人生の価値とは、所詮その程度の物。   作:兎一号

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第七話 破滅を、とデモン様が宣いまして

 酷く気怠い体。瞳だけを開け、辺りを見渡した。冷たい床に倒れたままでフルヴィア医師(せんせい)に撃たれたから場所が移動していない事を確認した。

 

 しかし、どうして遺体を隠さなかったのだろう。

 

 まだ死んではいないから自分で遺体というのは些か気が引けるのだが、それを置いておくにしても今は誰も忙しいからと言って銃で撃たれた人間を廊下に放置しておくと言うのはどういう事なのだろうか。ゆっくりと体を起した。銃で撃たれた場所を触ると傷口はしっかりと塞がれていた。それでも床には赤い血液が円を描いている。

 

「ちっくしょう。」

 

 普段、誰も使わないこの廊下。使われない理由は単に地下へと続くだけのこの道を使う理由が無いのだ。地下へと向かうには別の道がある。ただ、こんな細くかび臭い道を態々通る事を好む人間はまずいない。ぬめる床に手を置いて体を起き上がらせる。口の中に違和感を感じ吐き出せば、銀色の弾芯が出てきた。口の中に残る金属の味に眉を顰めながら、階段の手すりに手を掛ける。

 

 窓から外の様子を伺う。積みあがっていた死体は多少少なくなっている。しかし、死体を埋めていた兵士たちの姿が見られない。しかし、スコップは地面に突き刺さっており、仕事の途中であった事が窺える。

 

 そして昼を知らせる鐘が鳴る。低く内臓を震わせるようなその音を聞いた。12回の鐘が鳴る。

 

「昼、か。」

 

 鐘が鳴り終わると同時に、爆発音が鳴り響いた。建物が揺れる。パラパラと降って来る埃が鬱陶しい。これほど大規模な爆発が如何して起ったのか。考えられるのは武器庫からの火災だ。誰かが火を放ったとしか思えない。

 

「終戦直後の怪我人に混じり込んできたのか?」

 

 ならば一番怪しいのはジイド達だ。しかし、そんな事を潜入していうる側がするだろうか。

 

「あぁ、くそ!」

 

 裏をかく、という事は相手の先入観を利用するものだ。つまり、これは考えるだけ無駄だ。一発で見抜けないのならば、これ程時間の無駄は無い。

 

 その時だった。背後から感じた背中を突き刺されるような視線。振り向けばそこには悪魔がいた。正確には、おそらく悪魔と呼ばれる様な得体の知れない何か、だ。体長180センチ以上の頭から角を生やした二足歩行の何か。

 

「こう言うホラーは苦手なんだがな。」

 

 素早くホルスターから銃を抜き、構える。相手が人では無いからだろうか。銃身が震える事はない。落ち着いた心でそれに銃を向ける。安全装置を解除し、ゆっくりと間合いを図る。

 

 頭から血を被った様なそれはじっとこちらを見つめている。ヒシヒシと伝わってくる殺気で胃が痛い。

 

「こう言う時はどうすればいい? 十字架にでも縛りつければいいのか?」

 

 そんなことを考えているともう一度砦が揺れた。

 

「たく、今度はどこが爆発したってんだ。」

 

 本部に連絡を入れるのにも、どうにかして目の前の異形を倒さなくてはならない。

 

「おい、どうして本部からの命令がない。」

 

 こんな爆発が起こっていれば、警鐘の一つでもなるはずだ。それが昼の鐘以降鳴ってはいない。

 

 最悪の事態が頭を過る。

 

 もし今の状況が自分で考えられる最悪の事態だとするのならば、どうやってここから逃走する。態々、他国の為に死んでやるつもりはない。ただ、大義名分は必要だ。

 

 そう例えば、砦を襲撃した奴らの情報などだ。通信施設が壊されているのなら尚の事、この言い訳は通る。

 

「ああああっ!」

「ギャアア!」

 

 いきなり声を上げてこちらに走ってきたそれを見て俺は思わず叫んだ。誰だってあんなのが近づいてきたら叫ぶに決まってる。そして俺の体はブランクがあろうとも長年の経験により、その異形の頭を的確に撃ち抜いた。

