昼休み。夏休みまであと数日、と迫ったところで俺と椎名はいつもの如く一緒にいた。
ここ数日、学校の生徒たちはみな浮足立っている。その理由としては3つ。1つは苦難多き期末テストを戦い抜いたこと。1つはあと数日で夏休みだということ。そして最後に夏休みにある豪華客船旅行が要因だろう。
現に俺たちCクラスも教室内がやけに騒がしかった。
「皆さん、随分浮足立っていましたね」
「そうだな。まあ仕方ないだろう」
「そうですね……」
椎名は神妙な面持ちで言った。何か気になることでもあるのだろうか?
「安藤君はこの旅行、どう思いますか?」
「どうって……ただの旅行じゃないのか?」
「この学校がただの旅行をすると思いますか?」
「なるほど……まあ、しないだろうな」
なるほど。まあ、無償でそんなうまい話はないわな。
「まあ、気にしなくて良いんじゃないか? また龍園がどうにかするだろ」
「またそんな他人任せな……。私も人のことは言えませんが」
「一応他クラスへのケアはやるけどな……。幸いBとDクラスならパイプは持ったし」
「そうですね。帆波さんはBクラスのリーダーらしいですから」
そうなのか、やけに知っているな。カフェで会ってからそんなに仲良くなったのか。
「まあ、なんにせよ、俺は旅行を楽しむさ。そっちの方が退屈しない」
「そうですね。私も楽しむことにします」
ちなみに豪華客船と聞くが、バーなんかもあるんだろうか。一度あのしゃかしゃかを見たいと思っていたんだが……。
_______________
その日の放課後。椎名は今日、茶道部の集まりがあるらしいので1人で帰宅する。1学期最後の部活らしく夏休みは自由参加らしい。1度「安藤君も来ますか?」と聞かれたが、正座は苦手なので遠慮させてもらった。
校舎を出て、歩いていると前方から数人の生徒がこちらに向かってきていた。真ん中にいる銀髪の女子生徒は杖を使って歩いている。なるほど、他の人たちは彼女が足が悪いのを気にして付き添っているのか。なんと素晴らしい福祉精神だろうか。俺も見習、わないけど、尊敬はしよう。
俺が横にずれると、その集団も同じ様に横に移動した。あっ、良くあるやつね、と思った俺はもう1度横にずれた。するとまた同じ様にして横に動いた。
なんか怖いんだけど……。さっきまで気づいてなかったけど、この人たち全員俺のこと見てるんだけど。えっ、もしかしてリンチ? これがジャパニーズリンチ? 俺なんかしましたかね、障がい者の方にすら恨みを持たれていたということでしょうか。
いや、まだわからない俺と同じように動いてこいつ邪魔だなって思っただけかもしれない、ならばこのままずれずに進めばいいんだ。俺に用があるわけない!
「御機嫌よう?」
あっちゃったよ…………。
ということはリンチ確定か、久々だが、まあなんとかなるだろう。満足すれば終わるだろう。
「どうも。俺に何か用か?」
「ええ、そうですね。夏休みに入る前にあなたと話してみたかったんです。とても興味があったので、Cクラスの安藤君?」
「えっ、俺をリンチするんじゃないの?」
俺がそういうと銀髪の少女は一瞬疑問符を浮かべ、すぐにふっと笑った。
「そんな野蛮なことは致しませんよ。第一、監視カメラがありますしね」
「そうか、良かった。何か恨みでも買ったのかと思った。あれ? それじゃあ何で俺の名前を……?」
「そうですね、龍園君に支配されていない生徒がいると聞きまして、興味深かったので調べてもらいました」
くそう、龍園の奴め。関わっても関わらなくても俺に被害をだすなんてなんて奴だ。
「いや、俺は取るに足らない人間だからな。龍園も興味がないんだろ」
「本当にそうでしょうか?」
「本当も何も、事実だからな」
「私はそうは思いませんが……」
こいつ……。
「怖いですね、そう睨まないでください。私は提案をしに来たのですよ」
「提案……?」
「ええ。安藤君私の派閥に入りませんか?」
「派閥?」
「そうです。あー、自己紹介が遅れましたね。私、Aクラスの坂柳有栖と申します」
坂柳という少女が言うと、それに倣って傍にいる2人の生徒も名前を言った。男子の方は橋本正義、女子の方は神室真澄というらしい。
というかこの神室さんって子、すげー不機嫌そうな顔をしてる。何がそんなに不満なんだろう。
