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「デュランデ城。」
そんな城は聞いた事が無かった。此処の元々の城の名前もデュランデと言う物では無かったはずだ。散らかった診察台の上にある物を避けた。そしてそこに地図を広げた。中庭の構造まできっちりと書かれた古めかしい地図。多少の構造が変わってしまっているが、元々の城を改良して使っている。
外に繋がっているような道が掛かれているようには見えない。しかし、ここに俺が来る事はフルヴィア
「うわっ!」
足が宙に浮いた。足より重い頭は重力に従い、床へと吸い込まれる様に落ちる。窓ガラスがけたたましい音を立てて床に散らばる。右太腿に何かが貫いた感触を覚え、頭を地面に打ち付けた。視界の端で捉えたのは、真っ黒な服を着たルチアだった。
「何なんだよ、くそ!」
「何って、狙撃よ。」
身を屈めながら、ルチアはそう言った。夢の中とは違い、修道服を着た彼女は淡々と語る。少しつまらない様子で彼女はため息を吐く。彼女がここに居ると言うのが驚きだった。しかし、確かに女の目撃情報があった事を思い出し、彼女だったのかと納得した。
「狙撃って……。」
どうやら敵は完全にこちらを殺しにきているらしい。
「あの悪魔は異能力によるものか?」
「まぁ、十中八九そうでしょうね。それか、相手はイギリスで敵が人の腹から悪魔を生み出す魔術でも完成させたか。後者は魔術結社と戦っているみたいで夢があっていいわね。」
彼女は楽し気に語った。ニコニコと笑み浮かべてこれから催しでも始まるかのようだった。いや、催しはもう始まっていた。悪魔が徘徊すると言うアトラクションだ。兎も角、今は魔術より狙撃だ。撃ち抜かれてしまった足からはとめどなく溢れる血液。倒れた金属の棚から包帯を引き摺り出し、止血をする。
「貴方はこれからどうするつもりなの?」
「どうする?」
「そう、どうするの?」
やれる事は沢山ある。敵の排除。味方への情報伝達。これが異能力者の調査。捕獲、或いは排除。
「この砦からの脱出を試みる。」
「それは敵前逃亡するということ?軍規違反では無いの?」
「俺は今日の午前を持って除隊命令が出てる。軍規からは離れた。」
そんな屁理屈な、と言いたそうな目で彼女は俺を見た。その視線はとても居心地が悪かったが、それでも俺の意思は変わらなかった。俺はやれる事をしようとは思わなかった。
「俺には、約束がある。帰って遊園地に行かなきゃならない。」
「その為に、逃げるの?」
「俺は知ってる。命あっての物種だ。況してや、他国の為なんかに死んでやらん。もう二度と、だ。」
俺はあの死者の国で生きると決めた。二度と訪れないチャンスをくれたあの国で。何かまだ言いたげではあったが、彼女はこれ以上何も言わなかった。
「そう。で、逃げ道の目処は立っているの?」
地図は手に入ったが、特に目新しい発見はなかった。出口は正門と裏門。
「いや、全く無い。」
「そんなことだろうと思ったわ。」
ルチアはそういうと腹這いのまま、この医務室から出ようとした。
「おい、どこに行く?」
慌てて呼び止めると、ルチアは小さくため息を吐き出した。
「私が何も考えずにこの砦の中をうろちょろしていたと思っているの?」
そう言われて、俺は数回瞬きをしてルチアを見つめた。それから、自身の不甲斐なさに眉をひそめる。
「申し訳ないな。」
「いいえ、楽しみだもの。遊園地。」
遊園地に行く、と言ったが俺もだいぶん長い事行っていない。あの村にいると村の外に出るのが億劫になってしまう。そんな居心地の良すぎる村だった。
「で、どこに行くんだ?」
「資料庫。この砦を抜けられる通路がある。」
「知らなかったな。」
「今まで資料で埋め尽くされていたから。あそこ、もう少し整理した方が良いと思う。火災が起きたら大変だもの。」
這いずりながら、医務室を後にする。狙撃失敗の連絡が他の兵士に伝わり、俺にとどめを刺しに来た兵士と鉢合わせなんてことは避けたい。
「それは
「私の知識は全て本から得たもの。だから、詳しいことは分からない。」
「異能力自身なのにか?」
「指している指は自身が何を指しているのか知らない。それと同じことよ。」
自分自身の事は案外、自分では分からないという事らしい。彼女の知識はあの家にあった本だけだ。況してや、異能力についてまだまだ分からない事が多い。遺伝子異常なのか、血統なのか。将又、宇宙人だ、なんて言う奴もいるかも知れない。
「腹から悪魔が出てきたという幻覚を見ているのか、貴方が言った様に感染してこうなったのか。または、何らかの要件を満たしたから悪魔が出てきたのか。それ以外には、今は思いつかないけれど……、考えるときりが無いわ。」
