小説の説明にも書いてありますが、この小説は黒の時代又は原作に入るまで文豪ストレイドッグスのキャラクターがあまり出てこない事があります。
今回の章はそのあまり出てこない章です。
「本当なんです!」
まるで私はやっていない、と痴漢と勘違いされた男が無実を主張する時の様な必死さで訴えるのは、クララと牧師に呼ばれていた少女。
「幽霊、ねぇ。確かにあの教会には地下に集団墓地はあるけれど…。ピアノの音なんて一度も聞いたことが無いわ。それに、地下の音なんて…。」
顔に皺を作るほど長生きをしている目の前の修道女は、畑作業をしながら慌てた様子のクララに対して、どうしたものか、と頭を悩ましていた。
最近、ミサで訪れた隣村の教会でクララ一人だけが聞いたピアノ音が原因だった。
「この前も聞こえたんです。それで」
「貴女、まさか教会の地下に行ったのではありませんよね?」
まさかと思い修道女が尋ねれば、答えあぐねたクララを見て思わず頭を抱えてしまった。
「あぁ、全く。困った子ですね。
「…、すみません。」
修道女は教会にいる訳では無い。修道女がいるのは修道院。教会に住んでいる訳では無い。隣の村の牧師様には大変良くしてもらっていて、修道女たちはミサやイベント時、手が開けば手伝いに行っている。前々回のミサの時、修道女見習いとして修道院に住んでいたクララは初めてその教会を訪れた。
優しそうな顔立ちをした牧師。村より畑の面積の方が大きい、そんな農村の教会。戦争で人は更に少なくなった村。教会には、一人の主任牧師だけ。彼女達修道女はそこに併設されている学校で働いている。毎年数人しか生まれない子供ではあるが、それでも学校には通わせたいと思うのが親だ。
「来週、貴女はまた隣の村に行く予定でしたね。」
「はい…。」
「この事は、同行する修道女に話しておきます。これを機に、幽霊騒ぎはおやめなさい。」
「でも、本当に…。」
「貴女が嘘をつく様な子で無い事は知っています。だからと言って、教会の地下に無断で踏み入るなど言語道断です。」
「はい、すみません。」
すっかり肩を落としてしまった少女。しかし、天真爛漫すぎるのも修道女としては困りものだ。今回の事が聞いて少しは落ち着きのある子となればいいのだが。そんな事を考えて修道女は農作業を再開した。クララもそれに続いて農作業に取り掛かる。もう直ぐで小麦を収穫できる。そうなれば、幽霊などと騒いでいられないほど忙しくなる。
そんな事を考えて修道女はせっせと働く若い修道女見習いを一瞥した。
★
一週間後、クララの隣には一緒に農作業をしていた修道女が立っていた。その前には、少し口元に皺が出来た牧師が立っていた。朝日がステンドグラスによって色付き、真っ白な教会の床を彩る。
「本当に申し訳ありません。」
固い声で隣に立っていた修道女は牧師に告げる。
「いえ、良いのです。しかし、地下はとても複雑です。私も時々迷ってしまいそうになります。それに老朽化しています。もしかして、が無い訳ではありません。地下にはいかない方が良いでしょう。」
深々と頭を下げる修道女に牧師は少し困った顔でそう答えた。
「さぁ、今日も子供達が待っています。行きましょうか。」
はい、と力無い返事をするクララに「そんな顔をしていては子供達に心配されてしまいますよ。」と言い励ました。牧師の言葉にクララはやはり力無く返事をした。教会の中を通って、隣接された建物へ向かう。
教室に辿り着けば、そこでは元気の良い子供達の声が聞こえてきた。
「おはようございます。さぁ、皆さん。席についてください。」
ガタガタと子供達は木製の椅子を引いて席につく。クララはその中で6歳以下の子供達の面倒を見ていた。その中で一人の少女が絵を描いていた。その少女は木陰で本を読んでいる修道女、だと思われる物を描いていた。
「とっても上手だわ。この子は誰?」
「知らなぁい。時々、教会の裏の林の中に立ってるんだ。」
「知らない子なの?」
「うん、知らない子。」
いつも後ろ姿だからどんな子なのかさっぱりわからないらしい。
「私のお姉ちゃんと同じくらいの大きさなの。」
「お姉ちゃんは、確か今年で13歳だったね。それ位で修道女となれるのかしら…。」
修道女見習いであるクララの年齢は16歳。そして自分より幼い修道女も修道女見習いもいない。という事は別な修道院の修道女だろうか。しかし、この村の近くに修道院はクララのいる修道院ともう一つカトリックの男子修道院しかなかったはずだ。
「何処の子かしら。」
「クララお姉ちゃんも知らない?」
