隣の席の文学少女   作:ユウツ

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正直、Cクラスの時点で干支試験主人公することないよなと今更思った私でした。


高みの見物

 試験最終日に突入した。昨日のインターバルの日に牛グループの試験が終了するという事態があったが、それ以外には特に何もなかった。昨日ひよりと話し合った結果、こちらは見に徹底することにした。50万プライベートポイントが欲しくないかと聞かれれば実際欲しいが、目先の欲をとり、相手に疑念を残すのはよくない。

 

 5回目のディスカッション、前の回と大して変わらずトランプをして遊んでいた。しかし、妙なことがあった。うちのクラスの女子たちが一切軽井沢さんと関わらなかった。そして心なしかお互いの様子も少しおかしかった。

 俺がそのことを考えながら6回目のディスカッションに向かう。開始まで30分ほどあるが、別にひよりがディスカッションでいなくてすることがなかったからではない。

 部屋に到着し、入室すると床で寝ている一之瀬さんとそれをじっと見ている綾小路君がいた。具体的には下半身の部分を注視していた。

 綾小路君は俺に気づくと血相を変えて慌てふためいた。俺は綾小路君の肩に手をぽんと置いた。

 

 「気にしなくていい。男の性だ」

 「いや、違うんだ」

 「ただ、犯罪だけはよしてくれ。一時の幸福のために青春を捨てるのはもったいない」

 「何でそうなるんだ……。勘違いだ」

 「まあまあ、とりあえず向こうで聞くから、かつ丼は好きか?」

 「いやいや、何でそんなに飛躍してるんだ。それにどこの刑事ドラマだ……」

 

 俺と綾小路君は一之瀬さんを起こさないように部屋の隅に移動して腰を下ろした。

 

 「ま、さっきのは冗談だよ。一之瀬さんは魅力的だから、あれで一切関心を示してなかったら、綾小路君がそっち系の人間だと思っちゃうよ」

 「それは勘弁してくれ……」

 

 実際、君と同じクラスの外村君なら間違いなくスカートの中を覗いた気がする。それは偏見か……。

 俺と綾小路君が話していると可愛らしい音が室内に響いた。それは一之瀬さんの携帯から鳴っていた。

 

 「んぅ」

 

 一之瀬さんは目を閉じたまま後頭部にある携帯を無造作にとって、アラームを止めた。目をこすりながら上半身を起こすと俺と綾小路君の存在に気づいた。

 

 「おーはよー綾小路君に安藤君。ごめんアラームで驚かせちゃったかな?」

 「いや、別に。よく眠ってたみたいだな」

 

 綾小路君、それは何だか観察していたみたいに聞こえる。

 

 「ごめんねグースカ寝ちゃって。2人とも早いねまだ20分あるよ?」

 「俺はさっき来たばかりだけど」

 「俺もだ……一之瀬こそ、いつ頃から来ていたんだ?」

 「1時間前かな。頭の整理もしたかったし」

 「成果あり、ってことか?」

 「それなりにかな」

 

 そう言って一之瀬さんは俺たちの横に腰を下ろした。この状況では俺はお邪魔だろうか。

 

 「試験まで時間あるし、少し話でもしよっか。2人が迷惑じゃなきゃだけど」

 「別に迷惑じゃない」

 「俺も別に良いよ。このまま無言で過ごすのは退屈だしね」

 

 てっきり、トランプで遊んで時間を潰すと思っていたけど。

 

 「じゃあ決まり。実は2人に聞きたいことがあってね。クラスの子には全員聞いたんだけど、2人はAクラスに上がりたいって思いは強い?」

 

 結構普通の質問だな。

 綾小路君はAクラスに上がりたいと言っていた。まあ、当然か、そうでなければこの学校に入った意味がない。

 

 「安藤君は?」

 「んーまあ、俺も上がりたいかな?」

 「何で疑問形?」

 「いや、俺がこの学校に来た理由って兄がここのOBだからなんだ」

 「そうなのか」

 「ってことはお兄さんに勧められて?」

 「いや、勧められてはいないな。どの学校でもよかったし、強いて言うならこの学校は1人暮らしができるから、かな?」

 「そんな理由でよく入学できたな……」

 