幻覚、と言う事はあれはもしかしたら元仲間だった可能性だってある。お互いが敵に見えていれば仲間割れのように相手には見えていたのかもしれない。
窓の外を警戒しながら俺達は廊下を進む。あちらこちらで未だに響いている銃声それでもその数はだんだん少なくなっているような気がする。あの悪魔の数が減ったのか、それとも元仲間の数が減ったのか。そのどちらか。
「人が減ってる。」
「悪魔の方は?」
「分からない。あれに願望があれば分かったけれど、何も聞こえてこない。」
何かを伺う様に辺りを見回す彼女。やはり、彼女の耳には何も聞こえていないようだった。目を閉じている彼女は恐らく物の認識を耳に頼らなければならない。そして人の位置はその願望と言う物を聞いて判断しているのだろう。
「その願望って奴は何処まで聞こえてるんだ?」
「さぁ、分からないわ。ただ、そうね。もしかしたら裏側まで聞こえているかもしれない。」
恐らく冗談だろうと思うが、もしそれが本当ならば五月蠅くてかなわないだろう。
それにしても、どうやって駅の隣の資料館へ行こうか。馬車で移動していた道には障害物となるような物は無い。樹木さえなく、ただの整備された道だ。ましてや馬車なんかであの道を進もうものなら何の罪も無い馬が殺される。寧ろ、狙撃手はツナを握っている人間を的確に撃ち殺す事が出来るだろう。
「どうやって下に降りるつもりだ?狙撃の方向からいつも使っている道は使えない。それ以外でどうやってあの場所に行くんだ?」
「王様を逃がすのに王様を危険な目に合わせる訳ないでしょう。王の部屋として使われていた二階の司令室にそのまま地下へと通じる梯子があるの。そこを通って資料館に向かうわ。」
指令室はこの砦の二階、中央に造られた豪勢な部屋だ。一度は言った事があったが、そこにいる人間は特別なのだとそう思い知らしめるために造られた様な部屋だった。階段の前で彼女は手で制した。どうやら、願望と言う奴が聞こえたらしい。
良く耳をすませば、確かにカツンカツン、と金属音が聞こえる。少し軽い足音は階段を下り、そしてこちらに近付いて来た。足音は一つ。恐らくあの悪魔では無い。あの悪魔に身だしなみを気にして靴を履くと言う知能があればの話は別だが。
彼女が飛び出した。慌てて、俺は壁から顔をのぞかせた。そこには少年の腹に飛び込んだ彼女と、その勢いに負け宙を舞っている少年が目に入った。ゴツン、と痛々しい音を立てて倒れ込んだ二人。
「お前な、行動するならサインをくれ。」
彼女は人間では無い。軍人だから、一般人を守らなければならないなんて規則に縛られている訳でもない。それでも、彼女にはお世話になったのだ。その恩を返したいと思うのは当然だ。
「この子、私の事が見えてた。」
「まるでお前が見えているのが可笑しいみたいな言い方だな。お前の目撃情報は俺達の中にもあったぞ。」
「あれは、見せてたの。ただ、少し驚かしてあげようと思って。今回はそんなおふざけしてない。」
綺麗な柳眉を顰めて、彼女はすっかり伸びてしまった少年を見下ろす。
「それで、お前が見える条件と言うのは何なんだ?」
「私の異能力の影響を受けているか、異能力者であるか。」
つまり、この少年があの悪魔たちを出した元凶という事らしい。この少年を連れて軍本部へ行けば、と考えてその後の少年の人生を思った。彼が一体どんな思い入れがあって今回の事を事件を起こしたのか、さっぱり俺には予想が付かない。それでも、彼はこれから良い人生は生きられないだろう。
少年の上から退いて彼女は二階の様子を窺っている。俺は目が回っている少年を背負った。俺の様子を見て彼女は驚いた。そんな行動をとるとは思っていなかったと、その表情には書いてあった。
「その子を連れて行くの?」
「分からない。コイツがそれを望まないのなら途中で置いてく。」
「今、彼をここから連れて行く理由は何?」
俺は酷く暗い目をしたあの少年を知っていた。昔、鏡の向うに同じ顔をした奴がいたのを知っている。
「
彼女は俺の顔をじっと見た。常に敵が背後を取っている状況がどれ程危険な事か、彼女なんかより自身が余程理解している。それでも、世界はそう在って欲しと言う願いを捨てきれなかった。
「俺の願い、聞いてくれるか?」
「その願いは私が叶えるような願いじゃない。だから、自分で叶えたらいい。」
「分かった。」
少年を背負い、俺達は二階へと上がる。いつの間にか静かになっていたこの砦。今まで以上に慎重になりながら、指令室へと向かう。その間、何体もの悪魔の死骸が転がっていた。それと一緒に転がっている腹から穴が開いた死体。
「惨い物ね。」
独り言の様に彼女は話しかけてきた。小声ではあったが彼女の視線は確かに俺の方に向けられていた。俺は彼女から目を逸らし、そしてその死体に目を向ける。
