ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期   作:尾久出麒次郎

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第三話、その3

 さすがセリーナ王女を守るアーカディア王国三獣士、腕は本物だ。盗賊で結成した三〇機以上の混成部隊はたちまち全滅だ。

 元*1ゾイドウォーリアー(地域によってはZiファイターと呼ばれてる)のジャスティンはシールドライガーコマンダー仕様(CSP)のコクピット内でレーダーを見ると一機だけ先行してくる。

 スピードと事前情報から見てネイビーブルーのシールドライガーだろう、共和国海軍のレオマスターだがなんだが所詮は共和国軍を退役した奴だ。こっちにはDCSのビームキャノンに火炎放射器と重機関砲、おまけに時速三〇〇キロにまで出せるブースター付きだ、それにノーマル一機とDCSが二機と、この四機に囲まれれば社長の巨大ゾイドだって相手にできる。

「さてどんな奴だ?」

 ジャスティンはどんな獲物かと思いながら、揺るやかな斜面の下約二五〇メートル先にいる目標を目視で確認。思わず笑いそうで同じ気分だったのか、仲間たちも無線を入れてきた。

 

『おいおい、俺たち四機相手に一機 元海軍のレオマスターだと聞いててっきりDCS-Jかと思ってたら、ノーマル仕様のシールドライガーとは!』『ハハハハハハッ!! おいおい、ジャスティン一回降伏勧告した方がいいんじゃねぇの?』『ホントホント馬鹿じゃねぇの? おい、レオマスターさんよぉ! 聞えてるなら降りな! 命だけは助けてやるぜ!』

 

 全くだとジャスティンは重機関砲でロックオンしながら無線で呼びかけた。

「聞えるか? シールドライガーのパイロット、一度だけだ。降伏するならコクピットから出ろよ、なんなら社長と交渉してこっちに来ないか? たっぷり報酬くれるぜ!」

 ジャスティンはそう言いながらいつでも発砲できるよう、トリガーに指をかけた。

『こちらネイビーレオマスター、悪いが僕たちは金で雇われる者じゃない』

「ほう、そうか……残念だよ!」

 ジャスティンは同時に引き金を引き、重機関砲やビームキャノン、三連衝撃砲も撃ちまくる。他の三機も一斉に集中砲火を浴びせた、いくらEシールドを張っても耐えられまい。DCSのビームキャノンを六門、衝撃砲を一二門、その他諸々の火器を一斉発射したんだ、荷電粒子砲に迫る威力があるはずだと撃破を確信していた。

 

 

 素人め! 着弾直前にEシールドを張り、着弾の衝撃に耐えながらフットペダルを思いっ切り踏み込み、腹這いで後退させるとビームや衝撃砲、各種火器の着弾の衝撃に耐える。

 Eシールドが飛び散る破片を防ぎ、ある程度衝撃を緩和してくれる。耐えろ、耐えるんだアリエル! ハロルドは時折飛んでくる砲弾に耐えながら歯を食い縛る。脇腹の銃創が開いたりしないか心配だったが、そうなる前に砲撃が止むとシールドを解除。

「行くぞアリエル!」

 ハロルドはアリエル二世をクラウチングスタートの要領でダッシュさせ! ジグザグのランダム走行で左右と急加速のGに耐え、速度計が一瞬で時速二二五キロにまで跳ね上がる。

『な、なんだと!?』

 動揺する敵パイロット。一気に坂道を駆け上がり、真っ先に反応したのはDCSだ。ビームキャノンの最小射程内だから近過ぎて手動照準でもない限り撃てない。ハロルドは背中のAMD二連装ビーム砲を展開して至近距離からダブルタップ射撃で怯ませ、右前足でタテガミ部分をぶっ叩くとビームキャノン後方のエネルギータンクが見えた!

 ハロルドはその一瞬で二連装ビーム砲弾を叩き込み、離脱!

『火災警報!? 自動消火装置が作動しない!! うわぁあああっ!!』

 敵パイロットがパニックになってる間にスピンターンするとDCSはエネルギータンクに火が点いてケーブルを伝ってビームキャノンにも燃え移り、チャンバーに装填された高密度のエネルギーにも引火して大爆発した。DCSやJ型の弱点、というよりエネルギータンクはある程度装甲に覆われてるが、火が点いたら非常に危険だ。

