ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期   作:尾久出麒次郎

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第三話、その2

 その頃、ハロルドたちも出発していた。前衛としてアリエル二世、真ん中にイヴァーナの乗るグスタフMRAPのマルゴ、殿(しんがり)としてヨハンの乗るディバイソンのビッグマザーが警戒に当たっていた。

 ハロルドはシガーを吸いたい気分だった。コクピットにアルミ製灰皿を固定してるが、警戒中は禁煙でMFDに表示されてるレーダーには時々反応が出るが、だいたいは野良ゾイドか人間に改造されてない野生ゾイドだ。

 神経を張り巡らせてると、イヴァーナからモニター通信が入ってキャノピーモニターに表示される。

『ハロルド、姫様のこと本当に彼に任せて大丈夫なんですか?』

「カミル君のことか? 彼ならきっとやってくれる」

 ハロルドはこの一週間カミルと接して感じた。あの澄んだ瞳、あれは間違いなく何かを決意したような瞳だ、本人も気付いてないようだが。

『ゾイド乗り特有の熱さを秘めてるとでも? あんな軟弱な男の子にですか?』

『確かに今の彼は弱い、一緒に遊んでる時も自分から前に出るタイプじゃない。むしろ女の子たちに振り回されてた――』

 ヨハンもモニター通信で入ってきた。彼は子どもたちの遊び相手として交流を深め、彼らからすれば気さくで優しいお兄さんそのものだった。

『――でも、だからこそ強いゾイド乗りになれるという素質を微かに感じた。カミル君にはあのライガーゼロがいる。俺は……シルヴィアが彼を成長させてくれると信じてる』

「そうだな、姫様にはリリアがいるしカミル君にはシルヴィアがいる……多感な思春期の子たちにとってゾイドは無限の可能性を秘めた最高の相棒でもあり、教師でもあり、兄弟でもあり、戦友でもある。どんな時も付き従って、本当に大切なことを教えてくれる」

 自分の思うままに言う、しばしの間沈黙が流れるとヨハンが「ぷっ」と噴き出した。

『クサイ台詞だな、ハロルド。でも好きだぜ、その台詞』

『私はハロルドのこと一人前の、当たり前の大人かと思っていましたが』

 イヴァーナはドン引きしてるような表情だった。

「どう言われようと構わないさ、姫様もリリアは大切な友達だっていつも言ってた」

 ハロルドが頷くと、イヴァーナは懐かしげな表情を見せる。

『私は姫様が三歳の頃から見てきましたが、一〇歳の時に姫様の操縦するゾイドが……まさかケーニッヒウルフになった時は驚きました。精鋭揃いの近衛師団でも持て余してた機体なのに……一年経つ頃には二人の兄と国内を走り回ってましたわね、ハロルドが来たのはその頃ですね』

「ああ、その頃から姫様は荒削りだったが、才能を開花させていた。ブレードライガーがあれば僕ももっと姫様に色々なことを教え、鍛えることができた」

『初耳だなハロルドは元々ブレードライガー乗りだったなんて、俺はシールドライガーDCS-J*1に乗ってると思ってたんだが』

「帝国じゃレオマスターはDCS-Jを使ってるイメージが根付いてるようだが、それは昔の話だ。僕のように格闘戦志向のレオマスターはDCS-Jよりブレードライガーを好んでいる」

 悔しいがハロルドの乗ってるアリエル二世は近代改修を重ねてるが、性能はリリアには及ばず一〇〇%の力を出してもアリエルがついていけない。この旅で、もしブレードライガーに乗ってたらと歯がゆい思いを何度も味わった。イヴァーナはそれでもハロルドに温かい言葉をかける。

