ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期   作:尾久出麒次郎

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第八話、その4

 カンカー遺跡から誘き出されたソルダットアントの大群は山に囲まれた小さな平野に身を晒していた。そしてカンカー平野の南西と南東にある山の斜面にはゾイド乗りの傭兵、PMCやGNDAの多種多様なゾイドが十字砲火(クロスファイア)の瞬間を今か今かと待ち構えているに違いない。

『ヒドラ作戦フェイズ2に移行、起爆せよ。繰り返す起爆せよ!』

『了解、ヒドラ作戦フェイズ2開始、起爆!』

 GNDAの工作兵がカンカー平野のあちこちに仕掛けておいた梱包爆薬やIEDのスイッチを押す、今回のためにかき集めた梱包爆薬、対ゾイド用地雷、プラスチック爆弾、IED、土木工事用のダイナマイトが一斉に起爆。

 平野は爆炎と土煙で覆い尽くされ、ソルダットアント逹は爆風に晒されて千切れ飛び、空中に放り投げられ、音速で飛んでくる破片にズタズタにされた。幾重にも響いた凄まじい爆音が収まり、平野が静まり返ると間髪入れず指揮官が合図する。

『起爆を確認、全機射撃開始! 撃て!』

 待機していたゾイド逹が一斉に榴弾砲、ビーム砲、ロケット弾、ミサイルの雨を降らせる。その中にはゴードンの乗るカノンフォートが重撃砲を撃ち、サムのコマンドウルフACの背中にある二連装二五〇ミリロングレンジキャノンが火を噴いた。

 更に山の向こう側で待機していたGNDAのキャノリーモルガとPMCのカノントータスがだめ押しと言わんばかりに一斉に砲撃、時間を置いて一際大きな爆炎と爆音が響き渡る。

 念には念を入れて更に十字砲火を加えると、そのままフェイズ3に移行する。

『ヒドラ作戦フェイズ3に移行、地上部隊は爆撃時の空振に備えろ! 航空部隊爆撃を開始!』

『了解、ボマー各機……攻撃開始(Fire ready now)! 爆弾投下(Bomb the way)!』

 ゾイド乗りの何人かがコックピット越しに見上げた空から黒い塊のような物体、数千メートルの高度からPMC所属のプテラスが四機、大型のGPS誘導爆弾を二発ずつ投下。

 地面に突き刺さったり、ソルダットアントに直接突きったりして派手に炸裂すると、砲弾とは比べ物にならないほどの空振が連続で何度も襲い掛かってくる。

 

 

 カミルはシルヴィアのコックピット内で凄まじい空振に揺さぶられ、シルヴィアも困惑いてる様子だ。

 そういえば二〇年前にソーア山が噴火した時も爆発の空振で麓のソーアシティの街並みは窓ガラスが割れ、一五〇キロ以上先の首都パタゴニアでも観測されたことを思い出してると、ラオは驚きの声を上げる。

『うわぁぁぉぉぉっ! 今のヤバくない!?』

「もっとデカイのが来る! ラオ、伏せて!」

 カミルはシルヴィアを伏せさせると、ラオも感じ取ったのか慌ててラナの姿勢を低くさせるとサイカーチスとダブルソーダが二機ずつ、一トンはある大型のサーモバリック爆弾を一発ずつワイヤーでぶら下げてる。

 本来はサラマンダーのような大型爆撃機やストームソーダーの戦闘爆撃機型に搭載する代物だ、GNDAは確か高価な超音速飛行ゾイドは保有してない。

「あれ、どこであんなもの手に入れたんだ?」

『さぁ、武器商人かPMC辺りから仕入れたんじゃない?』

 ラオは興味なさげに空を見上げながら言うと、土煙が晴れないうちにワイヤーが切り離されて投下、さっきよりも強烈な爆音と空振が襲いかかってラオは歓声を上がる。

『うわっ!! 超ヤバあああぁぁぁぁいっ!!』

 他のGNDAやPMC、ゾイド乗り逹も無線越しに歓声の声を上げる。

 

