ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期   作:尾久出麒次郎

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第七話、その3

 セレナはウルスラとアヤメリアを後部座席に座らせ、キーを差しっぱなしだったことをいいことに回してディーゼルエンジンスタート! 独特の振動と共に始動するがマニュアル車だ!

「もう……何でよりにもよってマニュアル車なのよ!?」

 セレナは重いクラッチを踏み込んでシフトレバーを一速にしてパーキングブレーキ(PKB)解除して発進! ペダルやシフトレバーが硬い! ステアリング重い! マニュアル車だから難しい!

 やっぱりVRゲームで鍛えておいてよかった!

 後部に座るウルスラは驚きの声を上げる。

「セレナさん凄い! 車運転できるんですね!」

「あたしはワーナー農場主の娘よ! VRゲームで鍛えてるからね!」

 セレナの家族は祖母が農場主であり、祖父が大地主でセブタウンの土地をいくつも所有して貸し付け、父が町長をしているから一番の金持ちだ! 舗装されてない道を4WDで走るがVRとは違って振動も酷かった。

「そんなの持ってたんですかセレナさん!? どこで買ったんです!?」

 驚いたウルスラは問い詰めると、セレナは前を向いたまま激しいエンジン音と振動の騒音に負けないほどの大声で叫びながらデコボコ道を運転する。

「通販で買ったのよ! ミューズっていう通販サイト知らない!? 二年前マゼランに進出してきたのよ! シートベルト締めて!」

 セレナはシートベルトを締めるように促すとセブタウンに通じる森に挟まれた街道を走り、保安官事務所へと急ぐ、そこには自警団もいるから逃げ込めば一先ず大丈夫なはずだが、アヤメリアはカミルが人を殺したショックで震えていた。

「嘘よ……あんなに優しいカミルが……人を殺すなんて」

「アヤメリア! しっかり! あたしもあんたもジョエルも、ウルスラちゃんも助かったんだから!」

 セレナはディーゼルエンジン音に負けない声で叫ぶ。

 確かにカミルのしたことは人道的にはアウトだよ! でも、今は保安官事務所に逃げることを考えろ! そう思ってカーブに差し掛かった瞬間、前を塞ぐように中型ゾイドが森の中から姿を現した。

「嘘っ! ヤバッ!!」

 セレナは固いクラッチとブレーキを両足に全体重をかけ、甲高いスキール音を響かせながら前足ギリギリで止まると前に飛ばされされそうになる。

「二人とも大丈夫!?」

 セレナは後ろを向いて訊くがシートベルトしてたのが幸いして、アヤメリアはなんとか頷く。

「うん……大丈夫」

「セレナさん上上!!」

 ウルスラは必死で叫んでるとセレナは上を向くと、黒い共和国製キツネ型高速偵察ゾイド――シャドーフォックスが前足を上げて4WDを踏み潰そうとしてる。

 目を見開いたセレナはあっ、死んだと悟った瞬間。シルヴィアが突進してシャドーフォックスを突き飛ばした。

 次の瞬間にはシャドーフォックスは一〇〇メートル以上前方に木々を倒しながら右側臥位に転がり、シルヴィアの外部スピーカーからカミルの声が響く。

『大丈夫かセレナ!』

「サンキューカミル! 必ず二人を安全な所に送り届けるわ!」

 セレナはギアを一速にしてアクセルペダルを踏んで発進させた。

 

 

 危なかった……あとゼロコンマ数秒遅かったら三人ともサンドイッチにされてた。

 カミルは全身から冷や汗を流しながら倒れ、よろよろと立ち上がるシャドーフォックスを睨むが、糸の切れた人形のごとく崩れ落ちるように倒れた。

 パイロットは気絶したのか力尽きたまま動かない。

 よし! 突進する時、下顎に当たった。人間でいうなら脳震盪の状態だ、すると無線機の受信を告げる着信音が鳴り響いて無線機のスイッチを入れると雑音と共にジョエルの声が聞こえた。

