ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期   作:尾久出麒次郎

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第六話、その1

 第六話、問われる覚悟、その決意

 

 戦闘開始からどれくらい経った? ふとハロルドは肩で呼吸しながらサイカーチスの攻撃をかわす。次の瞬間にはロックオン警報が鳴ってレッドホーンGCのリニアキャノンが飛んでくると、温泉街の旅館という東洋風のホテルを盾にして伏せ、ダメージを最小限にする。

 二対一での戦闘は初めてじゃないがあのサイカーチスがしつこい、逃げ回ってる間や反撃する瞬間に仕掛けてくる。しかも常に背後から正確に、あのレッドホーンGCのサポートに徹していて、決して倒そうとしない。

 それなら、ハロルドはアリエル二世を加速させて溶岩地帯を抜け、平原の方に向けて逃走する。勿論レッドホーンGCの射界には入らない方向だ。

『逃げるつもりか? レオマスターの名が泣くぞ、ドルトア! 追え! 私もすぐに追いつく!』

『了解っす!』

 予想通りサイカーチスが追いかけてくる、現在速度は二四五キロ……二五〇キロ! 最高速度だ。後部カメラの映像が表示されたMFDを見るとサイカーチスはグイグイと距離を縮めていく。

 まだだ、もう少し……もう少し、頑張れアリエル……四肢の関節部分の温度が上昇しイエローゾーンに入って過熱警報がなる、レッドゾーンに入ったら最悪四肢の関節が自壊してクラッシュだ! もうちょっと……今だ!

 ハロルドは渾身の力を込めて両方のスロットルレバーを引いて急ブレーキ! 前に押し出されそうなGに耐えながら背中のAMD二連装二〇ミリビーム砲を展開、オーバーシュートしたサイカーチスに向けて三連衝撃砲と共に発砲。

 ビームの一発が翼を折り、錐揉み降下した。

『うわぁあああああっ!!』

 ドルトアの回復操作をしようとしたようだが間に合わず、高度も低すぎたため一瞬で回転しながら墜落。サイカーチスは爆発炎上。幸いすぐにベイルアウトしたらしく、パラシュートでゆっくり降下してくる。

 あの高度では錐揉みからの回復は間に合わないと判断したんだろう、いい判断だ。ハロルドは反転し、冷却用ラジエーターを展開して四肢の関節部を冷却した。

 

 

 その頃、ヨハンはレッドホーンとセイバータイガーに翻弄されていた。

『オラオラどうした? アーカディア王国三獣士の力はこんなものか?』

 セイバータイガーのパイロットであるタカシが挑発する。

『タカシそろそろ終わりにするぞ、こんな奴らを相手に遊んでる暇はない!』

 レッドホーンに乗ったユウスケは砲撃させまいと、三連装リニアキャノンや地対空ビーム砲を撃ち、ヨハンに向かってくるセイバータイガーを支援。砲弾の雨には直撃さえしなければ多少は耐えられるが、セイバータイガーはヒット&アウェイを仕掛けてきた。

「ぐおわっ!」

『ヨハン! 何をやってるのですか! 見てられませんよ!』

 イヴァーナのマルゴにはもうショートレールガンの弾は残ってない。マルゴことグスタフMRAPは戦闘用ではないし旅の大事な足だ。だが相手してる二機のゾイド、錬度はそれほどではないがそれを連携プレイで見事に補っている。

「イヴァーナ、ショートレールガンの弾がないだろ! それにゾイド戦は得意じゃないはずだ!」

『それでも、できることはあります!』

 するとマルゴは急加速してレッドホーンに向かって突っ込み、ヨハンは制止する。

「イヴァーナよせ! 危険だ!」

 レッドホーンも正面から向かっていく。

『受け止めてやる! うおおおおおっ!!』

 レッドホーンとマルゴはぶつかり合う、通常ならパワーも重量もレッドホーンの方が上だがマルゴのエンジンがけたたましく吠える。

『な、なんだこいつ! このグスタフ、パワーがすげえ! タカシ!』

 そうだマルゴのエンジンは通常のものより燃費がよくて強力なものを積んでいる。マルゴと押し合いになったユウスケはタカシに助けを求めると、セイバータイガーが前足で引き裂いて牙で装甲を破ろうとしてるが苦戦してる。

