ゾイド Wild Flowers~風と雲と冒険と~第一期   作:尾久出麒次郎

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第九話、その1

 第九話、独立記念祭

 

 チャトウィン近郊のバルマ農場ではヘルガは農民の娘逹に混じってロングスカートを履いてスカーフを被り、籠を身に付けて収穫ハサミを持ってパパオの実を収穫し、ハロルドやヨハン、イヴァーナも自分に目を配らせながら農作業を手伝って汗を流していた。

 同じく手伝いでやってきたネオゼネバスからの留学生ノアはパパオの実がぎっしりつまったプラスチックの大きな籠を二段重ねる。

「これ全部あっちの倉庫に持っていけばいいんだね?」

「うん、新しい籠も貰ってきて」

 ノアは女の子みたいな顔をしてるけど、やっぱり男の子なんだとヘルガは頼もしく感じる。

 袖を腕捲りしていて露になった腕はほっそりとしているが、ギリギリに締め上げた金属の繊維のような筋肉だ。がっしりした体格のいい農場主の娘はうっとりした表情で見ながらヘルガに訊く。

「ねぇねぇ、ノア君って彼女いるのかな?」

「う~ん、いないけど告白されても断ってるみたい……彼、年上の女性が好みって話してくれたけど」

 ヘルガは以前何気なく聞いた話を思い出しながら言うと、イヴァーナはいつものように青筋立てて不満げな様子だ。

「姫様、今はそんな色恋沙汰の話を必要あります?」

「いいじゃないイヴァーナ、それに明日は独立記念祭だし……花火もやるみたいだから、男の子をデートに誘いたくなるわよ」

「姫様はどうなされます? ラオさんと遊びに出掛けるんですよね?」

 イヴァーナは男の子と遊ぶのは許さないつもりだ。

 まあいつものことだけど……私に思いを寄せてるサムことサミュエル・ハートフィールド、家柄にはさすがのイヴァーナも関心を寄せたけど、それだけだった。

「ん? あれは……ライトスパイカー?」

 イヴァーナの視線の先には農道をスレスレに飛ぶライトスパイカーが、敷地に入って農夫はエンジンを切らずに降りると、慌てた様子で深刻そうに農場主のバルマおじさんと何かを話してる。

「どうしたんだろう?」

 ヘルガは手を止めると、農場主で太っちょ禿げ頭のバルマおじさんが駆け寄ってきてハロルドに事情を話す。

「ヘリックの旦那! あんたシールドライガーに乗ってるんだろ? ガイロスの兄ちゃんにも伝えて欲しいんだ! カンカー村の遺跡で野良ゾイドの駆除してる奴らが手を焼いてるんだ!」

「カンカー村の野良ゾイド駆除に? そんなに手を焼いてるのか?」

 気になったのかヨハンも駆け寄って訊くと、バルマさんは深刻な表情で言う。

「ああ、どうやら野良ゾイドではなくスリーパーみたいなんだ」

「スリーパー!? 野良ゾイドとは訳が違うぞ!」

 ハロルドも驚きの声を上げると、ヘルガはいても立ってもいられなくなってイヴァーナと目を合わせる、カンカー遺跡は明後日調査に入る予定だ。

「行きましょう、姫様」

 イヴァーナが頷くと、ヘルガはバルマさんの所へ駆け寄る。

「ハロルド、ヨハン、行きましょう! バルマさん……作業の途中ですけど」

「ヘルガのお嬢さんも行くなら気を付けてな、スリーパーは戦闘ゾイドだ……野良ゾイドとは訳が違うぞ」

 バルマさんは心配した様子で言う、だけど戦闘ゾイド相手なら嫌というほどやってきたしスリーパーの群れを突破したことだってあるのだから!

 

 

 カミルは腹部にEシールド発生装置を装備したソルダットアントを葬り、これで何機目だと数える間もなく、カミルはこんな長時間の戦闘は初めてだと思いながら肩を上下させながら次の目標を探す。

「クソッ……キリがない!」

『損傷を受けたゾイドはすぐに下がらせて! ゴードン! サム! あんた逹も退きなさい!』

 ラオはモニター通信で叫ぶと、受信したゴードンも辛そうに肩を上下させる。

『クソッ! まだ終わってねぇぞ!』

『ゴードンもう無理だよ! 逃げようよ! 増援も来るからさ!』

 サムの方は数万分の一秒でも早くこの場を逃れたいんだろう、半ベソかいてる様子だがゴードンの方は意地を張ってる様子だ。彼のカノンフォートは片方角が折れて重撃砲も損傷し、各所にソルダットアントに噛まれた跡があってガタついてるのがわかる。