「えぇ、ちょっとわからないわ。瞳の色とか、見てないの?」
「見ていない。あ、でも、この前、クライムが見たって言ってた。」
クライムとは、絵を描いた少女ルーシーの従兄だ。クライムは9歳、ルーシーは5歳と少しの年の差があるが兄妹の様に仲が良かった。おっとりとした顔立ちで二人ともどこか似ている。
「それで、クライムはなんて言ってたの?」
「あのね、おめめがバイオレット色なんだって。」
「バイオレット?それは珍しいわね。」
「うん、とっても綺麗だって言ってた。それから、肌がすっごく白いんだって。クライムは幽霊じゃないかって…。」
「幽霊…!」
思わず大きな声を出してしまい、辺りを見回す。しかし、他の子供達は皆絵を描いていてこちらに気を向けていなかった。クララは小さくため息をつくと、ルーシーの描いた絵を見た。
「修道女の、幽霊…。」
「クララ、見て見て!」
途中で別の子が絵を見せに来たことで会話はそこで途切れてしまった。
それからお昼休憩に入り、ルーシーの言っていた教会の裏に足を運んだ。しかし、そこには綺麗な黄色や赤に葉を染めた広葉樹の姿しかなく、修道女の幽霊はいなかった。
「やっぱり、いないか。でも、クライムもルーシーも見てるなら何かがあるのよね。」
林の中を少し散策しているとすっかりお昼の時間は経ち、急いで教会へと戻らなければならなくなった。まだ新しい皮の靴を汚さない様に気を付けながら教会に戻ると、村の中は少し雰囲気が変わっていた。何処か忙しなかった空気は抑えていた緊張を解かれたかのように、人々からあふれ出していた。
悪い事では無い。寧ろ良い事があったのだ。村の面々の顔はとても歓喜に満ちていた。これ以上ない幸せの様に。村の中心にある噴水の周りには村中の大人たちが集まっている。その脇で大人たちの熱気に若干引き気味の子供達の元へとクララは向かった。
「何か、あったの?」
「戦争に行ってたお兄ちゃんが帰ってきたんだよ。」
クライムがそう言った。
「お兄ちゃん?」
「そう、トニーお兄ちゃん。戦争に行ってたんだ。それでね、帰ってきたんだ。」
「それは、良かったですね。」
「うん。怪我が治ったらまた遊んでくれるかな?」
村人にもみくちゃにされながらそれを仕方なく受け入れている金色の髪が見えた。
「アントニオ・ラスムセン。」
「牧師様…。少し、老けましたか?」
「そう思うのなら、貴方はそれほど長く村から離れていたということですよ。」
牧師に呼ばれて、人の波から出て来たのはどこか頼りなさげな青年だった。服の上からはあまり軍人の様な迫力は受けなかった。
「あの、牧師様…。」
「…、私の部屋で待っています。部屋の場所は、覚えていますね。」
「はい…。あの、その。彼女にお礼を言いたいのです。俺が生きているのは彼女のおかげですから。」
「わかりました。私は先に戻っていますよ、アントニオ。」
牧師が教会の方へ踵を返すと入れ替わりでアントニオ・ラスムセンという男に近づいたのは、白い髭を生やした男。
彼がアントニオの父親だとクライムは教えてくれた。
「クララ、今日の授業はここまでだと
「は、はい。分かりました。」
去り際に牧師がそう告げた。クララはアントニオという男を一瞥してから一緒に村に来た修道女に伝言を告げるために教室へと向かった。
「それじゃあ、皆。また今度ね。」
「ええ、クララ帰っちゃうの?」
「うん、でも週末のミサには来るから明後日にはまた会えるよ。」
浮かない顔の子供達に囲まれながら、クララは困った表情を浮かべて白のブラウスを引っ張る子供達に手を焼いていた。戦争で少しの間押し込められていた子供らしさが、叱られることなく外に発散出来るこの状況に加え、いつも静かな大人達まで戦争からの帰還者の登場によってこれ以上ない程に浮かれている。その気に当てられたのか、いつも以上に子供達は元気がいい。
「おい、こら。女性の服をそんなに引っ張るもんじゃないぞ。」
「トニーお兄ちゃん。」
「俺の怪我が治ったら遊んでやるから、離してやれよ。」
「ちぇ。」
「またね、クララ!」
アントニオの一声で子供達は何処かへ遊びに行った。クララはアントニオを見上げた。
「あの、ありがとうございます。」
「ん、いや。こっちこそ、悪かったな。皆浮き足立ってるみたいだ。見ない顔だな、アントニオだ。」
ニカッと爽やかな笑みを浮かべてアントニオは手を差し出した。クララも人当たりのいい笑みを浮かべてその手に答えた。
「修道女見習いのクララよ。クララ・ヴェロニカ。最近、牧師様のお手伝いで隣の町から来てるの。今は学校の先生を手伝ってるわ。」
