ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期   作:尾久出麒次郎

21 / 48
エピローグ

 エピローグ

 

 彼女はこの大陸で生まれ、小さな二本足の者たちに捕まり、体を作り変えられてから幾多の時が流れ、数年前に縄張り争いを制して女王として支配したソーア山国境地帯を歩いていた。

 

 生まれた時はこのエウロペの大地で暮らしていた。

 ここではない、周りを湖で囲まれた高い山の麓で暮らしていた。

 二本足の者たちはその山をオリンポス山と呼んで畏れ、彼女はその山の女王として君臨していた。

 

 二本足の者たちに捕まるまでは。

 

 あの日のことは今でも覚えてる。

 獲物をたらふく食べ終えてねぐらに戻ると、二本足の者たちの配下となった獲物や天敵たちが待ち構えて自分を生け捕りにしたのだ。

 気が付くと狭苦しい所に閉じ込められ、抵抗すれば雷に打たれたかのように何度も痺れさせられた。

 連れて行かれた場所では獲物、天敵、自分と似た種族問わず体を作り変えられ、自分も二本足の者たちが作った精巧で不便な体に作り変えられた。

 

 最初の主人は新しい自分の体に馴染むように献身的に接して尽くしてくれた。

 テストパイロットとかいう者で自分の頭の中に入っては操るが、彼は自分に敬意を持って乗ってくれた。

 彼女は彼だけに心を許したが、長くは続かなかった。

 最初の主人の表情は今も覚えてる、とても寂しくて悲しそうな顔をしていたのが今でも心の中に残ってる。

 

 それからずっと幾多の戦乱の時代を戦い続け、幾多の強敵と出会っては打ち勝ち、時には辛酸を舐め尽し、主人を失って自分だけが生き残り、彷徨っては拾われて修理されるとまた新しい主人に従う。

 二本足の者たちは十人十色だった。

 

 ある者は自分を便利な道具としか見ておらず、動けない体になるまで酷使された末、獲物や天敵、自分と似た種族の死骸が集められた場所に捨てられてどれくらいの間、雨風に晒され続けたのかわからない。

 

 錆びつき、がたついた体に善良な二本足の者たちが言うゾイドコアだけが生き長らえ、また新しい体を作ってもらった。

 

 その者は自分のことをやがてシルヴィアと呼び、捕まって作り変えられる前では感じなかった温かさと安らぎ、他者を思いやるということを教えてくれた。

 

 どれくらいの時が過ぎたのかもうわからない。だが彼女は体を作り変えた二本足の者たちに怒りと憎しみを抱きながらも同時に良い者と悪い者、どっちつかずの者がいることを学んだ。

 そして同胞を思いやる者もいれば、冷酷に扱う者もいてそれが複雑に絡み合って戦争という二本足の者たち同士が戦いを続けていた。

 

 今度の主人はとても幼いが、一目見た時自分に敬意を払うどころかその小さな体で守ろうとしてくれた。この二本足の者には従う価値がある。

 彼女は彼を新しい主人として迎え入れ、作り変えられる前は天敵だった種を主人の仲間と一緒に倒した。

 リリアとかいう、群れてる奴らとは明らかに違う大きい奴でとても手強い奴だった。主人は必死で勝とうと努力したが、リリアとその主人は彼女からすれば経験もそれなりにあって一枚上手の奴だった。

 

 彼女は思い返しながらソーア山外輪山を登る。

 新しい主人と出会う前に見つけたお気に入りの場所。

 カルデラと火山が一望できる見晴らしのいい場所だ。その場所は温泉湖やソーアシティが見下ろせる見晴らしのいい場所で彼女はその淵に立つ。

 

 眩しい朝日に照らされる楽園。

 

 この短い間だったが君臨し、女王として支配した楽園と呼ぶにふさわしいカルデラの大地に別れを告げるため、どこまでも響き、大気を震わせる女王の咆哮を轟かせた。

 

 出会い編~完~

 旅立ち編に続く。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。