『まだまだだ、最後の一匹まで踏み潰し――』

『ゴードン! サムの言うことを聞きなさい! あんたのカノンフォートもボロボロよ! 何かあっても助けられないし、邪魔だから退いて!』

『くっ……わかった! 行くぞサム!』

 ようやくゴードンは聞き入れてサムはコマンドウルフACのスモークディスチャージャーで白煙を撒いて撤退する。

 ラオのハウンドソルジャー、ラナのクロスソーダーは二本とも葬ってきたソルダットアント逹のオイルでベットリだ。

『全く……一体何匹いるのよ』

「こっちも数えるのを諦めたよ」

 カミルは向かってくるソルダットアントにショックカノンを撃ち込むが残弾もそろそろヤバイ! 既にカンカー平野はソルダットアントの残骸や纏わりつかれ、息の根を止められた味方ゾイドの残骸も少なくない。

 レーダーには緊急用国際救難信号を発しているがいずれもソルダットアント逹によって反応が消えていく。

『こちらスイーパー6! コンバットシステムがフリーズした上に纏わりつかれた! 助けてくれ! うわぁああ――』

 時折助けを求めるパイロットの断末魔が聞こえた後は無線が途切れる、その度にカミルは冷たい戦慄を感じ、ラオは無線越しに悔しそうに悪態を吐く。

『クソッ! こいつらパイロットまで殺してる! 恐らくデストロイモードにしてるわ』

「何のためにこんなことを!」

 ゾイドのスリーパー技術が飛躍的に発展したのはバン・フライハイトがイヴポリスでデスザウラーを倒した後に起きた第二次大陸間戦争だ。

 ネオゼネバス帝国が大量投入したキメラ・ブロックスというこの星の生態系を破壊しかねない人間の手で作られ、命とは呼べない悪魔逹をコントロールするシステムが飛躍的に進化したのだ。

 それまでは拠点防衛や待ち伏せにしか使われなかったスリーパーが、今ではAIが複雑な命令を理解して驚異度の高い敵を自己判断能力できるくらいにまで進化してる。

『こちらCP、ソルダットアントのスリーパーならどこかに指揮を取ってる女王アリ(カラリエーヴァ)がいるはずだ!』

『スカウト1よりCP女王アリ(カラリエーヴァ)ね了解! でもどこにいる? どう見分ければいい?』

『指揮官機というのは大体通信機能を強化した大型のアンテナを装備してる、目立つようなアンテナを装備してる奴を探せ! そいつを倒せば少なくとも統制を崩せるはずだ!』

『聞こえたカミル?』

「聞こえたよラオ!」

 カミルはレーダーと目視で探す、指揮官機を倒せば統制を崩すことができるはずだが簡単に発見できれば苦労しない、落ち着けどこかにいると思いながら見極めようとするがソルダットアント逹は絶え間なく襲いかかってくる。

 気がつけば今まともに動けるのはシルヴィアと、ラオのハウンドソルジャーのラナにいくつかのペアだけだ、作戦前にラオのアドバイス通りに動いて正解だったと思った瞬間、それぞれの残骸の下で隠れていた二機のソルダットアントがラナに奇襲をかけた。

『ぐっ! ヤバッ!』

 ラオは反応が遅れ、ラナはたちまち噛み付かれた。カミルは「ラオ!」と叫んで右後ろ足に噛みついた一機に狙いを定め、シルヴィアがストライクレーザークローで真っ二つにした。

『この! 離れろ!』

 ラオはラーニャを大きく体を振らせ、背中の砲塔の上にしがみつき、お尻のポイズンニードル(毒針)を突き刺したソルダットアントは揺さぶられ砲口の前にさらされた瞬間、火を噴いて爆砕させる。

「大丈夫かラオ!」

『右後ろ足の駆動系をやられた、おまけに操縦の反応が鈍い……毒針ね、離脱するわ』

「撤退を援護する、もうすぐ増援も来るから頑張って!」

 カミルはなんとかラオを安全な所までエスコートしようとしようとすると、チャンスと言わんばかりに取り囲んで群がってくる。マズい! カミルはシルヴィアはラナをやらせないと近づくソルダットアントを振り払い、近づけまいと威嚇するが逆に挑んでくる有り様だ。

『カミル! あたしのことはいいから逃げて! 君までやられちゃうよ!』

 ラオは悲痛な声で叫ぶが、できるわけがない! 置いてったら確実にやられる、カミルは目の前の敵を葬りながら困惑する。

「逃げろって……君はどうするんだ!?」

 ラオは必死でぐっと唇を噛み、泣くのを精一杯堪えた表情で声を絞り出す。

『あたしだってゾイド乗りよ……こうなる覚悟はいつだってできてる……だから! あたしのことはいいから! 走って!』

 

――カミル! わしのことはいいから早く! 走れ!

 

 強盗に撃たれて死んだ祖父の顔と言葉が重なる一瞬、数万分の一秒が引き伸ばされてカミルは躊躇う。ここでラオを犠牲にして逃げるか? それともラオを見捨てないで一緒に死ぬか? 駄目だ、ここで死ぬわけにはいかないし、ここでラオを見殺しにしたらヘルガに顔向けできない。

 カミルはギリギリとスロットルレバーを握り締めると、シルヴィアは励ますように唸る。

「シルヴィア?」

 カミルは呟くとシルヴィアは道を開けろと言わんばかりに激しく何度も吼える。そうだ、僕は一人じゃない、シルヴィアがいる!

