永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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文化祭が始まる

  ピピピピッ……ピピピピッ……

 

「うーん……!」

 

 ゆっくりと意識を回復し、ハート型のクッションへと立つ。

 今日はお人形さんの衣装を着替えさせてあげる。最近はちょっと遊ぶ頻度も減ってきたし、またお小遣いを使って新しく衣装を買ってもいいかもしれない。

 

 今日は学園祭本番。1日目はまだ一般に公開はされない。

 文化祭1日目は、いわば一般公開前の前哨戦という意味合いもあるのだ。

 ここで行われた失敗などを教訓に2日目に本気を出すという感じだ。

 

 ともあれ、あたしは制服に着替え、文化祭のことを考える。

 もちろん、浩介くんと回りたいけど、出し物の時間のこともちゃんと頭に入れないといけない。それにミスコンもだ。

 天文部に関しては坂田部長が中心に切り盛りしてくれるそうだ。

 しかし考えてみれば桂子ちゃんもミスコンがあるから坂田部長は殆ど動けない感じだ。

 坂田部長はそれでいいのかと聞くが「文化祭は他の展示にあまり興味が無いですの。あるとしたらミスコンくらいですわ。ならば天文のことを調べていたいですわ」とのこと。

 

「おはよー母さん」

 

「おはよー優子、いよいよ文化祭ねえ」

 

 母さんと挨拶、やはり話題は今日から始まる文化祭のこと。

 

「うん、母さん、あたし頑張るから」

 

「何を頑張るの?」

 

「め、メイド喫茶と……ミスコン!」

 

「え!? 優子、ミスコン受けるの?」

 

 母さんが驚いた表情で言う。

 

「う、うん……」

 

「あらあ、それじゃあ優勝間違いなしねえ……」

 

 母さんは確信的な表情で言う。

 

「それがそうでもないのよ」

 

「え!? 小谷学園で優子より美人がいるの!?」

 

 母さんが驚いている。

 

「そ、その……永原先生が意外と強敵で」

 

「ふぇ? 先生がミスコンに参加していいのかしら? でもそうねえ……確かに先生という個性もあるし……TS病という意味では優子の先輩だし……確かに強敵ね」

 

 母さんはそう言いながら、朝ごはんを準備してくれる。

 

「いただきます」

 

「明日はお父さんとお母さんも来るから、楽しみに待っててね」

 

「教室にシフト表があるから、時間を確認してくれる?」

 

「分かったわ」

 

 ともあれ、朝ごはんを食べて、学園に行かないと。

 

 今日は土曜日だけど、まだ一般に開放されていない文化祭なので通学路はいつも通りの光景だ。今日から学園祭開始だけど、学園祭の看板はまだ掲げられていない。

 このあたりは実行委員が明日掲げてくれるもので、一般の人が迷い込まないようになっているのだ。

 

 

  ガラガラガラ……

 

「おはよー」

 

「あ、おはよー優子ちゃん」

 

 教室に入ると、浩介くんが真っ先に挨拶してくれる。

 そういえば文化祭の準備期間中、あまり浩介くんと話せなくて寂しかった。

 

「いよいよ文化祭だね。一緒に回ろうよ」

 

「うん、俺もそのつもり」

 

 胸を押し付けても大丈夫になったし、この文化祭で一気に距離を詰めたかった。

 

「うぇへへ」

 

 だからあたしは、浩介くんと腕を絡ませて胸を当てる。

 

「おおおお!!!」

 

「きゃー優子ちゃん大胆!」

 

 クラスから歓声が上がる。しまったあ、教室の中ということを忘れてたわ。

 

「ちょ、ちょっと優子ちゃん! は、恥ずかしいから!」

 

「あわっ、ご、ごめん……」

 

 あたしも急に顔を赤くしてしまう。恋は女の子をかわいくするとは言うけど、間違いなくバカにはしてしまう気がした。

 

「ちくしょー、ちょくしょおおおおおおおーーーーー!!!!!」

 

 高月くんが悔しそうな雄叫びを上げている。

 

 

「もう、優子ちゃん、どうしたの今日は?」

 

 メイド服姿の桂子ちゃんが心配そうに話しかけてくる。

 ちなみに、教室は模擬店に改装してあるが、椅子の数はクラスの人数と同じなので、みんな思い思いに座っている。

 あたしは当然浩介くんの隣。

 

