ、あたしと桂子ちゃんで視聴覚室に入る。あたしと桂子ちゃんもミスコンでは敵同士になる。

 戦いは既に始まっているんだ。気を抜いてはいけない。


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