「シルヴィア! 絶対にラオを守り抜こう!」

『何言ってるのよカミル! このままじゃあんたも死ぬわよ!』

「見捨てるなんて俺にはできない! ましてやどちらかが死んで、どちらかが生き残るなんて後味の悪い結末はごめんだ!」

 カミルはソルダットアントを退けながら叫ぶ、まだ冒険は始まったばかりなんだ!

 後味の悪い結末なんて誰も望んでない! MFDのレーダーに二機のゾイドが接近してくる、スピードと反応から見て大型高速機動ゾイドだろう、先にラオが気付いた。

『増援二機、こっちに来る!』

「えっ?」

 カミルはMFDのレーダーを一瞬だけ見る、自分を囲むソルダットアント逹の群れに突っ込んだ! カミルは目視で確認するために視線を向けると二機の大型高速機動ゾイドがジャンプして包囲網の中に飛び込んだ。

 

 ケーニッヒウルフとネイビーブルーのシールドライガー! 

 

 カミルは高揚し、そして見逃さなかった。

 ケーニッヒウルフには「LILLIA」、シールドライガーは「ARIELⅡ」と描かれた小さなペイントを! 着地してラナを囲むとモニター通信が入ってきた。

『カミル君! 大丈夫!?』

「ヘルガ! 僕よりラオを! ラナが毒針にやられた!」

 カミルは嬉しい気持ちを抑えながら、伝えるとハロルドがモニター通信を入れてきた。

『包囲網を突破するぞ! 僕が先頭に立つから姫様とカミル君はラオさんを!』

 ハロルドはアリエル二世のEシールドを展開して突撃、ソルダットアントを蹴散らしながら道を切り開いてラオは必死にラナを励ます。

『ラナ! もう少しだから頑張って! あなたは強い子よ!』

『カミル君! 私が右を守るから、左を!』

 ヘルガはリリアを走らせながらラナの右側を守る位置に就くと、カミルは「わかった!」と言ってラナの左側を守る位置に就く。カミルはショックカノンの残弾を打ち切るつもりで撃ち、包囲網を突破に成功するとGNDAの増援部隊を連れてヨハンのディバイソン「ビッグマザー」とイヴァーナのグスタフMRAP「マルゴ」が到着した。

 ヨハンはカミルのシルヴィアを見るなり嬉しそうにモニター通信を入れてきた。

『カミル君! まさか本当に姫様に会いに来るなんて大したものだよ!』

『ホント、まさか本当に行動に移すなんて……あなたは本当に救いようのない、世界一の愚か者ですね!』

 イヴァーナは怒りと呆れでいっぱいの表情でモニター通信を入れると、ヘルガはラオとカミルにモニター通信する。

『ラオ、もう大丈夫よあとは任せて……カミル君も』

 カミルは返事の前に損傷状態をチェックする、各所に細かい傷はあるが戦闘に支障はないと、ヘルガに言う。

「僕はまだ大丈夫、ラオのアドバイスとシルヴィアのおかげでね」

『言ってくれるじゃないカミル、まっ伝言の手間が省けましたねハロルドさん』

 ラオも安堵した表情になると、ハロルドは『そうだな』苦笑するとカミルはシルヴィアを反転させると、左にリリアが立ってイヴァーナは指揮を取る。

『GNDAの残存部隊は増援部隊と合流してフォーメーションを組み直して! ヨハンはありったけの火力をばら蒔いてハロルドはカミル君と撹乱! 姫様は女王アリ(カラリエーヴァ)を! 指揮を取ってるスリーパーを見つけたましたので、データを送信します!』

 レーダーに多数のソルダットアントの中に一点だけ白から赤に変わり、イヴァーナは指示を飛ばした。

『ハロルド、カミル君! ヨハンが火力投射するから怯んだら群れを撹乱して、ヨハン! 全弾使い切るつもりでやりなさい!』

『了解!』

 ヨハンのビッグマザーが両頬の八連ミサイルポッドを発射、ミサイルはトップアタックオードで一斉に一度上空に上がった後、真上から襲いかかるように弾着! 追い討ちとして一七連突撃砲が一斉に火を噴く。

『ビッグマザー、メガロマックス・ファイヤー!!』

 ヨハンの掛け声と共に一斉にビームの砲弾が襲いかかる、凄まじい火力投射を受けたソルダットアント逹は爆炎に晒され、吹き飛ばされ、群れに隙ができた。

『よし行くぞカミル君!』

 ハロルドはアリエル二世の三連衝撃砲、両脇の展開式ミサイルポッド、背中の二連装ビーム砲を展開して一斉に発射してすぐに収納、Eシールドを展開して残骸もろとも弾き飛ばす。

「もう少しだ、頑張ろうシルヴィア!」

 シルヴィアは唸る、カミルはストライクレーザークローを閃かせ、イオンターボブースターを展開して点火、群れの中に飛び込んで撹乱でパニックに陥れた。


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