『ひぃやぁふぅぅうううううう!! 今のすげぇぇぇえええっ!!』『ヤバいヤバい!! 超ヤバかったぜ!』『やったか!? やったのか!?』『おいおいそりゃあフラグだぜ! まあ現実は違うけどよ!』『それにしてもヤバかったぜ今のは! さすがの野良ゾイド逹も生き残れないんじゃね!?』

 

『こちらボマーリーダー全弾投下! 爆撃効果判定(BDA)を頼む!』

 上空のプテラスの編隊長からの通信、どれくらいの損害を与えたかを求めてる。早速伝えるためサイカーチスが一機、晴れつつある土煙に接近すると、シルヴィアが威嚇するように唸る。

「どうしたのシルヴィア? ……まさか!」

 カミルは全身の産毛が逆立ち、偵察に向かったサイカーチスに目を向けた瞬間、土煙の中から一筋のビームが放たれてサイカーチスの胴体にクリーンヒット! サイカーチスは空中で爆散した。

 この駆除に参加する者、全てに衝撃が走る。

 土煙が晴れるとソルダットアント逹が寄り集まってEシールドを展開してる、砲弾やビーム、ミサイルや爆弾の雨を凌いでたのだ。敵の損害は全体の三~四割程度、通常の軍隊なら全滅と言っていい程だがこいつらはスリーパーゾイドだ。

『Eシールド!? ソルダットアントには付いてないはずよ!』

 困惑するラオ、カミルもカメラの倍率を拡大して見ると腹部に大型Eシールドジェネレーターを装備したソルダットアントが、ドーム状のシールドを展開。その周りを囲むようにソルダットアントが寄り集まって鉄の暴風を凌いでいたのだ。

 駆除作戦に参加してるゾイド乗り逹は動揺する。

 

『おいおいおい! ありゃブリタニア製のEシールドだぞ! なんでスリーパーなんかに搭載してるんだ!?』『知るわけないだろ! おいCP、このままフェイズ4に移行するか?』『こちらキャノリー1、全機一二〇ミリ砲の残弾なし、繰り返す全機一二〇ミリ砲の残弾なし!』『砲兵隊、今から大砲を強制排除して手伝いに来てくれないか? 一緒に暴れようぜ!』『無茶言うな! 山の向こうから撃ってるから一時間かかるぞ! それに砲塔の再装着にだって時間も金もかかるんだ! お宅らPMCと違ってGNDAは金ないんだから!』『カノントータスじゃ纏わりつかれて食われるだけだぜ』

 

『こちらCP、全機ヒドラ作戦フェイズ4に移行せよ! 繰り返すフェイズ4に移行せよ! 今から増援も呼び寄せる!』

 よし、最後の仕上げと言いたいが敵が半数以上が残ってる、ゴードンは楽観的なことを言う。

『三割やったから実質全滅だろ?』

『あれのどこが全滅だよ! あんな数を相手にするのか?』

 対するサムは精一杯の声を張ってる、怯えてるのだろうがラオは物怖じせずにラナのクロスソーダーを展開する。

『相手にするに決まってるでしょ、カミル』

「うん、行くぞシルヴィア!」

 カミルはシルヴィアを前進させ、ソルダットアント逹の群れの中にショックカノンを撃ちながら突っ込んでいくと、ラオが注意する。

『カミル! 一撃で葬るつもりで! 仕留め損ねたり、手間取ってると、纏わりつかれるわ!』

「了解!」

 カミルはショックカノンを撃たれて倒れた一機目に狙いを定め、前足の爪を閃かせてゾイドコアがある胸部を深々と切り裂く! 次の瞬間には次の敵は? とシルヴィアは常に次はどう動くか考えてるかのようだ。

 大顎を開けて噛みつきかかってくる奴に強靭な前足でカウンターパンチを決めて弾き飛ばし、カミルは瞬時にショックカノンのトリガーを引いて止めを刺す。シルヴィアはパンチが得意技のようだ。

