ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期   作:尾久出麒次郎

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第七話、その2

 カミルはアヤメリアの言われるがまジョエルの父親が工場長を勤める整備工場の近くにあるメルヴィのセブタウン店に連れて行かれる。

 店内のテーブル席は少なく客も殆どいないが、その代わりに工場で働いてる従業員が朝・昼・夕方にテイクアウト注文で大繁盛を通り越して戦場と化すという。

 店内に入ると、ジョエルとセレナが待っていてカミルはアイスティーを注文してアヤメリアはミルクと砂糖たっぷりのコーヒーを注文し、ジョエルとセレナのいる席に座ると世間話しをして、セレナはこんな話しをする。

「――それでさ、SNSで東亜国の人と話してパタゴニアは首都そのものがブラックだって、ほら持って行けるものも凄く限られてるし、学校だと朝課外もあるし放課後のクラブ活動も任意という名の強制参加が義務で課せられてるって、土日もクラブ活動や奉仕活動で休みがない……あっちの人たちでは国そのものがブラック企業で、共通言語で言うならスウェットショップ……ヘリックの人はディストピアだって話してた」

「でもそれが当たり前じゃないの? それにマゼランと海外の人じゃ考えとか違うし、世界中にはあたしたち以上に恵まれない人たちが――」

 アヤメリアの言葉を遮るかのようにセレナはテーブルを叩きながら勢いよく立ち上がって指を差す。

「それよ! アヤメリアのその考えが一番危ないわ! 最初は信じられなかったけど、私決めたの! パタゴニアに潜り込んでこの目で確かめてそして本当なら、洗いざらい世界に暴露してやるってね!」

 セレナは右手を握り締め、志しを明かすと店内のテーブルや椅子に照明が揺れる。

 いつもの地震かと最初は思った、ここは北エウロペ最大のカルデラ――ソーア山の近くで現在も活動しているから時々火山性地震が起きる。

「いや、これは地震じゃない。大型ゾイドだ」

 真っ先にジョエルが気付く、さすが工場長の息子だ。カミルも近づいてることを感じながら立ち上がる。ガラス越しに外を見ると大型の蛇型ゾイドだった。

「あれはレティックピュトン……ブリタニア連邦のゾイドだ!」

 ジョエルはガラス張りに張り付いて言う。

 装甲式のコクピットにオリーブドラブ装甲を纏ったカーキ色の長いゾイドだ。

 主に陸軍の隠密偵察や奇襲に使う機体だ、駆動音も比較的静かで気付いた近所の人達も何事かと窓を開けてる人は少なく、外に出てる人たちはその危険な雰囲気を放つ姿を目に焼き付けている。

 カミルは扉を開けて外に出るとレティックピュトンがお店の前を通過する。

 国籍マークは付けてないから多分旅の者だろう、もし盗賊ならこんな正々堂々と町の中に入るとは思えない。

「随分大きいな」

 カミルはネットや書籍で見たことあるが本物は初めてだ。

 大方整備工場近くの駐機場に向かうのだろうと思いながら見送ってすぐ後に、見慣れないくたびれた旧式の四輪駆動車(4WD)がメルヴィの前で停車すると、降りてきたのは褐色肌にドレッドヘアー、逞しい筋肉質のタンクトップ姿のエウロペ人の男で、訛りの強いマゼラン語だった。

「君がカミル・トレンメルかな? ライガーゼロの少年というのは?」

「……カミル・トレンメルは僕だ」

 カミルは嫌な予感がすると思いながら返事する。男はニヤリとして見つめると一同が凍り付く、右手にはネオゼネバス製ガストン自動拳銃、左手にはZiフォンが握られて片手で器用に操作する。