 

「ふっざけんな!こんちくしょう!」

 

 その場で膝をついて倒れてしまった異形を見る。荒い息を整える様に大きく深呼吸をする。しかし、不快な臭いのせいであまり深呼吸の意味を成さなかった。

 

「全く、何なんだ?」

 

 じっくりと倒れている異形を観察する。血を流す事は無い。ただ、ぐったりと倒れているだけだ。脈をはかる勇気も無く、取り敢えず銃でツンツンと突いてみる。反応は無い。

 

「はぁ。」

 

 一先ず、銃弾で倒すことができると言うのは有難い。これで不死です。なんてなった日には、地獄を見る羽目になる。

 

「CQ、CQ。こちら、Δ4。正体不明の生物と交戦。Over。」

 

 無線機を取られていなかったのは幸いだった。ここから通信施設は遠い。そして返ってくるのは電磁音だけ。周波数が合っていないなんて事はないはずだ。いくら終戦を迎えたからと言ってそんなへまはしない。

 

 本部の方から銃声が聞こえ始めていた。それは、あの異形がここ以外にもいる事が分かってしまった。

 

 一先ず、ここは仲間との合流を最優先にすべきだろう。戦うにしても、逃げるにしても一人よりは大勢の方がいいはずだ。その中に裏切り者がいなければの話だが。

 

 足音に気を配りながら、俺は食堂へと向かった。先ほどの異形が一体どうやって物を見ているのか知らないが、全てにおいて気をつけておいて損はないはずだ。

 

 先ほどの悪魔のせいで頭から抜けていたフルヴィア医師(せんせい)の事を思い出した。

 

「あの人の事は、後回しだ。結局俺には分からない。」

 

 今の武器は拳銃一丁、装弾数15発。先程1発撃ったので残り14発だ。弾倉は二つ。つまり残り弾数は44発。

 

「武器庫は潰されたと考えるべきか…。」

 

 となれば、どうにかしてこの44発で生き残らなければならない。

 

 俺が最初にやるべき事は何だろうか。生き残るためにやるべき事をしよう。廊下の角に辿り着いた。こっそりとその奥を覗けばそこには幽鬼のような表情で立っている異形の姿があった。人数と言う数え方なのかは定かではないが、取り敢えず一人だけのようだ。

 

「別の道を通るか……。」

 

 弾数が限られている以上、無駄な戦闘は避けたい。戻ってきた道を戻ることになった。ふと、窓の外が目に入った。此処は二階だ。飛び降りるには下の足場が少し悪いが出来ない高さでは無い。ただ、音で反応するのならばガラスを割った音で気付かれてしまうかもしれない。

 

「フィックス窓じゃなければなぁ。」

 

 装飾の為の窓。部屋の換気をする為に出来てはいない。表の扉が一度閉じればこの砦は密封状態だ。もしこれが感染爆発(パンデミック)の類ならば、これは不幸中の幸いだ。こちらから外に出なければ、外界に漏れ出す事は防げる。

 

 俺が今、この場でこの窓を壊さない限り。

 

「ダメだ。」

 

 出来なかった。それに窓ガラスを壊したとて、装飾で切り残されている石が邪魔だ。欧州の石は比較的に柔らかく直ぐに壊れるだろう。しかし、自身のバカみたいな正義感が邪魔をする。ならば、別の脱出方法を探す必要がある。

 

「この砦は元々王族が住む城だった。」

 

 いつか、誰かが言っていた。この砦には王族を逃がす為の隠し通路があると。そんな物を今から探してどうなると言うのだろうか。無かった時の絶望感と言ったらない。しかし、この砦に二年間住んでいるが知っている事はあまり多くない。

 

「フルヴィア医師(せんせい)の部屋からあの地図を借りて来るか。」

 

 新しくなっていた地図はこの砦全体が書き込んであった。少し冒険することになるが、そうしなければならない程今の状況は切羽詰まっている。あわよくば、この銃声の源へと行く事が出来れば。

 