 俺がこの学校に来た理由に2人は苦笑した。

 

 「ってことは安藤君はそこまでAクラスに上がることに固執してないのかな?」

 「いや、どうだろね。うちのクラスには龍園君がいるから」

 「安藤、気になっていたんだが、何で無人島試験の後から龍園を君付けにしてるんだ?」

 「あ、確かに。前は呼び捨てだったよね?」

 「……心境の変化、かな。龍園君は俺の思っているような人じゃなかったから」

 「それはどういう?」

 「企業秘密、かな。まあ、そんな大層な話じゃないけど、これを言ったら龍園君に怒られちゃいそうだからさ」

 「ふーん……」

 

 俺の言に一之瀬さんは少し訝しむように俺を見たが、すぐにいつも通りになる。

 

 「この勝負、2人は勝つための道筋見たいのを見つけたか?」

 「うーんそうだね。そのヒントは得たと思ってるよ」

 

 綾小路君の問いに一之瀬さんはそう答えた。まあ、素直に情報を言うわけないか。けど、やはりこの6回目の試験で何かが起こるな。

 綾小路君は俺に視線を向けるが俺は「さっぱり」と言って首を横に振った。

 

 「ならこの勝負、AかBのどちらかが勝つ勝負になりそうだな」

 「それは蓋を開けてみるまではわからないよ。私が狙う勝ち方は―――――」

 

 肝心な部分を言う前に試験時間が近づいたのか続々と生徒が入ってきて最後までは聞けなかった。

 全員が部屋に入室し、一之瀬さんが短く挨拶をした後、すぐに事態が動いた。綾小路君と確かBクラスの浜口くんが同タイミングで切り出した。しかし、タイミングでも図ってたのだろうか、綾小路君はいつになく真剣な顔だが……。2人はどうぞどうぞをしていたが、結局浜口君が先に話すことになった。浜口君の意見とは全員が携帯の学校から送られてきたメールを見せて優待者を割り出し、結果1に導くというものだった。他のBクラスの生徒はそれに同意を示し、一之瀬さんも笑顔で流れに沿うようにスカートの右ポケットに手を入れた。

 

 「私もずっと悩んでいたんだけど、浜口君の言葉を聞いてわかったの。その、今まで黙っていたんだけどね……」

 

 そんな意味深な言葉を言いながら携帯を出そうとしている瞬間、綾小路君が前に出て携帯を差し出した。あちゃ、ひよりの予想通りの展開になっちゃったな。

 

 「うん、綾小路君も優待者じゃないみたいだね」

 

 ここからは茶番だが、付き合ってやるか。流石に綾小路君が見せただけではどうしようかと迷っている生徒ばかりだ。

 

 「俺も見せるよ」

 

 俺は一之瀬さんの前まで進み、メールを開いて一之瀬さんに見せた。すると他の面子が続々と携帯を出してくる。それは自分を守るため、Cクラスの面々も最初は行かない姿勢だったが、自分が優待者と疑われたくないのか携帯を差し出してきた。それに続き、軽井沢さんと外村君も携帯を差し出して優待者ではなかった。

 

 「乗り遅れちゃったけど私も見せるね」

 

 改めて左ポケットから携帯を取り出し、みんなに見えるように差し出した。一之瀬さんも優待者じゃないようだ。これで携帯を見せていないのはAクラスとDクラスの幸村君だけとなった。

 

 「待て一之瀬。さっ言いかけたことは何だったんだ。今まで黙っていたこととは?」

 

 Aクラスの町田君が忘れずに突っ込んでくる。

 

 「あれは、ただ私もずっと同じ考えを持っていたって言いたかっただけだよ?」

 「そんなことか」

 