 共和国軍時代は強制排除して全速離脱するという訓練をしていた。しかも実際にやるのは非常に危険なので、VR訓練で行っていた。

『コニー!! おい、応答しろ!!』

『グライド!! 奴はもう駄目だ!! おい!!』

 残り三機! ハロルドは仲間がやられて動揺してるもう一機の真っ直ぐシールドライガーに跳びかかる。

『うわぁああああっ!!』

 悲鳴を上げる暇があったら回避行動を取れ! 気付いたようだがもう遅い、一気に押し上げられて仰向けに倒すと右からロックオン警報が鳴る。

 右サイドからDCSとCSPが至近距離から狙っていた。

『グライド今助ける! コニーの仇だ、死ねえっ!!』

 ハロルドは両フットペダルを思いっ切り踏み込み、左スロットルを最後部、右スロットルを最前部にする操作を一瞬でやって両フットペダルを解除! 左サイドステップしながら空中で左右のスロットルの位置を逆転させ、頭部を右九〇度に向けた。

 アリエル二世が着地すると、着地時の衝撃を利用して体を屈めて両フットペダルを深く踏み込み、両スロットルを前に突き出す。アリエル二世は敵のシールドライガーを盾にして至近距離からの激しい砲撃を凌ぐ。

『ああああああぁぁぁっ!!』

 グライドとかいう敵パイロットの断末魔が生々しく響き渡る。

『ジャスティン! 撃つな! やめろ!』

 敵パイロットが制止するとすぐに止んだが敵のシールドライガーは至近距離から誤射を受けてEシールドの恩恵を受けることなく、キャノピーは割れてコクピットは焼け焦げて機体も無残な有様だった。

『てめぇよくも!! よくもグライドを!!』

「僕が殺したでも言いたいのか? 引き金を引いたのは君たちだ、君たちが下手くそなばかりに仲間を死なせたんだ、グライドが浮かばれない。なぁ今どんな気持ちだ? 今どんな気持ちか、教えてくれるか?」

 ハロルドはただ単に事実を告げながら、ヨハンから教わったネットスラングをもじって挑発するとDCSが遅いかかってきた。

『て、てめぇ! 殺してやらあぁっ!!』

『よせロビー、奴の挑発に乗るな!』

 リーダーであるCSPのジャスティンの制止を振り切り、ロビーのDCSが跳びかかってくる。ハロルドはEシールドを張ってDCSの腹部に叩き込んで弾き返し、右側面に転倒すると跳びかかった。

 両前足でビームキャノンユニットに損傷を与えるとそれだけで十分だった。

『おい! ロビー、強制排除して離脱しろ! おい!!』

 アリエル二世を離脱させてる間にジャスティンの必死の呼びかけも虚しく、DCSは誘爆して大爆発、もう意識を失ってたかもしれない。

 ハロルドは無線でさっきのをそのまま返した。

「降伏するか? 一度きりだぞ。それともレオマスターの僕から言わせればそんな邪道装備の機体で立ち向かうつもりか?」

『だ、誰が降伏するかよ! こいつの機体性能を舐めるんじゃねぇ! あんたが乗っていたDCS-J以上だ!』

 ハロルドは鼻で笑った、典型的な性能頼りのゾイド乗りだ。

 もう少し骨のある奴かと思ってたが残念だ。

 その証拠に威嚇のつもりか火炎放射器をぶっ放している、射程も短く対ゾイド用では威力不足、対人用では戦争条約で禁止されてる。

 対峙するシールドライガーCSPは海軍時代にも何回か見たことあるがみんな火炎放射器を外し、重機関砲も通常のビーム砲に戻していた。

「確かに僕は君に勝てない、君がこの機体性能を引き出せたらな!」

『うるせえっ! 俺はこれでも元ゾイドウォーリアーだ、ブルーシティカップで優勝したことだってあるんだ! 思い知れ!』

 全速力で突進してくると、ハロルドは左右のミサイルポッドを展開してロックオン。四発発射、熱源誘導の小型ミサイルは火炎放射器に着弾して破壊、燃料に誘爆して怯んで転倒するがすぐにリカバリーする。

『畜生、ならばこれでどうだ!』

 ジャスティンはCSPの大型ブースターを点火させて加速して一撃を仕掛けるが、ハロルドはそれを数十センチ単位でかわす。もっともブレードライガーなら数センチ単位でかわせるが、ハロルドは素早く一八〇度回して見逃さず再度ミサイルを二発発射。

 だがあっさり外れてしまった。やはりシールドライガーのミサイルポッドは歩兵が携行する赤外線誘導ミサイルを束ねた程度だ、それに搭載してたものは東方大陸産の旧式の安いデッドコピー品だ。

 超小型ゾイドや車両相手にできても*2ゴドス以上は無理だ。

『はははははははっ!! そんなもので倒せるとでも思ったのか?』

「粗悪なデッドコピー品じゃ戦闘以前の問題だな」

 ハロルドはミサイルポッドを収納しながら走らせる、するとCSPは横に並んで走りながらぶつけてくる。ハロルドもやり返すと、ジャスティンも見越していたのか大型ブースターを全開にして急加速した。

