常夏の海。広がる青空。澄み切った空気。そよぐ潮風は優しく体を包み込み、真夏の猛暑を感じさせない太平洋のど真ん中。そう、ここはまさにシーパラダイス。
ふむ今何かシンパシーのようなものを感じたな、まあいいか。
現在俺は椎名と共に豪華客船のデッキにいる。朝食を食べたら、自由と言われていたのでどうせなら一番眺めが良い所から海が見たいということで来たのだが、まさにシーパラダイス。他の生徒たちもみなこの景色に見とれているものばかりだ。
「本当に素晴らしい景色ですね」
「まったくだな、客船内もすごかったしな」
そう。この客船内には一流の有名レストランにシアター、高級スパまで完備されている。ちなみに俺が行きたいと思っていたバーもあった。後で絶対行こう。
こんな贅の極みのような旅行を高校1年生がする。予定ではこれから向かう無人島にあるペンションで1週間、その後はこの客船で1週間を過ごすということになっている。
『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』
突如そんなアナウンスが流れる。すると、椎名が首を傾げた。
「意義……ですか。妙な言い回しですね」
「そうだな、意義……つまりその景色に価値があるということか」
「やはりただの旅行ではないようですね」
「まあ、俺はどうでもいいけど……」
そう言うと椎名が俺をジト目で見て「またそんなことを……」と呟いた。
直に生徒が続々と集まると、数分後その島は姿を現した。
生徒たちはそれに気づき、一斉にデッキに集まった。
「テメェ何しやがる!」
すると少し離れた場所が騒ぎ始めた。どうやら生徒間でいざこざがあったようだ。そちらに視線を向けるとDクラスの須藤君や綾小路君がいた。
「またあの男子ですか……」
「まあ、そう言うなよ」
椎名は中間テスト前に図書館で騒いでたのを見たせいか、須藤君のことはかなり好きじゃないようだ。
少しすると、船首の方から綾小路君一行が出てきた。かなり怪訝なムードだな。話しかけるのはやめておこう。
すると綾小路君の所から1人の男子が女子の方へ向かっていく。何かを決意したような顔だ。俺は生告白だろうか、と楽しみになり、聞き耳をたてた。そういえば、あの女子、何か見たことあるな。
どうやら告白ではなく、下の名前で呼んでいいかという提案だった。
すると少しして男子が膝から崩れ落ち天を仰いだ。
「うおおおおおお!! 桔梗ちゃあああああん!」
どうやら了承を得たようである。俺はそれを聞きながら、出会って4ヶ月経つと下の名前を呼ぶのが普通なのだろうかと思い、出会って3カ月程の隣にいる女子の名前を思い出す。
「ひより……か」
「えっ?」
「ん、なんだ?」
「いえ、今、私の名前を呼んだので」
「はっ?」
口に出してしまったのだろうか。失敗した。俺はなんとか椎名に弁明しようとする。
「あー、椎名? 今のは違うんだ」
「…………」
「なんというかその……あそこの男子が下の名前呼んで良いか聞いてて。それで椎名の名前なんだっけなーって思ってな」
「…………」
「それでつい口にしてしまったというか、とにかくそういうことなんだ」
「…………」
俺が必死に弁明しても椎名は何も言わない。とても怖いです。だって何も言わないのにじーっと俺のこと見てるんだもん。そんなに名前を呼んだのは気に障っただろうか……。
「あの……椎名?」
「…………」
「し、椎名さーん?」
「……つーん」
なんか効果音みたいの出たよ。てか何だよつーんって、可愛すぎかよ。
椎名は頬を膨らませてそれでも俺のことじーっと見る。
「椎名、謝るから許してくれ」
「…………」
「なあ、椎名?」
「…………」
「……ひより?」
「なんでしょう、修永くん?」
俺が椎名の名前を呼ぶと膨らませていた顔を一瞬で笑顔に変えて俺の名前を呼んだ。ていうか名前呼んで良いのね。それにしても普通に言ってくれればいいのに……。