 一之瀬さんはさして動じることもなくそう答えた。

 Aクラスの生徒を見るとかなり前のめりになっている。流石にこの流れに乗らないわけにはいかないのだろう。すると幸村君が折れたように携帯をとった。幸村くんは苦悶の表情をして裏切らないで欲しいとこちらに願った。 他の生徒はほとんどが幸村君が優待者だと確信している。

 するとAクラスが余裕の表情で携帯を差し出した。それを確認した幸村君表情を曇らせながら携帯を操作する。

 

 「……嘘をついてすまなかった綾小路……」

 

 そう謝ると、学校からのメールを開き、みんなに見えるように差し出した。そこに書いてあったのはみんなと違う文章、優待者と記された文があった。

 それを見て一層驚いたのはDクラスの面々だった。

 部屋には重いムードが走り、優待者は幸村君だと明かされた。浜口君が幸村君に謝り、Aクラスの面々は笑みを浮かべている。

 やはり見に回ってよかったな。優待者が判明し、いつもと表情が違う生徒が3人いる。1人は眉を顰めながら口元を少し歪めている幸村君。2人目は全体を見回していつもより真面目な顔で思案顔の一之瀬さん。そして3人目はちらちらと綾小路君に視線を向けて表情の硬い軽井沢さん。

 ま、今回2人の利害は一致してるわけだし、どっちがどちらの配役でやるかに過ぎないしな、綾小路君。

 

 室内に幸村君が持っていた携帯が鳴り響く。それに度肝を抜かれたように驚いたのは幸村君。慌てた様子で携帯を落としてしまい、画面が表を向いたまま震える。発信者の名前は「一之瀬」。

 その本人の一之瀬さんは携帯を耳に当てて真剣な眼差しで幸村君と綾小路君を見た。

 

 「何をしているんだ一之瀬。こんなときに幸村の携帯に電話をかける必要はないだろう」

 

 何も知らない町田君が一之瀬さんに怪訝な視線を向ける。

 一之瀬さんは静かに電話を切って携帯を拾い、それを綾小路君に渡す。

 

 「この優待者と書かれたメールの持ち主、幸村君のじゃなくて綾小路君のだよね? だって今私が電話をかけたのは綾小路君で幸村君じゃないんだから」

 

 それから町田君が血相を変えて綾小路君に差し出された携帯を手にする。一之瀬さんは綾小路君達の作戦を見破った。どうやら自分のクラスに優待者がいたら携帯をとりかえるという作戦をとるかもしれなかったと話した。しかしその作戦には電話番号という弱点があった。どうやらSIMカードの交換を試したらしいが携帯は2台とも使用できなくなったらしい。

 幸村君はそれを聞いて顔面蒼白となり、「くそっ!」と叫ぶ。終了5分前のアナウンスが鳴った。

 

 「残念だったな幸村。まあ、良い線言ってたけどな?」

 

 町田君が幸村君の様子を見てにやにやと笑いながら、侮辱するように言った。

 これで綾小路君が優待者だと確信しただろう。続々と部屋を退出していく、幸村君は綾小路君に悪態をつきながら、悔しそうに出て行った。俺もさっさと退出しよう。今回の要になった2人は聞かれたくない話もあるだろうし……。

 

 「お疲れ、綾小路君」

 「ああ、それじゃあな」

 

 俺は綾小路君に軽く労いを入れて部屋を退出した。少しすると携帯が鳴った。恐らく裏切り者が出たのだろう、まああの感じで裏切らない方が無理か。Cクラスの子じゃないと良いんだが……。その後また携帯が今度は4度鳴り響いた。俺は携帯を開いてメールを確認すると鼠、馬、鳥、猪のグループが裏切り者の登場で終了した旨が記されていた。俺はそれを確認するとにやりと笑いながら、人のいない通路を進む。

 

 

 _______________

 

 

 夜の午後11時前。俺とひよりは船外のデッキにいた。この時間の船内はどこも人で盛況していて人が少なかったのはここだけだったのだ。

 

 「お疲れ様でした修永君」

 「ああ。ひよりもお疲れ」

 

