人生の価値とは、所詮その程度の物。   作:兎一号

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3月13日 加筆修正 タグに捏造追加


第三話 終わりの始まり

 朝日が昇る前、起床する事がすっかりと日課になってしまった。少し肌寒い明朝。カーテンを開ければ、白む東の空が目に入る。この景色を見るのも700回を越そうとしている。

 

「おはよう。」

「あぁ…、おはよう。相変わらず早起きだな、アントニオ。」

「お前は相変わらず寝坊助だな、ベルナルド。」

 

 赤茶けた髪色の青年、ベルナルド。貴族生まれのこの青年がどうして戦争なんてものに関わっているのか。理由としては拍を付けるため、らしい。どうにも振り返らせたい女性がいてその人に勇気のある人が好きだといわれたから軍人になったとか。

 

 聞いた時は殴ってやろうかと思った。俺の友人の中には最前線に送られた奴もいる。そいつは俺なんかよりも真っ先に村に帰った。そういう時代だった。

 

 しかし、同室となってしまったからにはそうそう争い事を起こすわけにはいかない。暫くの付き合いになれば相手のことがよく分かってくる。ここに来た事情は決して真面目な物ではなかったが、ベルナルドは真面目に軍人をしている。訓練だって欠かさずに現れる。朝に弱いのだけはどうにかして欲しいが。

 

「しかし、眠いな。」

 

 大きな欠伸による空気の音を聞くのも今日が最後だ。

 

「今日が最後かもしないぞ。明日の朝には迎えの車が門の前の道路を埋め尽くす。」

「戦争も、漸く終わりか。国に帰ったら、やる事が多い。」

「そうだな、俺も遊園地に連れて行ってやらきゃいけない。」

 

 俺がそういうとベルナルドオがニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべる。

 

「お前がいっつも手紙を書いている麗しのお嬢様か?」

「アイツはお嬢様というよりは、お子様だ。まだ10歳だぞ?」

 

 最後にあったのは8歳の時だ。少女の成長期は少年のそれより早い。身長が伸びた白髪の少女の姿を想像した。靨を作り、俺を見上げるあの少女を。

 

「十分にお嬢様だろう。」

「アイツは俺のことを優しいお兄さんくらいにしか思ってないよ。」

 

 未だにベッドから出ようとしないベルナルドに対して呆れため息を吐き出した。軍服に着替え、帽子を被る。則のせいでパリッとしていた軍服はすっかりクタクタになってしまった。それだけで年月を感じさせる。

 

「大体、朝の朝礼の時間まで後3時間もあるだろう。お前、また婆さんの処か?お前、まさか幼女趣味と思わせての熟女趣味か?」

 

 彼が俺の事を幼女趣味と言うのは、アヌンツィアータの事があるからだ。懐中時計に挟まっていた写真が幼い頃のアイツであった為、その年の少女が好きなのだと、一時期勘違いをされたのだ。

 

 後は街の慰安所に行かなかったのも大きいのかもしれない。

 

「馬鹿野郎、そんな訳あるか。それから、今のフルヴィア先生に言うからな。」

「はぁ!?ちょっと待てって。あの婆さんの鬼畜眼鏡っぷり知ってるだろう!」

「今のも報告して解いてやる。ベルナルドはフルヴィアさんの鬼畜メガネっぷりが堪らなく好きのようだってな。」

 

 口角を引くつかせて、俺を見上げてくる表情はとても面白く声を出して笑ってしまった。

 

「と、いけない。これ以上五月蠅くすると怒られるな。最後の日くらい、自分で布団から出て来いよ。起こさないからな。」

「分かってるよ。あぁ、朝礼が終わった後婆さんになんて言われるか…。」

 

 ついに頭を抱えてしまった彼を見た後、俺は部屋から出た。この砦は元々何処かの国が王宮として使っていたものの再利用された。急拵えもいいところだが、前線の補給基地として使われているこの場所は多くの人員が配備されていた。まぁ、元は王宮なので砦にしては不必要な装飾が窓や壁に施されているのは、ご愛嬌という事で。石を切り出して作られた、窓の格子なんて今の時代、捜したところでありはしない。大抵は金属だ。

 

 これが戦争中でなければ完全に観光旅行だ。何処かの城を改造してホテルにしました、なんてどこぞの観光会社がやりそうなものだ。それをタダで宿泊しているのだから得した気分になる。それも特別にキツイ重労働がなければの話だが。

 

 靴底が擦り減った靴で廊下を歩く。部屋を出て廊下を右に行けば、食堂へとつながっている。その先に抜けてさらに行くと医務室につく。小競り合いがあるため、時々ここには人が大勢訪れたりするのだが、最近はめっきりここに訪れる人は少なくなった。これは良い事であるのと同時に、練習が出来ないという少し寂しい状況だった。

 

 少し重たい扉を開けると、その先には回転椅子に座った初老の女がいる。先ほどベルナルドが婆さんと称した女性だ。御年52歳、独身の女性、結婚はした事がないとの事。黒っぽい髪に、白髪が混じる。こげ茶色の瞳が入ってきた俺を見る。最近は忙しくないためか、その瞳には疲労の色が見られない。酷い時は疲労し切った眼をして隈を作っていた。