『でも、姫様はより繊細で精密な操縦もこなせるようになりました。ハロルドのおかげですよ』

「そうか、だが僕にできることは限られてる」

 そう、ハロルドが教えることができるのはゾイドの操縦と身の守り方くらいだ。それにはヨハンも頷く。

『そうだな、俺たち大人でも教えられることは限られてる。友達との付き合い方や恋なんて同年代の子たちに――』

『姫様にはその必要はありません!! 同年代の友達なんて、王女としての公務や学業に支障をきたすだけです!!』

『イヴァーナ、前から思ったがお前プライベートの友達いねぇだろ?』

『なぁっ!? 失礼ですねヨハン!!』

 また言い争いが始まった、ハロルドはリトルシガーを吸いたいと思いながら水筒を取って水を飲むと、警報が鳴った。

 レーダーを見ると完全に囲まれていた。山間の道路に入った瞬間、待ってましたと言わんばかりに前後左右に合計二五~三〇機、反応具合から見て小中型ゾイドだ。

 コクピット内はロックオン警報がうるさく鳴り響き、ハロルドの神経を逆撫でする。

『そこのシールドライガー、ディバイソン、及びグスタフのパイロットに告ぐ! 直ちに武装解除して投降せよ! さもなくば一斉攻撃する!』

 投降を呼びかけてきたのは正面にいるコマンドウルフ四機の一個小隊だろう、目視できてるのは四機だけだ。残りは山の斜面の向こう側にでも隠れてるのだろう。

 四機とも背中の五〇ミリビーム砲をこっちに向けている、ハロルドは深呼吸して操縦桿を握り締めブリーフィングで決めた通りの手順を踏んだ。

 

 

 その頃、セブタウンでは凄惨な銃撃戦の起きたモーテルの駐機場から、ライガーゼロの足跡を逆に辿るとジョエルはカミルの家に辿り着き、更に辿ると裏庭の空き地に続いてる。

 間違いない、カミルはライガーゼロに乗ってモーテルに行き、そしてどこかへ消えた。カミル、どこへ消えたんだ? そう思ってるとカミルの母親が玄関から出てきた。

「あらジョエル君、いらっしゃい」

「あっ、こんにちわおばさん」

「上がってらっしゃい、アヤメリアちゃん達もいるわ」

 おばさんは学校をサボったことを咎めることはななかった。手招きされて中に入ると、ダイニングルームにアヤメリアとセレナが来ていて、真っ先に気付いたセレナは挨拶する。

「おっす、ジョエル」

「あら、ジョエルも学校サボり?」

 アヤメリアは思い詰めた表情だった。今日は学校だったが、カミルが突然消えたことで学校中で話題になり、アヤメリアは学校を休んでセレナは午前中に早退してジョエルも次の休み時間で早退した。

 ジョエルが席に座ると、おばさんがコーヒーを淹れてくれた。ジョエルはブラック、セレナはミルクと砂糖、アヤメリアは何故か塩を入れていた。

 おばさんは申し訳なさそうな表情でコーヒーを配る。

「みんな……いつもありがとう、カミルのこと良くしてくれて……心配だから来てくれたのね」

「おばさん、これ……カミルに、まだ返してないの」

 アヤメリアがテーブルに出したのは以前、ジョエルもカミルに貸してもらった愛読書『Wild Flowers~風と雲と冒険と~』だ。おばさんは悲しげな笑みを浮かべながら取り、パラパラとページを捲る。

「ああこれね……戦死した主人がよく読んでいたものよ」

「ねぇ、カミルってもしかしてさ……あのお姫様と駆け落ちしたのかな?」

 セレナが言うとそれで全員の表情が固まり、ジョエルは何を言ってるんだこいつ? と思ってるとアヤメリアは強く否定した。

「ま、まさか! そんなことあるはずないわよ! あいつにそんな度胸ないわよ、ましてやさぁ、この前出会ったばかりの女の子とさ!」

「でも、そういう話しあり得ないことはないと思う。あのお姫様……ヘルガといっぱいお話ししたんだけど、普通の女の子になりたいって気持ちが見え隠れしてた」

 なるほどセレナの言うことも一理ある。ヘルガに学校に通って友達を作り、一緒に泣いたり笑ったり、時には喧嘩もしたと話すと、とても羨ましそうな顔をして耳を傾けていた。

 決して口にはしなかったが、セレナは人の本心を見抜くのに長けていた。

 おばさんは首を横に振って否定しなかった。

「あり得ないとは言えないわ、アヤメリアちゃんがもうカミルを泣かしていた時とは違うように……カミルもアヤメリアちゃんに泣かされていた弱虫な子じゃないわ。ライガーが見つからずに卒業の日を迎えて、パタゴニアの学校に行く日に言うつもりだったんだけど、カミルはこの三年間とても逞しくなったわ……色んなことを自然の中で学び、鍛えられ、成長した。ライガーは見つけられなかったけど、それは決して無駄なことじゃなかったよって……見送るはずだったのにね」