「あはは……ごめん、文化祭準備期間中は女子と行動することが多くて……それで……」

 

「はいはい……ところで、今日はミスコンテストの予備投票が行われるわよ」

 

「あ、そうだったね」

 

「あんまり羽目をはずしすぎると、投票を逃すかもしれないわよ。気をつけてね」

 

 桂子ちゃんが忠告してくる。ありがたく受け取ろう。

 

「う、うん……」

 

「おっと、敵に塩を送っちゃったかな? まあいいか」

 

 でも既に事実上の彼氏持ちだということは、ほぼ学校に知られているはずなんだけど。

 でもあんまり得票率には影響しなかったはず。去年のTOP3だって桂子ちゃんが出てないのはともかく、全員彼氏が居たって言うし。

 

「とりあえず、さ。う……腕を組んだり、手を繋ぐのはちょっと……俺も恥ずかしいし」

 

「は、はい……」

 

 浩介くんからも禁止令を出されてしまう。むむむ、文化祭で一気に距離を詰める作戦はいきなり前途多難な予感。

 

 ともあれ、クラスメイトが次々に入ってくる。

 いつもの朝のホームルームの時間になれば、文化祭開始の放送が流れるはずだ。

 

  ガラガラ

 

「はーいみなさん集まってますねー」

 

 入ってきたのは永原先生。昨日見せていた制服姿ではなく、いつものレディーススーツだ。

 

「今日明日は学園祭です。特に明日は一般の人にも開放しての学園祭になります。祭りだからといって羽目をはずしすぎないように気をつけてください」

 

「「「はーい!」」」

 

「それじゃあ放送まで待ちましょうか。後1分ほどです」

 

 妙な沈黙が流れる。

 短いようで長い時間。

 今か今かと待ち構え、ピリピリした感じ。

 まさに嵐の前の静けさという言葉にふさわしいこの長い1分間。

 かつて「アルベルト・アインシュタイン」が相対性理論の「相対性」について説明したこの時間の感覚の違い。

 

  ピンポーン

 

「長らくお待たせしました。只今より、平成29年度、小谷学園文化祭を開催いたします!」

 

 守山会長のアナウンスが聞こえると、「わー!!!」っという歓声が隣の教室からも、この教室からも聞こえてくる。

 何人かは既に立ち上がり、教室から我先にと出ていく。

 

「あたしたちも行こうか浩介くん」

 

「そうだな」

 

 あたしは浩介くんの席に移動して声をかける。

 

「どこからめぐる?」

 

「う、うんまずはこの学年の他のクラスのを見ようよ」

 

「うん、そうだね」

 

 2日もあれば、それなりに回れるはず。

 もちろん全部は難しいだろうけど。

 

 というわけで最初にやってきたのは2年1組。こちらでは輪投げやフリースロー大会が行われていた。

 どうやらあたしたちが一番乗りらしい。

 ちなみに、得点によって景品は特にないが、スコアランキングとか遊んだ回数ランキング何ていうものを作って遊ぶらしい。

 

 

「よし、輪投げだな。輪投げ一回頼むぜ」

 

「あいよ」

 

 浩介くんが受付役の男子生徒に言う。

 

「浩介くん、頑張ってね!」

 

 あたしが何気なく応援する。

 

「くー美女を連れて羨ましいな」

 

「へへっ、渡さないぜ!」

 

 浩介くんが胸を張って言う。

 

「分かってるよ。優子ちゃん守ったのお前だからな」

 

 浩介くんがあたしを林間学校で守ったこと、そしてそれをきっかけに恋に落ちたエピソードは小谷学園でもそれなりに有名な話らしい。

 やっぱり体を張って守った相手に惚れられたんじゃしょうがないという雰囲気もあって、あたしを略奪してやろうという男子はこの学園にはいない。

 もしかしたらそれもあって、桂子ちゃんが男子同士で牽制されているのかも。

 

「じゃあ制限時間は無制限だから、いつでも始めてくれ」

 

「おうよ」

 

 ともあれ、浩介くんの輪投げが始まる。

 

「それっ!」

 

 一番奥はそれなりに遠いが、果敢に狙っていく。

 

「おっ! すげえ!」

 