俺としい、じゃなかった、ひよりの仲が進展? していると周囲がワッと騒がしくなった。
視線を向けると島が肉眼で見える位置まで来ていたようである。それにしても生徒たちが騒がしい。しかし、何故か船は浅橋には付かずに島の周りを回り始めた。どうやら島の全体像を見せるためらしい。それにしてもでかい。これはさすがというしかないな。
「これが、意義ある景色ですか」
「まあ、この景色には確かに価値はあるんじゃないか?」
「そうですね……」
『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定の鞄と荷物をしっかりと確認した後、携帯を忘れず持ちデッキに集合してください。それ以外の私物は全て部屋に置いてくるようお願いします。また暫くお手洗いに行けない可能性がありますので、きちんと済ませておいてください」
そんなアナウンスが流れ、俺たちは部屋に戻った。
それから準備を終え、もう一度デッキに行くとAクラスから順に船から降りた。携帯の持ち込みは禁止らしく、坂上に渡した。
その後Aクラスの真嶋先生が爆弾発言が発せられた。
「ではこれより――――――本年度最初の特別試験を行いたいと思う」
その言葉にほぼ全てのクラスの生徒を動揺が襲った。
やはりしっ、ひよりの言う通りだったということか。
「期限は今から1週間。8月7日に終了となる。君たちはこれからの1週間、この無人島で集団生活を行い過ごすことが試験となる」
生徒たちの動揺の中、特別試験の内容が説明されていく。
簡潔に言えば、この試験では専用のポイントが300ポイントが支給され、このポイントでさまざまなものが買える。買えるものはマニュアルに載っているもの。ちなみにテントが2つ、懐中電灯を2つ。マッチ1箱、歯ブラシも各自1つ配布され、日焼け止め、生理用品は無制限で使用できるらしい。そしてここがこの試験の肝であるところである、残ったポイントは全てクラスポイントに加算されるということである。それを聞いた生徒たちは驚きに包まれた。
その後各クラスで集まり、話し合いが始まった。そして坂上がこちらに来ると追加ルールが説明された。しかし俺たちのクラスではそれも意味がないだろう。
「まさか、ポイントを全部使うとはな……」
「そうですね、龍園君らしいとも思いますけど」
そう。俺たちCクラスはこの試験に真面目に取り組まないことで決定した。決めたのはもちろん龍園なんだが、流石にクラスでもそれは納得できなかったものも多くいたが、全員龍園が黙らせた。どうやら自分で何とかするようだ。そして俺たちCクラスはバーベキューに水着でビーチバレー、ましてや水上バイクなどもして、夏休みを謳歌している。
俺とひよりはポイントで購入したテーブルで話していた。
「まあ、当の龍園本人はどっか行ったけどな……」
「それと伊吹さんと金田君ですね」
「……?」
「はーっ、クラスメイトですよ? ショートカットの女の子と眼鏡の男の子です」
「あーっ、あのよく龍園に熱い視線を送ってる女の子か」
「まあ、ある意味熱い視線ですね……」
すると龍園が戻ってきた。
「伊吹さんと金田君がいませんね……」
「本当だな」
「何となく予想はつきますけどね……」
するとひよりは悲しげな表情をした。
「まあしかし、今は楽しんだ方が得じゃないか? せっかくの夏休みだ、明日の夕方にはこの島を去るしな」
「そうですね。私に構わず、海に行ったらどうですか? 修永君も退屈でしょう」
「ふむ、それは明日にしようかな。今日は砂遊びでもするよ」
俺はほくそ笑みながら、気が散らないように少し離れた生徒がいない場所に陣取り、砂であるものを作り始めた。2時間後、完成したので俺はひよりを呼びに行く。
ひよりは俺についてきて、俺が作ったものを見て目を丸くした。俺が作ったものとはイタリアのピサの斜塔である。それもかなりリアルな自信がある。高さも俺の首の高さほどまであり、倒れそうで倒れない感じを忠実に再現してある。
