硬く、硬く、硬く。
意志を貫ける様に。
槌を振るう。
堅く、堅く、堅く。
何ものにも負けず、傷つかぬ様に。
槌を振るう。
強く、強く、強く。
友を傷つけさせるほど、腕は鈍っちゃいない。
シチリア島を出た私は、イタリアを北上することにした。
『彼』のその後と、託された短剣について考えていると、一人の女に出会った。
女は、何か必死になって探している様だった。
私は、どうかしたのですか、と聞いた。
女は、貴方には関係の無いことだ、と言った。
私はムキになって、関係無い事は無い。私と貴女はここでこうして出会ったのだ。それは何かの意味があるのだろうと思う。だから、私にも何か手伝わせてくれないか、と少し格好をつけて言った。
女が、顔をあげた。
女は、目を見開いた。
女は、驚いた様子だった。
これもまた、出会いと別れの一つ。
女は、天秤を探しているのだと言った。
私は、それはなくす様なものか、家のどこかにしまったままではないのか、と聞いた。
女は、詳しいことは言えないが、それは無い、と言った。
私は、そうか、と言った。
私達は、黙々と探し続けた。
しかし、天秤のての字も見つからなかった。
私は、今日のところはやめにしよう、夜に探すのは効率が悪い、と提案した。
女は、仕方あるまい、と言った。
近くの街で、私達は宿をとった。
あまり高い宿ではなかったが、ご飯は美味しかった。
女は、なんのつもりだ、私に何がして欲しいのだ、と聞いた。
私は、乗りかかった船だ、途中で降りるのは性に合わないだけだ、と言った。
女は、私をジロリと睨むと、嘘ではない様だな、と言った。
私は、言い返そうとしたが、やめた。
次の日、私達は、同じ場所を探した。
しかし、全く見つからなかった。
ふと思いついて、地面の下を探してはどうか、と提案した。
女は、その手があったか、という顔をしていた。
私は、休憩がてらスコップでも買ってこよう、と言った。
女は、私も行く、と言った。
私は、そうか、とだけ答えた。
私達は、道を歩いていた。
なんだか、彼女と付き合っていた頃を思い出して、辛くなった。
女は、そんな私を気遣ったのか、少し休むか、と聞いた。
私は、意地を張って、大丈夫さ、と言った。
女は、そうか、と言って、歩く速さを上げた。
天秤を探していた場所からほど近い、ホームセンターにやって来た。
女は、見るもの全てが新しいとでも言うように、目を輝かせていた。
私は、不思議な女だ、と思いながら、少し探してくるから、その間見ているといい、と言った。
女は、ああ、と言った。
私は、くれぐれも壊すなよ、と言った。
女は、ああ、と言った。
生返事だった。
結局、その日は、スコップを二人分買っただけで終わった。
次の日、さっそく地面を掘って見た。
数時間後、私が何かを掘り当てた。
なにやら、箱の様だった。
私は、女に、探し物はこれか、と聞いた。
女は、ああ、そうだ、と答えた。
その箱には、天秤と剣を持った女性が描かれていた。
私は、女に、開けるか、と聞いた。
女は、首を縦に振った。
箱の中には、天秤が入っていた。
女は、天秤を手に取った。
その瞬間、女の纏う空気が変わった。
まるでここが、裁判官の前かの様な雰囲気であった。
女は、厳粛な雰囲気を纏いながら、こう言った。
「我が名はテミス。法と掟の神。本来なら、肩入れを私は許されていない。しかし、我が神器を見つけてくれた恩は返さねばなるまい。まつろわぬ身であれど、そこはしっかりとしておかなければな。望みを言え。我が権能の許す限り叶えてやろう」
私は、見返りを求めたのではない、気にしないでくれ、と言った。
女…いや、テミスは、それでは私の気が済まない、と言った。
私は、それでも、望みなど無いのだ、と答えた。
テミスは、ならば、押し付けることにしよう、と言った。
テミスは、天秤を差し出して、こう言った。
「これを、お前に渡しておく。せっかく見つけたが、これ以外はお前に返せそうに無い。神としては情け無いことだが、あまり与えられるものを持たないのだ。この感謝を伝えるには、我が半身をしか渡せるものが無い。あまり大きいものでは無いが、大事にしてくれると嬉しい」
笑ってそう言った。
私は、受け取れない、必死に探すほど大事なものなんだろう、と言った。
テミスは、これよりも、私が受け取った恩の方が大事だ。所詮この身はまつろわぬ身。どこぞの蛮族に剥奪されるくらいなら、お前に渡したい、と言って、無理矢理私に手渡した。
私は、よろめきながら受け取った。
テミスは、そうだ、それでいい、と言った。
私は、テミスの方を向いて、何か言ってやろうとした。
テミスは、私の目の前から消えていた。
手の中の天秤が、妙に熱く感じた。
やはり、俺は間違っていなかった。
アイツは、いい奴だ。
少し、固くしすぎたかもしれない。
やるなら完璧に、だ。