「そうだな。」
「その子供がこれだけの事をしでかしたのなら、当然罰を受けなくてはならない。」
「そうだな。」
じっとこちらに向けられる表情は硬く、暗い。でも、誰かが言ってやらなきゃいけない。そう、教えてやらなきゃいけない。
「罰を受けるのは、己が犯した罪の重さを理解してからでないと意味が無い。」
そう思わないか? 俺は振り返り尋ねた。
「だから、貴方がそれを教える、と?」
「俺はそれを教えるに相応しい。昔、同じ事をしていたんだ。俺にチャンスを与えてくれた人はもういない。あの人と同じことは出来なくても……、これは義務だ。救われたのなら、同じように誰かを救わなければならない。」
彼女はじっと目の無い目で俺を見詰める。こちらを除く深淵はあの夢と同じようだった。
俺は思う。人に救われるという事は、心を掬われるのと一緒だ。掬い取られたその部分は風通しが良く、酷く寒く感じてしまう。そして寒さを紛わせる為にその人間を心の一部としてしまう。持って行かれた空虚な部分はその人しか埋めてはくれないのだと、錯覚する。そして気が付けばその人間に巣食われるのだ。
心が巣食われれば、当然その人間は変わる。勝手に変化する。何をするでもなく、変われる。
階段を上っている途中で激しい銃撃の音が聞こえてきた。駆けあがり、その方向を確認する。そして何があったのか確認する前に、彼女はまた走って行ってしまった。叫ぶ事をしなかったが、心の中で「おい!」と叫んだ。仕方なく背負っていた少年をその場に置き、廊下の様子を伺う。
「下がれ!!」
鋭く飛んだ命令に廊下に居た部下たちは困惑の表情を浮かべていた。30mほど離れた場所に居る敵の一人は確実に彼女が見えている。
ジイドだ。その姿を目にした。そしてその奥に倒れているベルナルドがいた。俺も思わず飛び出した。ジイドは彼女に向かって銃を撃つが、その銃弾は彼女をすり抜けてこちらに飛んでいった。それに驚いたジイドは何発も彼女に打ち込むが、やはり彼女に銃弾は通じないようだった。
彼女をすり抜けてこちらに飛んでくる銃弾を避けながら彼らの方へ駆ける。素早く一人を人質に取ると、彼に銃を突きつける。
「答えろ、何でこんな事をした?」
ジイドは彼女に翻弄されいている。掴むことの出来ない彼女だが、彼女はジイドを掴む事が出来る。その予想が付いているのか、ジイドは彼女の手を避け続ける。
「なんで? これは戦争だ。勝つためだったらなんだってするだろう。」
「馬鹿野郎、戦争は昨日で終わったんだよ。お前達が通信施設を破壊なんてしなきゃ、これが証拠だって通信簿でも何でも見せてやれたものを!」
彼らに周旋したと信じ込ませるだけの証拠が無い。恐らく、通信施設の破壊はその狙いもあったのだろう。彼らに余計な事を知られる前に、消し飛ばしてしまえばいいと。
押し付ける銃口。怒りに任せて引き金を引いてしまいそうになる。しかし、その後の事を想像し、決して引き金を引かなかった。
「戦争が、終わった……?」
その言葉に一番反応を見せたのはこちらの隙を伺い、銃口を向けていたジイドの仲間だった。
「如何して今日に限ってここに怪我人が大量に運ばれてきたと思ってる? 前線に居た奴らが一度に引き上げてきたからだ。近隣の街の病院だけでは見切れないから看護兵のいるここに運び込まれたんだ。」
ジジッと無線が繋がる音が聞こえる。
『南、東、それぞれ制圧完了。』
『西も制圧完了です。』
つまり、残るはこの場所だけということになる。
『北部、報告を。』
しかし、男は報告を口に出来なかった。敵の言葉にこれだけ心が揺れ動くなんて、彼らの愛国心は一体どこにあるのだろうか。
「お前らのやった事は立派な戦争犯罪だ。この事が外に漏れれば、国はお前達を庇いきれない。お前たちは俺を殺せないし、彼女も殺せない。」
「ウェスタン!俺ごとコイツを撃て!敵の戯言に惑わされるな!」
その時だ。何かが空気を切る音が聞こえた。
「アントニオ!」
彼女は行き成り俺の名を叫んだ。それと同じ様にジイドも「伏せろ!」と命令を飛ばした。人質に取っていた男を彼女は押し退けて俺を押し倒そうとする。横の壁が不自然に湾曲し、そしてそこから徐々に鉄の塊が現れる。1秒が1分にも感じられたその中で俺は、最悪の一日だ、と今日と言う日を呪いに呪った。
お疲れ様でした。
先週は投稿出来なくてすみませんでした。
急きょ引越しすることになってしまいまして、その用意をしていたら全く進めませんでした。
はい、言い訳ですね。すみません。
後二週間もすれば、ゴールデンウィークですね。
皆さんは何処かに遊びに行きますか?
今回は比較的長い休みですからね。皆さん楽しんでください。