「あたしもわかってたわよ……カミル、なんであんな子と駆け落ちするのかしら? どこがいいのよ、ただ綺麗なだけの温室育ちじゃない!」

 アヤメリアの瞳には嫉妬と悔しさが入り混じってるように見える。ジョエルは腕を組んで少し考えて言った。

「初対面の時に拳を交えたからじゃないか?」

「どういうこと、ジョエル?」

 セレナが首を傾げて訊くと、ジョエルは大まかにわかりやすく説明する。

 愛読書である『風と雲と冒険と』で書かれていたことだ。バン・フライハイトがまだシールドライガーに乗ってた頃、共和国軍のハーマンと帝国軍のシュバルツという二人の士官が敵同士として戦場で戦った。その二人は戦後、酒を酌み交わす仲になったという。

 それを説明するとセレナはわかり易く例えた。

「ようするに、河原で殴り合ってたらいつの間にか友情や絆が芽生えたってことね!」

「そういうことだ。でもあいつが何も言わずにどこか遠くへ行くようなことは絶対にしない」

 ジョエルはそう断言した。

 

 

 ブリーフィング通り、ハロルドのアリエル二世は躊躇うことなくシールドを展開してビーム砲の集中砲火を凌ぐと、ジャンプで飛び掛り、的確に一番前にいたコマンドウルフを上から強襲して倒す。

 一瞬でリーダー格のウルフを見抜き、そいつを牙で引き裂いた。

 その間に他の三機は何もできずに戸惑い、立ち往生していた。コマンドウルフは集団戦を得意とするが、裏を返せばリーダー格がいないと能力を発揮できないという弊害がある。

 リーダーを失った残りは統制が崩れ、成す術もなく撃破された。

『目標撃破! イヴァーナ! 次の敵を!』

「前方から八機、更に後方から四機!」

 イヴァーナは操縦席の右に設置した端末を右手で素早く操作、前後のカメラを作動させると前方から*2アロザウラー、後方はブラックライモスだ。素早くビッグマザーとアリエル二世に中継を繋げると素早くヨハンが行動に移す。

『了解! ブラックライモスは私が引き受ける! 行くぞビッグマザー!』

 ヨハンはブラックライモスの主砲である電磁キャノンの最小射程圏内に飛び込み、近接戦用ビーム砲を受けてもものともせず、ツインクラッシャーホーンで一機目を突き飛ばし、踏みつけると誤射(フレンドリー・ファイア)を恐れた残り三機の動きに一瞬躊躇いが生じる。

 ヨハンはその一瞬を逃さず、対ゾイド三連衝撃砲を一連射につき三発発射され、二連射で二機とも撃破すると後方の一機が突撃戦用超硬度ドリルを回転させながら突撃するが、後足で思いっ切り一蹴された。

 その間にもハロルドはアリエル二世を巧みに操り、瞬時に指揮官機を見極めて白兵戦で撃破すると、対ゾイド三連衝撃砲で掃射する。

 イヴァーナは二人の操縦技術の高さに息を呑みながら、絶え間なく入ってくるレーダーやセンサー、カメラから入ってくる膨大な情報を収集、取捨選択、処理してヨハンとハロルドに伝えて指揮、あとは各自で判断してくれる。

 前方のアロザウラーの数が多い、イヴァーナは火器管制装置(FCS)を操作して機体に内蔵してある二連装ショートレールガンを展開した。

「ハロルド! 支援砲撃するから射線から退避して!」

『了解』

 アリエル二世は射線に入らないよう、ギリギリで立ち回っている。イヴァーナは手動照準で狙う、ロックオンすればたちまち相手のコクピットにロックオン警報が鳴り響き、攻撃を報せてしまう。

 今だ! イヴァーナは引き金を引いた瞬間、背後からアロザウラーが撃ち抜かれて爆散すると、振り向いたもう一機に発砲。一瞬で撃ち抜いて真っ二つに吹き飛ばす、射程は少々短いが直撃すれば大型ゾイドに致命傷を与えられるほどの威力だ。