「これは……すごいですね。少し押せば崩れてしまいそうです」
ひよりは興味深そうに周りをぐるぐる回りながら目を輝かせて興味深そうに見ている。
「どうだ、俺の無駄能力の1つは」
俺はドヤ顔でひよりに言った。昔、海に行ったときに兄が他の人と遊んでいて暇だった俺は適当に城とかを作っていたら、ついていた能力である。なにせ海に行くたんびにやっていたからな。ちなみに俺が作ると人が集まり、記念撮影とかどう作ったかと聞かれたりするのにうんざりして作ったらすぐ壊すようにしていた。
「じゃ、壊すから」
「えっ!? 壊しちゃうんですか?」
「うん、これで注目浴びるの嫌だしね」
「そうですか、もったいないですが仕方ないですね。携帯の持ち込みができれば、写真をとったんですが……」
「また作ればいいのさ」
「そうですね。じゃあその時は一緒に記念撮影しましょうね」
「…………おう」
一緒に海に行くのは確定なんですね……多分また無自覚だろうけど。
ひよりに壊すか聞いたんだが、流石にそれは気が引けるらしく、俺がさっさと崩してしまった。崩れる時、ひよりが「ああ!」と言っている姿はなんか可愛かったです。
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砂浜で遊んでから数時間が経った。俺はクラスのテントから離れた岩場に腰を下ろしていた。別に普段喋らない男子のいるテントに行きたくないからとかではないぞ。まあどうせ俺はいてもいなくても変わらないと思われてるだろうけど……。
左腕についている腕時計で時刻を確認すると、もう12時を越えるところで、もうすぐ1日が終わる。俺は海にうつる月を見つめながら、ぼーっとしていた。すると俺の近くに気配を感じた。ひよりだろうか、と思った俺は意外な人物に虚を突かれる。
「よぉ安藤、なにたそがれてやがんだよ」
龍園だった。龍園は俺の近くに来ると俺の横に腰掛けた。
「ハッ、鳩が豆鉄砲くらった顔ってのはまさに今のお前の顔だろうな」
「何で……」
「俺が来たかって? ひよりだと思ったか?」
「まあ、そうだな……」
というか龍園はひよりを下の名前で呼ぶような仲だったのか、意外だな。
「何のようだ?」
「あぁん? 用がなきゃお前と話しちゃいけねェのかよ? クラスメイトが交流するってのは普通じゃねえのか?」
「まぁ、健全な高校生ならそうだろうな。けど、お前は俺に用があってきたんだろ?」
「いまだに俺をお前なんて呼ぶ奴はCクラスじゃお前と伊吹だけだな。まあ、用ってほどのことじゃねえ。単純にちょっと話でもしようと思ってな」
俺は龍園が普通に話をしようという初めての状況に戸惑いが隠せない。
「俺はお前が実力を隠してると思っている」
「はあ……」
「別にそれに文句を言おうってんじゃねえ。ただ……」
龍園は俺の胸ぐらを掴んで思い切り睨みつけてきた。
「俺に歯向かうなってことだ」
「しないさ、怖いし。それに俺には大した実力もないし……」
「そうやっておどける時点で平凡な奴とは違うってことなんだよ。まあ、お前はぬるま湯にでも浸かってろ。ひよりと何しようが別に俺は興味ねえよ。ただ、俺に歯向かうようなら、お前を支配してやる。それだけだ」
龍園君中々優しい。俺は感動した。自分の邪魔をしなければ俺には干渉しないということは、つまり放置してくれるということ、龍園君の部下にもされず、こき使われることもない。なんて素晴らしい上司だろうか。俺の中で龍園君の株はぐんぐんと上昇していき、君付けするまでになった。
「任せてくれ、龍園君の邪魔は絶対しないよ!」
「あん? まあ良い、客もいるようだしな」
「客……?」
「それじゃあな」
そう言って龍園君はさっさと戻ってしまった。どうでも良いが、龍園君は良い人ということで良いだろう。そう納得した俺はまた人の気配を感じ、そちらを見ると、ひよりがいた。龍園君が言っていた客とはひよりのことだったのか。
「何で来たんだ?」