「なるほど、瞳の色が兄妹そっくりだな」

 カミルは全身の肌が粟立って嫌な予感がした、その予感はすぐに的中する。

「これが何かわかるよな?」

 男がZiフォンを見せるとカミルは目を見開いた。

 甘えん坊だけどしっかり者のウルスラが屈強な男に刃物を突き付けられ、恐怖に満ちた顔で震えていた。

『お兄ちゃん! 助けて!』

「ウルスラ!? どうしてこんなことを!?」

 カミルはドレッドヘアーの男に訊くと、男はニヤニヤしながら見つめる。

「まあ落ち着け、君のライガーゼロを俺達に渡せば無傷で返してやるよ」

 軽い言動を見せるドレッドヘアーの男にカミルは敵意を剥き出しにして睨む。

「シルヴィアが目的ならどうして妹を人質に取る!? 妹が何をした!?」

「妹を無事に返して欲しいなら、素直にライガーゼロを渡すんだ」

「シルヴィアならもう山に帰した! 欲しいなら自分達で捕まえればいいはずだ!」

 カミルは噛み締めながら言うが、男には見抜かれていた。

「おいおい確かに山にはいるけど手放してないんだよな?」

 カミルは冷たい手で心臓を鷲掴みにされたように凍り付く、見抜かれてる! 表情に出さないように睨むが無駄な足掻きだった。

「図星だぜカミル君、もうすぐパタゴニアに行くんだろう? ライガーとお別れした方が身のためだぜ」

「カミル……シルヴィアを逃がしてなかったの」

 アヤメリアはなんとも言えない表情でジッと見つめると、ドレッドヘアーの男は下衆顔で気持ち悪い笑みで神経を逆撫でする口調になる。

「ほ~ら、お友達が心配してるよカミル君……言うことを聞かないと無垢で可愛い可愛い妹ちゃんどうなっちゃうかな~?」

「ひっ……」

 セレナは察したのか怯えて震えている、それを見透かしたのかドレッドヘアーの男はねっとりと絡み付くような口調でセレナを見つめながらおぞましいことを口にする。

「ウルスラちゃんみたいに可愛いくて綺麗なお人形さんみたいな子は裏の世界では高く売れるんだよ……どこかの店に買われてあの幼い身体のうちから無数の男の相手をさせられて、何度も何度もお腹を大きくさせられた末に病気塗れになるかも?」

「くっ……この下衆野郎!!」

 ジョエルは銃を向けられてるにも物怖じせずに言い放つと、ドレッドヘアーの男はもう一つ思いついたらしく別の末路を話す。

「いやいや待て、或いはどこかの部族に売られて幼いうちに好きでもない男と結婚させられるかもしれない、ウルスラちゃん一三歳って言ってたからね……そろそろ好きな男の子ができてもおかしくないよねぇ~」

「なんてこと……お願い! あたしがライガーを渡すように説得するからウルスラちゃんを返して!」

 アヤメリアは青褪めた表情で怯え、必死に懇願するとドレッドヘアーの男はニヤニヤしながらカミルを見つめる。

「悪いがお嬢ちゃん、決めるのはカミル君だぜ! なぁ可愛い妹ちゃんを返して欲しいだろ? ライガーを渡すだけでいいんだ」

「……わかった。シルヴィアを呼び出したい、その代わりウルスラと会わせてくれ」

 カミルは要求を聞き入れたように見せかけることにすると、ドレッドヘアーの男は「ヒュー」と口笛鳴らすと、四輪駆動者のドアを開ける。

「いいぜ、全員車に乗りな」

 男はガストン拳銃を全員に向けている、カミルは助手席に座ってその後ろにセレナ、アヤメリア、ジョエルの三人が座ると、男は運転席に座ると四輪駆動車を発進させてセブタウンの郊外へと向かう。

 

 到着した場所は開けた郊外で、その真ん中にガイロス帝国製中型のサーバルキャット型偵察用高速ゾイドのスカウトサーバルが一機、ぽつんと立って頭を下げてコクピットを開け、その先にパイロットらしき男がウルスラにナイフを突き付けて待っていた。