 塞がったはずの傷口がじくじくと痛みだした気がした。傷があった場所を摩る。冷たくなった血が生々しい感触を呼び起こす。繊維が焦げて固くなった軍服。

 

 俺は急ぎ足で来た道を引き返し始めた。近くの階段を下り、一階に降りる。廊下を確認するとうろつく異形の姿は無い。その死体も見受けられない。という事は、あの異形は上から来ている可能性がある。若しくは、こちら側に来ていないだけなのか。

 

 俺は真っ直ぐな廊下を走った。呑気にしている暇はない。上から降りてきているのなら早く彼女の部屋に行くべきだ。こんな時ばかり訓練の成果が出ても嬉しくない物だ。もっと平和な時に、感じたいものだ。

 

 

 あぁ、無駄になって良かった、と。

 

 

 そう言って笑えたのなら幸せだろう。

 

 そんな事を考えながら廊下を走る。角では一度止まり、廊下の反対側を見る。二人組の男がいた。一人は矢鱈と突っかかってきた一人の青年。もう一人はその中にいた壮年の男だ。白髪混じりの男が持っているのは、アサルトライフル(AR)。その銃口には血が付着している。つまりあの異形ではなく、人を撃ったという証拠だ。

 

 彼らは何故、人を撃った?

 襲われたか、襲ったかの二択だ。

 

 何か会話をしている様だが、言葉は独逸(ドイツ)語ではない。この会話を聞くことが出来たのならば、今すぐでも確保するものを。しかし、彼らの背後を通り過ぎる位ならば隙を伺って捉える方がいい。ここで放置すれば背後から撃たれる危険性がある。

 

 

 血は苦手だ。だけれど、戦闘が嫌いと言うわけでない。

 

 

 大きく息を吸う。そして行動を開始する。

 

 まず、無力化するべきは壮年の男の方だ。彼の方が体つきがしっかりしている。長期戦は避けたい。距離は約10m。

 

 走った。背後からの急な足音に彼らはこちらを向いた。壮年の男はこちらに銃口を向ける。その銃口を左手で射線から外す。男は早々にアサルトライフルを諦める。元々、この距離で撃ち合うような武器ではない。これが近距離戦闘用の武器であったのなら、今頃体に穴が開いていたことだろう。

 

「ガブリエル!」

「っ!」

 

 壮年の男が叫ぶ。体勢が崩れた人間を倒すのは何の事は無い。右手を首の後ろに回し、首を下げさせる。そうしたら相手の足を持ち上げ、床に叩きつける。

 

 この時、一発くらい撃たれる覚悟はしていた。撃たれると思っていた。最悪、味方もろともというのもあった。しかし、彼が撃ってくる事は無かった。彼の方に目を向ける。

 

 しっかりと握られた拳銃。その射線はこちらを向いていない。はっきり言って運が良かった。それだけだ。もし、ここにいるのが彼では無かったらやはり撃たれていた事だろう。

 

 しかし、理由が分からない。彼がどうして撃たなかったのか。もしかしたら、仲間だったのかもしれない。それならば、申し訳ない事をした。

 

「くっそ!!」

 

 そう思うのに、行動はただ相手を排除しようとしている。言葉を聞くのは組み敷いてからでも遅くないと、そんな身勝手な軍人の思考になっていた。殴りかかろうとして来る青年の手を掴む。

 

「若いし、甘い。良いか?絶対にやけくそになるべきじゃない。まず、体からそんなに話して前足を置くべきじゃないな。」

 

 彼の膝の横に膝を合わせ、彼の足を前に払う。彼は前かがみになる。その首に腕をかけ、そして彼を後ろへと叩きつけた。

 

「がっ!」

「ほら、すぐ倒される。って、おい、大丈夫か?」

 

 どうやら強く叩きつけてしまったようだ。道場とは違い、床が固い事を考慮すべきだった。恐らく脳震盪を起こしてしまったのだろう。

 

 しかし、気絶してさせてしまったものは仕方がない。こんな状況だ。起こすしかないか。

 

「その前に。」

 

 俺は彼らの所持品を調べ始めた。彼らが持っていた拳銃。俺と同じ9mm弾の拳銃。ベレッタM92。

 