 難なく入れていく浩介くん。

 輪投げは10回行うが、そのうちの7回が一番奥の最高点に、3回はその手前のに引っかかった。

 

「うひょー、いきなり高得点だぜ。うちのクラスでもここまでは行かなかったぜ」

 

 受付の男子生徒が驚いている。

 

「よし、次は優子ちゃん。やってみるかい?」

 

「うん、でもどうして私の名前を?」

 

 この人とは一回も顔を合わせたことがなかったはず。

 あたしがその経緯もあって有名人だということは知っていたけど何となく聞いてみたい。

 

「……おいおい、優子ちゃん。あんた自分が学園一の有名人だって知らないのか?」

 

「ああいやうん、知っているけど。何となく、ね」

 

「林間学校でのエピソードで優子ちゃんの好きな男のことも知られてるぜ。本当に変わったよな」

 

 この男も、あたしの胸を見ている。

 浩介くんに胸を見られると顔が赤くなってしまうこともあるが、他の男に見られても何とも思えない。

 改めて浩介くんと恋に落ちていることを自覚しつつ、少し顔をそらす。

 

「あ、女子はもう少し手前……って優子ちゃんは子供のラインの方がいいかな?」

 

「あ、うん。そうしてくれると助かるわね」

 

 やっぱり運動能力が壊滅的だということも知られているらしい。

 1投目、一番奥を狙ったが、大きく外れる。

 2投目、真ん中辺に早くも切り替える。僅かに外れる。

 このまま5投連続で外してしまう。

 手前の方の低得点を狙う方針に切り替える。

 

 一番手前の1点をまず狙ってみる。

 

「やった入った!」

 

「……」

 

 みんな沈黙している。身を乗り出して真下に落としただけだからだ。

 さすがにこれだけじゃあれなので、その少し奥の2点を狙う。

 

「よし、やった!」

 

 これで3点。

 でも2点を狙った2投目は外れ。残る3投のうち2投が入り結果は7点だ。

 

「あーうん、気に病むことはないよ優子ちゃん」

 

「あ、あはは……」

 

 子供でも出さないような成績だ。しかも1点は明らかに身を乗り出しただけの点数。

 

「って、よく考えれば10点確実に取ったほうが良かったじゃない……」

 

「あー優子ちゃん、それはその……色々な意味で負けな気がするぞ俺」

 

 受付役の1組の男子が言う。

 

「そうは言っても……あたしもう、こういうので負けるのが普通になっちゃったし……」

 

 実際その通り。桂子ちゃんと龍香ちゃんでゲームセンター行った時から分かってたこと。負ける度に泣いてたら身が持たない。

 

「うーん、そう言うメンタルになっちゃうとますます――」

 

「こら、あんまり優子ちゃんをいじめないでくれ。結構気にしているんだから」

 

 浩介くんが1組の男子の言葉を遮る。

 

「あ、浩介くんありがとう」

 

 あたしが傷つかないように配慮してくれたお礼を言う。

 

「いいっていいって」

 

 続いてはフリースロー、バスケットボールではなく、使うのはビーチボールでゴールも一定時間すると動く仕様になっている。

 ちなみに、この動かすのは中の人が行うらしく、またしばらく時間が立って一回も入れられないと救済策として前に来てくれる親切仕様だ。

 

「子供も来る事を考えたら、0点なんて惨めな思いはさせたくないんだ」

 

 1組の男子が言う。

 夏祭りの屋台の時もそうだけど、やっぱり最近はこういうフォローをきっちりやらないと不評になってしまうそうだ。

 

 今度はまずあたしからフリースローをする。女性子供のラインは一番前、予め教えてくれたが、前に進むに連れ得点が低くなるものの、最終的には子供でも身を乗り出すだけで入るようになり、しかも1回は入るまでは時間無制限になるので0点は起こり得ないそうだ。

 

「それじゃあ、よーい。はじめ!」

 

 1組男子の号令のもと、フリースローが始まる。

 

「えいっ!」

 

 思いっきり両手で投げたが、バスケのゴールに届かない。

 

「えいっ!」

 

 今度は片手で、斜め45度にして投げる。

 もちろん精度なんて付くはずもなく、かと言って両手でやっても届かず。

 

 バスケゴールがちょっと前に来る。

 

「えいっ!」

 