『カミ……そっ……行……』

「ジョエル! なんだって!? もう一度言ってくれ!」

『シャ……フォ……スが逃げ……クソっ! 追い付けない』

 カミルは右手のスロットルの送信ボタンを押して返事しながら左手で無線周波数のツマミを回すと、音声がクリアになる。

「わかった! 無線の周波数はそのままにして! こっちでも捕まえてみる!」

『OK! 頼んだぞ!』

 ジョエルの返事がクリアになってMFDのレーダー画面を見ると、反応はジョエルのスカウトサーバルだけだ。シャドーフォックスはレーダーに反応しにくいが、見つけられない訳じゃない、カミルはシルヴィアを前進させて走ると思った通りだ。

 木々の枝が不自然に動いたり折れたりしてる、まるで見えない何かが進んでるように。

 カミルはそれに立ち塞がるように前に回り込む、シルヴィアが雄叫びを上げるとそれは怖じ気づいたかのように急減速すると、さっきと同じように突進して手応えあり!

「よし! 二機目を倒した! ジョエル! セレナ達をエスコートしよう!」

『ああ、任せろ!』

 カミルが大まかな操縦でシルヴィアが最良の戦法を選択を取ってくれる。

 このライガーゼロは数十年にも及ぶ戦乱の時代を生き抜いた経験豊富なゾイドだと感じ取りながら、セブタウンに通じる森に挟まれた道路を戻って4WDの前を先行する。

 すると赤外線レーダーが前に何かいると、反応を示している。

「? 何かいる?」

 森の中からさっきの巨大蛇型ゾイド――レティックピュトンが光学迷彩を解除して立ちはだかり巨大な口を開けて威嚇、カミルはシルヴィアを急停止させて外部スピーカーで報せる。

「セレナ! 盗賊達の仲間だ! 迂回しろ!」 

 声が届いたのか、後部警戒レーダーに映ってる4WDが急停止して森に入るとジョエルのスカウトサーバルが横に立つ、スピーカーからレティックピュトンのパイロットらしき男の憎悪に満ちた声が聞こえた。

『よぉお前ら、聞いたぞ……よくも俺の仲間二人を殺しやがったな!』 

『あ、あれはあんたの仲間が子供に銃を向けてナイフを突き付けたからだろ!』

 ジョエルが反論するが、カミルは言葉を真っ向から受け止めた。ああ、そうだなんとでも言えばいい、僕は人殺しだ。

「……そうだ、僕はあんたの仲間を殺した。妹と友達を守るためにね……あんただってそうだろ? 生きるために誰かを殺めたことを!」

『……それなら、わかってるんだろうな!』

 男の私怨に満ちた声と同時にレティックピュトンが大口を開けて口腔内のマグナムカノンを展開、カミルは反射的に回避行動を取ると砲口が火を噴く。

 背後で砲弾が炸裂して爆炎の混じった土煙が上がる、シルヴィアをレティックピュトンの周りを走らせる。大型の蛇型ゾイドは下手に格闘攻撃したらたちまち巻き付かれ、あっという間に絞め殺される。

「ジョエル! 下手に格闘攻撃するな、一瞬で絞め殺されるぞ!」

『わかった! ガンガン撃ちまくってボコボコにしてやるぜ!』

 ジョエルのスカウトサーバルが背中のパルスレーザーカービンを撃つが、レティックピュトンの装甲は重戦闘ゾイド仕様で固い。それなら! カミルはイオンターボブースターの燃料の残量計をチェックする。

「行くぞシルヴィア!」

 カミルは背中にあるぺリング(P)ウィンストン(W)社製のITB-Z041イオンターボブースターを展開して点火、加速しながらレティックピュトンに接近、ショックカノンを撃ちながら接近して怯ませながらジャンプ!