「それじゃあ、先生って呼ばなきゃな。」
頬を掻くアントニオの視線がふとクララの後ろに向けられた。後ろを振り返ったが、そこには誰もいなかった。
「それじゃあ、俺は行くから。またな。」
「え、はい。また…。」
一瞬アントニオが見せた空漠な瞳。吸い込まれそうな青の奥の深い闇。クララはアントニオとの後ろ姿を見送った。
「戦争って大変なのね。」
クララの言葉に答えるものはいなかった。
★
アントニオ・ラスムセンという男は、快活な性格の青年である。特に良い訳でもなく、悪いわけでもない。あまり特徴の無い顔立ちをした何処にでもいる普通の青年だった。
ごく一般的な青年にも隠し事の一つや二つあるもので。問題だったのは、その隠し事がごく一般的のそれでは無いということだった。彼のベッドの下に隠している本はないし、戸棚の奥に隠しているユーロ札の入った茶封筒はない。
その青年の隠し事、親にも言ったことのない隠し事。
彼は戦争に行く前、人を殺してしまった事がある。
彼の血液恐怖症とでも言おうか。血液に過剰に反応を見せるのは、そのトラウマからくるものだった。そんな彼が戦争を生きて帰ってくるなど、まず不可能だった。血を血で洗う争いの地でアントニオが生きて帰って来たのはたった一つ。彼はある意味で運が良かった。
彼は聖人を味方につけることに成功したのだ。
「牧師様…。」
「はい、何でしょうか?」
少し見ないうちにすっかり物が多くなった牧師の部屋の中でアントニオは椅子に深く項垂れた。
「戦場で、死を見ました。もう、二度と…。嫌だと思ったのに。それなのに、俺は、何も…。」
額に組んだ手を当て深く祈りを捧げるように、彼は懺悔し始めた。薄暗い蝋燭の光だけが頼りのこの部屋の中で、女々しく涙を浮かべる男は先程、村人にもみくちゃにあっていた男とはとても同じとは思えなかった。
「アントニオ…、神は貴方の罪を赦すでしょう。」
「牧師様、許される事が苦痛なのです。未だ、鼻についてとれないんです。焼けこげる血肉の匂い…。一人であればとっくに気が狂ってしまいそうでした。」
「それは、貴方と帰還したもう一人の兵士の事ですか?」
「いい奴ですよ。あいつだって辛かっただろうに…。俺の事を気遣って…。」
焦燥し、未だ自身の中に燻る火種をどうすることも出来ない目の前の青年。彼には遅すぎたのだ。人を殺すという行為に正当性を見出し、行うには遅すぎたし、若すぎた。
人としての倫理観を教え込まれ、正義と道徳悪に苛まれている。
牧師は膝をつき、そっとアントニオの肩に手を置いた。村人の前では見せなかった疲れきった顔で彼は牧師を見上げた。
「まずは、日常に慣れましょう。貴方が忘れてしまった日常です。昔のように、あの子と水辺でお話をしてみれば良い。」
「アイツは、血で穢れた俺なんかが…。」
「あの子は、貴方が生きている事を決して疑わなかった。誰もが何処かで諦めていたのに、あの子だけは貴方が生きている事を信じていた。だから、そんな風に言わないでください。手紙が来なくなって彼女は本当に貴方を心配していたのですよ。」
アントニオ・ラスムセンは、戦場で聖人を味方につけた。それは目が見えない女の聖人だった。名をルチア。
絵画などでは、よく抉り出した自身の二つの目玉を金色の皿の上に乗せている姿が描かれている。
彼女は自身の瞳こそ持っていなかった、たしかに盲目だった。しかし、彼女は地図が読めたし、料理だって出来た。何処から捕まえてきたのか、猪だって捕まえて彼女は綺麗に捌いてみせた。
「私の知識は全て本の中の事。実際にやったのは初めて。」
その言葉と彼女の行動は全く一致していなかった。戸惑いなく皮を剥ぎ血を抜く彼女に男二人は絶句した。
女は度胸と言うが、ここまで度胸があると男としては中々ついていけないものがあると、心の中で思ってしまった。
そんなどう表現していいのか分からない思い出に苦笑いを浮かべ、少しか気が楽になったアントニオはポツリポツリと話し始めた。
「俺は、あの場所で一人の異能力者に会いました。もう二度と、あんな奴に会いたくないと、そう思いましたよ。」
お疲れ様です。
映画、始まりましたね。
残念ながら、兎一号は映画を見に行くお金ないので皆さんどうか楽しんで…。
噂じゃ、森さんの年齢が分かったとか。
太宰さんと中也の出会いが分かったとか。
誰か教えてくれないかなぁ、めっちゃ気になる|ω・`)チラ
映画も気になるけど、特典の方が気になってたりする今日この頃。
あぁ、でも漫画は買います。
ヤングエースの今月号まだ買ってないけど、漫画と一緒に買います。