「あいつ……まさか」

 ジョエルは何かを確信した様子でスカウトサーバルを見つめると4WDが停車する。

「連れて来たぜ、兄貴と一緒にお友達とオマケが付いちまったけどよ」

 ドレッドヘアーの男がキーを差したまま降りて言うと、ウルスラを人質に取ってる丸刈りの男はカミルを見るなりニヤリと笑みを浮かべ、ウルスラは悲痛な声を上げる。

「お兄ちゃん助けて! 死にたくない!」

「ウルスラちゃん! 待っててすぐに助けるから!」

 アヤメリアは青褪めた表情でウルスラを励ますが、次の瞬間には「なんとかして!」と言わんばかりの眼差しでカミルを見つめる、カミルはわかってると頷く。

 大丈夫、ウルスラは助けるし、シルヴィアも渡すつもりはない。

 カミルは呼吸を整えて状況把握した上で丸刈りの男に言う。

「すぐにシルヴィアを呼ぶ、だから妹を放せ」

「ライガーを呼んだら……な」

 丸刈りの男はねっとりと気味の悪い笑みを見せると、カミルは首にかけてある犬笛に似た笛を取り出す。シルヴィアを整備してる間に買ったもので既に覚えさせてる、自動操縦でセブタウンの近くの森に潜ませてるから近くにいるはずだ。

 カミルは笛を吹くと高すぎて人間には殆ど聞こえない音を発する、すると森の奥から足音と共に振動が近づいてくる。二人の盗賊は確信したのか余裕の笑みを見せながら見回すと、木々の間から唸り声を上げながらシルヴィアが姿を現した。

 丸刈りの男は見上げて畏怖の念を抱いてるようだ。

「ほほう……こいつがライガーゼロか、本物は初めてみるぜ」

「ああ、シルヴィアって名前の通りいい女だな」

 ドレッドヘアーの男もニヤニヤしながら言うと、カミルはウルスラを見つめて言う。

「約束だ。妹を返してもらう」

「OK約束だ、さぁお兄ちゃんの所に帰りな」

 丸刈りの男はナイフを鞘に納めてウルスラを解放すると、ウルスラは涙を溢しながらカミルの所に駆け寄って抱き付く。

「お兄ちゃん!」

「ウルスラ……もう大丈夫だ」

 カミルはそっと抱き締めながらシルヴィアと目を合わせる。アヤメリアも安堵した表情を見せるがまだ終わっていない、寧ろここからだ。ジョエルは油断した表情を見せず、セレナも怯えたままだ。

「おっと、まだ終わってないぜお前ら……俺達は盗賊だからな」

 丸刈りの男はナイフの代わりに、ホルスターからガストン拳銃を取り出してカミル達に向けると、アヤメリアが抗議する。

「ちょっと話が違うわよ! ライガーゼロを渡すんだしあたし達はもう関係な――」

 言わせないと遮るかのようにドレッドヘアーの男がガストン拳銃を発砲、一瞬で命を奪う銃声で黙らせると、震えるアヤメリアに歩み寄りながら銃口を突きつける。

「世間知らずにも程があるぜお嬢ちゃん」

「嘘……お願いやめて……死にたくない」

 怯えるアヤメリアにドレッドヘアーの男は背中を見せた、腰には大型のシースナイフ。丸刈りの男は死角をカバーするかのようにこっちに銃口を向けてる、シルヴィアはカミルを見つめて唸る、まるで覚悟を問うかのように。

 大丈夫だシルヴィア、僕はもう覚悟してるから。

 カミルはウルスラをそっと離すと、ジョエルに託して彼と目が合う。察してくれたのか悟られないよう目で頷いてくれた、カミルは親友に感謝しながらシルヴィアを見上げ、心と目で合図した。

 やれ!(Do it)

 その瞬間、シルヴィアは初めて出会った時のように盗賊二人に耳をつんざくような声で吠えかかり、たまらず全員は耳を塞ぐ、カミルを除いて。

 今だ! カミルは躊躇いなくドレッドヘアーの男に背後から音もなく近づき、奴の腰のシースナイフを鞘から右手で素早く抜くと、左手で口許を押さえてナイフを持った右手で脇腹を刺してそのまま勢い良く腎臓と肝臓等の臓器を切り裂き、血肉と共に撒き散らす!