『うわあああああぁぁっ! 纏わりつかれた! 引き剥がしてくれ!』

 サムが悲鳴を上げてる、助けるか? 嫌味な奴だが見捨てていい理由にはならない。

「ラオ、サムを助けてくる!」

『OK! 援護するわ! 無理に引き剥がさずに息の根を止めてからよ!』

「わかった、行くぞシルヴィア!」

 カミルはすぐにサムのコマンドウルフACを見つけると、イオンブースターを数秒だけ点火する。ブースターの燃料メーター数値が勢いよく減らして駆けつけ、そのまま胴体に噛みついてるソルダットアントの胸部に噛みついてゾイドコアを噛み潰した。

「サム! 大丈夫?」

『ありがとう、助かった!』

 サムが礼を言いながらコマンドウルフACは身震いして、振り払うと仕返しと言わんばかりにロングレンジキャノンを撃つ、全然減ってないような気がするのは気のせいか? 上空のサイカーチスやダブルソーダが仇討ちと言わんばかりに掃射する。

 すると、腹部に二連装対空砲機関を装備したソルダットアントが対空砲火をお見舞いしてダブルソーダが撃墜されて墜落すると爆発炎上した、これはもはや駆除じゃなくて戦闘だった。

 

 

 カミルが旅立って二日目、あと四日でセブタウンを出てパタゴニアへと旅立つ日。

 セブタウンで回収した盗賊のゾイドであるシャドーフォックス二機は自警団の駐機場でもあるセレナの家の敷地に駐機されていた。ジョエルはマリンと名付けたスカウトサーバルに乗って遊びに来ていた。

 マゼランの伝統的な建築家屋に対して地主兼村長兼農場主のお金持ちな家は近代的な屋敷で、セレナは自分の部屋を持ってるお嬢様だが、それに鼻にもかけない気さくな所がみんなに好かれてる。

「セレナ、いるか? 遊びに来たぞ」

「はぁ……ケーニッヒウルフ強すぎ、一瞬でやられちゃった」

 先客としてアヤメリアがいて、丁度ゲームが終わったのかソファーに座ってVRヘルメットを脱ぎ、セレナも満足げにVRヘルメットを脱いでいたところだ。

「でもアヤメリア、結構マルチプレイで白熱してたじゃない! おっ、いらっしゃいジョエル! ゲームやる?」

「さっきまで何やってたの?」

 ジョエルは苦笑しながら訊くと、アヤメリアはゾイドの操縦シミュレーターソフトのパッケージを見せる。

「これよ、これに課金して、シャドーフォックスを買って特訓も兼ねてマルチプレイであそんでたの! 丁度ケーニッヒウルフがいたから対戦を申し込んだのはいいけど一瞬でやられちゃった」

「ケーニッヒウルフって……あのお姫様だったらもっと早くやられると思うぜ、一〇歳の頃から乗り回してたんだから」

「なんでヘルガだってわかるのよ?」

 アヤメリアは唇を尖らせると、セレナはニッコリ笑顔で暴露する。

「アヤメリアったら、いつかあのお姫様と再会したら勝ってやるって意気込んでたのよ!」

「ちょっとセレナ! 余計なこと言わないでよ!」

 アヤメリアは顔を真っ赤にしながら裏返った声になる。

「お姫様に勝つってお前ら……何かよからぬことを企んでるだろ?」

 ジョエルはシャドーフォックスという時点で嫌な予感を通り越して、ニヤリと笑みを浮かべたくなる気分だった。それを察したのかアヤメリアも不敵な笑みを見せる。

「ええ、そうよ……あの馬鹿を追いかけて連れ戻すわ、これから実際に動かしてみようと思うの、あんたもスカウトサーバルで付き合ってくれる?」

 それはあくまでも名目に過ぎないとジョエルも微笑んで頷いた。


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