「イタリア社の拳銃。決まりだな。」

 

 縛る物を探さなければ。やはり彼らは敵だ。ならば、こんな事態になった原因を知らなければ。しかし、手持ちにはそんな物は無い。あるのは包帯くらいなものだ。これはダメだ。伸縮性に富んではいるけれど、布だからこそ簡単に引きちぎる事が出来る。

 

「手錠くらい持ってない物かな。」

 

 ここに潜入するには理由がある筈だ。軍上層部、と言っても悪いが中途半端な階級の人間しかいないが、目的がそれ位しか思い浮かばない。ならば、捉えた時の為に確保する為の何かを持っているはずだ。

 

 そう思い、俺は気絶している彼の上着を開けて、所持品を再び確認した。俺の手が止まった。そして俺は再び頭を抱える事となる。

 

「まじか……。」

 

 顔にやけどを負った彼は胸にきつくさらしを巻いていた。深々とため息をついた。それから崩れた上着を元に戻した。

 

 神は、私が犯した愚行をお許しになるだろうか。

 

 そして俺は今見たものを忘れるために、足早にその場を離れた。

 

「嫌だね、怨恨なんて。巻き込まれるだけ損だ。」

 

 なんて言っては見た物の、ほぼ確実に標的としてロックオンされる。縛る物が無いので彼らはここで放置することにした。追ってこられるのも厄介だが、あの化け物の相手もある為追ってくるにも時間が掛かるだろうと考えたからだ。

 

「全く、こんな事がただの人間に出来たら吃驚だ。」

 

 今の状況がただの夢で、未だにあの冷たい廊下で倒れているという状況ならば俺はどれほど良かったことか。そうであったならば、ただ一人との話し合いだけで解決している問題だからだ。しかし、未だにあるこの気怠さから考えると夢では無いようだ。付きたくも無い溜息を付き、俺は元々の目的であった医務室へと向かう。

 

 途中で目に入ったのは、砦の東側から上がる黒煙だった。あの辺りには通信施設がある。大きなアンテナが三つ設置されていたが、それらは綺麗に吹っ飛んでいた。そのせいで誰からの連絡も来ないのか、と納得した。弾薬庫に行けば弾薬の補充が出来る事が確認できた。

 

 したと同時に、この状況を外に伝える手段が無くなった事に落胆した。応援を呼べず、自分たちであの化け物を退治しなくてはならない。ましてや、さっきの戦闘であの化け物がこれ以上動かないのか分かっていない。弾薬が尽きるまで吐き出されるのだけは避けたい。

 

 そんな時間稼ぎをされるくらいならば、街など捨てて軍の施設と連絡を取った方がましだ。

 

 砦の中央の二階。この隣には先程呻き声を上げていた患者がいるはずだった。しかし、中から聞こえてくるのは何かが滴る音のみ。

 

 扉を開ければ、そこはただの地獄だった。腹の中から何かが出てきたように穴が開いた遺体がいくつも存在していた。失血死か、内臓の機能不全か。死因はどちらかだろう。遺体の前で手を合わせ、それから奥のドアを通って医務室に入る。

 

 何らかの戦闘があったのか、酷いありさまだった。倒れているフルヴィア医師(せんせい)を見た付けた時、少しだけ落胆した。医務室に張ってあった地図を剥がす。

 

 その後ろには、「デュランデ城」と書かれていた。




お疲れ様でした。

今回、出てきてくれませんでしたね、ジイドさん。
次回、絶対に出しますとは言えないから困ったものです。

それにしても、もう4月ですか。早いですね。
休みが終わって学校が始まりますが、週一投稿を乱さない様に頑張ります。

近接戦闘術(CQC)などは蛇さんの動画を見て参考にさせてもらっています。

そう言えば、昨日はあの奇術師さんの誕生日だったようで。
おめでとうございます。

皆さんは何か嘘を付きましたか?

エイプリルフールだったので何か番外編でも書こうと思ったのですが、何分気が付いたのが19時半と、遅すぎました。1000文字程書いて消してしまいました。

感想などお待ちしています。
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