『イヴァーナ、あまり撃ち過ぎるな。こいつらは僕一人で十分だ!』

「無茶しないでください、まだ前方に一〇機! 後方にも一〇機来てます!」

 レーダーを見ると、更に増えている。にも関わらず、ヨハンはどこか余裕のある表情と口調だった。

『数は多いが勝てない訳じゃない、敵の統制も連携がなってないな』

『僕もそう感じる、典型的な素人の物量攻めだ。指揮官が不在なのかもしれない』

 ハロルドも囲まれてるにも関わらず余裕を感じてる、だが二人とも決して油断はしてない。

これが実戦経験豊富なゾイド乗りの貫禄かとイヴァーナはゾクッとした。

「ヨハン、私の後ろ南西から更に四機、これで一四機! 合計一八機よ!」

『数に頼っては勝てないことを教育してやろう。イヴァーナ、データリンクを!』

「了解!」

 あれで一気に殲滅するつもりね。イヴァーナはマルゴを左手の操縦桿を握り、最小限の動きで回避させながら右手で端末のキーボードをドラム奏者のように絶え間なく打ち続け、エンターキーを叩く。

『ロックオン・データリンク、ビッグマザー! メガロマックス・ファイアッ!!』

 ビッグマザーは機体を上に向けて一〇五ミリ一七連突撃砲が一斉に稼動すると、砲口が一斉にチャージされてビーム砲のように発射。いったん上空に打ち上げたホーミング砲弾はやがて散らばり、各々の目標に上空から襲い掛かって着弾、炸裂。

 いつもながら見事だとイヴァーナはレーダー画面を見る。アリエル二世やマルゴには当てたり、砲弾の炸裂に巻き込まれないことを考慮しながら一瞬で脅威度の高い目標を選別し、攻撃する。

『こちらハロルド、残敵の掃討を開始する!』

「了解、残った敵がビッグマザーに攻撃を開始したわ」

 砲弾の雨の中が止むと同時に立ち上る煙の中をアリエル二世は息のある敵ゾイドに容赦なく爪と牙で襲い掛かり、止めを刺し、確実に息の根を止める。敵の最優先目標となったビッグマザーも正面から三連衝撃砲を撃ちながら突進して突き飛ばし、死角をアリエル二世がカバーする。

 イヴァーナもマルゴを旋回させながらショートレールガンを撃つ、あくまで自衛用装備だから射角は限られてる。

 あなたが最後です! 最後の一機であるアロザウラーを撃ち抜くと、新たな接近警報が鳴った。

 大型ゾイドが四機、時速二〇〇キロ以上のスピードで接近してくる。

「北東から大型ゾイドが四機、時速二〇〇キロで接近中!」

『高速機動ゾイド!? あんなものまで持ってたのか!?』

 ヨハンは思わずうろたえた表情を見せるが、ハロルドは落ち着いた表情だ。

『うろたえるなヨハン、奴らはPMCだ。強力なゾイドを持っていてもおかしくない、ここは俺が行く。支援砲撃頼むぞ!』

『りょ、了解!』

「了解、くれぐれもビッグマザーの射程から出ないように」

 イヴァーナはMFDに表示されてるレーダーに、先行するアリエル二世を見ながら言った。

 沈黙が流れる、張り詰めた空気だ。ハロルドはライガー系のエキスパートとは言え四対一、しかも性能的に格下――ブレードライガーより優れてる部分あげるなら操縦性が素直なシールドライガーだ。苦戦は免れないだろう。

 ほんの六〇秒程度の時間が三〇分に引き延ばされた気分だった。

『目視で確認、シールドライガー系統が四機』

 それでイヴァーナは背筋が凍り付く、姫様申し訳ありません……。

*1
大型ビームキャノンを装備したシールドライガーDCSの低下した格闘戦能力と運動性を解消した機体、補助エンジンと動力機関によって総合性能は高いが操縦性が劣悪で最初の生産では七機しか作られずレオマスター専用機となった

*2
共和国製中型の恐竜型ゾイド、各国の軍隊のみならず治安局等の法執行機関でも採用されている

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