『今です! ヨハン!』

『撃てるか!? あんたの仲間も巻き添えだぞ!!』

 イヴァーナの叫びにユウスケは遮るが、ヨハンは迷わずに専用のホーミング弾に切り替えて装填しロックオン。迷わずトリガーを引いた。

「ビッグマザー! メガロマックス・ファイアッ!!」

 一〇五ミリ一七連突撃砲が一斉に稼動し、砲口が一斉にチャージされてビーム砲のように発射された。

『なんだと!?』

『う、うわああああっ!!』

 ユウスケは困惑し、タカシは絶叫。ホーミング砲弾は器用にセイバータイガーとレッドホーンに襲い掛かって撃ち抜き、撃破した。

「よし! 各個撃破確認!」

『ヨハン! 撃てとは言いましたけどメガロマックスを撃つなんて、何を考えてるんですか!!』

「あははははすまん、すまん、グスタフの装甲なら一発や二発誤射しても大丈夫かなと思ってね!!」

『呆れたわ。先を急ぎましょう!』

 イヴァーナは溜息吐いて表情を切り替えると、ヨハンも気持ちと表情を切り替えて次の戦闘に備えてのチェックリストを行いながら先を急ぐ。砲弾は残り少ないメガロマックスもあと一発分しかない。ハロルドは大丈夫だろうか?

 

 

 レッドホーンGCのガトリング掃射をかわしながら溶岩地帯を走り抜ける、もう火器の弾薬やエネルギーはあまりない。ならば爪と牙のみで決着をつけるしかない!

『サイカーチスを落とすとは見事だ! さあどうするレオマスター? いくら腕が良くてもノーマルのシールドライガーでは手も足も出まい!』

 シュペールという男はガトリング砲を向けながら挑発してくる。

 奴はソーア山斜面の突き出た場所にいて、溶岩地帯を見下ろせる場所にいる。撃ち下ろしには絶好のポジションだ、どうする? 一度撤退してソーア山の斜面を迂回しながら奇襲をかけるか? いや駄目だ時間がかかり過ぎる!

 一刻も早く撃破して姫様と合流しないと、溶岩に埋もれたビルを盾にしてると岩石が目の前で転がった。

 

 

 シュペールはシールドライガーが出てくる瞬間を狙おうとビームガトリング砲の照準を合わせる、さあ出て来いレオマスター! 狩ってやる! 出で来ないなら、これだ。

 対ゾイド三連装リニアキャノンを撃ち、ビルを倒壊させると舞い上がった煙の中から姿を現したかと思ったら闇雲に二連装ビーム砲を乱射、数発は突き出た足下に残りは遥か後ろ、背後の斜面に着弾した。

「闇雲に撃ってどうする? 当たったとしても破れると思っているのか?」

『破れないなら、破ってもらえばいい』

「何?」

 シュペールはハロルドの言葉を解さないまま、ロックしようとすると何かが転がって当たる音がした。何だ? そう思った瞬間、今度は大きな物がぶつかった衝撃がして斜面下に転がっていく、岩? こう思ってる間にもどんどん増えていく。

 シュペールはシールドライガーに警戒しながら後部カメラを作動させると、後ろの斜面一帯から砂煙を上げながら相当なスピードで岩石が転がってくる。しかも数え切れないほどだった。

「そうか! 大規模な落石事故を意図的に起こしたというわけか!」

 シュペールはやむを得ずシールドライガーとは逆の方向に向かって走らせ、あちこちぶつけながら落石から安全圏内に脱出すると、MFDが足回りに軽度の損傷箇所を表示する。クソッ! 激しい動きをすればたちまち傷が広がるような損傷だ。

 奴はどこに? 避退したか? 正面? いや違う、どこだ!? シュペールは周囲を見回すと見つけて目を見開いた。

「なんだと!?」

 シールドライガーは転がる無数の落石を避けながら渡り、しかもスピードを殆ど落とさず接近してくる!

「避けきれるのか!?」

 怖気づきそうになるシュペールはビームガトリング砲を撃ちまくるが大小の岩石に阻まれ、避けられる。当たった! そう思った瞬間、砲身が過熱して安全装置が作動してビームが出なくなった。

「しまった! 兵装を――うわっ!!」

 コクピット内が揺さ振られ、レッドホーンが悲鳴を上げる。シールドライガーの得意技であるEシールドを張って敵に体当たりする、シールドアタックで背中の武装は抉り取られたのだ。

「クソッたれ! ならば!」

 格闘戦だと思った瞬間、足回りの損傷が頭を過ぎるが極力負担をかけないようにシールドライガーを正面に捉えようとしたが、次の瞬間には真横にシールドライガーが現れてその長い牙を深々と首に食い込ませた。

 

 COMBAT SYSTEM FREEZE

 

 抑揚のない電子音と共にMFDが静かに告げる。クソッ! 万策尽きたか! さすがレオマスターだ、その名は伊達じゃない。シュペールは敵といえど賞賛せざるを得なかった。

 

 