 

 石でできた部屋の中にはそことは不釣り合いな金属製の薬品棚が目に入る。後から運び込んだことがまる分かりだ。彼女が仮眠に使っているフカフカの赤いソファ。この国の地図が貼ってあった。

 

「おはようございます、フルヴィア先生。」

「今日は一段と早いねぇ…。あぁ、そうか。そういえば噂じゃあ、今日が最後だったかい?」

「はい、戦争が終わる事は嬉しいのですが…。先生のご教授を受けられなくなるのは、少し残念に思います。」

 

 パイプを銜え、ハンッと鼻で笑われてしまった。吐き出す煙の煙ったさに思わず顔をしかめた。

 

「私のような端くれにも数えられない医者擬きから何を学ぼうっていうのかね。物好きな青年だ。」

「そんな物好きに色々教えてくれる先生は、とても優しい方です。」

「お前の方が物好きさ。なんで私に習う?私は動物の医者で人間の医者じゃないっていうのにさ。」

「俺にとっては、教えていただけるだけで幸せです。」

 

 そういうと先生は大きなため息を吐き出した。そして彼女は立ち上がり、机の引き戸を開けた。そこには書類がびっしりと詰まっていた。

 

 先生はその中から一冊の本を取り出した。

 

「これでよかったら持っていきな。医療本、というよりは応急手当の仕方辞典みたいなもんだ。簡単なものしか書いていないし、異国語だ。読むのには苦労するだろうよ。私から送れるのはこんなものだ。」

 

 それはとても古びた本だった。硬い厚紙の表紙の角はボロボロで、金箔文字なんて剥げてほとんど読めやしない。それでも、色々な色で線を引かれた文字を見れば、この本からどれだけ学べることがあるのかと心が躍る。確かに、この本は英語でも丁抹(デンマーク)語でも書かれていない。独逸(ドイツ)か、仏蘭西(フランス)か、西班牙(スペイン)か。何処か知らないが、よく没収されなかったものだ。敵国の国の言葉ならば禁書となっていても不思議ではないのに。

 

「戦争は終わる。そいつの禁書登録もすぐに解ける。」

「あ、やっぱり禁書だったんですね。」

仏蘭西(フランス)の本だよ。だから、読む時は気をつけな。」

仏蘭西(フランス)って、思いっきり敵国じゃないですか。先生、もしかしてちゃっかり面倒事俺に押し付けましたか?」

「さて、何の事かい?まぁ、ベルナルドなら読めるさ。」

 

 この鬼畜眼鏡、と心の中で呟いた。

 

「というか、お前さん。ここに何しに来たんだい?小競り合いがなかったんだから怪我人なんかいない事は知ってただろう。」

 

 再び回転椅子に座った先生がそう尋ねてきた。

 

「いやぁ、もしかしたら夜襲警備の人が砦から落ちて怪我をした人とかいないかなぁっと。」

 

 頭の後ろに手をやって、少しお道化た様に言うとあきれた表情を先生は浮かべた。

 

「そんな馬鹿げた理由でここに来たのはアンタ位なもんだよ。全く、軍人が聞いて呆れる。」

 

 ここに来たばかりの時だ。暗がりの中砦の上を歩いていると先輩に声をかけられた。初めてという事でとても気が張っていたのだ。その声に思わず挙げてしまった奇声。その奇声に驚いて足を踏み外していしまった事は、全く墓場まで持っていきたい失態だった。

 

 あの時の事を思い出して羞恥心から俺の耳は真っ赤に染まっている事だろう。目の前の鬼畜眼鏡はそれはそれは楽しそうな笑い声をあげて俺を見ている。しまいには膝を叩いて笑い出す始末だ。

 

「それで、あの事故以来高いところが苦手になったって?足がすくむんだって?」

「話を振ったのは俺ですが、止めてください。」

 

 もうこの場所から逃げ出したという衝動を何とか抑え込んでこの羞恥心に耐えた。

 

「全く、お前さんは軍人には向かないねぇ。何処かの小さな村で医師をやってた方がよっぽどお前さんにはお似合いだよ。」

「俺だって、そう思ってますよ。」

「戦争が終わったら、村に帰るのかい?」

「はい、約束がありますから。」

 

 頬杖をついて先生はどこか羨ましそうにこちらを見ている。

 

「約束、か。そんな物で縛り付けたって、人は簡単に死んでしまう。最後の最後まで気を抜かない事だね。」

「嫌だなぁ、先生。そんな物騒なこと言うの止めてくださいよ。そういうのって言葉にするだけでなんか起こりそうなんですから。」

「協定が結ばれるまでは、戦争だ。協定が結ばれてから攻めてくる国だって無い訳じゃない。そんな楽観的な考えは医者なら持ち合わせない事だよ。常に最悪を考えな。」

 

 真剣な面持ちでいうものだから、緊張が体をかけた。先生は俺の不安げな表情を見て、ニヤリと笑みを浮かべた。その表情を見て俺は釣られた、と思った。

 

