人生の価値とは、所詮その程度の物。   作:兎一号

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終話 なくなった日

「おっはよう、調子はどう?」

 

 薄暗い森の中で女性は、男二人にそう声をかけた。血みどろな軍服を着た男二人は何やらご機嫌な女性の姿を見て眉をひそめた。

 

「あまりよくはないな。」

「君は調子がいいというよりは、機嫌がいいね。」

 

 ニコニコと笑みを浮かべながら「そう見える?」なんていうのだから二人はため息をついた。鬱蒼としていて今すぐにでも虫に噛まれてしまいそうな森の中で男二人はともかく、女の方は決して森の散策に適した服装をしていなかった。何せ、彼女はヒールの高いブーツ。それから、黒い修道服。瞑られた瞳。

 

「ふふ、そう見える?」

「何かあったのか?」

 

 早く聞けとうずうずしている彼女を見て苦笑いを浮かべながら茶色の髪の男が尋ねた。「よくぞ聞いてくれた。」と言い、女は誇らしげに腰に手を当てた。「ふふーん。」と得意げな表情を浮かべながら昨日のことを話した。

 

「じゃあ、アイツは異能力を使ったのか。」

「えぇ、それも見事に。今日一日を夢にする代わりに、私の一日を奪っても構わないと。流石は、彼の娘だわ。私のマリア様。まぁ、そういう訳で昨日の事は全て夢になったわ。歩いた道のりは全て無駄になった。」

 

 興奮気味に話す女は昨日のことを思い出してウットリとした表情を浮かべる。木に凭れ掛かっていた男二人はそんな女の様子を呆れながら見上げた。

 

「なぁ、ルチア。今日はどこ辺りまで歩くんだ?」

 

 金色の髪の男がそう尋ねると、ルチアは地図を取り出した。そして今いる場所を指さした。

 

「今いるのがトリール南西20キロの地点。明後日中にトリールの街に入って貴方達の服を買ってこられると良いのだけれど。町に入りさえすれば、連絡の取りようもある。」

「トリールは本当に小さな町だ。トリールまで行ければ、軍との連絡のつけようがある。」

「三日かけて20キロか。」

「あら、不満?」

 

 金髪の男はどこか悔しそうにつぶやいた。しかし、男は女性の言葉に首を横に振った。

 

「不満はない。俺たちがこんなに進みが遅いのは、俺たち二人がよりにもよって足を怪我したからだ。お前が俺達のために無理のルートを探してくれている事はわかっている。だからこそ、不甲斐ない。」

「お前達の為じゃない。私はお前を守れと願われてここにいる。」

「あぁ、帰ったら思いっきり甘やかしてやらなくちゃな。」

「期待せずに待ってるわ。」

 

 ルチアは地図を懐にしまい、それから立ち上がった。そしてその中で一番役立たずに手を伸ばした。何せ二人のうち一人、茶髪の男は両足を複雑骨折している。ひと昔ならば、戦争で逸れた馬を探してそれに乗せるなんて言う荒業だってとれたが、無駄に整備されたこの時代に騎馬兵は存在しない。全く、困った。もう一人の金髪の男は銃弾を右太腿に受けている。それでも約50㎞を歩いてきたのだ。

 

 

 バカみたいな話だ。あの城を抜け出す途中、彼らを助けなければ少なくとも金髪の男は銃弾を受けずに済んだというのに。

 

「いやぁ、女の子に背負われるなんて男の風上にも置けないな。」

「全くね、家の恥さらしも良い処だわ。」

「そこは、仕方ないとかそんな事無いとか言ってくれないかい?俺、物凄く傷ついた。」

 

 ルチアの背の上でウダウダと話をする男。しかし、男だって態とそんな話をしているわけじゃない。金髪の男とルチアが二人でいれば、そろって先ほどのマリア様の話しかしない。そしてそのうち、マリア様のためなら喜んで死にに行くとか言いそうなのだ。

 

「アントニオ、足の様子はどうだ?」

「大丈夫だよ、俺は撃たれただけだ。でもベルナルド、君は骨折だろう。暫くは絶対安静だ。」

「看護兵の言葉はきちんと聞かなくてはな。」

「あぁ、全くその通りだ。」

 

 

 聞いた時の衝撃で言うならば、銃で撃たれたほうが重傷だ。いや、本来ならば俺なんかよりもお前のほうが重症のはずだ。

 

 

 たった二年の付き合いだったが、二人の間には確実な絆が生まれていた。だからこそ、親友を酷く心配していた。少し間違えば、死んでしまいそうな正義感を持った親友。その命を何とか繋ぎ止めておきたいと、そう願わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 酷く騒がしい音は相変わらず。人のたくさん集まるこの場所で私は酷く暗い顔をして立っていた。気が付けば、私は空港の中に立っていた。それも日本の空港ではない。丁抹(デンマーク)の空港だ。何か、ひどい夢を見ていた気分だ。吐き出しそうな空気を吐き出し、新しい空気を肺に取り込んだ。どうしてだろうか、あのホテルで目を覚ましてからの記憶が全くない。

 

 今日が何日だったか、記憶が曖昧だ。

 

「アヌンツィアータ、どうかしましたか?行きますよ。」

「牧師様、昨日の事…。」

「昨日? 昨日が、どうかしましたか?」

 

 何の突っかかりもなくそう尋ねてくる牧師様の様子を見て私は「なんでもない。」と首を横に振りました。牧師様に続いて歩き出そうとした時、私の服をクイッと引っ張る何かが現れた。

 

『約束、守ってね。』

 

 その声に後ろを振り向いた。そこにいたのは黒い髪に赤い瞳の少女。可愛らしい水兵さんのワンピースを着た少女だった。私のスカートを軽く引っ張り、私の意識をそちら側に引っ張ろうとしてた。私にはこの少女の事を何一つ知らなかった。

 

 私が彼女に対して何の約束をしたのか、覚えていない。それでも何かしらの約束をしたというのなら、守らなければならない。私は決して嘘をつかない。そう心に決めているから。

 

「アヌンツィアータ?」

「いえ、子供に服をつかまれただけです。今行きます、牧師様。」

 

 私の言葉に牧師様は首を傾げた。それもそのはずだ。私の服をつかむ子供など、まず現れることがないのだから。それこそ、私という存在を認識していなければ出来ない事だ。そんな人間が近くにいるのかと少しだけ視線を彷徨わせるが、そんな存在を見つける事は出来ない。

 

「牧師様、どうかしましたか?行きましょう。」

「えぇ、そうですね。」

 

 後ろを振り返れば、やはり視界の端に女の子がこちらを見上げているのが映る。しかし、その少女に微笑みかけてやれば彼女も微笑むのだ。少しだけ手を差し出せば、彼女もその手を取って私と一緒に歩き出した。




お疲れさまでした。

本日、二本目の投稿です。そして短いです。

自分で作ったキャラは愛を持って殺します。
オリジナル小説を書くとほぼ全員が死んでしまうという悩みを抱えています。

あぁ、どうして死んでしまうの?
殺している私が言うのもなんですが。
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