「多分修永君のことですから、みんなと同じテントにはいないと思って。そしたら龍園君に会いまして……。ここにいるのを聞いたので来ました」
「来ましたって……」
俺は呆れた様子でひよりを見たがひよりの方はそんなことも意に介さなかった。
「それで、龍園君とのお話はいかがでした?」
「……まぁ、驚きはしたけどな。荒い奴だけど、俺は嫌いじゃない。確かにひよりの言うこともあながち間違いじゃなかったな」
「それは良かったですね」
するとひよりは恍惚とした表情で海の方を見つめた。
「良い景色だよな。これだけでも来たかいがある」
「そうですね。とても幻想的で……」
それから数分程お互い会話もなく、ただ海にうつる月を見つめ続けた。
「遂に龍園君に化けの皮が剥がされましたね?」
ひよりがこちらも見ずに言ってくる。
「龍園君も言っていたが何のことだ?」
「私をあまりみくびらないでください。観察には自信があります」
「…………」
そんなのは俺も知っている。この3カ月ほどでひよりの観察力が秀でてるのはよくわかった。
「修永君が何故実力を隠しているのかは知りません。テストで頭が悪いふりをしていたのも見ていればわかります」
「……幻滅したか?」
俺の発言、これはほぼ肯定の意味で言った。ひよりも理解しただろう。
ここでひよりをごまかそうとすることもできた。ただ、それをすれば何か大事なものを失う気がした。
「それこそまさかですね。私が修永君を嫌うはずがありません」
「またそんなことを……」
「……?」
こんな状況でも炸裂するひよりの天然発言に照れるように頬を掻いて呆れ口調で言うとひよりは首を傾げた。
「修永君が何故そうするのか、詳しくは聞きません。でも……」
「……でも?」
「待ってます。ずっと……。修永君にとって私が信頼に足る人物になるまで」
「それは……」
何でこう……彼女は、そんなにまで俺のことを。
罪悪感でいられなくなった俺は髪をがりがりと掻く。
「わかった。その時が来るようなら話す」
「はい……。あっ、でもできればCクラスのために頑張ってくださいね?」
「そうだな……姫の願いとあれば聞かないわけにはいかない。今回は無理だが次があれば……。龍園君もひよりの言うようにそこまで悪い奴じゃなかったしな」
ああ見えてクラスの奴にはまあまあ良い奴だ。山田君が慕っているというのもあながち間違いじゃないのかもしれない。呼び捨てじゃなくなったし……。
それを聞くとひよりはにっこりと笑った。夜の幻想的な景色に彼女の笑顔はさながら有名な絵画のようだった。
するとひよりは思い出したかのように手を合わせた。
「龍園君といえば……はい、どうぞ」
そう言ってひよりは懐から袋のようなものを俺に差し出した。確認するとそれは寝袋だった。
「これは……」
「龍園君が余ったからやる、だそうです」
「……まじでツンデレだったのか、あいつは?」
「かもしれませんね」
俺が苦笑いで言うとひよりは微笑んで同意した。
「では、戻ります。あっそうでした」
「?」
「明日は水着を着るので楽しみにしていてくださいね」
「はっ?」
「それでは、おやすみなさい」
「え、あ、おやすみ……」
ひよりは最後に爆弾を残してテントに戻って行った。
俺は寝袋に入り、ひよりの水着姿を想像して、悶々としながら眠りについた。
なんか違う、妄想を文字にするのって難しい。こんなはずじゃなかった。
今頑張って干支試験どうしよっかなって考えています。主人公兎グループで良いのかなあ? それについて更新が遅れます。多分。
一成「原作パクリすぎじゃね?」
作者「しゃあない、説明はしないとじゃん? 最初だけだし」
一成「確かに……」
作者「それに写すだけに見えるけど、案外そっちの方が大変だったしね」
一成「へー、まぁ、普段は妄想をそのままぶつけてる駄文だもんね」
作者「うるせえよ。太平洋の真ん中に落とすぞ」
一成「やめて!」
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