「いやぁああああああっ!!」

 アヤメリアは悲鳴を上げて男は断末魔の悲鳴を上げる間もなく、口からも夥しい量の血を吐いてその場で崩れ落ち、ガストン拳銃を落とす。

「ジョエル! みんなを連れて逃げろ!」

 カミルは叫びながらガストン拳銃を拾う、気付いた丸刈りの男だがもう遅い! カミルは祖父に教わった通りに膝射で拳銃を構える。丸刈りの男は片手で拳銃を構えながら驚きの表情で目を開いた。

 素早く引き心地の悪いトリガーを引いて二発発砲。

 胴体に二発叩き込むダブルタップを決め、すぐに立つと虫の息だったドレッドヘアーの男の頭を一発撃ち抜いてどどめを刺し、近づいて倒れた丸刈りの男の頭部に一発撃ち込んで止めを刺した。

「カミル……あんた何やってるのよ……」

 泣きじゃくるアヤメリアは命の危険よりも、幼馴染みの男の子が躊躇うことなく引き金を引いて人の命を奪う光景が信じられないようだ。

 すると、ジョエルはスカウトサーバルへと足を向けてカミルは制止する。

「ジョエル! 何やってるんだ!」

「俺はこいつに乗ったことがある! セレナ! アヤメリアとウルスラちゃんを、運転できるな!?」

 ジョエルは大声で訊くと、頭を切り替えたセレナは叫んで親指を立てる。

「任せて! アヤメリア! ウルスラちゃん! 逃げるわよ!」

 カミルはみんなの前で惨い光景を見せたが、悔やんでも仕方ない。カミルはシルヴィアのコクピットを開けて搭乗、手早くシートベルトを締めて安全バーを降ろして電子機器を立ち上げた。

 

 解説

 

 ガストンシリーズ

 ネオゼネバス製ポリマーフレーム自動拳銃、シンプルかつ三重の安全装置であるトリガーセイフティ、ストライカーの前進を阻むするドロップセイフティ、ストライカーが雷管を叩くのを阻むファイアリングピンセイフティを持つ、口径や大きさはさまざまで世界中の軍隊や警察機関、特殊部隊に幅広く採用されていて、かつての敵国へリック共和国軍の特殊部隊やニューへリック市警も採用するほどである。一部を除いて口径と大きささえ合えばマガジンも共用可能、9㎜口径フルサイズならG9F、コンシールドキャリーで45口径ならG45CCとなる。

 パテント自体はグローバリー三世号の時代以前に失効してるため作ってない銃器メーカーを見つけるのが難しいレベル、モデルはグロック及び各社製ストライカー式ポリマーフレームピストル。

 

 スカウトサーバル

 ガイロス帝国製サーバルキャット型高速偵察ゾイド、ライトニングサイクスの反省を踏まえて開発された機体である。ライガーゼロイクス並みのステルス性能に加えて、高性能レーダーや各種センサーを装備し、対ステルス性能も高い。シャドーフォックスとよく比較されることが多いが、スカウトサーバルが軽量で個体数も多く、ジャンプ力に優れている。

 全長16.5メートル 全高8.7メートル 重量49トン 最高速度時速275km/h

 カール・ヴァイス社製ヘッドギア

 シュタウフェンベルグ電子工業社製光学迷彩

 レインメタル社製パルスレーザーカービン

 レインメタル社製12.7mm機関銃二門(ライセンス生産品)

 エレクトロンファング

 ストライクレーザークロー


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