 ストライクレーザークローを閃かせながら首を狙って胴体を踏みつけ、着地の反動を利用して再びジャンプして離脱! イオンターボブースターを切ってスライティングターンすると、ダメージは与えたがまだ倒れる様子はない。

「……仕留め損ねた!」

 祖父から教わったが、中途半端にダメージを与えた手負いの状態が一番危険だ、より狂暴になって仕掛けてくるだろう。事実レティックピュトンはシルヴィアに執拗に狙いを定め、マグナムカノンを展開し、撃って噛みつこうとしてくる。

 シルヴィアは完全に読んでいるのか後ろに飛び退いて回避すると、ジョエルが通信してくる。

『気を付けろカミル! もし巻き付かれたら一瞬で駆動系統を潰されるぞ!』

 さすが整備工場長の息子だ、具体的にどうなるかまで伝えてくれる。

「うん、気を付けると言いたいけど……どうやって倒す? 早いところケリを着けないと!」

『そうだな……あの、マグナムカノン……食らったら終わりだが、射程が短い上に自動装填装置の構造上の関係で次弾装填に少し時間かかる……一発撃ったら二~三秒隙ができる、なんとかして動きを封じることができればな』

 ジョエルは必死で考えてるようだ、確かに書籍やネットで知った話ではブリタニア・ロイヤル・システムズ社製三五・七インチマグナムカノンは実弾兵器で、自動装填装置の関係で次弾装填に二~三秒かかるという。

『……仕方ねぇ、腹を括るか!』

 カミルは何をするんだ? と訊こうとした瞬間、ジョエルは捨て身のつもりなのかスカウトサーバルを正面から跳びかからせ、レティックピュトンの喉元に噛みつこうとする。

「駄目だ! ジョエル! 無茶するな!」

 カミルの悲痛な叫びも虚しく、スカウトサーバルはたちまち巻き付かれて絶対絶命だ! レティックピュトンのパイロットが無線で挑発してくる。

『さぁどうする? 大事なお友達が絞め殺されるぞ!』

『カミル! 躊躇うな! こいつを倒してあのお姫様を追いかけるんだろ!』

 モニター通信越しにジョエルは叫ぶ、見透かされてたのか、ジョエルに……カミルは思わず動揺して声を上げた。

「知ってたのかよジョエル!」

『俺どころかアヤメリアやセレナ、きっとウルスラちゃんだって気付いてたぜ!』

 ジョエルはモニター越しに不敵な笑みを見せると、祖父の顔が重なった。

 死なせない……今度は死なせない! 今度は死なせない!!

「行くぞシルヴィア!」

 カミルはジョエルの覚悟に応えるために、真っ直ぐレティックピュトンの口に向けて走り出してイオンターボブースターを点火、全神経を集中させて見えないコクピットの敵が引き金を引く瞬間を見計らう。

『これで終わりだ!』

 その瞬間、レティックピュトンのマグナムカノンが火を噴くと同時にシルヴィアはスピードを保ったまま、体を左に傾けて砲弾の射線を逸らす! さすがシルヴィアだ! 右半身を浅く切り裂かれ、押し潰されそうな横Gを瞬間的に感覚を感じながら、ブースターをオフにして頬の頭部強制冷却システムを展開して両前足の爪にエネルギーを集中させる。

「いけぇぇぇえええええっ! ストライクレーザークロー!!」

 シルヴィアの右前足をレティックピュトンの口腔に叩き込み、マグナムカノンを紙クズのようにくしゃくしゃにして引き抜くと、コクピットの真後ろにあるマグナムカノンの弾薬庫が誘爆! ジョエルが歓声を上げる。

『やったぜカミル! やったな!』

 カミルはパイロットは爆死しただろうと確信する。レティックピュトンは力尽きたように倒れるのを見届けると、解放されたスカウトサーバルは這い出して来てジッとシルヴィアを見つめていた。

『……カミル?』

 ジョエルは何かを察したような眼差しだった。

 

 解説

 

 ミューズ・ドット・コム・インク

 へリック共和国に本社を置く多国籍テクノロジー企業で通称「ミューズ」ネットスラングでは「森林」あるいは「森」で通じる。世界一六ヵ国でサイトを運営しており、ネット通信販売をメインに電子書籍やビデオ・オンデマンド等のサービスを行っている。

 元々はグローバリー三世号の地球でア○○ン従業員の子孫や、一部の冒険商人達が興した会社で、名前は地球の南米アマゾンに因んで北エウロペ大陸のミューズ森林地帯から。


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