「今、私たちAクラスでは私の派閥。そして葛城君という男子の派閥で二分されています」
「はあ……」
「それで私は安藤君にオファーを掛けに来たのです」
「何がどうしてそうなったのかは知らんが……俺は入らん、興味がない。第一俺にお前の派閥とやらに入ることで俺に何のメリットもないしな」
「貴様、坂柳さんをお前呼ばわりだと!」
橋本君が俺の言葉に食ってかかる。随分と忠誠心が高い生徒だ。
「やめなさい、橋本君。私は気にしていませんから」
「しかし、坂柳さん!」
「やめなさいと言ったのが聞こえないのですか?」
「っ……!? すいませんでした」
「忠誠心が高くても、躾がなってないなら飼い主の底が知れるな」
「なんだと!」
俺が煽るように言うと橋本君が激昂して迫ってくる。
その時――――――
「何をしている」
低く凛々しい声が響く。橋本君もそれを聞いて制止する。
声の方を見ると眼鏡の切れ目のイケメンがこちらを見ていた。横に女子もいる。というかあの眼鏡の人、どっかで見たことあるんだよな……。
「これはこれは生徒会長。何か用ですか……?」
なるほど、生徒会長か道理で見覚えあるなと思った。
「坂柳、何の騒ぎだ?」
「いえ、うちのクラスの橋本君がCクラスの安藤君との話で盛り上がってしまっただけです」
「そうは見えなかったが……」
生徒会長はこちらを見てくる。癪だが、今回は坂柳に乗っかるか。
「坂柳の言う通りですよ生徒会長。ねえ、橋本君?」
「そうなのか?」
「え、あぁ、そうです生徒会長」
「ふむ、まあ問題がないならそれでいい」
「では、今日は戻ります。安藤君? やはり私の目に狂いはないと思っています。では、またいつか」
そう言って坂柳たちはこの場を去っていく。できればもう会いたくないな。
俺も帰ろうと思うと急に生徒会長から話しかけられた。
「お前が安藤修永か?」
え、何で俺の名前知ってるわけ? いつから俺はそんな有名人になっちゃったの?
「まあ、そうですが……」
「なるほど、安藤先輩の言ってた通りの男だな」
「……兄を知ってるんですか?」
「ああ。俺が1年の頃、生徒会で世話になった。安藤先輩は生徒会長だったからな」
「なるほど……」
「お前のことはよく聞かされた。聞いてた通りの奴だ」
兄は俺のことを話したのか。ならこの人は大丈夫だろう。兄の人の見る目はすごい。絶対に口外しないからこそ兄は話したんだろう。
俺はおどけるようにして言った。
「兄と比べて平凡なつまらない男でしょう?」
「そうだな、とてもつまらなそうだな。ただ、もっと無口だと聞いたが、この学校に来て何かあったのだろう。安藤先輩もそれを望んでいたからな」
「そうですね、確かに良い出会いはありましたね」
「そうか……先輩には何かあったら手助けしてくれと頼まれたが、必要ないようだな」
生徒会長はそう言うと傍にいる女子に話しかけた。
「橘。まだ書記の席が1つ空いていたな?」
「はい。先日申し込みのあったAクラスの1年生は1次面接で落としましたので」
「安藤。お前が望むなら書記の席を譲っても構わん」
生徒会長の提案に橘さんはひどく驚いていた。
「せ、生徒会長……本気ですか?」
「不服か?」
「い、いえ。生徒会長が仰るなら、私に異存はありません」
「どうだ、安藤」
「いえ、遠慮しときます。俺には荷が重いです」
「まあ、そうだろうな」
提案したにしてはあっさりとしている。
生徒会長の言葉を聞いて橘さんがさらに驚いた。
「えええっ? 生徒会長からのお誘いを断るんですか!?」
この人さっきからなんなんだ、小動物でも見てるようだ。端的に言って飼いたい。
俺が犯罪染みた、っていうか一発で捕まるであろうことを考えていると生徒会長は踵を返した。
「行くぞ橘」
「は、はいっ」
「安藤、気をつけろよ」
それは何に対して言っているのか、含みのあるような言い方だった。
_______________
生徒会長と坂柳との邂逅から数日後、つつがなく1学期も終了し、いよいよ夏休みに入る。ちなみにあの後、椎名に生徒会長の名前を聞いたところ、呆れた様子で教えてもらえた。堀北学というらしい。
夏休みに入るとすぐに2週間の旅行がある。ということで今日と明日は俺の部屋でアニメの一気見の予定だ。船では本は読めるが、アニメは見れないからな。