「先生!」

「まぁ、そうそう起こらない事だよ。明日、帰れるんだから。今日、ちゃんと生き残らなきゃだめだよ。」

「はい、わかってます。先生!」

「本当に、わかってるのかね。」

 

 俺はそれから先生に講義をしてもらった。元々獣医であった先生は人手が足りないという事でこの砦に派遣された。「人間の専門じゃないんだけどね」なんて軍上層部に直談判したそうなのだけれど、人間も動物の一種だとかそんな屁理屈を言われ、大人しくここで軍医をしているそうだ。しかし、それでも医者として過ごして来た彼女の言葉は知っていて為になるものだった。

 

 真剣な表情で先生の話をメモする。先生は元々独逸のアルザス=ロレーヌ地方の出身で、その言葉には微妙な仏蘭西(フランス)語の訛りがある。少しだけ聞きづらかった先生の言葉も慣れてしまえばなんてことない。先生の言葉を一言一句聞き逃さないようにメモを取る。こんな事を言ったら他の奴らに怒られるかもしれないが、俺はここに来てよかった。俺は運がいいと思った。

 

「おや、もうこんな時間かい。最後だからって少し気合を入れすぎたね。」

「あ、本当ですね。」

 

 外はすっかり明るくなっていた。地図の上に掛けてある時計は朝の7時少し前を指していた。

 

「あれ、先生。地図新しくしたんですか?」

「ん?あぁ、この前ロンドがビリビリに破いてね。」

「先生の方向音痴は相変わらず治らなかったみたいですね。」

 

 先生は面白くないと言った表情で俺の事を見上げていた。

 

「あんまり調子に乗るんじゃないよ、餓鬼。」

「はい、すみません。それじゃあ、俺行きます。また、朝礼の時に。」

 

 そう言って俺は医務室を出た。先生は昔話をあまりしたがらない。それも仕方ない事だ。アルヌス=ロレーヌ地方は豊かな鉄鋼資源があり、昔から仏蘭西と独逸でその領土を取り合っていた。ドイツ語の勉強をしていた次の日には仏蘭西語の勉強をさせられるなんて良くある話だと聞く。

 

「しかし、明日か。荷造りが大変だ。」

 

 誰にも見つからない様にこそこそと自身の部屋に戻る。起こさないと言ったはずなのに、再び眠りについてい同期の青年に飽きれた表情しかできない。持っていた本を他の本の間に挟んだ。金箔文字が剥げているお蔭で一見ただの古い本にしか見えない。

 

 俺はそれからもう一度ベルナルドを見た。

 

「おい、起きろ。」

 

 肩を揺らして彼を起こそうとした。

 

「後、一時間。」

「一時間後には、お前の生命は終了だぞ。遅刻すると隊長に下半身を縄で縛られて柱に逆さ吊りにされるぞ。その状態で腹筋1000回だ。」

「うぅ…。止めろぅ。」

「悪いが、お前を助けられる人間は一人もいない。」

「ああ!もう分かったよ、起きるよ!」

 

 勢いよく布団が蹴り上げられ、それから少し不機嫌そうに挟めた目が此方を見た。

 

「早く着替えろよ、酷い髪型だ。愛しのマドンナにそんな姿見られたら振られるぞ。」

「五月蝿い、アイツがこんなむさ苦しい所に来るかよ。だいたい、アイツは俺のマドンナじゃなねぇ。家が勝手に決めた事で…!」

「はいはい、わかったよ。ほら、怒られる前に支度しろ。お前の遅刻のせいで連帯責任を食らうのは御免だからな。」

 

 面倒臭いと言った表情を前面に押し出し、俺は部屋から出た。

 

「おはよう、ラスムセン一等兵。お前達は朝から騒がしいなぁ。」

「おはようございます、バレンタイン軍曹殿。すみません、やっぱり騒がしかったですか?」

「そりゃあな。お前達は良い目覚ましだよ。お前達のお陰で嫁の声で起きられるか自信が無くなってきたよ。」

「それは大変ですね、浮気を疑われてしまうかもしれません。」

 

 数人の軍人が行き来する中、俺達はそんな下らない話をする精神的余裕を持っていた。それはもう直ぐ戦争が終わるかもしれないと言う事が張り詰めていた精神を解放する物であったからだ。

 

「もうすぐ、帰れる。」

 

 俺は戦争に行く前、顔を歪めて見送ってくれた少女との約束を胸に抱き、前を向いた。




お疲れ様でした。

前回、お金無くて映画見に行かないと言っていたが、母からお金を借りて見に言ってきました。

入場特典もゲット出来、ウハウハです。


twitterにも書いたのですが、出したい人が出てこない。
四話、五話と書き終えているのですが、どうしてか出てこない。

私は早くあの人に会いたいのに!

と、言うわけで原作キャラは六話目以降に出てきます。
それまで暫し待たれよ。

そして安心してください。第四章は舞台が(ヨコハマ)です。
[原作キャラが出てくるとは言ってない]

()の部分は未定です。
つまり、そう言うこと。
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