 今だ! ハロルドはミサイルポッドを展開してロックオンして残りの全弾を在庫処分として発射、至近距離だからいくら粗悪品の赤外線誘導でも当たる。

『うわぁあああああっ!! 畜生!! よくも!!』

 スピーカー越しにジャスティンの悲鳴と火災警報が聞えた。CSPはビームキャノンユニットと大型ブースターを強制排除、ハロルドはフットペダルを踏み込んで両スロットルを後ろに引いて急ブレーキをかけて停止。

 高速走行しながら排除された装備はアリエル二世の遥か前方で大爆発、何とか巻き込まれずに済んだが敵機はそのまま逃走。

 捨て台詞を吐いて走り去って行った。

『クソッ! 次に会ったらもっと強くなって息の根を止めてやる! 覚えてろ!』

 敵前逃亡か……本来なら軍法会議だ。ハロルドはふとまだ海軍軍人の心を忘れてないということに気付き、自嘲気味になりながら戦闘後のチェックリストを行う。各部損傷の度合いは軽微、砲撃の破片で傷を負った程度で戦闘に支障はないが、終わったらまたセブタウンの整備工場に点検してもらったほうがいいかも。

「こちらハロルド、敵のシールドライガーを三機撃破、残りは逃走」

『イヴァーナ了解、流石はレオマスター。ヨハンはいらなかったですね』

『何!? 俺とビッグマザーがいなかったら二人ともやられてたと思うぞ!』

『冗談ですよ、今からそちらに向います』

 あまり褒めることも冗談も言わないイヴァーナの、惜しみない賞賛だった。

 

 

 サイモンは野戦基地の簡易格納庫で整備士と外部点検中、シュペールが入ってきた。報告に来たんだろうと、思いながら歩み寄る。

「社長、ジャスティンから報告です」

「ああ、どうだった?」

「派遣した部隊は全滅、ジャスティン達も部下三人が戦死しました」

「そうか……また家族に手紙を書かないといけないな」

 サイモンは目を伏せて三人の冥福を祈りながらシガレットを取り出し、オイルライターで点火した。

「手紙はジャスティンが書くそうです、プライベートでも仲が良かったそうで」

「ああ、知ってる。あいつのフォローを頼む……しかし、流石はアーカディア王国三獣士だ。派遣部隊を全滅させやがった。おかげで仕事の手間が省けた」

「省けた? と言いますと?」

「ああ、お前にも言ってなかったな……実はな、以前セブタウンの町長から依頼があったんだ。この辺りに跋扈する盗賊を排除して欲しいって依頼だった、どうやら奴らは俺たちの傘下に入った後もこっそりいろいろ悪事を働いてたらしい」

 それは他の町や村も同じだった、誘拐や追いはぎ等、あれほど口を酸っぱくして言ったにも関わらずやめなかったから、サイモンは最適な方法で責任を取らせてやった。

 おかげで最小限の出費で依頼を行うことができた。シュペールは納得した様子で肯く。

「なるほど、今更仕事をクビにするわけにもいかなかったから、彼らにやらせたと」

「ああ、おかげで奴らは本物だと確信したよ」

 あの盗賊が烏合の衆だったこともあったが、全滅してくれたおかげで奴らが本物だと教えてくれた。

「社長もうずうずしてるようですね」

「やはりわかるか? こいつとまた思う存分暴れることができるからな」

 シュペールに言われてサイモンは思わず見上げた。久し振りにゾイド乗りの血が騒ぐ、経営者としての仕事の合間に訓練は欠かさずやっていたが、実戦は久し振りだ。

 ロールアウトから一五〇年以上経って主役の座を後継機に譲ったが、今でもヘリック共和国軍の象徴と呼ばれて改良型が陸海空軍で使用されているゾイドだ。

 ロールアウト当時は装備されてなかったが、今ではすっかり標準仕様の長い砲塔を備えている。

 サイモンは陸軍時代から乗り、見た目は初期から変わってないが内部機構は大幅に変わっていて一度だけだがジェノハイドラを格闘戦で退けたことがあった。

 シュペールは懐かしげに言う。

「私もネオゼネバス軍時代に一度遭遇しました、あの時は本当に死を覚悟しましたよ」

「味方にするととても頼もしいぞ」

「頼りにしてますよ社長」

 シュペールも精悍な笑みを浮かべた。

*1
戦闘競技ゾイドバトルを行う戦士の総称、10代半ばの学生から50代以上の退役軍人までいる

*2
共和国製小型の恐竜型ゾイド本国では退役したが世界各国の軍隊、民間にも採用されて近年都市部でのテロリストやゲリラの手に渡って問題となっている


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