 俺はデッキの手すりに身をよせながらお互いに労いの言葉をかけあう。その後試験結果のメールが送られるまで軽く会話をしながら待った。すぐに俺とひよりの携帯が鳴った。内容を確認すると虎、蛇、羊、犬グループが優待者の存在が判明せず結果2。鼠、馬、猿、鳥、猪グループが裏切り者の正解で結果3。牛、兎グループが裏切り者の不正解で結果4。そして竜グループだけが全員の答えが一致したため結果1となった。そしてその後にクラスごとのポイントの振り分けが記されていた。

 

 Aクラス……マイナス200cl プラス200万pl

 Bクラス……変動なし      プラス250万pl

 Cクラス……プラス150cl  プラス550万pl

 Dクラス……プラス50cl   プラス300万pl

 

 「大方予想どおりですね」

 「ああ。Dクラスがプラスなのが妙だけどな」

 「それはおそらく1日目で終了した猿グループでしょう。あそこの優待者はCクラスの生徒ですから」

 

 ってことは猿グループのDクラスの誰かは本当に話し合いだけで優待者を見破ったのか。とんでもないな。

 

 「ですが、龍園君も意地が悪いですね。敢えて竜グループは結果1にしてDクラスを挑発してるのでしょう」

 「確かにな。今頃Dクラスの生徒の所に行ってたりして」

 「彼なら十分ありえそうですね……」

 

 堀北さんも可哀相に、まあ龍園君はそういう人だししょうがないな。

 

 「今回はこちらの圧勝、ということになりますね」

 「そうだな。情報も得たし」

 「綾小路君のことですか?」

 「確証するわけじゃないけどね。ひよりが法則を見つけたからこそわかったことだよ」

 「龍園君は気づいていないでしょうね」

 「気にはしてたと思うぞ? 綾小路君、いつも堀北さんと一緒だから」

 

 少なくとも一之瀬さんと同じ発想をするほどの人間なのだろう、綾小路君は。そして一之瀬さんもうすうすそれには感づいてるはずだ。

 すると唐突にひよりが空を見上げた。

 

 「相変わらず凄いですよね」

 「ああ、都会じゃまず見られない光景だな」

 「はい……」

 

 前回来た時はいちゃいちゃしているカップルと綾小路君と櫛田さんのまぐわいで気にも留めなかったが、この景色だけでも相当な価値がある。今は結果発表だからか、リア充どもがいなくてとてもいい。

 寒いのかひよりが身ぶるいをする。今は夏真っ盛りだが、夜中でもありかなり寒い。

 

 「そろそろ中に戻るか?」

 「……もう少し見ていたいです」

 「そうか、じゃあ……」

 

 俺はジャージの上を脱いでひよりに差し出した。

 

 「それでは修永君が寒くないですか?」

 「いや、俺は別にだいじょう……」

 

 すると潮風が吹き、俺は身ぶるいをした。

 

 「……」

 「……」

 「……はぁ、早く上着を着て下さい」

 「ごめん」

 

 俺が上着を着直すとひよりが抱きつくくらい身を俺に寄せた。俺は固まってしまい動けない。

 

 「ちょっと、ひより?」

 「こうすれば、温かいですね」

 「いや、まあ、そうだな……」

 

 そうかもしれないけどさ、どうなんどろうか。まあ、出掛けた時とかもたまに近い時あるし、多分俺のことを信頼してくれてる証だと思えば、だが異性としてまったく見られていないというのは悲しい。

 俺は諦めたように溜め息を吐いてひよりの手を握った。

 

 「……!」

 「これならもっと温かいだろ?」

 「そうですね」

 

 ひよりは一瞬驚いたがすぐににこりと微笑んで手を握り返した。

 こうして俺たちの豪華客船旅行は終わりを迎えた。

 

 




誤字脱字、批判などありましたら報告お願いします。感想も待ってます。
主人公の誕生日を変更しました。意図は次でわかるはず。
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