 ハロルドはレッドホーンGCを撃破し、戦闘後のチェックリストを行う。

『さすがはレオマスターだ……この腕なら有名なゾイドバトルチームやPMCからの誘いがあって金も名声も女も手に入ったはずだ』

 背中の武装はもぎ取られ、首をへし折られたレッドホーンGCだが通信機能はまだ生きてるらしく、パイロットの無線が聞える。

「確かに、お前の言う通り望めばアリエル二世をブレードライガーにできた。そうすればお前をもっと早く倒せた」

『ちっ! その通りだな、なぜ三獣士をやってる? たいした報酬じゃないだろ?』

「家族を養うには十分だ、もうすぐガーディアンフォースが来る。野良ゾイドや野生ゾイドに襲われたくなかったら……緊急用国際救難信号を発しておくことだ」

 ハロルドはそう言ってアリエル二世を発進させて、無線周波数を切り替える。

「こちらハロルド、ヨハン、イヴァーナ、敵を撃破した」

『こちらイヴァーナ、こっちもなんとか片付けたわ。こちらの位置はわかります? 合流に向かってください』

「了解、ん? あれは?」

 ハロルドは機体カメラを拡大させるとエレガンスシティホテルが倒壊してる、間違いない。ソーアシティで一番大きなホテルだが、何があった? その煙の中からゴジュラスが微かに見えると、ハロルドの海軍時代に受けたトラウマがフラッシュバックする。

 

 ライガーゼロ・イクス……今の姫様と同じ年頃の少年と少女の駆け落ち……ゴジュラス……白いドレスを血に染めて冷たくなった少女……目の前で自らの命を絶った少年……。

 

『どうしたのハロルド、応答して!』

「イヴァーナ! これからソーアシティに向かう! そこで合流しよう!」

『えっ!? ちょっと、ハロルド――』

 イヴァーナの制止を振り切るため無線のつまみを回して周波数を変える。アリエル二世を可能な限りのスピードで疾走させる。今度は、今度は絶対に死なせない! 姫様! カミル君! 絶対に死ぬんじゃないぞ!!

 入り組んだ市街地に入る、クソッ! 最初にゴジュラスを視認してからどれくらい立った? 次の曲がり角にターンするとゴジュラスはボロボロなって倒れたシルヴィアに止めを刺そうと四連装ショックカノンを向ける。

 ゴジュラスを挟んで向こう側からリリアが跳びかかってそれを右腕でいとも容易く弾き返した。

「姫様!! クソッ!! うおおおおおおおおおっ!!」

 ハロルドはEシールドを張り、跳びかかって左腕のショックカノンを破壊。そのままリリアの所に駆け寄って周波数を合わせた。

「姫様!! お怪我は!?」

『ハロルド、お願い……カミル君を助けて!!』

 姫様は泣きじゃくりながら縋るように言うと、ゴジュラスのパイロットがモニター通信を繋いできた。

『ほほう、誰かと思えばハロルド・ヒギンズ特務大尉じゃないか』

「サイモン! まさかあんたとここで再会するとはな! 今はアーカディア王家直属の者でね、それに退役した時少佐になったよ」

『アーカディア王国三獣士とは出世したな』

「あいにく安月給でね、だがこの仕事に就いてよかったよ……思う存分お前をぶん殴ることできるからな!!」

 ハロルドはビーム砲と衝撃砲を展開して撃ちまくる、大して効果はないが引き寄せるには十分だ。トリガーを引きながらハロルドはモニター通信を介して必死でカミルに呼びかける。

「カミル君!! 応答しろ、カミル・トレンメル!!」

『うっ、うう……ハロルド……さん?』

 よかった、生きてる。ハロルドは安堵しながらも油断せずゴジュラスの重機関砲をかわして叫んだ。

「姫様!! カミル君を頼む!!」

『はい!!』

 姫様は頷いてリリアをシルヴィアの所に向かわせ、ハロルドはゴジュラスと対峙。

「サイモン、お前の相手はこの私だ!」

『そう簡単に誘いに乗るか!!』

 サイモンはリリアの動きを読んでたらしく、脇をすり抜けようとするリリアを大股で歩み寄って尻尾で叩き飛ばす。

『あああああっ!!』

「姫様! クソッ!」

 今度は必ず守り抜いてやる! こいつもろとも地獄に落ちててでも、もう目の前で若い命が失われるのは……もうたくさんだ! その時、意識を取り戻したカミルはハロルドに訊いた。

『ハロルドさん……どうすれば、こいつに勝てます? ゾイド乗りの経験も技術もない僕が、どうすればこいつに勝てます?』

『少年、それでも私に立ち向かうつもりか?』

 サイモンは余裕の表情だ。カミルは額から出血し、肩を上下させて気力だけで意識を保ってるような状態だ。サイモンの問いにカミルは俯いて呟く。

『……当たり前だ』

『何?』

 サイモンが訊くと、カミルはカッと顔を上げて吼える。

『好きになった女の子を守る! 俺はヘルガのことが好きだ!! ハロルドさん、俺はヘルガを守りたい!! どうすればこいつを倒せる?』

 カミルの問いにハロルドは答えた。


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