ちなみに今の椎名の流行りは『リゼロ』らしい。バトル物は好きじゃないらしいが、スバルが能力でなんとかして生き抜くところが好きらしい。椎名の押しキャラはアルだそうです。女子って無条件でイケメン好きなわけじゃないんだと知りました。
「思ったより残酷な描写が多いですよね。アニメでも結構血や音がすごいですし」
「そうだな。椎名はこういうの苦手か?」
「いえ、別に。私は平気ですよ?」
「そうなんだ、ちなみにホラーとかは苦手なのか?」
「…………いえ、苦手ではないですけど」
今、なんか間があったような。椎名を見ると少しだけ動揺していた。
その様子を見て俺のいたずら心が疼いた。
「そうなのかー」
「……何ですか、その棒読みは」
俺がにやにやしていると椎名はむっとして頬を膨らませた。
「いや別に? そういえば今日はたまたま、たまたま借りた映画があるんだが一緒に見ないか?」
「何故そんなにたまたまを強調するのかわかりませんが、良いですよ」
いや実際たまたまなんだよね。
椎名の了承を得た俺は椎名が帰ったら見ようと思ってた呪〇のディスクを入れて再生した。
「これは……ホラー映画ですか」
「ああ、椎名が帰ったら見ようと思って一緒に借りたんだ」
雰囲気を作るために電気を消した。
映画が始まる。椎名は平気そうな顔をしているが、若干顔が引きつっている。やはり苦手なのか。
椎名は絶叫こそしないものの、そういうシーンが来るたんびに肩がびくっと震える。特に何もないシーンでも身体が小刻みにぷるぷると震えている。
俺はその様子を見て終始笑いをこらえていた。
映画が終わると椎名は深く息を吐いた。
俺はそれでもにやにやが収まらず、椎名は涙目で俺をキッと睨んできた。
「安藤君はいじわるです……」
「くふっ。すまんすまん、強がる椎名なんて初めて見たからな。少し魔が差したんだ」
「小説で読む分には平気なんですけどね……。映像になると少し……」
「そうか、震えを抑えようとする椎名は中々可愛かったけどな」
「え?」
「ん? …………あっ」
しまった。なにナチュラルに可愛いとか言ってんだ俺は。俺と椎名で無言の空間が形成される。
「あ、あー! これでも見るかー!」
「……はい」
羞恥を誤魔化すように俺は慌てた様子で『Charlotte』のディスクをp〇4に入れ再生した。
先ほどのことで恥ずかしかった俺は内容もまったく頭に入ってこない。さらに電気を点け忘れた俺は昨日徹夜したせいか眠気は最高潮だった。すると少しして俺はいつの間にか意識が途切れていた。
_______________
「安藤君……?」
隣の男子の雰囲気が変わったことに気づいた私は男子の名を呼びました。安藤君を見ると座ったまま、目を閉じて寝息を立てていた。どうやら眠ってしまったようだ。
「また、朝までゲームでもしてたんでしょうね……」
私は溜め息を吐いた。こっちはさっき言われたことで動揺していたというのにまったく呑気な男ですね。
寝ている安藤君を見て私は思いました。これは先ほどの仕返しができるのでは、と。
そうして私は口元を歪ませました。どう仕返ししてやろうか。そこでさっき見た『リゼロ』のエミリアがスバルに膝枕をするシーンを思い出しました。起きた時膝枕されていればかなり動揺するんじゃないでしょうか?
私は安藤君が驚き、慌てふためく姿を思い描きます。これなら十分仕返しになるだろうと思った私は女の子座りから正座の体制になり、安藤君の頭を私の膝の上に乗せました。
「楽しみですね……」
私はにこにこと微笑みながら安藤君が起きるまでアニメを見ながら待ちました。そういえば、エミリアが頭を撫でていたのを思い出し何となく安藤君の頭を撫でました。癖のないショートカット。多分彼のことですから髪のケアなんて特にしていないでしょう。それに苦労している女子はさぞ羨ましいでしょうね。私はそんなことはありませんが。
そんなことを考えながら頭を撫で続けていると私はそのまま眠ってしまった。
描写は少ないけど橘書記ってめっちゃ可愛いと思います。具体的にタイトルにしちゃうほどの可愛さ。
作者「お前がうるさいから出してやったぞ?」
一成「いや、え!?」
作者「なんだよ、感謝しろよ」
一成「あ、ありがとう?」
作者「おう、もう出番ないから」
一成「えっ、は? まじ?」
作者「もち」
一成「…………」
誤字脱字、批判ありましたら報告お願いします! 感想も待ってます!