 ゴールが前に着たことで、両手で投げてようやく届く距離になる。

 でも、コントロールが悪いため、右に左にそれ続ける。あんまり横幅ないのに上手く入らない。

 

「残り30秒!」

 

 ゴールが更に一段階前に。

 それでも入らない。

 

「お願い!」

 

  ガンッ

 

「入って!」

 

  ドンッ

  トントン

 

 1組の男子が足を二回鳴らす。

 するとゴールが一気に一番手前まで来てくれた。

 

「わあ……」

 

  ファッ……ファッ……ファッ……

 

 あたしは立て続けにゴールに入れ続ける。ほんのちょこんと身を乗り出すだけで簡単に入る。ああ、何て爽快なのかしら。

 

「はいっ、そこまで!」

 

 でも、6回ほど入れた時点で時間切れになってしまう。楽しい時間は本当にあっという間だ。

 

「ふう、やっぱり一番前じゃないと入らないわねえ……」

 

「ああいや、実は一番前になる前にもう一段階あって、そこで時間切れまで入らない場合に一番前にするんだ」

 

 あれ? さっきの様子と、この1組男子の説明とが矛盾している。

 

「え? じゃあルールと違うじゃん。さっきは一気に一番手前まで来てたよ」

 

 あたしが矛盾点をつく。

 

「ああ、その……優子ちゃんがあまりにかわいそうだったから……」

 

 さっき脚を二回鳴らしたのはそのためなのね。

 

「そう、ありがとう」

 

 あたしはニッコリと笑顔が漏れる。その男子がちょっと赤くなっている。

 

「うっ……ど、どういたしまして……次は浩介くん……ってどうしたの?」

 

 浩介くんがなんか不機嫌そうな気がする。

 あーあ、嫉妬させちゃったかな?

 

「ああいやごめん、なんでもない。優子ちゃんかわいいなあと思ってたらちょっとボーッとしちゃって……」

 

 じゃあそういうことにしておいてあげよう。

 

「あら、そうだったの。とにかく、浩介くんの番だよ」

 

「お、おう……一回頼む」

 

 浩介くんがあたしが投げていたボールを持つ。

 

「OK……よーい、はじめ!」

 

 男子の掛け声とともに始まる。

 男子は女子や子供よりもちょっと下がった位置からスタートになる。

 

「おりゃあ!」

 

  ファッ

 

 浩介くんの第一投が華麗に決まる。ちなみに10点だ。

 その後も、浩介くんはシュートを次々決めていく。

 身体能力ではどうしようもなく情けないあたしと違って、かっこよくたくましい浩介くん。

 

 ふと、女の子になる以前はこんなに強い浩介くんと身体能力で競い合っていたことを思い出す。体力テストでは20メートルシャトルランなど、一部では浩介くんを凌駕さえしていた。

 そうだ、浩介くんだって、あたしがまだ男だった時に、元はと言えば「優一に仕返しする」ために鍛え始めたんだ。

 

 あたしは本当に弱くなった。でも、もう強さを求めない、求めろと言われても求めたくない。

 うん、弱くてかっこ悪くてもいいもん。

 今はあたしのために力を振るってくれる、優しくて強い浩介くんが慰めてくれるんだから。

 

「はいそこまで! すごいな。70点だよ!」

 

「へへっ」

 

「浩介くんすごいなー」

 

 あたしも褒める。うん、優一でもこんなにうまくは行かなかった気がする。

 

 

  ピンポーン

 

 

「小谷学園2年3組からお知らせです。後5分ほどで、小谷学園2年3組教室において、自主製作映画『小谷学園異聞記』を放送いたします。上映時間は30分となっております。どうぞお気軽にお立ち寄りください」

 

 2年3組の生徒と思しき声で放送が流れる。

 

「お、行こうか。優子ちゃんは予定大丈夫?」

 

「うん、でもこの上映が終わったら10分でメイド喫茶のシフトに入るから、一旦お別れだね」

 

 メイド喫茶のシフトのこともあるから、いつも浩介くんと一緒になれるというわけではない。

 まあ、厨房で一緒になる時間も多いけど。

 

「よし、分かった。ともあれ3組の教室に向かうか」

 

 こうして、あたしと浩介くんは次なる展示を求め3組の教室へ向かった。


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